感想のページ 作者「浦賀和宏」

記憶の果て
THE END OF MEMORIES

浦賀和宏
講談社文庫
(2007.5/1再読)

「俺は名探偵が嫌いなんだ。完全無欠で、小説内の世界で絶対的な権力を持ち、最後には容疑者を集めて得意そうに犯人を指し示す名探偵が。俺はそんな名探偵が登場するたびに思っていた。お前が最初に殺されればいいのにと。」

『記憶の果て』本文より

第5回メフィスト賞受賞作『記憶の果て』。
浦賀和宏の安藤シリーズ1作目。

安藤直樹の父が死んだ。
彼が残したのは一台のパソコン。
その中には安藤直樹の姉がいた。
なぜパソコンの中に姉がいたのか?
彼女はプログラムなのか、それとも。

ある種の偉大な青春小説だと思う。
探偵が謎を解けば解くほどに壊れていく世界。
人と人との関わりも信頼も友情も何もかも。

今現在の『八木シリーズ』の原点とも言えると思うこのデビュー作。
一人称で進められる世界や、外に対しての圧倒的な不信感とか。

でも実際に中高生の時ってそうじゃなかったかなぁ、と思える。
反抗心とか世の中に対する不信とか。
言葉には出さないし、大人の前では決して言わないけれども多かれ少なかれ誰もが思うことだと思う。

そんな普段思っているようなことを実際に言葉にしたら?
それがこの『記憶の果て』じゃないだろうか(笑
もうグイグイこのダークな話に引き込まれる。

 

また、アンチ探偵小説という形をとってるのも特徴かなぁ。
謎はすべて解かれる必要はない。
あくまでこれは「安藤直樹」の物語であり、不必要な謎は解く必要すらない。
安藤直樹によるアンチ探偵論をはじめ、途中からその立場を明確にして最後まで突っ切るのは読んでて気持ちがいい。

……それがまさか、このあとのシリーズの伏線になろうとは思ってもなかったわけで。

これから『透明人間』までゆっくりと再読するつもりだけれども、構造を知っててもう1回読むのがすごく楽しみだ。

文庫版の『時の鳥篭』って出ないんかなぁ……

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時の鳥篭
THE ENDLESS RETURNING

浦賀和宏
講談社ノベルス
(2007.5/3再読)

「愛なんてものは、只の言葉だ。
『友達』と『恋人』の間には何の違いもない。『LIKE』と『LOVE』の間には何の違いもない。
ただ、言葉が違うだけだ。
人は人間関係を、そういった言葉で説明して、それで安心するのだ。」

『時の鳥篭』本文より

安藤シリーズ2作目『時の鳥篭』。
1作目『記憶の果て』と対を成す存在であり、安藤直樹と安藤裕子を巡る一連の作品群の方向性を決定付けた作品。

主人公は記憶の果てで出てきたバンドのベースの浅倉幸恵。

『時の鳥篭』というタイトルと『THE ENDLESS RETURNING』という英題があまりに適している。

いきなりSFのような話からはじまり、その謎に対してはまったく何の説明もなされない。
ただそういったことが「あった」という説明があるだけで。
なので、もはや読者はその事実を受け入れざるを得ない。
…このシリーズは大抵そうなんだけど(笑

しかし、読み進めていくと、次から次へと作品の骨組みが現れていくのに驚く。
記憶の果てだけで完結せず、少しずつ作品の奥深くを覗き見るような感じ。

浅倉幸恵は鳥篭に囚われたままこの本の物語の中で延々とリピートされ続けるんだろう。
様々な恋愛を経て、けれどもどの核心にも迫れないまま。
そんな物語を読み終わって、読者が手に入れたのは物語の片鱗と次の物語に進むための権利。

1冊の本としてみると、なぜ彼女は「ここ」にいるのかという謎の解明。
または、父親が言った言葉の真意を探る冒険。
そこから親と子の確執ということを語っているといえる。
だからこの本だけ読んでもまったく問題はないとも言えると思う。
一連の物語の一つとして読むことを前提にされているだけに、やっぱり『記憶の果て』を読んでおくのは必須だろうなぁ。

