感想のページ 作者「お」

Memories Off 2nd
白河ほたる編

青海樹
JIVE Character Novels
(2005.6/6読了)

高校三年生の白河ほたるは同じ学校に通う彼に告白して以来ラブラブな関係だったが、
子供のときからずっと続けているピアノの道に進むためにウィーンへ留学するか、
それとも彼と一緒に居続けるかどうかの選択を迫られていた。
そんな悩みを抱えている最中、少しずつ彼の気持ちがほたるから離れていくのを感じていた。

原作はPSゲームの「Memories Off 2nd」。
今年はMemories Offが誕生して5年ということでいろいろな企画があったみたいです。
その一つがJIVEから出版するMemoriesOffの小説。
ただ、いわゆるゲームの内容をノベライズ(小説化)するというものではありません。

読んだ感想として、 この小説をゲームノベライズとかじゃなく恋愛小説としても通じる。
通じるどころか正面から書かれた恋愛小説だ。
女性作家の起用は正しかった!
いや、これは女性じゃないととてもじゃないけど書けない。

というのもヒロインの白河ほたるの視点で描かれているというのがある。
ゲームの小説でヒロイン視点というのもすごく珍しいんじゃないだろうか。
乙女心はもう揺れまくり。
精一杯悩む男性主人公というのもすごくいいんだけども、この本のように主人公を逆転さえてしまうのもすごくよかった。

少々ライトノベルという形態にしてはちょっと高いような気もするんですけどね(笑

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銀魂 3年Z組銀八先生

原作:空知英明
小説:大崎知仁
JUNP J BOOKS
(2006.9/29読了)

いいか……お前らは腐ったミカンなんだ!

『銀魂 3年Z組銀八先生』本文より

銀魂の小説版。
銀さんが先生で他一同が生徒。
あんなやつ等が一つのクラスでまとまるなんてことはあるはずがなく…
テストとか学校の怪談とか野球大会とか文化祭とか。

ツッコミ役の新八も大変だな。
周りがすべてボケなわけだし(笑

人間としての尊厳を無くした近藤さんとか、土方をいじめる沖田が印象的。

ノベライズした大崎知仁さんはこのボケとツッコミの応酬を描くのは楽しかっただろうなぁ、と思えた(笑

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銀魂 3年Z組銀八先生2
修学旅行だよ!全員集合!!

原作:空知英明
小説:大崎知仁
JUNP J BOOKS
(2007.8/7読了)

大きな岩風呂を竹垣の目隠しが囲む、というよくあるタイプの露天風呂である。
さて、その竹垣の裏に、足音を殺し、息を殺し、今宵現れた勇者……というかスケベ野郎は、ついさっきまで枕投げしてて怒られたばかりの近藤勲であった。

『銀魂 3年Z組銀八先生2』本文より

『銀魂3年Z組銀八先生』通称3Zの2巻。
学生証つき。

まさか2巻がでるとは。
そしてここまで登場人物増えるとは。
九ちゃんや東城、ヘドロからアネモネまで出てる。

おいおいそんだけキャラ出すと収拾つかなくなるんじゃねーの、と思いきややっぱりほとんど出番のなかった奴も。
一部のキャラより山崎の方が目立ってると言っても過言ではない。

……正直ハム子が出るとは思わなかったなぁ。

さて2巻は生徒会の役員決めや修学旅行、銀魂高校にやってきた銀行強盗を捕まえる話など。

笑いあり、少しの感動あり。
銀魂のテイストはしっかり小説版も引き継いでるのは相変わらず。

ってかイラストの九ちゃんがぁぁぁぁヽ(゚∀゚)ノ
ブルマはいてるよっ。
めっちゃ恥ずかしがってるしっっっ。
内股+恥ずかしそうに体操服の裾を伸ばしてる様がっ。
なにこのシチュエーション!?
GJ空知!!
……横にいる神楽がなにを間違ったかカボチャブルマはいてるのはやっぱり何か間違ってるな。

そのイラストを腐女子な友人に見せられて、結局小説版の2巻も買うことにしたというエピソードもありました。

それもあってかやっぱり九ちゃんと東城のやりとりおもしれぇぇぇぇ(笑

修学旅行の覗きイベントの東城×近藤×長谷川がかなり性格出てておもしろかった。
長谷川さんと東城用意周到すぎ('A`)
これが本編のストーカーたちの底力か。
……とすると男風呂の方でもさっちゃんもきっと覗(以下略

そんなところから始まった京都修学旅行編がちょっといい話+オチ有りの話になるとはな(笑

 

土方のマヨ消費量の具体的な数値出てたが、あれはどー考えても異常だろw

巻末の親友占いでは「百音」だった。
どちらかというと清楚な方の巫女か…
笛をつまらせた印象しかない('A`)

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銀魂 3年Z組銀八先生3
生徒相談室へ行こう!

原作:空知英明
小説:大崎知仁
JUNP J BOOKS
(2008.7/7読了)

始業前の教室に、あるはずのない、あってはならない、級友の死体。いわゆる第一発見者というやつに、この時点で新八はなってしまったのである。
「近藤さん……そんな、連載第一回目なのに……」

『銀魂 3年Z組銀八先生3』本文より

表紙どんな異種格闘技戦んんんー。
しかも近藤さんだけもはや戦う気ナッシングだw
そこはかとなく変態的なオーラを出してやがるw

まさかまさかの3冊目。
ここからはジャンプスクエア連載分らしいです。

挿絵はほぼなくなったけど、空知英秋による1ページ漫画がいくつか収録されてます。
むしろ3Zもたまにマンガで連載してほしいものです(笑
あと口絵の3Z版鬼兵隊のカラーイラストがツボった。
来島また子が可愛くみえるとは orz
パシリ扱いな似蔵にも笑った。
学ラン合うじゃねーか(笑
というか似合いすぎだろw

3巻。
いつもながらに笑わしてもらった。
安心して読めるノベライズ…というかこれはノベライズというのか。
うーん。
まぁいいとして安心して楽しめるというのもいいものです。

それにしても近藤さんとヅラは大活躍だな。
特にあらゆるところでネタあつかいされる近藤さんは実に面白い存在になったよなw

あと、たまさんや小銭形の旦那も登場しているあたりもGOOD。
ってか本編とほとんど扱いが変わらねーー。

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銀魂 3年Z組銀八先生4
あんなことこんなことあったでしょーがァァ!!

