感想のページ

キサラギ

ノベライズ:相田冬二
原作・脚本:古沢良太
角川文庫
(2008.2/29読了)

この時間が終わらなければいいのに……。
僕は、僕らが地球で最後のひとときを過ごしているようなセンチメンタルな気分になりながら、漠然とそう思った。

『キサラギ』より引用

演劇・映画と躍進し続けた密室劇『キサラギ』のノベライズ。

アイドル「如月ミキ」が自殺してから1年。
ファンサイトには人が訪れることがどんどん減り、今では5人の常連がちょこちょこと掲示板へ書き込みをするくらい。
そこで1周忌ということでオフ会をすることに。

各自は自分こそがミキちゃんの最高のファンであるといろんなものを持ち寄ったり、貴重な話をしたりして楽しんでいたが…

アイドルが自殺し、それを悼んでのオフ会。
まるで岡田有希子のことのようだな…と思っていたら、これほど大変な展開になるとは(笑

確かにこれは舞台向きだ。
たった一つのオフ会会場だけなのに、話はどんどん二転三転と転がっていく。

前半のなんとも生々しいオタクっぽい会話の数々はどこへやら(笑

小説も200ページだし、ささっと読めるものだろうと思ってあなどってたわ…

ありがちな話なのかもしれないけれども、なぜこの5人は亡くなったアイドルにずっと執着をしていていられたのかというところにすら納得してしまう出来だった。
それでリアル職業も年齢もバラバラなのに一つの話としてしっかり成り立つわけか。

おもしろかったです。

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消えた探偵
the missing detective

秋月亮介
講談社ノベルス
(2006.2/11読了)

あらすじ

入ったときと同じ扉からでなければ異世界に迷い込んでしまう。
異世界へと行くと同じ人でもまったく違う性格になっている。

診療所内で起きた殺人事件。
しかしスティーブンが異世界へ行くと、その世界では殺人事件は起きていなかった。

強迫神経症、解離性同一性障害、統合失調症、躁鬱病、登場人物のほぼすべてがなんらかの神経症を抱えながら生きている世界での話。

秋月亮介の第4作目。
宝石シリーズではありません。
推薦文は山口雅也。

感想

本を開いた瞬間から本という名の異世界へと入り込み、読み終わるときには「同じ出口」からこちらの世界へとちゃんと出れたんだろうか。
それともここはまた別の世界なのか。

本の中は恐ろしく恐ろしい世界です。
なんせ、登場人物たちが登場人物なんで。
それでいて事件も本当に起きたものなのかどうかすらよくわからない。
実に奇怪なお話です。

秋月亮介は1作目以降どんどんおもしろくなってきてるんだけど、いったいどこに辿りつこうとしているんだろう。
(カタカナの人物ばっかりなので名前が覚えづらいです。海外ものを読みなれてないんかなぁ orz

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ほかに誰がいる

朝倉かすみ
カバーイラスト:松倉香子
幻冬舎文庫
(2008.3/5読了)

おまえ、そんなに好きか、とタマイが訊いてきた。それはもっとも答えづらい質問だった。答えづらいのは「そんなに好きか」の「そんな」に、わたしの「好き」はまだ達していないと思うからだ。

『ほかに誰がいる』本文より

朝倉かすみの『ほかに誰がいる』。

16歳の時の初恋。
彼女は彼女に恋をし、一つになりたいと願った。
しかし、相手の彼女に彼氏ができてしまう。
どれだけ願っても決して結ばれない恋を描いた作品。

と上のように書くと純愛風に思えるのだが…
いや、いっそ騙されながら読んだほうが面白いのかもしれない(笑

なんというか初恋の暴走のすさまじさや、主人公である彼女の願望をどのようにして叶えようとするのかというところの描写が特に鬼気迫っていた。

例えるなら狂人には狂人の理屈がある、なんていう言葉がミステリや古典小説の中でもよく出てくるけれども、この本に関してはまさにこの言葉を一人称で語っていくような感じだ。

でもこれも一種の「純愛」小説だよな…

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カニスの血を嗣ぐ

浅暮三文
講談社ノベルス
(2005.8/5読了)

嗅覚が異常に発達した男。
彼はある時死んだ犬の匂いをバーで出会った女から嗅ぎ取った。
匂いの連鎖を辿っていくと、ある悲劇と遭遇する。

浅暮三文の五感シリーズの「嗅覚」編。

匂いが犬と同じくらいに嗅覚が発達した世界とはどのようなものなのか。
匂いで人の後を追える。
食事はなにを食べたのかなんてのは一目(?)瞭然。
人の持っている病気や体調などが匂いで分かってしまう。
今までどのようなところに出かけていたのかも分かる。