よし、次は『頭蓋骨の中の楽園』。

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頭蓋骨の中の楽園
LOCKED PARADICE

浦賀和宏
講談社ノベルス
(2007.6/1再読)

「それ以上知ると。
もう、戻れなくなるぞ。」
そうだ。
僕等はもう、戻れない。

『頭蓋骨の中の楽園』本文より

安藤シリーズ第3弾『頭蓋骨の中の楽園』。

連続して起こった殺人事件の共通点は首が何者かによって持ち去られていたこと。
笑わない男「安藤直樹」らは恋人を殺された刑事の依頼から事件に関わることになる。
そしてこの事件に対して安藤は「俺の事件だ」とつぶやく。

 

やはり安藤シリーズはシリーズをどれだけ読んでいるかによってこの本に対する感想は異なるものだと思う。
一つの事件に対してのすべての記録ではあるのだけれども、安藤が関わらなければ事件の全貌を明らかにすることはできなかったし、このシリーズの輪郭をさらに知ることもなかった。

けれどもミステリとして見た場合には安藤の事件としての真相はどうしても突飛に思えてしまう。
それこそが面白いところなんだけど、一見さんお断りみたいな雰囲気を出してしまうのが残念。
とりあえずは「記憶の果て」からここまで辿りついた人ならば相当に楽しめる話なんだけれども。

 

この「頭蓋骨の中の楽園」で浦賀和宏の作風って決定付けられたような気がする。
今までも確かにアンチ・ミステリという態度をとっていたし、人間の根源的なところを崩しにかかる衝撃的な作風だったけれど、その壁をさらに突き破ってきたのはここからだと思う。
まさに「Locked Paradice」=閉ざされた楽園。
その楽園こそが頭蓋骨の中にあり、その楽園の中で考えられていることといったら…

はじめてこの本を読んだときは読後かなりネガティブな感じに気分を落とされたもんなぁ。
今にして思えばかなり刺激的な本との出会いだった。

次は「とらわれびと」。

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とらわれびと
ASYLUM

浦賀和宏
講談社ノベルス
(2007.4/10再読)

「ずっと子供の頃から抑圧されていた。女の子の服を着たかった、化粧もしたかった、でもそんなことを男の自分がやるのは変なことだってことも、十分理解しているんですよ、頭の中では。だから必死に自制した。でも――僕ももう社会人なんだから、好きなことやってもいいなって思い始めたんですよ」

『とらわれびと』本文より

安藤シリーズ4作目。
こっから読むのはまったくお薦めできないのでしっかり順番に読んでからたどり着きましょう(笑

随分時間が空いたけれども安藤シリーズ再読、と。

表面的には男女のセックスとジェンダーのことを語っているような作品に思えるけれども、さらに根源的な人間の深遠まで覗いている作品のような気がしてならない。

子供を孕んだ男性が次々に失踪する事件が発生する。
その男性たちはジェンダー的には女性であるということが共通点だった。
また腹をかき回され惨殺されるという事件も同時に起こる。
それをシリーズの登場人物である金田、そして3作目から登場した安藤の彼女である留美が事件に関わっていく。

それが今回の話のメインとなる事件でもあるのだけれども、1作目の伏線である安藤直樹の父親の自殺も事件に絡み、また安藤の友人の金田がおおきくシリーズのダークサイドの中へと踏み込んでいく。
さまざまな登場人物の狂気に触れながら怒涛のラストへと流れ込んでいく様は圧巻。

これまでのシリーズでも人間のタブーに抵触しながら人間の歪んだ愛情を描いてきたシリーズだけれども、中でも今回は実になにかの境界線を突破したかのような出来に感じる。

…というふうに4冊目を読んだときは思うわけだけれども、やっぱり5冊目のほうがキてるよなぁと思ったり6冊目では驚愕過ぎる事実に唖然としたり(笑

4冊目でも人間の昏い感情をひしひしと感じれます。
この感じこそがやっぱり安藤シリーズだよな(笑
いつか『透明人間』から先の話も書いてくれないだろうか。

表紙の男性器と乳首と腹という背景に、何者かが閉じ込められてるというのは実に見事にこの本を表してるよなぁ。
男性という中に閉じ込められたパーソナリティ。
それが核でありきっかけでもある。
その閉じ込められているのが副題でもある「ASYLUM」。
精神病棟なんて使われ方をするのが一般的だけれども…

