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ハードフェアリーズ

生垣真太郎
講談社ノベルス
(2005.11/17読了)

あらすじ
ニューヨークのバーの地下で聞こえた3つの銃声と殺されていた3人の男。
その話に疑問をもっと男が事件を調べ始める。

事件の20年後。
事件を再現したフィルムが映画祭の応募フィルムの中から見つかり、事件は過去と現在を複雑に絡めながら新たな事件を生み出していく。

生垣真太郎のメフィスト賞受賞後第1作。

ミステリな部分よりも語り方の勝利だろうなぁ。
果たして本当に面白さを感じたのが語り方のみなのかは分からないけど、実にサクサクと物語の中に入っていけてしまう。

ミステリとして読むのも面白いけど「自分探しの旅」というジャンルの小説として読んでも楽しめる本ではないかと思う。

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グラスホッパー

伊坂幸太郎
角川文庫
(2008.6/1読了)

「都会は特に」槿の目つきは鋭かったが、それでも鈴木を威嚇してくるようなものではなかった。「穏やかに生きていくほうがよほど難しい」

『グラスホッパー』本文より

伊坂幸太郎の『グラスホッパー』。

妻の復讐に燃える鈴木、
自殺を促して殺す鯨、
ナイフ使いの蝉。

彼ら3人が「押し屋」と呼ばれる殺し屋の存在に近づくにつれ、物語が一気に加速する。
3つのストーリーが互いに交錯し、影響を互いに及ぼしていく型の小説。

おもしろかった。

それぞれのキャラクターが自らの負の情念を基に動いているんだけれども、なぜかそれが生きる信念を貫いているように思えるから不思議。
殺し屋たちの話なんだけど、どこか晴れ晴れとしているんだよなぁ。

登場人物たちが互いに関わっていくスピード感と緊張感いい、ラストの展開にも驚けたし結構好みの小説です。

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震災列島

石黒燿
講談社
(2005.6/4読了)

あらすじ
東海地震と東南海地震が予測される名古屋市での出来事。
娘がヤクザによって自殺に追い込まれた。
娘を殺された父親とその父が企む復讐計画。
その計画とは地震を確実に予知し、ヤクザを陥れて殺すことだった。

第26回メフィスト賞の前作『死都日本』は火山の噴火とそれに伴う地震と津波の話。
今回は東海地震に東南海地震が併発。
地震の一時間後には大津波が押し寄せるという話。

こういったことは実際に起こりえることである。
また、作者もかなり入念に資料を調べているらしく地震が起こる過程などはしっかりと科学的に説明されている。
それを全て理解できるかというと正直読んでてほとんど分からない。
残念ながら地学には疎いゆえ(苦笑
けれどもまったくの素人でも、地震のことに関することを調べる方法はいくらでもあることは読んでいて思わされた。
そうやって知識を持って自分の身を守るために行動すれば大地震にも耐えられる。
この本からそういうことも学べた気がする。

 

それにしてもこの本が出た数日後に新潟地震が起こったのは一体なんだったのだろう……。
偶然とはいえ…

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復讐者の棺

石崎幸二
講談社ノベルス
(2008.8/22読了)

「そりゃそうだよ。たいたい好きじゃない奴と吊橋なんか一緒に行かないだろ。だって吊橋だぜ。吊橋なんかに一緒に行ってくれた時点で、既に好きなんじゃないのか?俺なんか歩道橋だって女の子と一緒に渡ったことないぞ」

『復讐者の棺』本文より

石崎が帰ってきたぁぁぁぁ。

まさかまさかの復活。
5年ぶりか6年ぶりくらいか。
石崎シリーズ第5弾。
石崎もミリアもユリも元気だった(笑

石崎幸二というさえない理系サラリーマンとマイペース女子高生のミリア&ユリが活躍するシリーズ。

相変わらずの石崎のモテない自虐ネタの数々に笑わせられつつ、なぜかその中にしっかりと伏線が張られている不思議さ。
事件も悲惨なものにも関わらず、全編ギャグ。
でもラストまで読むとふと気づく。
これってしっかりとミステリをしているじゃないか、と。

今回もいつもの石崎シリーズを再び味わえただけでも満足です。

しかし石崎のイジられようはたまらんなw
絶対こういう人が実際にいたら「いいやつ」なんだろなー。

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月の扉

石持浅海
光文社文庫
(2008.9/17読了)

「警察の返答次第では、行動を起こさなければならない。二人とも、覚悟はいいか?」

『月の扉』本文より

石持浅海の『月の扉』。
はじめて石持浅海のミステリを読んだが、なんともシャープで斬新なものを書く作家だな…

飛行機が3人の男女にハイジャックされる。
彼らの要求は金でも逃亡でもなく、ひとりの男をある時間までにこの場に連れてくること。
釈放でもなく、ただ連れてくるというだけの要望だった。
犯人側と警察の交渉により緊張が増す中で、一人の女性がハイジャック犯たちの監視のもとで死亡する。