便利だとか逆に嗅覚ですべてが分かるのは気持ち悪いとかと思う人が多いんだろう。
きっと実際に同じような体験をしてしまった時には、そういった嗅覚でものを見ることが当たり前になって何も感じなくなるんだろうなー。
何にでも言えることなんだけど。

そういや最近の浅暮三文はハードボイルドは書いてないな。
それでもどちらかというとヘンな小説の方が好き。

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10センチの空

浅暮三文
徳間書店
(2005.8/1読了)

10センチだけ空を飛べる主人公。
あるラジオとの出会いをきっかけに空を飛べるようになったきっかけを少しずつ思い出していく。
心温まる物語だった。

大学4年生になっても就職活動をする気もおきず、ただ日々を生きていた主人公。
けれどもあるラジオと出会い、どうしても探したい真実、空を飛べるようになった理由を探しはじめる。
なにに対してもやる気になれなかった人が自分のやりたいことを見つけ、それに対して必死にアプローチしていく。

そしてその自分自身の探索は、大人になってからなくした純粋さを探す旅にもなっていく。
子供の頃は純粋で言いたいこともやりたいことも自由に主張できたハズ。
けれども大人になるにつれ、純粋な気持ちは個人のわがままととられるようになり、
自分の気持ちを自分の胸の奥に閉じ込めるようになっていく。
そうなってしまうとそんな純粋な気持ちが残っていることさえ気がつかないこともある。
けれども、その純粋な気持ちってものは誰にとってもきっと大事なことだと思う。

そんな単純だけれども大切なことを思い出せたような本だった。

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悪夢はダブルでやってくる

浅暮三文
小学館
(2005.8/3読了)

主人公の"あなた"は30を過ぎた独身男性で休暇をゆっくりと過ごすつもりだった。
しかし、何気なく買った缶詰の中から自称魔法使いの男が現れ「望みをなんでもかなえてやる」というあらすじ。

主人公は「あなた」である。
「作者」から主人公の「あなた」へさまざまな問いかけがされつつ、物語が進んでいく。
そんな構成なので物語に没頭するか、または感情移入をすることなく客観的に物語を楽しむことができるような不思議な内容。
まぁなんにせよ、一種の新しい形の小説だと思います。
あとはこの形式にすることで、章末のギミックも活きてきているよなぁ。

浅暮三文氏の新しさが好きな方はどうぞ。

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似非エルサレム記

浅暮三文
集英社
(2005.12/18読了)

エルサレムが目覚め長らく滞在していた土地を離れ、南へ移動をはじめた。
キリスト教の聖地が!?イスラム教の聖地が!?ユダヤ教の聖地が!?と慌てだす人々。
意思を持ったエルサレムは隣人の土地に聞いた「母」がいるという海へ向かう、というような内容

ファンタジーでありながらある意味では社会派の小説。
混沌とした歴史が降り積もった聖地エルサレムが動いたら、世界の重鎮たちはどう動くのか。
人間が成長をするにつれて地球はどう変わってきたか、じゃあ人間はどう行動していくべきなのかを考えさせられた。
人間が引き起こしてきた人災の影響というのが、地球の長い長い歴史から見ても随分と大きいもののように思える…

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嘘猫

浅暮三文
光文社文庫
(2005.7/15読了)

あらすじ
上京したばかりのアサグレ青年の部屋にやってきた猫。
仕方なく一晩泊めてやり、次の日仕事に出かけ帰ってくると
子猫が5匹増えていた。
六畳一間での青年と6匹の猫との共同生活がはじまる。

いつでもいるように感じるけど、いつの間にかいなくなってたり、ふらっと帰ってきたり。
自由気ままなように見えて、実はちゃんとそれぞれの生活を持っている猫たち。
強がりだったり、臆病だったりする個性豊かな猫との共同生活っぷりを読んでると
猫とか犬が可愛い、とものすごく思えてくる(笑
動物に触れるのは非常に苦手なんで実際に飼おうとは思えないけどorz
遠くから見るのは大好きなんですけど(汗

