感想のページ 作者「き」

硝子のハンマー
The Glass Hammer

貴志祐介
角川文庫
(2008.10/27読了)

「だとしたら、いったい、どうやったんだ……?」
径は、掠れた声でつぶやいた。

『硝子のハンマー』本文より

貴志祐介の本格ミステリ『硝子のハンマー』。
文庫版巻末には法月綸太郎によるインタビューを掲載。

介護サービス会社で社長が撲殺された。
エレベーターには暗証番号、部屋の前の監視カメラ。
部屋の窓は強固なガラスで外からの進入は不可能。

完全な密室の中での殺人事件だった。

全自動の介護用ロボットという要素を配しながら、完全な密室を破るミステリだった。

密室を破るのはもちろんのこと、一風変わった謎解き部分が特に面白かった。
思えばなんでこの本のような謎解き方法がなかったんだろう(笑
えぇ、かなり特殊です。
その斬新さが非常に面白い。

あとこの本の中で「セキュリティ」について細やかな描写がなされているのだけれども、それもまた随分と興味深いことが書かれていた。
思わず唸った。
セキュリティと泥棒のようなイタチごっこの心理戦とはこのことかと。
なるほどなぁ。

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黒い家

貴志祐介
角川ホラー文庫
(2008.7/24読了)

「ああ。ちょっと」
幸子が呼び止める。何事かという緊張した顔で、葛西が振り返った。
「こどうしょうがい……たらいうのんを貰うわな? それでな。この人が死んだら、もっぺん保険金もらえるんか?」

『黒い家』本文より

過去2度映画化された『黒い家』。
第4回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。
文庫版の解説は北上次郎。

しょっぱなからショッキングなシーンからはじまる『黒い家』。
保険の顧客の家にいくとその家の子供が首吊り自殺をしているのを発見してしまう。
そしてその発見現場で自分の子供よりも主人公の様子を伺っているような家の住人。

これだけで不気味さ満点である。

さらに保険金詐欺の話を絡ませながら、人間の悪意や悪について読者は奥深くへと足を踏み入れていくことになる。

人間が怖いと感じるのは不可思議な現象よりも、理解できる人間の行動なのかもしれない。
特にこの小説では狂人には狂人の論理があるというか、どう行動してくるかが予想できるからこその異常性のようなものがひどく怖いように思えた。

もともと日本の映画版が好きだったので読んでみたのだけれども、心理描写が増した分だけ怖さってのは増したな…
映画版もそうとうに怖いものだったのだけれども。

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試みの地平線 伝説復活編

北方謙三
講談社文庫
(2006.1/24読了)

なあ、小僧ども。俺は、この本をこの時代の出発のために、ほんのちょっとでも役に立てばと思って、こうして出版する。俺は小説家なのだ。 カウンセラーではない。それでも、小説以外の本をこうして出版する。

『試みの地平線 伝説復活編』本文より

ホットドッグプレスに16年間365回掲載された人生相談から名問答を抜粋。

ハードボイルドな作家北方謙三による人生相談。

この人生相談を知ったのは講談社のファウストという雑誌だった。
Vol.1で「佐藤友哉の人生・相談」で人生相談といえば「北方謙三の『ソープへ行け』」だ、と引き合いにだし、Vol.2では滝本竜彦が「実際にソープに行けばすべて解決されるのかどうか』を実証した。
それで興味を持った。
どんな人生相談やねんっ。
が、わざわざその本を探そうとは思わなかった。
本になっていることすら知らなかったのだ。
しかし数週間前、某ユヤタンスレにてオリジナルの人生相談が講談社文庫で出るぞという書き込みがあったので気にはなっていた。
実際に滝本竜彦が例で出した
Q.「引きこもりで困ってます」→Ans.「ソープ」
Q.「彼女ができなくて」→Ans.「ソープ」
Q.「夢がみつかり」→Ans.「ソープ」
Q.「偏差値が」→Ans.「ソープ」
などという北方氏の人生相談を知らない人間からすると、わけがわからない人生相談である、と思ってしまう。
さて、この人生相談が果たしてソープばっかりだったかというとそうではなかった(ちょっと残念
ただ、ひたすらに雄雄しい回答だった。