原作:空知英明
小説:大崎知仁
JUNP J BOOKS
(2009.4/18読了)

「『あーあ。それにしても美術室なんかで告白するもんじゃねえな。見ろよ、服に濃い絵の具がついちまった』『あー。それがほんとの色恋(色濃い)ってやつだよ』」沖田はゆっくりと一礼。
「いや、サゲんな! うまいけど、なんか腹立つわ!」

『銀魂 3年Z組銀八先生4』本文より

もう電車の中で読むもんじゃない。
しかも日曜日。
でも仕事。
もう最悪だ。
思いっきし変な人だ。
間違いなく浮きまくってた。
もうダメだ。

沖田で笑わされ、挙句は近藤さんのいつもの待遇に爆笑し、カツラップの「お口」で思わず笑いがもれるとは。
まさか声に出てしまうとは思わなかった……

そんな銀魂番外編「3Z」も最終回。
ほんとうに最終回なのかどうかは知らないが。

もう終わる終わる詐欺には騙されねーよ、とか思いつついつ復活しても買うだけだし、と思ったり。
いや、別にいつ終わってもらってもそれはそれで受け止めるけどさ。

確かにこんだけキャラクターというキャラクターを出して3Zという世界で再構成しつつ原作ネタもしっかり入れまくるという類稀なる面白い小説版になってるのは分かる。
けどコレ書くの相当タイヘンだったろうなぁということも読んでいて伝わってくる。
そもそも本編の中で8割がボケとツッコミでなりたってるって時点でどんだけー。

えぇ。もうほんとお疲れ様でした。
大いに笑わせてもらいました。
でもできればまた復活してくれると嬉しいです(笑

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摩陀羅 天使篇1
ロレトの連禱

大塚英志
イラスト:田島昭宇
電撃文庫
(2007.5/19再読)

―さあマダラ、始まるわ、もう一度最後の戦いが。

『摩陀羅 天使篇1』本文より

MADARA天使篇1巻。
MADARAシリーズ真の完結篇……になる予定だった小説。
未完。

発売してからもう13年経ってるのか。
あとがきを読む限りではギルガメシュサーガがはじまったころに同時にはじまったっぽい。

MADARAという物語。
アガルタの向こうへ消えたマダラを追って、何度も転生を繰り返し追いかけていく転生戦士たち。

アガルタの向こうとこちら側とで何度も争い、そして最後に敗れ去ったさらにその後の物語…のハズ。

だいぶ久しぶりに読んだのでかなり内容を忘れていることに気づいた。

本編にギルガメシュサーガ、僕天、サイコに木島日記くらいまでは最低限読まないときっと、結局この物語のラストっていうのは想像しえないんだろうなぁ、ということでこれより再読しようかな、と。

 

ユダヤとカオスが辿りついた最後というのを読んでみたいんだが、本当に描かれる日はくるんかなぁ。
どこかでサイコの連載後には転生編を完結させる、と大塚英志が書いていたような気がするけど。

知りたいがゆえに、犬彦が出ているという理由で「リヴァイアサン」を読んだり、沙門の出自が書かれている「北神伝綺」さらに「木島日記」へ進み…
いつの間にか大塚英志の原作コミックはほとんど読んでしまったのも懐かしい思い出(笑

どこまで再読できることやら…

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摩陀羅 天使篇2
ミカエルの廃都

大塚英志
イラスト:田島昭宇
電撃文庫
(2007.5/22再読)

だからトビオは目の前の光景を奇跡と信じるだろう。
奇跡とは常にそのようなものだ。
希望とは常に救いようのない絶望に支えられている。

『摩陀羅 天使篇2』本文より

摩陀羅天使篇2巻。
完結していたらMADARAの真の完結になりえたんだろうけど、あと1冊で未完。

昭和があまりに長く続きすぎた東京で最後のさらにあとの戦いがはじまろうとしていた。
過去の記憶をなくし、それでもマダラを求めるキリン。
その彼女にずっとついて行こうとする犬彦。

仲間を捨て、記憶を持つことを選んだカオスたちはスペアである蒼と赤、そしてキリンのスペアであるリリスを見つけ、残る霊性の影王を探していた。

おもしろいんだけど、絶望的。
マダラはまだ生まれたて。

4つの霊性もバラバラ。
全員が前世の記憶を持っているわけではない。

12人の使途たちもどんどん狂っていくし…
沙門にしろロキにしろ。

それでもその戦いと終わらない昭和を閉じるために新たな人物たちが現れてきたのはなにを意味するのか。
天皇家の稀人や、影王の名を継ぐ者でありなぜか霊性を持つトビオ。
彼らのような新しい世代が生まれた意味とは。