この小説は著者の浅暮三文氏の実体験に基づいたものだそうです。
さっと読むにはちょうどいい長さだし、あまり本を読まない人にも薦められそうな本。

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実験小説 ぬ

浅暮三文
光文社文庫
(2005.7/15読了)

異形コレクションなどに掲載された短編27編を収録。

交通標識やラッパとか矢印、文字などが主役とも言えるヘンな短編がいっぱい。
もはや小説ではなく新種の読み物ではないかと思えるものばかり。
図形に合わせて物語が進むものだったり、ふたつの文章を同時に読んでいくことで、一つの物語として完成するものだったり。
物語の構成字体が何か普通とは違う違和感を感じる短編集でした。
そんな変わった物語たちを生み出した作者の奇抜な発想力にただただ驚嘆させられた。

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ダブ(エ)ストン街道

浅暮三文
講談社文庫
(2008.7/21読了)

なにかを見つけた時も、そりゃ悪くはないが、俺にはなにかを探してる時の方が楽しくて仕方ない。ドロドロの薄汚れた格好になりながら、さまよい歩くのも泥遊びと思えば気楽なもんだぜ。

『ダブ(エ)ストン街道』より引用

第8回メフィスト賞の受賞作『ダブ(エ)ストン街道』を再読。
文庫版の解説は石田衣良。

メフィスト賞だけど中身はファンタジー。
このあたりからある意味なんでもありという賞にメフィスト賞はなっていった気がする(笑

夢遊病で各地をさまよってしまう彼女を探して『ダブエストン』とか『ダベットン』とか呼ばれるところへやってくる主人公。
そこでは様々な人や動物たちがなにかを探してさまよっている場所だった。
一度踏み入れたら二度と戻ってこられない。
ずっとダブエストンという土地で探し物を探し続けるところになってしまうのだ。

そんな内容。
迷いながら、それでも楽しんで誰もが自分の探し物をしている。
だから出口なんてなかなか見つからなくともいつかはきっと探し出そうとするポジティブさ、そして登場人物や動物たちの会話のテンポの良さが最高に気持ちがいい本だと思う。

こういう考え方で生きていければ人生って結構楽しく思えてくるんじゃないかとも思えてくる。
さて次は何を見つけに探しいってみようか(笑

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ポケットは犯罪のために 武蔵野クライムストーリー

浅暮三文
講談社ノベルス
(2006.10/8読了)

「すると俺がカモにした奴はミステリー作家ってことになるのか。」

『ポケットは犯罪のために』より引用

メフィストに掲載された短編集

「ポケットは犯罪のために」
「J・サーバーを読んでいた男」
「フライヤーを追え」
「薔薇一輪」
「函に入ったサルトル」
「五つのR」

だが、しかし短編だけで終わらないのが浅暮三文。
だてに「実験小説ぬ」や私小説"っぽい"「嘘猫」、五感シリーズを出した作家が普通のミステリの短編では終わらなかった。

幕間として原稿を置き引きしたドロボウの話が入って、原稿の持ち主にたかろうとするわけだけれども……
…………もう

ラストがいい!
そのための幕間だったのかよっっ(笑
最後の最後まで楽しませてもらいました。

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夜聖の少年

浅暮三文
イラスト:橋本晋
徳間デュアル文庫
(2008.6/25読了)

俺たちになにができるっていうんだ? ただの土竜だぞ。この世界の屑だぞ。俺たちにできるのは逃げることと、あきらめ、忘れることだけだ。

『夜聖の少年』より引用

メフィスト賞作家の浅暮三文によるSF小説『夜聖の少年』。

感情を失くし完璧な大人となることを拒否した子供達。
彼らは社会を捨て、助け合いながら生きていた。
しかし子供はいずれ発光し大人になる。
だが、発光したまま大人になった人物は地下の奥深くに向かいそして誰も戻ってくることはなかった。

そんな中、閉鎖された社会の中で一人の謎の巨人が発見されたときから、世界の謎が解かれていく。

かなりシビアな近未来っぽいSF。
えぇ。
結構ハードです。
SF的にもハードSFです。
設定で付いて来れなかったら多分しんどいです。
でも読んでみたらSFというよりファンタジーなのかなぁという気もする。