性の問題からコンプレックスや夢や仕事、子供のこと、ケンカの売り方まで内容は様々。
人生に悩んだら読んでみるのもいいのではないでしょうか。

帯が「ソープへ行け!」
本編第1章タイトルが「ソープへ行け!」だもんなぁ。
実際に収録されてないものにはもっと多くの「ソープ(ry」が含まれていたんだろうな。
読む前はなんじゃそりゃ、読んだあとには一理あるかもと思える。
読んだら北方謙三という作家の印象が変化した。

この作家はもはやすべての読者の兄貴分である。

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『クロック城』殺人事件
CLOCK END

北山猛邦
講談社ノベルス
(2007.10/13再読)

『クロック城』には曜日も月もないが、困ることはない。時間とは何だ。滅びる世界にもう時間など必要ないだろう

『『クロック城』殺人事件』本文より

文庫化するということで4~5年ぶりに再読。
北山猛邦のデビュー作であり、メフィスト賞受賞作『『クロック城』殺人事件』。
城シリーズの1作目。

世界が滅びる寸前の世界。
世界は終局を迎えるかのように幽霊たちも現れるようになる。

そんな世界観の中で亡霊のような存在をなんとかしてくれという依頼を受けて探偵は『クロック城』へと向かう。

後に物理の北山と言われるようになるがあらすじからはもはやファンタジー色しか見出せないな(笑

いやいや。
それでもやっぱりしっかり物理してます。

トリックもそうなんだけれども、この本の中で流れている空気のようなものが好き。
世界が終わるときはすぐそこ。
だからか誰もが何かを諦めているようで死ぬことは当たり前のように捉えてるみたいに思える。
そんな退廃的な感じがずっと本の中で貫かれてる。
まるで暗雲が立ち込めているような冷たい感じがこの『城』の中に閉じ込められてるような感じがするところが好きだ。

こう…一種の独特な雰囲気を持つ「館」モノなんだよなー。
雰囲気がたまらないです(笑

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『瑠璃城』殺人事件
CROSS END

北山猛邦
講談社ノベルス
(2008.4/26再読)

「僕たちは生まれ変わり続ける。そして殺し合い続ける!」

『『瑠璃城』殺人事件』本文より

北山猛邦の『城』シリーズ2冊目。
前回は世紀末寸前の世界。
今回は死ぬと生まれ変わり互いに殺し続ける世界。

ある時は密室の図書館で殺された女性の事件。
またある時は城から6人が消失、後にありえない場所で発見されたり。

いくつもの時間を舞台にし輪廻転生というファンタジーを用いながらも、それらが一つの大きな事件へと収束してしまうのには再度読んでみても驚かされた。

あとはなんと言っても感情論抜きにして物理的なトリックという今はあんまり見かけない手法にもこだわっているところや、どことなく終末的な雰囲気漂う登場人物たち同士の会話っていうのがよかった。

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『アリス・ミラー城』殺人事件
CHESS END

北山猛邦
講談社ノベルス
(2009.1/1再読)

「お別れの言葉を、云っておこうかしら。わたしたち、いつ殺されるかわからないじゃない。次の瞬間にはもう会えないかもしれない。だから、別れの挨拶をしておきたい気分なの。あなただけにね」
「どうして僕に?」
「何故かしら。あなたなら、別れの言葉を自然に受けとめてくれそうだから、かな」
「そうですか」
「じゃあね。
さようなら」

『『アリス・ミラー城』殺人事件』本文より

北山猛邦の『『アリス・ミラー城』殺人事件』。
城シリーズ3作目。
北山猛邦の作品の中で一番好きな話。

ルイス・キャロルにちなんだ城「アリス・ミラー城」。
城にあるとされるアリスが鏡を通って「アリス・ミラー」を探すために集う探偵たち。
しかし、彼らはひとり、またひとりと殺されていく。
まるで「そして誰もいなくなった」のように。

北山猛邦といえばかなり儚い世界という印象がある。
いまにも壊れそうな世界観が描かれるのだが、このアリス・ミラー城ほどのものはないだろうと思う(笑
まるですべて終わってしまうようなことが最初から予想されるような展開で進んでいく。
さぁ破滅に皆で向かいましょうといわんばかりに。

この世界観ががまたいつも以上にたまらないのだが、ミステリとしても非常に繊細で大胆。
惜しみなく出される数々のトリック。
ただトリックを出すだけじゃなく、必然の上でのトリック。