確かに狂気が解放されるさまとかにはゾクっとした。

あと、ミステリでなくやはり1作目から貫かれている「探偵小説」をまったくしない反ミステリという体裁を取り続けている姿勢には感心。
もうあっぱれである。
ミステリのようにラストであらゆる伏線が回収され謎が解かれる。
しかしそれは読者には解けることはない。
そしてシリーズの伏線がさらに増えていく(笑

もう今回二つのラインで話が進んでいくことに対しての結末っていうのはものすごく好みな展開だ。

次は『記号を食う魔女』。
あの作品でたぶん「浦賀和宏らしさ」っていうのが確立された気がしてならない(笑

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記号を喰う魔女
FOOD CHAIN

浦賀和宏
講談社ノベルス
(2007.4/22再読)

いいか? 死者を喰う。それは腐敗という悪夢から死者を解放し、生者を死者の墓場とする至善な儀式なんだ

『記号を喰う魔女』本文より

安藤シリーズ5冊目。

自殺した学生の遺書により天文部の面々が招かれた孤島。
そこで起こる人肉を食べたことからはじまる連続殺戮。
誰が生き残れるのか、というミステリというよりサバイバル。
いや、でもやっぱりミステリなのか。
うーん。

中期の浦賀和宏がカニバリズムをやたら色々といわれるきっかけにもなった作品。

大いにカニバリズムや人類史が語られます。
歴史学から宗教学からアニミズムから色んな方面から。
そしてカニバリズムの生々しいまでの表現は気持ち悪いことこの上ないです(笑
登場人物も狂気の臨界点突破して暴走しまくります。
下手なホラーよりずっとホラーだよなぁ。

まぁ、でもとにもかくにも安藤シリーズ先の4冊を読んでないことには話にならないと思う。
1,2,4作目にも大きく関わってきてるし。

5冊目は2冊目のように安藤裕子の話。
そして今回もシリーズの伏線がまた一つ紐解かれていく。
安藤直樹の真実の出生の謎とか。

…でもその謎は解かれてないよなぁ。
なぜ裕子があの人を求めたのか。
この話のミステリ部分のもっとも至極単純な人間の野生ともいうべき動機から考えると、すでに裕子はこの先に自分に何が起こるのかを知っていたっていうことになるんじゃないかとも思えたり。
じゃないとある意味今回行われた壮大な実験に他人を巻き込むはずもないし…。

シリーズの中でも最もスピード感があり狂気を垣間見れる作品だと思う。
残りは2冊。

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学園祭の悪魔
ALL IS FULL OF MURDER

浦賀和宏
講談社ノベルス
(2007.7/2再読)

生きることも、死ぬことも、変わらない。
愛することも、殺すことも、変わらない。

『学園祭の悪魔』本文より

安藤シリーズ6冊目。
シリーズの中でもっともショッキングとも言われる1作。

これまでのシリーズでも反探偵主義や、人間としての禁忌に触れていた。
だが、これほどまでにショッキングかつこれまで作品上で取ってきた姿勢をもっとも顕著に表した作品もなかったと思う。

そして内容すべてがシリーズ上の伏線やトリックに触れてしまいそうで、内容に触れるのも躊躇われるんだよなぁ。
そもそもシリーズを読んでいなければこの作品については楽しさが半減以下になるだろうし。

テーマのひとつであるホンの些細な「殺意」や「悪意」、「欲望」。
そういった誰もが持ちえる感情に正面から向き合い、またシリーズを通した壮大な伏線に仕上げた点でも評価できる1作だと思います。

残念なのはこの後1作だけしか安藤シリーズが刊行されてないこと。
もしシリーズが続いていればこの話は大きな伏線になっていただろうに…

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松浦純菜の静かな世界
matsuura junna no shizukana sekai

浦賀和宏
表紙イラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2008.8/11再読)