いやいや、これはSFという世界を借りた壮大な自分探しの旅の話なのだとも思える。

歪んだ大人社会と子供の社会を見ながら、世界の謎、自分の出生の謎を解いていく。
大人になるってどういうことなのか。
自分がどうありたいのか。

少年が大人へと成長していく過程が読んでいて実にすがすがしく感じる。
どんだけ過酷な運命でも自分で切り開いていこうとする。

あぁもう。
いいなぁいいなぁ。
成長モノはやっぱりこうでなきゃ(笑

ライトノベルとしてだけじゃなく、もっとSF好きにもぜひとも呼んでもらいたい1作。
徳間デュアル文庫の初期に出た作品だけに知名度が低いのがもったいないよな orz

ふと思ったんだがこれは「夜聖」ってどういう意味だったのだろう。
どういう意味かどころかいくつも見出せて仕方ないんだけども(笑
夜に光るって意味とか、「野生」もそうだろうし、物語の根幹の遺伝子のことにも思える。
この意味だけ考えてみてもすごく深いタイトルな気がしてならない。

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夜を買いましょう

浅暮三文
集英社文庫
theどくしょ連載
(2008.4/19読了)

夜を買いましょう。夢を買いましょう。投資効果は抜群。金より安全確実です。

『夜を買いましょう』より引用

インドネシアで見つけた新種の生薬。
あまりにも効果的な催淫剤かと当初は思われていたが、どうやらそれは使い方によって睡眠を吸収し、吸収した分を別に人に使うことが可能と分かり、「睡眠時間」を売る世界を相手にした商売がはじまるっていうストーリー。

またえらく変わったものを…
浅暮三文だから一風かわったものになるとは予想したけれども、今回は「性欲」「睡眠欲」にスポットを当ててきてんのかなーと最初の方読んでたけど経済小説かよ!?

睡眠というものを商売にして世界に売り出していく過程。
そしてその睡眠自体を通貨として認めさせる手法。
その結果として世界がどう動いていくのか。

そういう経済の流れの描き方が読んでいてかなり面白かった。
面白かったどころか一気に読んでしまった。

特に倫理すれすれで開発していくところや、世界に広まったあとの国/個人の動き方が興味を持って読めた。

経済小説として終わっていくのではなく、謎そのものへ迫っていくというラストもかなり好きだ。

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バッテリーⅣ

あさのあつこ
角川文庫
(2005.12/27読了)

強豪校との試合に敗れた巧と豪のバッテリー。
そして二人は意思疎通が図れなくなり、ついにバッテリー交代を告げられる。

"これは本当に児童書なのか"というような触れ込みからなんとなく手を出したバッテリー文庫版も4巻目。
ついにあまりに大きな壁にぶち当たる。
お互いがお互いを避け始め、果ては以前は理解できていたものがさっぱり気持ちが分からなくなってしまう。
それを見かねて彼らを復活させようとする周りの人たち。
本当に諦めてたら誰も構おうとすらしないし、きっとそうなった時には魅力というものはなくなっているんだろう。

"楽な方"にはいつだっていけたハズなのにそれが選べなかった。
そういう人って主人公の巧を含め、きっと"本当に好きだからこそ"選んだんだろうな、ってふと思った。

児童書だけれども大人が読んでもおもしろい小説。
そりゃあそうだ。
だって彼らバッテリーの物語は、誰にでもどこかに経験があることで、まるで小説が自分に対して語りかけてくるような気にさせるものなんだから。

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バッテリーⅤ

あさのあつこ
角川文庫
(2006.6/27読了)

児童書から文庫化、コミック化、映画化とすさまじい勢いのバッテリー第5巻。
次巻完結。

文庫のみの短編は横手のバッテリーの話。

クライマックス直前。
巧と豪のバッテリーも復活し、強豪横手との再試合も近づいていく。

時は止まらずに進み続ける。
だから当然同じチームのままずっと野球を続けることもできないし、同じ関係が続いていくとも限らない。
過去を振り返った時に、"その頃"をどう考えられるようになるかは"今"その一瞬一瞬をどう過ごしていくか…か。
児童書として世に送り出された本にここまで考えさせられるとはなぁ。

"感動するのに大人も子供もないんだ"というキャッチフレーズがほんと似合う本である。

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バッテリーⅥ

あさのあつこ
角川文庫
(2007.4/16読了)

少年という時期は、遠く過ぎ去った。 責任、仕事、管理、立場、建前、世間。大人になり多くのものが身にまといついた。彼らのように無心に無責任に無謀にひたむきに、野球に向かい合うことは、もうできない。しかし、関わることはできる。