密室殺人を扱いながら、犯人達の孤独な戦いのドラマ。
そしてなにより本書の肝でもある、なんとも言えない展開への跳躍。

途中から一体どういった方向に物語が進むのか予想できなくなった。
予想できないというよりも、一体どこに向かっているのか想像がまったくつかない。
結末への期待とともに常に緊張状態が続いているから次々にページをめくらせてくれる本だった。

そう、なんというか…
この本はあまりに幻想的だ。

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塔の断章
THE TOWER

乾くるみ
講談社文庫
(2008.7/20再読)

「俺はどうしてもそのことを考えてしまう。考えずにはいられない。どうして彼女は飛び降りたのか。……おまえはどう思う?」

『塔の断章』本文より

乾くるみのタロウシリーズのひとつ『塔の断章 THE TOWER』。
『イニシエーション・ラブ THE LOVE』や『リピート THE WHEEL OF FORTUNE』と同じシリーズの本。
文庫版は作者による解説つき。

作家辰巳まるみの原作をゲーム化するために湖畔の別荘にあつまるゲーム関係者。
しかしその夜ひとりの女性が別荘の塔から飛び降りる。

再読。
あらためて読むと伏線が恐ろしく仕組まれた本だよな。

犯人も十分に予想できるんだけれども、どんどん読者がその予想に振り回されるというか…
この本の特殊な構造と、小説ゆえに仕掛けられるトリックを存分に堪能できるかと(笑

明らかに事件に関係ない記述もなぜ存在するかという疑問を持ったり、なんか時系列がときどき前後するよなぁと思ったらそういうことか、と orz
『イニシエーション・ラブ』のように短めながらしっかりとラストで驚ける内容っていうのはこの初期から確立されてたのかもなー。

あとは次がいつ出るか、なのですが(笑
もう随分と長編の新作が出ていないような。

タロウシリーズもタロットの数と同じだけ出るとすると、まだあと19冊でるはずだし(笑
たまに再読しながらゆっくり待ちます。

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イニシエーション・ラブ
THE LOVE

乾くるみ
原書房 ミステリーリーグ
(2006.2/14読了)

タロウシリーズ2作目。
時系列にすると4作目だけど、まぁそれは別に気にしなくてもいいシリーズだし。
今回は天童太郎もほとんどでてないし。

あらすじ
大学四年生のたっくんは合コンの席で出会った繭子とつきあうようになる。
しかし就職した会社から言い渡された東京勤務。
繭子と過ごせるのは週末だけ。
この恋は冷めていってしまうのか。

最後の2行だけで今まで読んだこの本の構造がすべてひっくり返ってしまうというトリック付。
いや、これこそが醍醐味。


感想

ラスト2行を読んだ感想
(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)
こんなんアリかよっ

ネタバレなしには語れません
以下反転
二股だったのかよ
同じ苗字の鈴木君、ただし下の名前は違うが同じように「たっくん」と呼ばれている。
A面とB面では恋人になる過程と恋人になったその後が書かれているから同一人物である必要性はない。
同じような恋愛の過程さえ辿っていれば問題はない。
呼び名を同じにしておけば、間違って呼んでしまってもなんら問題はないわけだし。
同じプレゼントにしても渡された時期が違ったりだとか、指輪の気に仕方だったり、男女7人夏物語がA面B面ともにいままさにブレイク中でありどちらも時期的に同じ時期であったりだとか
やられたなぁ

乾くるみに完敗、もとい乾杯な本でした。

ほんとスゴイ


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リピート
THE WHEEL OF FORTUNE

乾くるみ
文藝春秋
(2005.6/4読了)

もし記憶を持ったまま10ヶ月前の自分に戻れるとしたら。
同じような世界だけれども、自分のとった行動によって確定されていたはずの世界が少しずつ変化していく。
選択によって変わった世界の中で、もう一度10ヶ月前の世界へと戻るのか、
それとも今の世界に残って前回と違った人生を送るか。
その選択を決定しなければいけない運命の日は刻一刻と近づいていた。
そんな中、自分と一緒に過去へと戻ったメンバーが次々に不可解な死を遂げていく…。

読んでる途中で、「天童」という登場人物に引っかかりを覚えたので読了後に調べてみると乾くるみの3作目「塔の断章」の登場人物だった。
なるほど、この本はタロウ・シリーズと言われるものの一つだったのか。

・「塔の断章」の「The Tower」「16」
・「イニシエーションラブ」の「The Lovers」「6」
・リピートの「The Wheel of Fortune」「10」
1年に1作、そして時系列はタロットカード順なので、塔の6年前の話か…。
携帯電話がまったく出てこなかったのも頷ける。

今までに読んだ乾くるみの本の中でも最も疾走感があるように思える。
読んでてぐいぐい引き込まれたし、読後感がまたなんとも…。
読後感はいつもどおりと言っちゃいつもどおり。
ラスト数ページの驚愕はいつもどおり存在してますw
正直なところ、なによりも驚愕したのは表紙のイラスト。
読後に見てみるとため息が出るくらいにスゴかった。