「――私には分かるよ。あなたの気持ちが。殺したい奴って、確かにいるもの」

『松浦純菜の静かな世界』本文より

新刊をまだ買えてないけど八木剛士のシリーズ1作目『松浦純菜の静かな世界』を再読。
そろそろ最終巻がでるので、それに合わせて新刊である8作目はを読もうかなと。

連続女子高生殺人事件。
その女子高生たちは体の一部が持ち去られていた。

八木剛士という卑屈な少年を主人公とした作品。
この作品が出たときはやっぱり今までどおりどこか突き抜けた感のあるミステリ風味なものじゃないかなと期待してた。
そうしたらSFのような要素がはやりあるものの、一人称で独特な語り口だけど物足りない。

そう思っていたら、続刊が出るほどにあまりに特異なシリーズとなっていった。
もはや1作1作で語れるようなものじゃない(笑

読み返してみたら、この序盤から随分と伏線が張られているし。
最初の八木剛士への銃撃。
そして松浦純菜たちの「力」に関すること。
「撃った男」に関する不自然な行動。
また、ほぼ八木剛士の一人称なんだけれども、それ以外の人間からみた記述が明らかに後の伏線じゃないか。

さすがにシリーズも長くなってきたので最後を目前にして1作目を読んだのは正解だったかも。

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火事と密室と、雨男のものがたり
In The Wake Of Poseidon

浦賀和宏
イラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2005.7/9読了)

あらすじ
この世界を恨む八木剛士の唯一の理解者松浦純菜とともに、女子高生首吊り事件と連続放火事件の謎を追う。

第5回メフィスト賞受賞者浦賀和宏による新シリーズ第2弾。
「松浦純菜の静かな世界」の続編。

浦賀和宏の紡ぎだす世界からは世界を拒絶しているような空気が感じられる。
このシリーズの主人公の八木剛士もそういった雰囲気を作り出している一人。
世界から嫌われている、そう思い込んで自分を取り巻く事態を改善していこうとはせずに既に諦めていると思える。

一人称で描かれているだけに彼の世界に関する嫌悪感はこの本のあらゆるところで出てきている。
世界を諦めても、人生を諦めないあたりは素直にスゴイなと思えてしまう(笑
がんばるべきところはそこじゃないんだけどなー。

安藤シリーズの時もそうだったけど、浦賀和宏の描く世界ってのは好きだ。
軽く沈みたい気分の時にオススメ。

さて、今年は浦賀さんの本がさりげなく3冊出てる。
うち1冊は文庫ですが、実はこれまでで一番本が出てる年なんではないでしょうか。
ファウストにも短編が載ってるし、一体どうしてしまったのか浦賀っさん。
このまま今年度3作目の新作が出ることに期待。

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上手なミステリの書き方教えます
CURE

浦賀和宏
イラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2006.6/9読了)

松浦純菜&八木剛士シリーズ第3弾。

そういえば一年ぶりの新作。
次巻『八木剛士 史上最大の事件』は夏発売らしい。

3冊目のこのタイトルが『上手なミステリの書き方教えます』。
そもそもこの「何故か生き残ってしまうオタク男」と「不思議な雰囲気を持つ女子高生」のシリーズでこのタイトルってどーよ、とか思ったものだけれども...。
下の「ネタバレ含む」のところに書いたものだったらこのタイトルはうまいことつけたなぁ、と思う。

以下ネタバレ含む

八木が変わっていくのは青春小説そのもので感動できた。
けれども松本の事件は物語にどう関わっていったんだろう。

この本自体が『上手なミステリの書き方教えます』というタイトルに対しての『アンチ』なのだろうか。
『記憶の果て』の時のように。

chapter1の犯人は早く登場しなければ~は結局犯人は「いた」ってことしかかかれてないし
chapter2の現実にありえない~、は松本とシナモン姫のやりとりを見る限りありえないことだし
chapter3の魅力的な謎、というほど謎なことではない。解決編も数行で終わったし
chapter4の萌え追求に関しては…ねぇ

……やっぱりミステリという枠に対してアンチであるという主張をしてたんじゃ
だとしたら『上手なミステリの書き方』っていうのは少なくともこの本のことではないという反面教師的な姿勢のことなのだろうか?

まぁなんにしても次回への伏線のようなものもあったし、次ですべてが解決されることに期待。

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八木剛士 史上最大の事件
Towars Zero

浦賀和宏
イラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2006.8/9読了)

松浦&八木シリーズ4作目。

前作ラストでいい感じになってきた八木に起きる「史上最大の事件」とは!?