また解決編を経てもなお最後のページまで気を抜けない展開が続くのも非常にスリリングである。

もうね…
これこそが「ミステリ」の真髄だ、といわんばかりである。
また物理の北山と云われる所以がこの作品にあると思う。

傑作です。
そして大好きです。

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アルファベット荘事件
A Love Story

北山猛邦
イラスト:古張乃莉
白泉社My文庫
(2009.3/19再読)

「大体おわかりでしょう。私たちは揃いも揃って、犯罪に関連した人間。皮肉なことに、それ自体が犯罪的で、未来の惨劇を想像させる。いずれにしても、わつぃたちは死のパーティーに招かれてしまったというわけね」

『アルファベット荘事件』本文より

物理の北山がなぜに副題で「A Love Story」なんだよ、と思わずツッコミを入れたくなるようなタイトルの「アルファベット荘事件」を随分久しぶりに再読。

創世の箱と呼ばれるこれまで幾人の持ち主を「殺して」きたとされる美術品。
またその箱の中に死体を「出現」させてきたことでも有名になったとも言われている。

その箱を巡り、吹雪の山荘の中で犯罪に関わるものたちが集うわけだが…

今にしても思えばライトノベルなのに、それっぽくない異色作品が多かった白泉社My文庫の1つが北山猛邦のこの作品。
こてこての本格ミステリでありながら、副題の「A Love Story」に絡めて行くのかと思いきや予想外の絡み方。

作中で探偵や犯罪心理学者、賞金稼ぎといった実に怪しげな面々を集めながらも主人公は舞台女優の卵というあまりこの舞台に似つかわしくない人物。
あとで思うとこの配役すらも見事に仕組まれてるよな…
あらぬ方向へ物事を見させられているというか(笑

物理の北山的なトリックがメインの事件の真相よりもラブストーリーへの展開の方法に驚かされた作品でした。

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悪夢のエレベーター

木下半太
幻冬舎文庫
(2008.6/16読了)

人生最悪の夜だ。小川は、自分を嘆いた。浮気相手のマンションのエレベーターに、自殺願望の女と超能力者と空き巣と閉じ込められるなんて。しかも、そのうちの二人は凶器を持っている。
まさしく天罰だ。

『悪夢のエレベーター』本文より

2008年9月にダンカン演出で舞台化もされる『悪夢のエレベーター』。
文庫版解説は永江朗。

変人たちとともにエレベーターに閉じ込められる。
しかも彼らは変人を通り越して、犯罪者ばっかり。
助けは来ない。
奥さんは臨月で子供が生まれそう。
パニくるとたぶん周りの奴らに刺されてしまう。

そんなどんどん追い詰められる話。

そしてなんとっ。

えぇ見事に予想が裏切られましたよ。
たぶんこうなるんじゃないかなーというとおりに進むんだけれども、途中からあまりに予想外の展開へ進んでいく。
急転直下というかなんというか。

たった4人のエレベーター内の話なのになんでこんなに面白いんだろう。
作者が劇作家ということもあり、おそらく舞台も意識しながら書かれている。
確かにこれは舞台にしたらものすごく面白そうだ。

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自転車で旅しよう!

絹代
枻文庫
(2009.1/19読了)

自転車と一緒に旅をするのは楽しいものです。
自由に走る爽快感や開放感を味わい、
旅先で出会った方々と交流するチャンスも少なくありません。

『自転車で旅しよう!』本文より

絹代さんの『自転車と旅しよう!』を読んだ。
自転車生活で掲載文の再編集かなーとか思ってたら、ひとつひとつの旅に関してかなり加筆されていた。
それどころか自転車旅行の日記+絹代さんの写真集を読んでいるような感じかな(笑
それがすごくイイ!