そしてアガルタ側はこのまま何も手を出さないで終わるのか。
MADARAという物語の性質上、そうはいかないハズなのだが…

母サクヤと父ミロクの仕掛けたアガルタとの戦いに対してマダラと影王という兄弟はどう運命に立ち向かうのか。

そういったところが楽しみなんだけどなぁ。

このシリーズこそが"終わらない"ことが残念。

何年か前に徳間書店から天使篇の続きを出す、というようなことを大塚英志はどこかで言っていたような気がするのだが…

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摩陀羅 天使篇3
砂の子供

大塚英志
イラスト:田島昭宇
電撃文庫
(2007.5/23再読)

早く昭和を終わらせろ。マダラと12人の使徒が降臨し奈落の底を開くまでに……

『摩陀羅 天使篇3』本文より

摩陀羅天使篇3巻。
3巻が出てから10年新刊が出ていない状態。

影王、そして庇の力を持つ者と出会った摩陀羅は東京に。
同じ混沌とした東京には「神」としてカオスがおり、その東京を終わらせるために皇位継承者の稀人が向かう。
ユダヤは翻弄され、ヒミカが清朝を継ぐ者として即位した満州へ。
その満州には赤と青のスペアである二人も向かう。

3巻まで読んで思ったのはようやくプロローグが終わったんじゃないだろうか。
4つの力を持つ者は東京に集い、そして運命に翻弄されるかのように再びちりぢりに。
光と闇の戦いであり、アガルタとアガルタに反するものたちの抗い。

さらにマダラを巡る物語がスケールがあがり、国を越えて争う動きが見える。
東京府、日本、清朝。
これらの裏には皇室が関わり、その皇室にもこの永遠に続くかのような戦いをはじめたミロクも存在しているときた。

ただ再びマダラと出会うためだけに転生を繰り返してきた転生戦士たち。
その転生を断ち切る要素として配置された次の天皇になるべき稀人。
彼が昭和を終わらせた時に一体なにが起こるというのか。

大塚英志がさまざまな場所で語ってきた昭和天皇。
そしてその昭和が終わらない設定の色んなコミック。

MADARAという物語の最後でもあり、昭和天皇を巡る評論や物語の集大成でもあったのがこの「天使篇」だったハズなのだが…

いつかは完結篇を見てみたいものだと思う。
あれから十年。
まだ待っている(つもり

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くもはち-偽八雲妖怪記-

大塚英志
イラスト:山崎峰水
角川文庫
(2005.12/27読了)

あらすじ
時は明治。
怪談がブームだった頃の話。
怪談作家の"くもはち"と、なぜかのっぺら坊になってしまった"むじな"の二人が出会う「作家」と「妖怪」たち。

イラストレーターは単行本が定本物語消費論の西島大介、文庫は黒鷺死体宅配便の山崎峰水が担当。

今度は柳田國男やアーサー・コナン・ドイルなど妖怪に見入られた作家たちをクローズアップしてきた大塚英志。
大塚英志のことだから当分は赤軍や昭和を描くものだとばかり思っていたら怪談が日常にあった明治時代の話を書いてきたか...

キャラクター化した妖怪が世間の娯楽であった200年前。
その後水木しげるや鳥山石燕の活躍により、少しずつ姿かたちは変わってきたものの原型は確かに残っている。
現代、コンピューターゲームの流行によりポケモンなどのモンスターたち。
そんな人間が生み出したイラストたちは200年後の未来の人たちにはいったいどう映っているんだろう

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戦後民主主義のリハビリテーション
論壇でぼくは何を語ったか

大塚英志
角川文庫
(2007.1/10読了)

大塚英志が論壇誌で発表した原稿をかなり多数収録している本。

オウム事件や、なぜ人を殺してはいけないか、サカキバラ事件や宮崎勤の事件に関することが多々。

論壇という場で述べられたことに対して、読者はどう受け取りなにを考えるか。

どうもやっぱり大塚英志原作漫画にもこの主張というのが多々入っているよなぁ。
どこかの評論かなにかでコミックを読んで、バックグラウンドに興味を持って自分で調べてみて欲しいというようなことが書かれていたと思う。
大塚英志のこういった本に手を出すこと自体が罠に見事にはまってしまっているんだろうけど、これはこれで色々考えることができるのでまぁいいか。

この作者のおかげで戦後のことや天皇制に関して、また赤軍なんかにもある程度詳しくなったもんな……

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冬の教室

大塚英志
イラスト:鶴田謙二
徳間デュアル文庫
(2008.6/16再読)

ぼくが君にいつか夏を見せてあげるよ

『冬の教室』本文より

大塚英志の『冬の教室』。
表紙の鶴田謙二が描く佇む女の子がすんばらしいです(笑

冬に閉ざされた街。
人間達の過ちによって氷河期が訪れた街。
17歳を間引く政府の政策から帰還した主人公の少年はそこで一人の少女に再会する。

ちょっと再読。
最初に読んだときは17歳の最後の日だった。
17歳たちが大人たちから間引かれる『東京ミカエル』の関係ある話で、
鶴田謙二が表紙で、
やっぱり17歳から18歳の話というのを聞いて、読むなら17歳の最後の日と思って読んだというのは覚えている。

それからそれなりに時間が経ったいま読み返してみると、随分静かなで残酷なラブストーリーじゃないか。
大塚英志というよりも白倉由美の描く幻想世界みたい。

死が普遍的であまりにも日常的。
恒久的な冬の中をただ他人に関心を寄せず本を読んで過ごす社会。

それは時が止まっているようで、まるで現実じゃないどこかにいるかのような世界観。

その世界観がどうも幻想的でロマンチック。

また、「ここじゃないどこか」に行こうとするも出られない呪いのようなものがなにか現実的に思えてしまった(笑

まるで理想と現実にギャップに悩み、結局現実を考えそこに埋没するかのようなイヤ~な感じだな…

大塚英志や白倉由美の作品が好きな人にはオススメ。
大江公彦も出てますよ(笑

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僕は天使の羽を踏まない

大塚英志
イラスト:コヤマシゲト
徳間書店
(2007.5/25再読)

