感想のページ 作者「太田忠司」

白亜館事件

太田忠司
イラスト:末次徹朗
トクマノベルス
(2005.11/7読了)

大会社を経営する柊遼が石神探偵事務所を訪れた。
彼は20年前に起きた事件の真相を洗いなおして欲しいという。
そして探偵野上と俊介が訪れた白亜館で起こる身の毛のよだつような事件。
肉食恐竜の化石に食われたような死体の謎とは!?
名探偵狩野俊介シリーズ第10弾。

なやめる中学生であり探偵の狩野俊介。
大人たちの敏感な心情すら感じ取ってしまう、また誰も傷つけないようにする心遣いがなんとも言いがたい。
なんとも子供っぽくない彼だけれども、実は子供って誰しもそういうものじゃないだろうか。
親を心配させないようにとか友達を気遣うとか、そういったことを無意識にやってしまっていたり。
でも大人から見たらそれが大人っぽく見えたいたり、大人の見えないところだったりとかなんだよなぁ。

目次のページへ戻る

銀扇座事件 上下

太田忠司
イラスト:末次徹朗
トクマノベルス
(2005.12/6読了)

野上さんの元にやってきた今度の依頼は20年ぶりに舞台へと復帰する女優の警護。
その女優には脅迫状が届いており舞台への復帰を阻もうとするものだった。
女優の過去を調べてみると20年前最後に演じた演目と同じ内容を同じ場所で今回公演することになっていた。
この一致は偶然なのか!?

名探偵狩野俊介シリーズ第11弾。

長篇とはまったく雰囲気の違う身近なミステリの短編集。
主役の狩野俊介ではなく、野上さんが主役の話。
マンネリを防ぐためにこれまでも様々な話が出てきましたが今回はある意味魔球(笑

上巻を読み終わって驚愕して、すぐさま下巻に突入しようとするものの『何故下巻に続くんだ!?』と不思議に思いながら読み始め、
読み終わったら仰天する。

なるほど…
「上下巻」だからこそできる構成だなぁ。
そしてイラストが今回はなかったことも納得。
そりゃ、今回はあったらおかしいもんなぁ。

見事に騙された。
こういうことか。

次は「久遠堂」。
とっとと買ってこよう。

目次のページへ戻る

久遠堂事件

太田忠司
イラスト:末次徹朗
トクマノベルス
(2006.1/22読了)

父の行方を探して欲しいという依頼を受けた野上さんと俊介は莫大な資金を投じて作られた巨大な仏像のある村へとやってきた。
その仏像は経済界の元重鎮であり失踪者が作ったものだった。
しかし彼には元々仏心などまったくないような人物だったという...
この仏像を作った理由と失踪の謎とは

狩野俊介シリーズ第12弾。

もしかしなくてもシリーズ史上もっとも血なまぐさい事件。
それでも次なる犠牲者を出すまいと犯人を見つけようとする俊介くん。
それがいいところなんだろうけど、ラストの方にもある「この世に起こったことすべての責任を負ったりできない」ということは分かっているけれども、行動せずにはいられない。
なんかまるで、今後起きるなんらかの重大な事件の伏線のようにも思える…
この矛盾を乗り越えられるのかというような…事件は読者としても見たくはないなぁ。

次は「狩野俊介の記念日」。
すでに買ってあるからあとは読むのみ。

目次のページへ戻る

狩野俊介の記念日

太田忠司
イラスト:末次徹朗
トクマノベルス
(2006.2/4読了)

12月から2月に起きた俊介君にとっての記念日たちにまつわる4つの事件。

狩野俊介シリーズ13年目にして第13弾。

12巻の事件直後のクリスマス・イヴからはじまり、俊介君にとっての大事な記念日の2月24日までの4つの事件。

短編集のような血なまぐさくない事件で、しかも日常がしっかり描かれてる方がなんとなく好きだなぁ。

最後の事件までの持って行きかたがいいなぁ。
3つ目の事件までを読み終わり、4つ目で「あれ?」と思い始め、ラストを読んで「ええっ!」となり、あとがき読んで納得し、本を閉じて表紙を見て脱帽する、そんな内容でした。

連作短編だったのかっ!?

目次のページへ戻る

百舌姫事件

太田忠司
イラスト:大塚あきら
トクマノベルス
(2009.4/30読了)

でも、違うんです。起きてしまったことはもう消せないけど、新しくやり直すことはできます。そのためにも、隠されていることは一度きれいに表に出して、みんなにわかるようにしなきゃいけないんです。そうしないと次に行けないんです

『百舌姫事件』本文より

狩野俊介シリーズ14冊目。
今までで一番長い話。
銀扇座事件が一番なのは確かだけど、あれは2冊で1つという特殊構造だったからなぁ。
表紙イラストも末次徹朗からマンガ版狩野俊介を描いた大塚あきらに変更。