北は北海道、南は宮古島まで。
随分いろんなところへ行ってたんだなーと思いながら読んでた。
いや…かなりハードなところばっかり行ってないだろうか。

この本に掲載された中で自転車で行ったことあるのは宮古島しか行ったことないけど…
ちょうどツールド宮古島の第1回の2週間ほど前に宮古島に輪行で行ってたんだけれども、太陽がものすごく近くて暑い。
景色はとてつもなく綺麗なんだけど。
綺麗どころじゃなく神秘的で自然の強さってのを感じる場所なんだけど。
坂道ばっかりだし、風はものすごく強いし、太陽で人間がひからびることってあるかもしれないなと本気で考えさせられたし(笑

それをレースで完走って…
すごいよなぁ。

かなり魅力的な場所が綺麗な写真付で読めるので行きたいところが多々。
ってかこんなふうに紹介されたら行ってみたくなって当然じゃないか(笑
白神山地やしまなみ街道は是非とも行ってみたい。
しまなみは確実に行きますw

これで2冊続けて枻文庫の自転車旅ものを読んだんだけど、やっぱ旅っていいもんです。

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陰摩羅鬼の瑕

京極夏彦
講談社ノベルス
(2008.8/6読了)

伯爵は私を視た。
そして問う。
「貴方にとって生きて居ることと云うのはどのような意味を持つのです――」

『陰摩羅鬼の瑕』本文より

買ってから随分長いこと放置していた京極堂のシリーズ7作目『陰摩羅鬼の瑕』を読了。
『邪魅の雫』を読んだ時にそういえば前作を読んでないよーなと思ったのだが、やっぱり読んでいなかった模様(笑
それからさらに積読で熟成させてたみたいです。

「鳥の城」と呼ばれる伯爵の館で起きた4つの事件。
花嫁が初夜のあと何者かに殺された事件が4回連続して起きていた。
犯人いまだ捕まらず。
そして5度目の婚礼が行われるという日に、関口と榎木津が館を訪れる。

な…長かった。
ラスト200ページはものすごく面白かったけど(笑

前半はひたすらに「死」という概念について語られ、関口くんの欝が進行する。
「生きているということと死んでいるということ」そのどちらにも属せないことに気づく苦悩。
これまで以上の悩みっぷりじゃないか関口君(笑

それらも含めて長々と語られることがほぼすべてラストへの伏線とは…
それどころか常に一貫して複雑かつ単純である真相を語るにかかせないことばかりじゃないか。

読み終わって最初の方をさらっと読むだけでも納得。
最初からすでに京極夏彦の術中にはめられたというわけか… orz

登場人物の誰にとっても決してすっきりしない結末。
嫌いじゃないですが、読後に凹むな orz

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邪魅の雫

京極夏彦
講談社ノベルス
(2006.11/8読了)

殺人。
悪事である。犯罪である。許されぬ行為である。
ひとごろしは、報いを受けねばならぬのだろう。
-何故だろう。

『邪魅の雫』本文より

3年ぶりの京極堂シリーズ本編。

江戸川から大磯まで連続して起こる毒殺事件。

懐かしい面々と久々に再会したかのような気分。
この本の厚さ!
京極夏彦を読んでるなぁという感覚!
懐かしくて先が楽しみで終わるのが残念な不思議なそんな感覚。

内容自体は「殺す」というものについて深く深く掘り下げてるよなぁ。
何故殺すのか。
殺すとは一体どういうことなのか。

そんなことを考えつつ、それよりもやっぱり榎木津と愉快な仲間たちのやりとりを楽しんでいた気がする(笑

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後巷説百物語

京極夏彦
Cノベルス
(2006.9/5読了)

巷説百物語3作目。

第130回直木賞受賞作品。

長い。
800ページ…。
持つのも疲れる(笑
まぁそれは毎度のことのような気も致しますが。
長いので少しずつ読んでいこうかと。

赤えいの魚
百介がご老人になってる!?
その百助が若いものに向けて語るという形なんだろうか。
なんだかそれはそれで、物語を聞いているような感覚に陥る。

常識が常識として認識されない島にやってきた百助が見た狂気の世界という奴でしょうか。
総てが自分の思い通りになってしまうというのはあまりに窮屈なんだろうな…。
今回の又市が描いた仕掛けがえらく怖いんですが。