十四歳の時、伏姫麒麟は一度だけ死のう、と思ったことがあった。白い錠剤を十錠、ポカリスエットで飲み下して仲間と一緒に防波堤のコンクリートの上に横たわった。

『僕は天使の羽を踏まない』本文より

大塚英志の『僕は天使の羽を踏まない』。
角川スニーカー文庫から出ていた『MADARA MILLENIUM 1』に後半部分を書き下ろしたもの。
MILLENIUMの部分も加筆修正されてます。

天使篇も再読しちゃったんで、これも再読。

この本の位置づけ。
もともと『MADARA MILLENIUM』はMADARAシリーズの転生編という位置づけだったように思う。
けど、どうも違う気がするんだよなぁ。
最終的にここからだと『摩陀羅 天使篇』に繋がらないし。
1つの話として完結しているものと思ったほうがいいのかもしれない。

中学生の時に前世に行こうと思った少女がいた。
そのために集団自殺未遂を起こし、その後も前世に興味を持ち続け仲間を探して旅をした。

そんな少女の少女期からの脱却の話と、実際に前世があった少年が過去を求めた話。

 

最終章の「ライナスの毛布」というタイトルがどうにも以前からMADARAの完結篇を待ち続けた人への言葉に思えてならない(笑
そろそろこの物語から脱却しろという言葉なのだろうかとすら思えてしまう(笑

実際に完結篇を待ち望んだ人が求めてるものとは違う終わりを渡されちゃったわけだしなぁ。

MADARAを知らない人向けには少々不親切だし、MADARAを知ってる人にはなんだこれと思えなくもない話でした。

以下MADARAを知っている人向けのネタバレあり


果たしてユダヤはマダラとなりえたのか。
すべての要素は揃ってた。
光と影と赤と青、キリンと8つの犠牲獣。

あれ?
でもアガルタとの戦争をはじめた二人の親は?

アガルタが仕掛けてきたのは世界の統合のようなことのはず。
それを阻止するための戦いであるなら、出てこなければいけない存在がたくさん出てきていない気がする。

切り札のマダラを巡る母と父が戦い。
スペアが自らの望みを叶えるためにマダラに会おうとする、など。

 

他にも「最後の戦い」が行われたとしたら再びあのマダラの意識と出会い、自らがマダラとなった時にユダヤが選んだ選択はどうなんだ?
最後の選択となりえたのだろうか。

あくまでユダヤの魂の行く末の物語だと割り切った方がいいのかもしれない。

といいつつ徳間書店から出ると噂されてる「天使篇」の続編を心待ちにしてたりもする(笑

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試作品神話

大塚英志 × 西島大介
角川書店
(2006.3/14読了)

子供たちは大人になることを拒んで、世界に反抗していく。
そして、最後に残ったものとは

大塚英志と西島大介による絵本です。

試作品神話。
その単語を聞いて、その昔ニュータイプで連載していたものを思い浮かべたのだけど、実際に本となって出てきたのはだいぶ違ったものだった。
……その試作品神話も読みたいんですが。

 

子供たちが世界の真実に気づき、普通を拒否して特別であろうとして、そして気づく。
「ふつう」ってなんなんだろう。

子供だけじゃなく大人でさえ、そんなことを考える。
自分は普通?それとも特別?

大人にも子供にも読んでみて考えて欲しい、そんな本です。

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少女は踊る 暗い腹の中踊る

岡崎隼人
講談社ノベルス
(2006.6/13読了)

第34回メフィスト賞。

青春ノワール。
足を切断された乳児の死体と数ヶ月の間続けて起こった乳児誘拐事件。
そしてシリアルキラーと主人公の過去の凄惨なトラウマ。
&純粋な恋物語。

乱暴でやりすぎで悲惨で凄惨でフィクション的。
リアルだったらそれはそれでイヤ過ぎるが…(綾辻行人の殺人鬼じゃあるまいし
でもなぜか一気に読めてしまう。
かなりエグいがグイグイ読ませてくるなぁ。

一気に読めるけど内容が少々苦手 orz
でも今後どういうものを書いてくるかは楽しみ。

【ネタバレ有】
小説の中に「えみちゃん」が絵として残したさまざまなエグい絵たちがでてくる。
それと同じような子供特有の残酷すぎる妄想とかを実際に実行に移したものを「想像」して「文章化」したらこういうものに仕上がってくるんではないだろうか、とか思った。

【ネタバレ終了】

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99%の誘拐

岡嶋二人
講談社文庫
(2007.9/25読了)

「おとうさん」
言って笑ってくれたお前の顔に、すべてがむくわれた。
マスコミの報道や警察の捜査はその時から本格的に始まったが、お前が戻ってきたことで、私にとっての事件は終わった。

岡嶋二人『99%の誘拐』本文より

岡嶋二人の最後から二番目の作品『99%の誘拐』。
「この文庫がすごい!」2005年度ミステリー・エンターテイメント部門1位を獲った作品でもある。

引用は冒頭の事件から。
そして最初の誘拐事件が終わり、さらなる誘拐事件が起こるところから一気に面白くなっていった。

解説はミステリ作家の西澤保彦。
この作品への愛をいっぱい感じた(笑

 

鋭いんだよな、この本は。
二つ目の誘拐事件こそが岡嶋二人というユニットの腕の見せ所で、本来ミステリとして魅せるべきところが随分違ったところであまりに鮮烈に描かれている気がした。