あさのあつこ『バッテリーⅥ』本文より

児童書から文庫化、コミック化、映画化とすさまじい勢いのバッテリー第5巻。
次巻完結。

文庫のみの短編は横手のバッテリーの話。

クライマックス直前。
巧と豪のバッテリーも復活し、強豪横手との再試合も近づいていく。

時は止まらずに進み続ける。
だから当然同じチームのままずっと野球を続けることもできないし、同じ関係が続いていくとも限らない。
過去を振り返った時に、"その頃"をどう考えられるようになるかは"今"その一瞬一瞬をどう過ごしていくか…か。
児童書として世に送り出された本にここまで考えさせられるとはなぁ。

"感動するのに大人も子供もないんだ"というキャッチフレーズがほんと似合う本である。

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逃亡日記

吾妻ひでお
日本文芸社
(2007.11/16読了)

てかこれ『失踪日記』の便乗本じゃないのっ

吾妻ひでお『逃亡日記』本文より

吾妻ひでおの『失踪日記』のあまりに長いあとがきというか、失踪日記に便乗した対談本(笑

けどただの便乗本ってわけでもない。
失踪当時の裏話はもちろんのこと、吾妻ひでおの漫画家としてのスタンスやマンガ業界にいる20年以上もの間の業界の歴史を吾妻ひでお視点から知ることができる。

ただ、単に失踪してホームレス生活をして、アル中で入院するという破天荒な人生を送っているだけじゃない。
この吾妻ひでおが自分の方向性・考え方を持ちながらモノを作るということができるのはこんなにもスゴイことなのかと思い知らされた。

まさかこの「逃亡日記」から色々感銘を受けるようなことがあるとは読む前は思わなかった(笑

また、吾妻ひでおの奥さんや娘さんへのインタビューもあったりして、それもまた楽しめました(笑

(´-`).。oO(対談の中で結構「大塚英志」という名前が出てたから、大塚英志のインタビューとかも載せてほしかったかもw

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十角館の殺人(新装改訂版)

綾辻行人
講談社文庫
(2008.11/1読了)

長く急な石段を昇りきると、とたんに視界が開けた。荒れ放題に荒れた芝生を前庭にして、白い壁と青い屋根の平たい建物が、彼らを待ちかまえるように建っていた。
真正面に見える、青く塗られた両開きの扉が玄関だろう。数段の短い階段が、地面からその戸口へと延びている。
「これが十角館か」

『十角館の殺人(新装改訂版)』本文より

十角館の描写にゾクゾクきた。
10年ぶりに読み返してもまだまだ新鮮。
それ以上に実に不気味な世界と再び出会った気分を味わった。

綾辻行人の館シリーズ1作目『十角館の殺人』の新装改訂版。
解説は旧文庫版にも収録された鮎川哲也の解説と戸川安宣の解説。
表紙は故辰巳四郎から喜国雅彦にバトンタッチ。
なんともいい雰囲気の十角館です。

十角形の館である『十角館』。
孤島の中にひっそりと存在するその館にミステリ研の学生達がやってきた。
しかし、その館を建てた建築家は別の館で焼死するなど曰く付きの館だった。

十角館でひとりまたひとりとゲームのように殺されていく。
被害者の傍には「被害者1」「被害者2」というプレートが置かれ…

もう最高としか言いようがない。
これがミステリだ。

被害者たちはそれぞれが著名なミステリ作家の名前を名乗りあい、そして事件後も「探偵たち」は推理を続ける。

しかしその裏をかくかのような犯人のあまりに見事な犯行。

それに加えてまるでその犯行を含めて、見透かしていたような故人の建築家・中村青司。
あまりの館の凝り様。
それはまるで犯人を駆り立てるかのような雰囲気と作りをしているときた。

犯人と建築家と被害者と事件のバックグラウンド。

それらの事件の要素が実に綺麗に融合した生み出した物語はただただ凄かったとしか言いようがないです。
思えばこれを読んでから新本格というジャンルに手を出しはじめたんだよなぁ。

新装改訂版だけあって、87年の作品ながらものすごく読みやすかった。
時代を感じさせないというか、随分としっくりくる文章になってた。
あとがきでもいろいろ手を加えたと書いてあったからかな。
これはもう水車館も改訂版で買えということか(笑

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海外ブラックロード 危険度倍増版

嵐よういち
彩図社
(2009.5/9読了)