天火
ぎゃー。
なんて最終回っぽい話。
帷子辻の直後のお話。

大塩平八郎の乱の頃の飢餓にあえいでいた時代、ある村での村人と権力者の話でもある。
……シリーズとして読んでいる人へのサプライズのような気もした。

手負い蛇
70年生きた蛇にまつわる話。
70年前に封印された匣の中から蛇が出てきて噛みつき人を殺した。
そしてその昔この匣に百介と又市も関わっていた。

物語の初っ端から不気味な展開。
はたしてこれは祟りなのか、というものが成り立つこの世界観はやっぱり好きだ

山男
--残るは巷の怪しい噂。
まさにこの言葉のための話。
又市の仕掛けとはまさにこうするためにこそある。
真実はひっそりと噂の中へと隠れるかのような。

五位の光

又市さんとの最後の話!?
じゃああとに残った話は!?
時代の境目のような話だろうか。
江戸と明治とを分け隔て…
話としては確かにおもしろい。
おもしろいけれどもそれよりもこのあとの最後に残っている話が気になって仕方がない。

風の神
ラスト。
あぁ
終わるんだな…
あのブ厚い本を読み始めてから4日。
最後の方はなんか終わらないでこのまま此処にいたい、読んでいたいという気持ちで読んでいた。

そんな最後の話「風の神」は巷説百物語の一番最後を飾るに相応しい話でした。

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百器徒然袋 雨

京極夏彦
講談社文庫
(2005.9/20読了)

京極夏彦の妖怪シリーズの番外編的位置付けの作品。
探偵「榎木津礼二郎」を主人公にすえた百器徒然袋第一弾。

他人の記憶が「見えてしまう」探偵。
自分は神であり、自分を中心に世界が回っているように本気で思っている。
その上、金持ちの息子。
普通に考えたらとんでもなく厭な人物に思えてならないはずなのだが、なぜかこの榎木津という探偵の存在は許せてしまう。
人を「バカオロカ」と平気で呼ぼうが、人の名前を一向に覚えようとしなかったり、服を選ぶのに2時間かかったり……
『周りの人にあわせたりせずに自分のスタイルを貫く』そんな姿勢に憧れすら抱けてしまう。
それになによりもこの榎木津が悪い奴ではないということに好感が持てる。
「アイツはちょっと変な奴だけどイイ奴だ」
そんな人物。

この榎木津や京極堂シリーズの本来の主人公である中尊寺明彦らが活躍する『姑獲鳥の夏』が映画化されたが、外伝的なこの本まで映像化されたらおもしろいだろうなぁ。

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百器徒然袋 風

京極夏彦
講談社ノベルス
(2006.4/2読了)

収録話
・五徳猫
・雲外鏡
・面霊気

探偵・榎木津礼二郎の下僕の本島が主人公の中編集

感想

榎木津礼二郎と愉快な下僕たちの話たちです。

本島が哀れすぎます。
榎木津がアホカッコイイです。
面霊気のラストの封筒のシーンが好きです。

……京極夏彦全般に言えるブ厚いというのもそろそろ慣れてきた。
それよりこの「風」をブ厚いと感じなかった時点でもうどうかしてると思う。

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覘き小平次

京極夏彦
Cノベルス
(2006.4/2読了)

シリーズものなのか単発ものなのかどっちなんだろう。
一応又一でてます。

主役は小平次。
役者で幽霊の役をやらせたら右に出るものはいない。
しかし、生活面で言えば人間とは思えぬものであった。
襖の奥に潜み、襖の隙間からじっと外を眺める。
ただそれだけの人間であった。

 

怖い。
小平次は確かに生きている人間には違いないのだが存在が怖ろしい。
幽霊とはこのようなものといっても差し支えないんじゃなかろうか。
存在は在る。
しかし、人と接さず、潜み、眺めるだけ。
彼は一体"なにをしている"のだろうか。
さっぱり分からない。
生きている者のはずなのにそれがまったく読み取れない。
小平次視点で語られている話も出ている。
それを読む限りでは小平次は決して幽霊ではなく少し変わった人間であるのだけれど…。

なぜそこに居るのかまったく分からず、容貌や雰囲気からこの世のものならざるもののように思われる小平次。
幽霊もそうである。
居るだけで怖ろしい。
人間の思考で分からないものだからこそ怖ろしいんだと思う。

やっぱり京極夏彦は夏に読むのに適してるよなぁ。
ゾッとできる。
怪談話としても楽しめるし、又一が何を仕掛けようとしているのかも楽しめたかな。

そろそろ『邪魅の雫』が出るようですねぇ。

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冒険小説 今昔続百鬼 雲【多々良先生行状記】

京極夏彦
本文イラスト:ふくやまけいこ
講談社ノベルス
メフィスト連載
(2007.6/22読了)