確かに誰にも予測不可能な事件を描いているとも思える。
だからトリックを暴こうとするともしかしたらアンフェアなのかもしれない。

けれどもどうだろう?
物語の構造の切り口は相当鋭いものじゃないだろうか。

なぜこの物語で一つ目の事件が語られなければならなかったのか。
必死に息子を救い出そうとする父親と囚われの息子と犯人の冷ややかな視線と完璧な犯罪計画。

それが描かれることで19年後の二つ目の誘拐事件の真相があまりに鮮烈なものに思えた。

あまりに完璧すぎる誘拐事件。
しかし残りの1%は…
タイトルもいいよなぁ。
なぜ99%なのか。

冒頭で3億円事件が語られたのもあまりに巧すぎる演出(笑
これがああいうふうに絡むとは。

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7月のフランス 自転車とともに

岡田由佳子
イラスト:岡田柚珠子
枻文庫
(2009.3/23読了)

今日、はじめてフランスに旅立つ2人。ドキドキとワクワクで胸がいっぱいの2人に不思議な出会いが……!?

『7月のフランス 自転車とともに』本文より

ツール・ド・フランスの行われる7月。
著者が五感いっぱいに見たもの聞いたものがラディとノワとい主人公をとおして描かれている。

たくさんの暖かいイラストと写真。
そして凝ったデザインに惚れ惚れした。
なによりツール・ド・フランスというお祭りを楽しむ人々やフランスの各地の文化にうっとりした。

もうね。1ページ1ページをじっくり堪能していくような本って随分ひさしぶりに読んだ気がする。
紀行文が好きで絵に直感的にびびっときたら、そして自転車が好きならなお楽しめると本である思う。

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DZ ディーズィー

小笠原慧
角川文庫
(2007.9/25読了)

だれかに出会って、喜んだり悲しんだり、傷ついたりして、また別れる。それの繰り返しは、とてもくたびれそうだ。それならいっそ、最初から一人がいい。

小笠原慧『DZ ディーズィー』本文より

人類の進化というテーマで描かれたミステリ。
DZの意味は「dizygotic twins=二卵性双生児」。
読み終わってから考えると「あーなるほど、な」というタイトルと表紙。
解説は大森望。

第20回横溝正史賞受賞作。

細胞レベルや生命としての人間から見た世界各国での奇妙な話。
そんな話がいくつも淡々と描かれながら人類の進化というテーマへと変遷していく。

医学的な話などがいっぱい出てくるんだけれども結構すらすら読めてしまう。

あれ?
おかしいな…。

読み終わってラストに「なるほどー」とか思ったんだけどあんまり印象に残らなかった orz

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こちら、郵政省特別配達課!

小川一水
イラスト:こいでたく
ソノラマノベルス
(2008.12/16読了)

「人命がかかってるとなれば、採算もへったくれもない」
「主任、また課長に怒られますよ」

『こちら、郵政省特別配達課!』本文より

『こちら、郵政省特別配達課!』と『追伸こちら、特配課!』の合本版。

郵政省は民間会社のサービスに押され、売り上げは下降を辿っていた。
そんなとき、郵政省は秘策を打って出る。
民間会社がどうやってもできないようなサービスをはじめる。
まさに「どんなものでも運ぶ」特別配達課を創設する。

ものを運ぶ。
ただそれだけの話なのに、なんでこれだけおもしろいんだ(笑
時間厳守。
どんだけ遠く離れてようが、なんとしても受取人の下へ運ぶ。
それがまたアクション満載。
カーチェイスとかいろいろと(笑

それに加え、運ぶものの異様さ。
家まで運ぶとはどういうことだよっ(笑

もちろんそれぞれの運ぶものには、それぞれの物語がある。
そのあたりの人から人へ伝えるという郵便のもっとも大事な部分もしっかり描いている。

読み終わってみたらはちゃめちゃだけど、いい話だった。
そう思える話が詰まってました。

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イン・ザ・プール

奥田英朗
文春文庫
(2006.7/14読了)
\

トンデモ精神科医「伊良部」のシリーズ1作目。

トンデモ精神科医に会ってしまった患者たちがどう自分の病状を克服するかを描いた物語。
プール依存症、陰茎強直症、妄想癖、ケータイ依存症、強迫神経症。
そんな症状を抱えて精神科を訪れたもののそこにいたのは医者とは思えない医者。

注射大好き、マザコンでロリコン、なんでも親から買ってもらえるし、気に入った人にはほいほいなんでも相手に買ってあげる。
必要とあれば親の権力を否応なく使うし、おとな気ないし、飽き性で医者としての不正も簡単に行いそれが日常でもある。

医者である。
ありえない…が昨今の医療関係の不正ニュースを見てる限り全部ではないにしろどこか当てはまるような医者はいるような気がする。

患者が自分の病症を治す過程を見つけて、治していく姿を見つけていく物語でもある反面、医者にこそ読んで欲しいという反面教師型の物語のようにも思える。
この医者のどこかに心当たりがありませんか、と。

 

このシリーズの「空中ブランコ」ドラマ版でその医者伊良部役を阿部寛がやっていたのか…
ある意味この人なら演じられるような(笑
見ておけばよかったかも。

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空中ブランコ

奥田英朗
文藝春秋
オール讀物連載
(2007.12/7読了)