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クラリネット症候群

乾くるみ
徳間文庫
(2008.5/30読了)

ドとレとミとファとソとラとシの音が出ない

まったくあの歌のとおりではないか。僕の場合、正確には、音が出ないのではなくて、言葉が聞き取れないのだが。

『クラリネット症候群』本文より

乾くるみの『クラリネット症候群』。
『マリオネット症候群』も収録。

『マリオネット症候群』は気がついたら自分の体が誰かにのっとられた女の子の話。
SF風味だけど、やっぱり乾くるみの本という感じの作品。
これは2001年に徳間デュアル文庫で出ていたもの。
(いわゆるライトノベルというレーベルかもしくはSFレーベル)。
感想は3年ほど前に書いたので割愛。
SF好きにはたまらんです(笑

今回文庫で初登場の『クラリネット症候群』。
『マリオネット症候群』とはさっぱり関係のないタイトルだけ韻を踏んだ作品。
リピート以来の新作なんだよな…

さてこれまた変わった作品。
クラリネットが壊れちゃったときを境にドレミファソラシという音が聞こえなくなった男の子が主人公。

突然居なくなった養父の暗号を解いていくうちにとんでもない真相が明らかになるというもの。

乾くるみで暗号ものといえば『匣の中』や『林真紅朗』が思い浮かぶんだけれども、これまた実によくできた暗号。
簡単に解けるわけでもないけれども、解けてしまえるものであるものなのがミソ。
もうホント相も変わらず凝った暗号を作るよなぁ。

そういった暗号解きがメインの中篇なんだけれども、それよりも他のどうでもいい真実の方に驚いた。
驚いたというより意外な展開にちょっと呆然としたくなった。

主人公目線で語られる話だけになんかがっくりきて「それはないわ orz」という気分になった。
そりゃ理解は出来るけどっっ。

毎度の事ながら乾くるみの本の読後感はある意味格別でした(笑
乾くるみの中でもSF要素を入れた2編が入っているのも魅力です。

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マリオネット症候群

乾くるみ
表紙イラスト:あるまじろう
徳間デュアル文庫
(2005.6/4読了)

ある晩、目覚めると自分の体が勝手に動いている。
どうやら、誰か別の人に体をのっとられてしまったらしい。
そして、体をのっとった人はバレンタインにチョコをあげた憧れの先輩だった。

結末まで読むと呆然とできます
この結末はきっと誰にも予想できない(笑
伏線もちゃんと張られてるんだけど、まず気付けない。
ラストあたりでそういやこんなこと書かれてたよなぁ、と流し見してたら最後の最後でってこう来るかっ、という感じがする。
最後で呆然としたい人にはとにかくオススメの一冊。

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林真紅郎と五つの謎
Hayashi Shinkurou et les cinq mysteres

乾くるみ
カッパノベルス
(2008.11/7再読)

手が滑ったのではない、と真紅郎は言葉には出さず、心の裡で考える。彼女はあのとき何かを目的したのだ。そして驚きのあまり、トレイから手を離してしまったのだ。

『林真紅郎と五つの謎』本文より

ちょっと再読。

乾くるみの著作の中でももっとも目立たない作品(笑
だって日常の謎だし、ものすごい衝撃のラストがあるわけでもない。
むしろほわわんとできる短編ぞろいの連作短編集だと思う。

確かに衝撃はないかもしれない。
けれどもありふれた日常の中にある謎がなんとも素敵である。

コンサートの会場のトイレで姪っ子がなぜ極端に出てくるのが遅かったのか、
駅のホームでなぜ持っていたカメラがなくなったのか、
レストランでウェイトレスはなにに驚いてトレイを落としたのか、
小学生の頃作った暗号文を解いてみよう、とか。

それらの謎をひとつひとつ解いて終わり、というんじゃなくていくつもの謎を一気に混ぜ合わせて出来上がった不思議な日常の謎を解いていくところが面白いと思う。

また主人公の人柄もスゴクいい。
林真紅郎も名探偵というよりは、つい物事の真実について考えてしまう「いいひと」だし。
だから真摯に謎に向き合ったりするわけか(笑

さらっと読むにはいいミステリです。

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プラスティック

井上夢人
講談社ノベルス
(2005.10/4読了)

普通の主婦が図書館に行くと自分と同じ名前で本が借りられていた。
作家の家の郵便受けにはその主婦が書いたと思われる日記のテキストデータがあるフロッピーが入っていた。
その主婦が殺害されたことから事件に興味を持ち、作家は事件を追う。
一方主婦は自分と同じ名前を持つ人間が自分の部屋で殺され、しかも警察が主婦本人が殺害されたと断言した。
主婦殺害事件からはじまるサイコサスペンス。

7人(だったかな?)の視点から描かれる事件。
54個のファイルに分断されたテキストデータを読む「読者」。
そしてラストまでたどり着くと ……こういう仕掛けだったのかぁぁぁ!
井上夢人恐るべし。
オルファクトグラムの次くらいに好きかも。

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