馬鹿は、互いが馬鹿であることを見抜くと急激に接近する。俺達はあっと云う間に意気投合した。会う度、挨拶代わりに互いの業の深さを哀れみ、病の重さを嘲り合って―それから伝説やらお化けやらの話に明け暮れた。

『今昔続百鬼 雲』本文より

京極夏彦の『今昔続百鬼』。

収録作品:
・岸涯小僧
・泥田坊
・手の目
・古庫裏婆

今回の主役は妖怪研究家の多々良先生。

いろんなトコを巡っては事件に遭い、これは妖怪のせいだーーとはしゃぎ回る話(笑

妖怪マニアってこれだ!
確かにこれまでも京極堂シリーズや巷説百物語でもたくさんの妖怪を扱ってきていた。
けれども、これは異色。

なんせ妖怪が好きすぎてたまらない研究家が主役である。
ふりまわされる主人公の沼上から見たら滑稽なことこの上ない行動の数々。

けれども、ここまで来ると愛着が沸くのも不思議な話(笑

妖怪大好きーという内容なので、実は妖怪についてかなり深くまでこの本の中で語っているんじゃないだろうか。

それでも"冒険小説"というよりはしっかりと探偵小説をやっていたりするのも不思議だ。

また、滑稽な多々良先生の奇行はふくやまけいこのイラストによってさらにおもしろくなってます。

4話目で京極堂がゲストで出てます。
京極堂出ないんだったら読まねーよ、という人にも読む価値ある…かも。

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九月は謎×謎修学旅行で暗号解読
私立霧舎学園ミステリ白書

霧舎巧
表紙イラスト:西村博之
講談社ノベルス
(2005.9/10読了)

私立霧舎学園ミステリ白書9月編。
理事長の差し金により修学旅行先で秘宝を探すことになった琴葉と棚彦。
秘宝へ至る手がかりは6枚の京都に似通った地図とプリクラだった。

事件の手がかりとなる「6枚の地図」と「プリクラ」付き。

今までの霧舎学園のことを考えて本の装丁からすでに疑って読んでましたが
やはり霧舎巧は霧舎巧だった(褒め言葉

暗号尽くしの9月編。
中でも頭木保の作成したあのレポート。
大学の1回生の時に同系統のレポートを作って提出したことがあっただけに何故か親近感を覚えてしまった。
もしや作者の霧舎巧も……。
あと読んでて思ったのは霧舎巧って新本格大好きなんだよなぁ、ってことかな。
京都に行くことは多いもののそういうところ巡りってしたことがなかったので。
緑影荘とか清涼寺とかには行かなアカンよなぁ。
……後期の文化財課題これで行こうか!?
まぁそれは置いといて
地図に「キミサワ本社」が書き込まれていたことにはびっくり。
だとすると霧舎巧は金田一少年の事件簿はれっきとした新本格と認めているわけか。
ふーむ

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十月は二人三脚の消去法推理
私立霧舎学園ミステリ白書

霧舎巧
表紙イラスト:西村博之
講談社ノベルス
(2007.6/12読了)

これがきっと《今月の事件》の始まりなのだろう、と二人は薄々気づいていた。

霧舎巧『十月は二人三脚の消去法推理』裏表紙より引用

久々の霧舎巧の「霧舎学園ミステリ白書」の最新刊。
ついに十月。
残りも半分。

今回の付属アイテムは琴葉の名刺。

ついに発売。
ということでまず買ってみたのは装丁を隅々まで、それから中に入っているアイテム。
霧舎学園だけにどこにどんな仕掛けがあってもおかしくない(笑

十月はちっちゃな放火事件からはじまり、運動会での事件が語られてます。
内容は消去法推理。
消去法…確かに消去法だったけど、そういう消去法かいっ。

やはりまっすぐにストレートなものじゃなかった。
まぁ、タイトルに消去法とあるだけにそのままストレートにされてもなんだかなぁ、って思うんだろうけど。

なんだかんだ言っても最初の四月から半年。
みんなのチームワークも脇野先生との仲ですらも進展していってるよなぁ。

それ以上に驚いたのはやっぱり彼女の帰還だけど。
いつかそうなるとは作者が言っていたけれどもこの10月でだったか。

今回は以前からの謎、「霧舎学園ミステリ白書」は一体誰が発行しているのかという謎に対して一歩前進。

実はこの10月って大きなターニングポイントがいくつもあったんじゃないかと思った。
琴葉と棚彦のコンビや自称名探偵に先生たちに琴葉ママとレギェラー陣も大きな「霧舎学園ミステリ白書」の中に取り込まれていっているいま、今後がどうなっていくのかが余計に楽しみになった回だった。