それにしても、どうして自分は言いなりになっているのか。伊良部といい看護婦といい、この診察室は観覧車だ。乗ったら一周する間、そのペースに合わせるしかない。

奥田英朗『空中ブランコ』本文より

『イン・ザ・プール』の伊良部医師が診察に来た患者を引っ掻き回すシリーズ2作目。

子供みたいに無邪気で金持ちで空気の読めない「こいつ本当に大丈夫か?」という医者のところに診察に来てしまった患者さんたちの話がこのシリーズ。

色んな症状を抱えて伊良部のいる精神科へとやってくるんだけれど、そのあまりのバカバカしさから色んなことに気づいていくきっかけをその精神科で見つけていく。
最初の深刻な患者とあまりに楽天的な伊良部医師の挙動のギャップを楽しみ、短編ひとつひとつのラストで自分の症状の原因を見つける時の開放感みたいな感じが味わえるところがやはり好きである。

どの短編からも読める上、どれも軽く読めるところもこのシリーズのいいところ。

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町長選挙

奥田英朗
文春文庫
(2009.3/28読了)

「こういうの、うまくいったって言うんですか?」良平は泣きそうな声を出していた。
「物事、死人が出なきゃ成功なのだ」伊良部がバカボンのパパのように言い放つ。不覚にも言いえて妙だ思ってしまったのは、良平の気が弱っているせいだ。

『町長選挙』本文より

伊良部シリーズ3作目『町長選挙』。
3作目ともなると目新しさもなくなってくるというか、珍妙なやりとりが見たいがために読むというか。

案の定強大な野球チームのオーナーや、ネットで一儲けしたTシャツ社長とか、40代にも関わらず若く見られる女優の話とかが収録されている。

あぁ、この人ね、この事件か(笑、なんていうふうにニヤニヤしながら読んでいた。
でもまぁ伊良部の話なんだよなー。

とまぁそんなことを思いながら読んでいたら突如、いつもと違う!
いやいや、これは新たな伊良部の一面じゃないかとわくわくした一編があった。

「町長選挙」

東京都でありながら島。
島の中は二分されていて町長選挙が行われる。
負けた側に組したものは次の選挙までの間は苦渋を舐めさせられる。
それが何十年と続いている島で板ばさみにあい胃痛が知る役場の青年が主人公。

そんな特殊環境への伊良部の出張ということもさることながら、いい面も悪い面も前面に押し出しまくったスピード感と破天荒感がでまくった楽しい一編でした。

収録話
・「オーナー」
・「アンポンマン」
・「カリスマ稼業」
・「町長選挙」

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サウスバウンド SOUTHBOUND 上

奥田英朗
カバーイラスト:フジモトヒデト
角川文庫
(2007.10/19読了)

「これは闘争じゃないぞ。教訓だ。教訓を与えてやったんだ」
南先生は呆気にとられ、突然現れた大男を見上げていた。

奥田英朗『サウスバウンド 上』本文より

2006年の本屋大賞第2位を受賞した『サウスバウンド』。
2007年に映画が公開。
上巻は「第1部」を収録。

父は元過激派。
だからか、小学6年生の二郎は父親にいろいろ振り回される。
左な発言をしては学校の先生を困らせ、共産主義を理想にかかげた同志という人が家にやってきたり。
家は家でたいへんなんだけど、学校では第2次性徴期を迎えた少年たちがてんやわんや。
他にも中学生から恐喝されたり、やりかえしたり。

なんか読んでて楽しい。
理想を掲げて今も追及するという時代に逆行した行動をしてる父親がすごく個性的。
その個性が物騒を通り越して楽しいにまで至ってる気がする。
二郎たち小学生たちも小学生なりに色々あって、奮闘する姿も実に微笑ましい。

左を信じて突き進む父親と、なんだかわけの分からないまま考えて悩んでぶつかって成長していく二郎を見て一緒に悩んだりしつつも楽しくなれる小説…だと思う。

下巻を読み終わるまではどうなるか分からないけれども(笑

奥田英朗の小説って恐ろしく個性的な人物がよく出てくるけど、どこかリアルな気がするのはなんなんだろう(笑

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サウスバウンド SOUTHBOUND 下

奥田英朗
カバーイラスト:フジモトヒデト
角川文庫
(2007.10/19読了)

見たか! かつて警視庁第四機動隊の放水車を成田の大地に落としたのは、何を隠そうおれ様だ。恐れ入ったか。はっはっは

奥田英朗『サウスバウンド 下』本文より

『サウスバウンド』下巻。第2部。沖縄編。
上の引用からでは感動モノにまったく思えないのだが、ここらへんから感動の嵐。
感動という表現も生ぬるいというかうそ臭いな…
熱い展開であり、考えさせられる展開が続いていくシーンからの引用(笑

左翼の父と、母、妹共に沖縄へ渡った二郎。

上巻は序章に過ぎなかった。
父の個性や主張があまりに突飛に思えてコメディのように感じさせられたのは、この沖縄編のためだったのかもしれない。

父がなぜ政府と戦うのか。
なにを求めて戦ったのか。

国に縛られない「完全な自由」。

普段我々は比較的「自由」な国に生きていると思っていると思う。
そりゃ制約とかはたくさんあるけれども。

でも「本当の自由」って一体なんなのだろう。
誰もが幸せである場所ってどういうところなのか。

そういったことを考えさせられた。

少なくとも、このサウスバウンドの父親は変人なんかではない。
自分の理想を求めてそれを主張して行動できるカッコイイ奴だ(笑

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失はれる物語

乙一
角川文庫
(2006.6/27読了)

乙一の短編集。
再録多し。
そういえば単行本が出たときもざわっ、ってされてたなぁ。
ほんの少しの新作のために単行本を買うべきかどうか、という。

『Calling You』 from 「君にしか聞こえない」
『失はれる物語』 from 「さみしさの周波数」
『傷』 from 「君にしか聞こえない」
『手を握る泥棒の物語』 from 「さみしさの周波数」
『しあわせは子猫の形』 from 「失踪HOLIDAY」