旅は本来、危険なものだ。

『海外ブラックロード 危険度倍増版』より引用

楽しいだけじゃつまらない。
旅には危険がつきものなのは当たり前。
危険なことも旅のうち。
まさにそんなことがこの本にはたくさん描かれている。

国民性やその国の歴史や宗教や貧富の差。
この本からはそんな様々な国に住む人の本質が垣間見える。

いわゆる表向きの観光向け旅本じゃなくて、国々のありのままが描かれている旅本だと思う。
だから面白いし、行ってみたくなる。

なぜに危険なことに遭ったことを書き連ねられているもので楽しめるのか。
だって旅って一つの出会いのようなもんじゃないか。
その土地そのものに出会う。
土地によってその土地独特の人と出会えるし、自分の知らない世界が広がっていく。

日本の中ですら感じるのに、世界に出たらもっと色んなことを感じるだろうと思う。

なにも危険なことに遭おうっていうんじゃない。
もはや旅のプロといっても過言じゃない作者がどう危険と対峙し回避してきたかっていうのはすごく参考になる。
知識がないことほど怖いものはないのは当然だと思う。
土地によって価値観もがらっと変わるし、信仰している宗教によっても常識が覆ることもある。

このようなことを事前に知っておくことほど有益なことはない。

それにこの作者の旅そのものに対する考え方や個性的であろうとし続けるところなんかは大好きだ。
んなわけで2冊目も近々読もうと思う。

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塩の街
wish on my precious

有川浩
イラスト:昭次
電撃文庫
(2008.10/6読了)

一体自分たちに後どれだけの時間が残っているのか。
それまで考えずにいたこと、考えないようにしていたこと―――
順当にいけば、あと数十年は残っているはずの時間が、ある日、突然塩と化して断たれる。
そのある日はいつ来るのか分からない。

『塩の街』より引用

第10回電撃大賞<大賞>受賞作『塩の街』。
『空の中』を読んだら再読したくなったので、読み返してみた。

塩害。
徐々に人体が塩に変わり、果てには死亡する。
そんな奇病が街に蔓延し、社会は崩壊。
なにが原因で感染していくかも分からない世界で暮らす二人の男女の極限状態のラブストーリー。

少しずつ訪れる世界の果てともいえる光景。
すべてが塩と化す。

その中で静かに暮らす二人。
恋人というわけではない。
ただ、一緒にいただけ。
年齢も違うし、経歴もさっぱり被りもしない。

この極限状態ではじまるほのかな恋が実に繊細で愛おしく思えます。
そして淡々と描かれる物語も時に濃く描かれるために、濃淡の差もぐいぐいと読み手を引きつけてくれるような本です。

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空の中

有川浩
角川文庫
(2008.9/30読了)

「ちったぁ遠慮とかしろよ、お前はー!」
「今さら何言いゆうが、瞬とあたしの仲やーん」
「どんな仲があったよ、迷惑かけられた覚えしかないぞ」
「うん、そのような仲がある」

『空の中』より引用

やば。
土佐弁めっさ可愛いじゃないか。

有川浩の『空の中』。
処女作の『塩の街』があまりによかったので、読もうと思ったものの単行本orz
いつか文庫に落ちるだろと思ってたら4年。
電撃文庫じゃなく角川文庫で出るとは思わなかった(笑

高度2万メートル。
そこで起きる謎の航空機事故。
空の中で一体なにが起こったというのか。
また、その頃地上では高校生たちが謎の生物を発見し…
自衛隊の女性パイロットと高校生の少年のふたつの視点から物語は進んでいく。

文庫版解説は新井素子。
また文庫版のみ短編『仁淀の神様』を収録。

どうやら本を読む人の間で流れていた噂は本当だったようだ。
この本おもしろいじゃないか。

航空機事故を発端とする高度2万メートルの謎。
そして地上でのUMA。
それらの接点を結びながら、女性自衛官という特殊な苦境にある人物と、UMAを見つけた青春まっさかりの男女のふたりの話が進むわけだが。

なぜだかこの交差しそうにない二つの話が見事に重なっていく。

SFとしてももちろん面白い。

だが、しかし彼らの日常のなんと面白いことか。
特に高知の二人。
土佐弁がこれほどまでに楽しく読めるとは。
その地域独特の暖かさを持ってるよなぁ。
暖かさ=純粋さであり、ゆえに痛々しいまでの青春も描き出されているのも面白いところ(笑
あぁもういいなぁいいなぁw

有川浩の3作目『海の底』もささっと文庫になってほしいもんです。

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