11月は「見立て殺人」とのこと。

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新本格もどき

霧舎巧
光文社カッパノベルス
(2007.9/1読了)

記憶喪失の吉田さんはミステリマニアの店主が作るカレーを食べるたびに、新本格ファンなら思わずニヤリのあの探偵、この探偵、になりきってしまう。が、その推理は…

霧舎巧『新本格もどき』裏表紙より引用

霧舎巧の『新本格もどき』。
なにやってんっすか霧舎巧(褒め言葉

新聞の広告で見てぶったまげ思わず買いに走り、帯を見て大笑いし、目次をみて爆笑した(笑

目次:
『三、四、五角館の殺人』
『ニ、三の悲劇』
『人形は密室で推理する』
『長い、白い家の殺人』
『雨降り山荘の殺人』
『13人目の看護師』
『双頭の小悪魔』

感想:
三、四、五角館の殺人
しょっぱなから綾辻行人。
メタミステリなのだが、まぁなぜか登場人物のミステリ作家が霧舎巧と同じメフィスト賞作家の乾くるみっぽい女流作家や「僕の冗談はわかりにくい」という台詞がある氷川透っぽい作家や女子高生二人組みと行動をともにする会社員と兼業の石崎幸ニっぽい作家がでてきたヽ(゚∀゚)ノ
話も似非の館シリーズっぽかったしGJ霧舎巧(笑

ニ、三の悲劇
法月綸太郎の「二の悲劇」がもどかれた元ネタ。
叙述と最初から言ってたから油断して見てたらオチでやられた orz
そうくるか。
見事に騙された感があってよかった。

せっかく法月綸太郎シリーズだったんだから、もうちょっと主人公に悩んで欲しかったかも(笑

人形は密室で推理する
我孫子武丸の人形シリーズをもどいたもの(もどいたものって日本語的にどうかと思うがw。
ヒロインがおむつじゃなく、本名に基づいて紙おむつと呼ばれるのが orz
かわいそうに。
ネタを知らなきゃただのいじめだ(笑

しかしトリックは……これはどうなん!?

長い、白い家の殺人
歌野晶午の『動く家の殺人』にちなんだものだろうなーとタイトルやら最初の方を読んでた時は思ったんだが…。
歌野晶午は葉桜とか最近のしか読んでないから元ネタがわからない orz

ここで今までと違った展開が待っていたのでもしかして短編集じゃなく、ラストにオチがしっかりとある連作短編なんじゃあと期待。

雨降り山荘の殺人
倉知淳の『星降り山荘の殺人』をもどいたもの。
倉知淳なのに猫丸先輩じゃないの?と思ったりもしたけど、これはこれで。

今のところ一番楽しめた作品かも。
なにしろ全然先が読めなかった。
一体何処から事件がはじまるのか、それとも事件はすでにはじまっているのか。
ラストまで読むと納得。

13人目の看護師
山口雅也の『13人目の探偵士』がもどきネタ。
??と思いながら読み進めて途中であぁこういうことね、と納得してラストで霧舎巧は分かってるよちくしょうと思った(褒め言葉

やっぱ山口雅也をもどくと言ったらこうだよな(笑

双頭の小悪魔
有栖川有栖の『双頭の悪魔』がもどきネタ。
短編なのに大仰。
いや…ものすんごいスケールがでかい。

あとがきでもあったけどこれは長編で読んで見たい。

 

もどきネタは大変おもしろかったです。
ネタを知ってても知らなくても楽しめたし。
でもさ…
結局最後のあとがきで書いてある謎がとけん orz
ダジャレ?
霧舎作品の…

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名探偵はもういない

霧舎巧
講談社ノベルス
(2007.6/5読了)