以上が角川スニーカー文庫からの再録

『マリアの指』 書き下ろし
『ボクの賢いパンツくん』 「本」に収録されるのははじめて
『ウソカノ』 文庫書き下ろし

ぶっちゃけこの3編のために買ったと言っても過言ではない(笑

 

マリアの指
序盤からミステリ!?
乙一がっ!!?
と思ったらいつもの乙一だった。
事故死した人の指をめぐる奇妙な話。
うーむ。やっぱり乙一はどこかおかしい(褒め言葉

ボクの賢いパンツくん
ショートショート。
その昔、滝本竜彦の本と一緒に「ネガティブキャンペーン」というのがやっていてそのプレゼントの「トランクス」に綴った物語。
それを書く経緯は「トルコ日記」に書かれていたような気がする。
ボクが穿いていたパンツとのおもしろい会話とすばらしいオチがある話

ウソカノ
彼女がいる、とちょっとした嘘をついてみたら引くに引けなくなった。
けれどなぜか感動作w
やっぱりネガティブに隠し通してたらダメなんだきっと。

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暗いところで待ち合わせ

乙一
幻冬舎文庫
(2007.9/26再読)

だれかに出会って、喜んだり悲しんだり、傷ついたりして、また別れる。それの繰り返しは、とてもくたびれそうだ。それならいっそ、最初から一人がいい。

乙一『暗いところで待ち合わせ』本文より

乙一の『暗いところで待ち合わせ』。
田中麗奈主演で映画化もされている。

何度目だろう。
3度目くらいだろうか、この本を読むのは。
乙一の本で初めて読んだ本がこれだった。
そんでもって一番好きな本でもある。

ミステリーという構成はしているし、その落としどころも見事なんだけど、それ以上に特筆すべきなのは主人公ふたりの寄り添い方だろうと思う。

盲目になってしまった一人暮らしの女性。
事件の容疑者として警察から追われて、その女性宅に逃げ込む男性。
そしてそのふたりの奇妙な同棲生活がはじまる。

女性は眼が見えなくなり、両親にも先立たれ、周りの人との関係をわずらわしいと思っている。
男性も会社での人間関係に悩み、周りとの関係に踏み込めないでいる。

なんというか二人とも孤独じゃないのに、孤独に感じてしまってる。
たった一歩を踏み出せずに自分を卑下してしまっている。

その孤独を感じているということの描写がものすっっっごくいい!

そして物語が進むにつれて次第に孤独を感じるふたりが近づいていく。
けれども本当にゆっくりとしたスピード。
決して劇的に近づいたり、相手に何かを求めたりするわけではない。
言葉もかけない。
ただ歩くようなスピードで相手の心に近づいていく。

そのテンポがすごい好き。

個人的にこの本は傑作に思ってます(笑

【映画『暗いところで待ち合わせ』オフィシャルサイト】
http://www.phantom-film.com/library/site/kuraitokorode/index.html

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さみしさの周波数

イラスト:羽住都
角川スニーカー文庫
(2006.5/28再読)

乙一の短編集。

未来予報
もしも未来を不完全ながらも予知できたら。
けれども未来は当然変わりいくもので、そうはならないかもしれない。
セツナイ系だなぁ。

手を握る泥棒の物語
そういえばこれは映像化されていた気がする。
壁に穴を開けて財布を盗み取ろうとしたらそこは違った人の部屋だった、というだけの話をよくここまで感動できるものにできるよなぁ。

フィルムの中の少女
ホラー?
もしかしたらSFミステリかもしれん。
フィルムの中に写っていないはずの少女が映っており、再び再生するとさっきよりも少し振り向いているような気がする、という話。
まさかあんなところに物語が着地するとは。

失はれた物語
同名短編集の文庫版が来月出るらしい。
ここまでやるか。・゚・(ノД`)・゚・。
右腕しか触感が残っていない男のあったらあったでいやなお話。

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失踪HOLIDAY

乙一
イラスト:羽住都
角川スニーカー文庫
(2007.8/1再読)

でも、この世界でたったひとつだけ、見返りを要求しない人々がいると思うの。

乙一『失踪HOLIDAY』本文より

乙一の短編と中篇の入った『失踪HOLIDAY』。

収録されているのは
・しあわせは子猫のかたち
・失踪HOLIDAY

幽霊ネタが多い。
切なさの乙一。
この『失踪HOLIDAY』が出た頃はそう言われていたと思う。

でも、果たしてそうだろうか。
この頃の作品をすべてひっくるめると「やさしさ」じゃないだろうか。

この中に入っている「しあわせは子猫のかたち」にしても「失踪HOLIDAY」にしても。

「しあわせは子猫のかたち」は幽霊ネタではあるが、幽霊と人間の干渉しあえない者同士の恋愛のような…。
ふたりで同じ場所にいて相手のことを知りたいと思い、一緒にいて安心できる、そんなやさしい感じ。

「失踪HOLIDAY」は自分を誰も心配してくれないというひねくれお嬢さんの狂言誘拐の話。
けれども、実際は誰からも愛されてないなんてことは全然なかった。
彼女は狂言誘拐を通じて自分が愛されてると親たちのやさしさに気づく。

切ないってのはそんな優しさの上になりたっているものなんじゃないかなー、と思った。

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死にぞこないの青

乙一
幻冬舎文庫
(2007.9/26再読)

僕は、この教室における下層階級なのだと思う。
みんなの不満はすべて僕に向けられるから、先生は大丈夫。クラスの批判を受けずに評判のいいままでいられる。
先生に怒られるのはいつも僕だから、みんなは大丈夫。