なんというか前作といい今作といい浦賀さん狙いすぎ。
なんとも見事な構図だなぁ。

とりあえず八木ガンバレ!

 

【ネタバレになりそうなこと有り】
毎回あったはずの『タイトル』と『目次』がないのはあとから気づいてびっくりした。

はじまるカウントダウン。
近づいてくる「その時」。
待っていたのは違う結末。
もうびっくりだ。
ここでそういう展開に急旋回するんかよっ。
ひっそりとあの展開に期待してたのに(笑

スナイパーに加えて謎の語り部もあらわれるし、次でどう決着がつけられるのか。

地の分以外のところだけで八木の正確を読み取ろうとするとそうとうイタイ人になってしまうよなぁ。
八木もうちょいガンバレ。
思っていることを口に出せばもっともっといい奴になるのに。

それにしても続きが気になる。
今回は特に。
なんせあんな終わり方だったし。

次作の『さよなら純菜、そして不死の怪物』は秋発売予定らしいです。

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さよなら純菜 そして、不死の怪物
Takeshi Strikes Back

浦賀和宏
イラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2006.11/16読了)

「あんなちょっとした誤解など言葉を尽くして説明すればすぐ解けるはずだと、俺は思っていた」

『さよなら純菜 そして、不死の怪物』本文より

八木剛士シリーズ5冊目。
えらいはやいスピードででるようになったよなぁ。

4巻のラスト「最大の事件」後、純菜と会うことさえ叶わなくなる。
唯一の心の支えを失ったあとの物語。

鬱屈した精神は引きこもりオタとして昇華することもできず、リアルにも戻るところがない。
その末に垣間見せた「奇跡の男」としての能力。
その使い方は現在の八木の心情をものの見事に表していたけれども…

一段組みで描かれているもう一つの物語。
スナイパーの「使い」と行動するもう一人の謎の人物は一体誰なのか。
そして彼女(彼?)が語る上では八木は滅ぼさなければならない相手のようだけれども……

もしかして純菜の存在は八木の力を引き出させるためだけのものだったのか、
それともあのラストでキス以上の物語上の「何か」を意味するから、八木に会おうとすらしないのか…

謎がさらなる謎を読んだ巻だったなぁ。

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世界でいちばん醜い子供
Hymn For The Children

浦賀和宏
イラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2007.4/9読了)

「おかしなものだ。彼から電話がかかってきても、出なかった。家に直接会いに来ても、父親に追い返させた。会いたいと思えば、何時でも会えたのだ。 それなのに――」

『世界でいちばん醜い子供』本文より

八木剛士シリーズ6冊目「世界でいちばん醜い子供」。
まさかここまで続くとは。

4巻「八木剛士最大の事件」で一つの転換期を迎え、
5巻「さよなら純菜 そして、不死の怪物」で八木の『力』がついに目に見えた形で現れた。

そして6巻目。
こんな変化球を投げてくるとは思わなかった。

八木はほぼ出てこない。
主人公は純菜。
話は「最大の事件」の後からはじまる。

純菜は八木をどう見ていたのか。
これまでは八木の一人称でずっと物語が進んでいただけに、純菜のことは客観的にしか見れなかった。
それがこの巻では純菜の一人称で描かれる。

そしてラストが――

次あたりで物語は統合されていくのかもしれないな…。

相変わらずタイトルは秀逸。
「世界でいちばん醜い子供」。
この言葉こそが純菜を指しているのだろうし、英題の「Hymn for the children」=「子供に捧げる賛美歌」はカツヒコを通して知った八木のあの魔法の言葉を指しているように思えた。

最後に顕れた『純菜の力』は物語にどう絡んでくるのか楽しみ。

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堕ちた天使と金色の悪魔
Another Green World

浦賀和宏
イラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2007.9/17読了)

目には目を、だ。復讐するしかないと思った。それだけが、俺の生きがいだった。どんなに強くなっても、俺を侮辱した連中全員に思い知らさなければいけない、そう思って昨日まで生きていた。