もう随分久しぶりだよなぁ。
前に読んだのを調べると2006年初頭だった。

でもさすがにシリーズをずっと読んでいるとすっと狩野俊介くんのシリーズにはすっと入っていけた。

怪しい巡業を繰り広げる天才魔術師集団と宝石店の窃盗の謎に俊介くんが挑む。

どうやって衆人環視の中で宝石を盗むことができたのか。
また町に古くから伝わる百舌姫という伝説になぞらえた百舌の早贄のように木のてっぺんに突き刺された殺人は誰が一体どうやって行ったのか。

2つの謎に苦心しながら、まさに人の心の哀しみと真正面から向き合いながら解決に導く様はぐっとくる。
相変わらず「ずしり」とくる解決の仕方をするよな…

俊介くん自身の探偵としての在り方を確立していっているようなところには成長というものを感じたり。
とにもかくにも随分久しぶりに読んだので、また次を読むまではまだだいぶ先なんだろうなぁ。
次の中学2年生編突入も期待してます。

目次のページへ戻る

遊戯の終わり 探偵藤森涼子の事件簿

太田忠司
表紙イラスト:佐々木悟郎
JOY NOVELS
週刊小説連載
(2007.12/7読了)

ええ、不遜な考え方です。他人の一生をちょっとした関与で変えられるなんて、思うべきではない

太田忠司『遊戯の終わり』本文より

一宮所長のこの言葉が心に残った。
それを分かっていながらも人間って無駄にいろんなことを心に残しすぎるからしんどい思いをするんだろうな…

太田忠司の藤森涼子シリーズ『遊戯の終わり』。
ハルキ文庫で出た分はたぶん全て買ってたのは分かってるんだが、果たしてこれが読んだことあるのかどうか疑問に思いつつ買ったんだけれども、読んだことがないものだった。
ってか藤森涼子と刑事阿南が微妙に頭の中でごっちゃになってた(笑

自分なりの正義を持っているがために事件に執着してしまい、結果的に人の心に潜む醜い部分までたどり着いてしまう。
そんな短編が6つ。

『黄昏という名の劇場』しかり、『狩野俊介』シリーズもそうだと思うんだけれども心に残るイヤな感じ、いいかえれば一種の悪夢っぽいものが読めるのを期待して太田忠司の本を読んでる。
この本もなんとなくで買ったけれどもそういう感じがすごく出てた。
悪夢なのに事件はすべて現実的なものばかり。
ファンタジーとかホラーという要素があるわけでもなく。

この謎の続きが知りたいと思って読み続ける→ラストにちょっと心にげんなり来る展開。
決して楽しいと思える本ではないんだけれども人の心の闇にライトに触れられる本でした。

目次のページへ戻る

カッサンドラの嘲笑 探偵藤森涼子の事件簿

太田忠司
JOY NOVELS
(2009.4/23読了)

こうして対決することで、自分自身が余計傷を負うことも、重々承知していた。それでも涼子はここにやってきた。黙っているほうが、もっと苦しいから。もっと辛いから。

『カッサンドラの嘲笑』本文より

太田忠司の藤森涼子シリーズ。
藤森涼子40歳だとぅ!?

…確かに小説内でどんどん年をとっているのは分かっていたが。
事務所を設立し、一緒に仕事をする仲間も増えた。
事務所の所長としての責任感と涼子の持ち前の行動力がぶつかりあう様が実に人間的に描かれていた。

以前のように一宮所長が後ろにいたからこそ、涼子の持ち味でもある行動力も出せなくなってくるわけだし…
そんな涼子を支えるように、そして涼子の人望で集まってきた女性達のバックアップもすばらしい。

一見するともっとも地味なシリーズなんだけれども、ひとつひとつの事件で見せる涼子をはじめとする探偵事務所にいる彼女たちの芯の強さってのはやはり見所といわざるを得ないだろうなぁ。

クライアントとの交渉、男社会でもある警察との交渉、探偵としてのプライドetc
一宮探偵事務所時代と比べて、より涼子の人間的な強さ弱さが見れて満足です。

収録話:
・ 「カッサンドラの嘲笑」
・ 「ウンディーネの復讐」
・ 「バンシーの沈黙」

目次のページへ戻る

五つの鍵の物語
A tale about five keys

太田忠司
イラストレーション:フジワラヨウコウ
講談社ノベルス
(2008.11/4読了)

―彼らが語る、鍵の物語です。ここは、五つの鍵の物語を展示する博物館。さあ、もっと彼らに近づいて。

『五つの鍵の物語』本文より

太田忠司の『五つの鍵の物語』。
フジワラヨウコウのイラストレーションとともに語られる「鍵」の物語たち。

幻想小説とでも言うのだろうか。
実に不思議で、少し怖い感じの話が収録されている。
そして五つの物語がすべて語られたときには…

ああ、なるほど。
こういう終わり方か。

不思議な感じを持たせながらも、現実と虚構が入り混じるなかの混沌としたラストが印象的だった。
それに加えてイラストとのコラボレーションも実にいい雰囲気を醸しだしていたかと。

太田忠司の著作の中では『黄昏という名の劇場』に近い感じかなぁ。
ミステリ作家としても大好きなんだけれども、こういうのも結構好きかもしれない。

目次のページへ戻る

忌品

太田忠司
トクマノベルス
問題小説掲載
(2007.6/8読了)