乙一『死にぞこないの青』本文より

乙一の『死にぞこないの青』。
結構ネガティブな思考が詰まってます。

先生は「僕」に対していつも怒る。
みんなも「僕」を下に思ってる。
だから「僕」さえ我慢すれば誰もが平穏でいられるんだ。

そんな思考を持った子が主人公。
「それはおかしい」と言えない。
だからどんどん鬱屈していってしまう。

この子に一体なにが足りなかったのか。
自分に起こる理不尽さという不幸をすべて一連の出来事のように感じてしまってるんだよなぁ。

そして友人や先生に対して立ち向かうことができないでいる。
もしかしたらただ主人公が誤解しているだけかもしれない、
もしかしたら発言してしまうことで周りとの関係が余計に悪くなるかもしれない。

だから何も出来ないでいる。

耐えてもきっといい方向へは向かないと分かっている。
けれども何も出来ない。
そんなどこにぶつけていいのか分からない鬱憤だったり感情を持ってしまった経験を持った人が読んでみたら、その頃をもう一度客観的に見ることができるかも。

 

乙一って独特の"孤独さ"を描き出せる作家だよな、とあらためて実感した。

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ZOO 1

乙一
集英社文庫
(2006.5/22読了)

ジャンルは何?
多分ホラー。でもSFな気がするけどそんなSF風味は皆無だし…じゃあファンタジー?いや違う。
これが一体なんであるのかよくわからない短編集上巻。

もしかしてこの上巻のテーマっていうのは『日常からの脱出』?

カザリとヨーコ
最初からえらいインパクトのあるのが来やがった。
とてつもなく救いようがないかと思ったらそうでもなく、たった一度のチャンスを逃すことなく手に入れた話といえなくもない…か?

SEVEN ROOMS
今はなきスニーカーミステリ倶楽部のホラーアンソロジーかミステリアンソロジーに入ってたやつかな。
設定からして不可解すぎ。
ただそこにあるのはあまりに非情すぎる現実。
殺される日が分かるならどう行動するか。
「ZOO1」の中では一番好き。

SO-far そ・ふぁー
なんでこんな設定を思いつくんだろ。
もしかしたら子供の本能的な防御反応なのかもしれない、と読後思った。
親が別れてしまったら子供は片親だけを頼りに生きていかなきゃいけないからなぁ

陽だまりの詩
SF…に思えなくもない。
どろどろしてないってすばらしい。
ひねくれてるけど(笑

ZOO
なんでこんなに回りくどいんだろう。
ミステリ風味だけど最初から犯人もなにもかもが分かっている。
そんな犯人視点の話。
なんとも受動的な主人公だなぁ。
主人公はひたすらに日常が変わるのを待っていたわけで…。
ある意味現代的なのだろうか。

ZOOの2巻も最初の話だけ読んだけどやっぱりだいぶおかしな話だ...

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ZOO 2

乙一
集英社文庫
(2006.5/23読了)

よくわかんないジャンルの短編集下巻

血液を探せ
遺産相続をめぐるどろどろを軽快に楽しく描ける乙一は何者かと思った。
ラスト結構好きかも

冷たい森の白い家
背筋ゾクゾク系
大人のための童話っぽい
キレイな小説に思えるのが恐ろしい。

Closet
ラストを読んでから読み返すと恐ろしい構造(文体?)になっていることに気づいた。
こわっ

神の言葉
ドラえもんの「独裁スイッチ」を小説にするとこんなのかもしれない。
自己崩壊しないためにとった行動が日常という非日常を生み出してしまったのか...

落ちる飛行機の中で
そろそろ飛行機が落ちるというのにある生きること死ぬことに執着しない人たちの話なのだろうか...。
自分最優先の人は傍から見て滑稽だけど、自分を貫き通していてカッコイイと思えなくもない
なにはともあれ会話がすごくイイ

むかし夕日の公園で
砂場の中にはなにかいるような気がするよなぁ(笑

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ユージニア Euginia

恩田陸
角川文庫
(2008.10/17読了)

十人の人間が一つの家にいて、九人が殺されたら、犯人は誰?
推理小説じゃないわ、簡単よ、当然犯人は残りの一人でしょ。
そういうことよ。
緋紗ちゃんが?
さあ、どうなのかしらね。肯定も否定もしないわ。

『ユージニア』本文より

第59回日本推理作家境界賞長編および連絡短編集部門賞を受賞した『ユージニア』。
文庫版の解説は恩田陸と祖父江慎、cozfishと松本コウシ。
この本に関わった作者とデザイナーとフォントデザイナーと写真家。

引用した文をのっけから読まされるわけだが。
実に奇妙で気持ち悪い本だった。

毒殺事件が起こり、そのほとんどが死亡。
事件後、この事件は本になり、やがて人から忘れ去られる。
数十年を経たとき、事件の真相が徐々に明かされていく。

様々な登場人物から事件が語られる。
しかしずっと昔の話。
そして当事者たちはもちろん死亡した人たちばかり。
だから語るのはさらに外側の人間たち。

だからまるでメロディラインが存在しない曲のように気持ち悪い。
本筋がないけれども、あとで読み終わってみるとパズルのピースがぴたりとあってくる。
そんな気持ち悪さ。
なんだよ、この構成…

確かに面白いんだけど。
しかしこの気持ち悪さがたまらなくいいのも事実です(笑
もう表紙からして気持ち悪いもんなぁ。
いわゆる写真ではこうは撮れないし、長時間露出して撮った写真なんだろうけれども、夜の気味悪さが出すぎです。
まさにこの小説にぴったりでした。

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