『堕ちた天使と金色の悪魔』本文より

八木剛士シリーズの7作目。
残り2冊でラスト予定(だったと思う

再び主人公は八木剛士に。
『力』を手に入れ、何者をもひれ伏させることができるようになったが、結局なんも変わっちゃいないじゃないか orz

…と思っていたが、そうじゃない。
一人称で描かれているからそう見えるのであって、周りの反応は明らかに今までと違っていたし、人間関係もずいぶん変化したように思える。

でも、八木のフィルターを通して描かれているので他のキャラクターの心情がつかみにくい。

それどころか、ところどころで挿入されている謎の会話や、章が変わる前後のつかみ所の無さなどが余計に混乱させられる。

いったい今現在でいくつの物語が同時に進行し、物語の核心がどこにあるのか。
それがどうにも分かりづらい。
きっとラスト2冊でどんどん明かされることになるのだろうけれども。

ただ、今回の八木の選んだ選択は実際に彼の選んだ選択なのか。
それとも選ばされた選択なのか。

とにもかくにも、ものすごくいいところで終わってしまったから続きをーー。
正直『史上最大の事件』の時よりも気になって仕方ない(笑

副題の『Another Green Wold』はブライアン・イーノのアルバムタイトルであってるんだろうか。
浦賀和宏らしい副題ではあるけれども、あんまり詳しくないんで今回の物語とどう関連付けてこの副題なのかが分からないです('A`)

軽く色んなレビューを見たところブライアン・イーノが決定的に変わったのはこのアルバムであり、境界線を引くならここ、ってのは分かった。
……ということなら今回の話と結構絡んでくるような気がする。

表紙は相変わらず暗いな(笑
(実際、ウスダヒロさんはそうリクエストされたらしいけれども
対立する天使と悪魔の構図ってのもある意味いろんなことを暗示してていいなぁ。

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地球人類最後の事件
The Beginning of The End

浦賀和宏
イラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2008.9/21読了)

そうだ。俺には《力》があるんだ。死なないのだ。死ぬはずがないのだ。確かに、防ごうとも、避けようとも、もう間に合わない。どうにもできない。でも、きっと助かる。助かるはずなのだ。

『地球人類最後の事件』本文より

八木シリーズ8作目。
ついにクライマックス突入。

ようやく…
ようやくこのシリーズの構成が見えてきた。

最初はただ鬱屈した少年の歪んだ青春を描き出し、やがて『力』という少し不思議な印象が出てきた。
そして転換期を迎えてからは怒涛の展開と変化球の連続。

ただのコンプレックスを持つ少年の変化を描くだけではない。
もっと大きな「何か」がこのシリーズにはある。
しかし最も重要なものは主人公の八木剛士と松浦純奈の関係にある。

それは分かっていた。
分かっていたが、まさか最終巻1歩手前でこの展開とは!??

様々なことを経験し、自ら変わり続けてきた八木を待っていたのはこんな最後かよ!?

いいのか。
いや、今後どうなるんだ。

この巻で今まで描かれてきた人間関係のすべてが変化してしまった、そういう印象だ…
さすがにそろそろ真相が暴かれていくだろうとは思っていたが、ある意味それ以上の衝撃だった。

もうこれは最終巻の『生まれ来る子供たちのために But, we are not a mistake』に期待せざるを得ないです。

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浦賀和宏殺人事件

浦賀和宏
講談社ノベルス
(2006.10/18再読)

「お前は、誰かを殺したいと思ったことはないのか?」
「あるさ。誰だって、殺したい奴の一人や二人ぐらいいるさ」

『浦賀和宏殺人事件』本文より

講談社ノベルス20周年企画"密室本"の1冊。

作家「浦賀和宏」がファンの女の子を殺害!?
真相は一体どういうことなのか。
そんなストーリー。

おそらく浦賀さんの作品の中でもっとも異色な一冊。
いい意味で壊れてます。
けどそれ自体がこの本の肝。
そんでもって、安藤シリーズが1冊目から読まないとついていけないように、やっぱり安藤シリーズを読んでた方が楽しめます。

あぁもう最後のオチがいいよなぁ浦賀さん。

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彼女は存在しない
She is not there...