問題小説に2000年から2006年に掲載された短編6本と他2本計8本のホラー短編集「忌品」。

短編集…ではないんだよな。
ラストの書き下ろしでこの「本」という「モノ」自体にしかけられた謎が付随してるわけだし。

テーマは「モノ」。
モノに宿った狂気や恐怖を取り上げた小説。

霊などが出てきて呪ったり恐怖を与えるという類ではなく、何気ない怖さがあるものが多かった。
世にも奇妙な物語のような感じが近いような…。

それにしても表紙がおどろおどろしいなぁ。
ただの靴なんだけど、これを見るとこの靴にはなんかありそうだとすら思える。

ミステリ的なオチとかがあったものは結構好き。
「眼鏡」や「手紙」とか。

「忌品」収録話
・眼鏡
・口紅
・靴
・ホームページ
・携帯電話
・スケッチブック
・万華鏡
・手紙

目次のページへ戻る

帰郷
"Homecoming"and other stories

太田忠司
幻冬舎ノベルス
(2007.7/6読了)

ショートショートとは、世界のあらゆる瞬間を描き出す小説形態なのです。

太田忠司『帰郷』作者のことばより引用

太田忠司の34編のショートショートからなる1冊。
泣けるものから笑えるもの、はっとさせるものやぞっとするもの。

ショートショートってこういうものなのか。
こういった形態のものはアンソロジーやネットでしかなかなか読む機会というのがないので新鮮だった。

太田忠司がデビューしたものがショートショート。
同人誌時代のものから雑誌に掲載されたものが載っているというのも興味深かった。
発出を見ると1987年から1997年までと随分幅広いし、太田忠司のルーツに触れられた気がした。

目次のページへ戻る

黄昏という名の劇場

太田忠司
講談社文庫
(2007.2/22読了)

遥かな昔、私はあの世界に生を受け、生きていたという記憶が、たしかにある。
なのに何故か、今はここにいる。
この醜悪な牢獄の中に。
何かの罰、なのだろうか。
私は、あの世界から追放されたのか。

太田忠司『黄昏という名の劇場』本文より

新宿少年探偵団などの太田忠司による怪異譚集「黄昏という名の劇場」。

ホラーでもなく、ミステリーでもない。
これを形容するには奇怪な名という言葉がすごくしっくりくる。

謎めいた舞台に、現実のようでいて違和感がものすごいある設定。

誰もいない船、そこにいるのは人形だけ。
大きな屋敷とそこに住む世界の総てを知る少年の家庭教師の話。
自らを読む主人を探す本の話。

とにかく、奇妙でぞっとする話が多かった。
設定と雰囲気は十分に堪能できたと思う。
挿絵の藤原ヨウコウ氏が構築した世界も垣間見ながら読み進めるところも、この奇妙な世界を作り上げている大きな要素の一つだろうなぁ。

目次のページへ戻る

予告探偵
西郷家の謎

太田忠司
C-NOVELS
(2006.11/1読了)

十二月四日十二時、罪ある者は心せよ。すべての事件の謎は我が解く 摩神尊

太田忠司『予告探偵』本文より

一通の手紙からはじまる出来事。
その中身は「この時間に謎を解く」という探偵からの手紙だった。

 

なんじゃこの設定!!!
というところから興味を惹かれました(笑

時間を指定って怪盗かよっ。
そしてなんでその時間に謎が解けるんだっ。
その事件をあらかじめ調べていたわけでもないし、手紙を出したときには事件すら起こっていないのに。

そんなことを頭の片隅に置きながら読む…
普通の推理小説だ。
ん?なんか設定が…違和感を覚えつつ読む。
『(反転)なんで使用人が犯人であることがありえないんだッ!
え…放射能…個人が所有!?

そしてラストを読んでヽ(゚∀゚)ノこういうことかっっ

なるほどなぁ。
違和感の正体はこれだったのか。
楽しく驚けたので満足です。

目次のページへ戻る

レストア
オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿

太田忠司
カッパノベルス
ジャーロ連載
(2007.12/31読了)

わかったでしょ鋼ちゃん、あなたがレストアしたのはオルゴールだけじゃないの

太田忠司『レストア』本文より

太田忠司の連作短編集『レストア』。

霞田兄妹シリーズの『維納オルゴールの謎』でもテーマとして取り上げられたオルゴール。
今度はその修復師を探偵としたミステリ…と思っていたんだけれどもちょっと違っていた。

主人公は人と接するのが非常に苦手であり、欝を抱えて生きている。
だから人の心の内面まで入り込むのを非常に恐れる。

そんな彼によってオルゴールに秘められた誰かが残した謎を解かれていく。
その際に彼も人に関わり、事件に関わった人や周りの人たちに手を引かれるように外の世界へ一歩一歩踏み出していくという変わったミステリだった。

謎を解く=ミステリっていうのではなく、むしろ人の心のミステリみたいな感じだった。

目次のページへ戻る

inserted by FC2 system