浦賀和宏
幻冬舎文庫
(2007.4/13再読)

「しっかりしろ、しっかりしろよ。俺はお前の兄貴の有希だよ。亜矢子は――亜矢子はおまえ自身じゃないか――」
「亜矢子が――私?」

『彼女は存在しない』本文より

浦賀和宏の「彼女は存在しない」。
久々に再読。

妹が多重人格になってしまっていた。
妹と、妹のもう一つの人格をたどる兄。
同時期に恋人を何者かに殺された香奈子は亜矢子のもう一つの人格である由子と関わることに…

 

本の中に出てくるあらゆる人物がラストに向かって崩壊していく様はやっぱり異常だ(笑

一見普通の恋愛小説に多重人格を絡めて、最後に「あっ」というラストを迎えるように思わせて、実はそんな驚く程度で済まされないのが浦賀さんテイストだなぁ。
登場人物同士の関係や過去を掘り下げていくと、序盤から張られていた微妙ななんでもないような伏線がどんどん活きてくる。

なにげない一言。
けれどもその一言が実は真意が読者の思わぬところにあったり。

自分がなぜ自分であると言い切れるのか。
この本のテーマはまさにそれだと思う。

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地球平面委員会

浦賀和宏
幻冬舎文庫
(2006.11/13再読)

「あなたも信じてみませんか-。地球が平面であることを」

『地球平面委員会』本文より

大三郎・クイーンが大学で出会った奇妙なサークル「地球平面委員会」。
彼らはなぜか執拗に彼を勧誘する。
その間に学校から金庫の中身が盗まれたり、町の北半分がいたずらによって道が凍らされたり奇妙なことが起こっていた。

再読してみたけど、結末を知っていてこれを読むのは非常におもしろかった。
結末が結末だけに、大三郎の視点から語られている話を宮里真希からはどう見えるだろうと想像してみたらえらく納得がいった。
なるほどなぁ。
確かに『クエスト』を少しずつしっかり与えてるよなぁ。(笑

浦賀さんの本に初挑戦とかにはぴったりの本かと思う。
なんせ文庫だし、薄めの本でもあるし。

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眠りの牢獄

浦賀和宏
講談社ノベルス
(2006.10/18再読)

「駄目だ。なんの反応もない。あいつ、冗談じゃなくて、本気で俺達をここに閉じ込める気だ」

『眠りの牢獄』本文より

安藤シリーズ執筆時の浦賀さん初のシリーズ外の作品。

誰が亜矢子を突き落としたのか。
浦賀を含む容疑者は核シェルターの中へと閉じ込められる。

安藤シリーズを読んでから読んだ方が明らかに楽しいんだろうなぁ。
結末が結末だし、今の純奈シリーズだとイマイチ分からない表現とかも結構出てきてるし
(特にいろんなタブーに関して
だからこそいろんな浦賀和宏作品「らしさ」が感じられる端々の言葉にニヤニヤできたりする(笑

よくもまぁこの短い物語の間にこれだけネタを詰め込めたよなぁ。

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ファントムの夜明け
DAWN OF THE PHANTOM

浦賀和宏
幻冬舎ノベルス
(2007.4/18再読)

絶望した。
私はなんて無力なのだろう。
この力を友達に信じてもらうことすら、できない。
なのに、いったい、なんのためにこんな力が――?

『ファントムの夜明け』本文より

別れた恋人を探す主人公の真美。
探し始めた折に真美は頭の中に声が聞こえるようになる。
それは死んだ人間からの声だった。

『ファントムの夜明け』というタイトル。
なんかタイトルから察するにこの物語が大きな物語の序章のように思えるんだよなぁ。

一種の恋愛がらみの物語でもあるし、なぜ自分に死体を見つける力があってその能力をどうやって使っていくのかというミステリでもあるように思える。
ジャンルはどこにも分けられそうにないけれども、確かにこの本は面白かった。

浦賀さん……。
青春もののように思わせてもやっぱり一度はどん底まで落とすんだよな…
そのもっとも奥底の心理状態にまで登場人物を落として、そこからなにを語るのか。
その極限状態の心理を覗き見れることこそがやっぱり浦賀和宏が語る物語の魅力だと思える。

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