昭和五十三年三月―― 少年の夢は犯罪者になることだった。

霧舎巧『新本格もどき』裏表紙より引用

霧舎巧の『名探偵はもういない』。
「あかずの扉研究会」シリーズと若干の関連あり。

やっぱり単行本で読むより、新書の方が読みやすい(笑
単に好き嫌いの問題かもしれないけど。

犯罪学者木岬研吾と彼の義理の弟がドライブで旅行に出かけると雪崩の影響で近くのペンションに泊まることに。
ペンションに集まる不思議な人たち。
そこで起こる怪死事件。

読者への挑戦状つき。

 

雪山の山荘。
空間的な密室状況。
そしてありえないめぐり合わせ。
天候で行き来できない事件現場には探偵から警察、鑑識係。
なぜか彼らがそろっていて、起きる事件は明らかな怪死事件。

これぞミステリといわんばかりのストレートなミステリ。
しかも作者からの挑戦状つきときた(笑

ひとつひとつ謎が解かれていくのはゾクゾクくるなぁ。
無駄がない伏線というのも。
あまりにストレートでシャープすぎるミステリに「あかずの扉研究会」や「霧舎学園」で見せた作者が描く青春性(?)と混ぜ合わさった作風はやっぱり独特。

逆にガッチガチなのが好きな人にはげんなりする可能性あるけど(苦笑

『名探偵はもういない』というタイトルはかなり好き。
読了後に見ると余計に。

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OUT アウト 上下巻

桐野夏生
講談社文庫
(2007.10/2読了)

「物?人間じゃない? 何言ってるんだよ」
「もとは人間だったけど、今は物なんだよ。あたしはそう考えることに決めたの」
「それは違う」ヨシエは珍しく憤った。声を震わせている。「じゃ、あたしが面倒みてるあの婆さんは何」
「生きてる人間でしょうが」
「違うよ。このダンナさんが物なら、うちの婆さんも物だよ」

桐野夏生『OUT 上』本文より

第51回日本推理作家協会賞を受賞した桐野夏生の「OUT」。

夫を殺し、バラバラにして遺棄するところからはじまるといっても過言ではないクライムノベル。
殺人に至るまで主婦たちのまるで明るい未来というものとは縁がないような話が繰り広げられる。
そして、なにかが崩れるようにどんどん堕ちていく。
2002年に映画化もされた…と思う(確か

読んでて気持ちが悪くなる。
それでもページを捲らされる(笑

殺人をしたことへの背徳感。
そして警察や世間の目から来るプレッシャー。
殺人者という自覚から逃れられなくなる過程。

それに加えて夫をバラバラにした仲間たちとの関係が崩れていく様や他の登場人物がさらに下へと堕としていく。

「グロテスク」を読んだ時にも思ったけれども、なにかどの会話も生々しいんだよな…
毀れた家庭の話。
金の話。
息子娘の養育費。
親の介護。
夫との乾いた関係。

そんな生々しい要素がOUTの世界をまるで密室のようにぎゅっと濃縮させてるような気がする。
それに加えて殺人という要素が主人公たちをどんどん追い詰めていく。

実に暗澹たる気持ちにさせてくれる桐野夏生のOUTだけれども、たまに触れたくなるのもまた事実なんだよなー…。

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グロテスク 上

桐野夏生
講文春文庫
(2006.10/3読了)

私は少し変わっているのかもしれません

桐野夏生『グロテスク 上』本文より

第31回泉鏡花文学賞受賞作。

「グロテスクなものが読みたいー」と母に言ってみたら「はい」と渡された。
桐野夏生か…
その時点でなんとなく人間関係とかグロっぽいんだろうなぁ、と思ったら精神的にグロかった。

一つの殺人事件を軸にして、ハーフの離れ離れに暮らしていた3人の半生を語っている。
上巻では主にふたりの人物を。
姉は周りに対して心を開かず人を見下しながら生き、妹は自らの性を持ってアイデンティティを得ようする。
そうして40年生きてきている。

読んでてどよーん、としてくる。
こっちまでそのネガティブ具合につられそうな感じすらする。
一人称でひたすら語られている感じだからなぁ。
上巻ではがっちがちに階級社会が形成されている女子高の中が舞台だけに余計に…

 

さて、下巻に突入しますか。

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グロテスク 下

桐野夏生
講文春文庫
(2006.10/4読了)

変わったのはお互い様でしょう

桐野夏生『グロテスク 下』本文より

グロテスク下巻。

悪意に満ちた物語だった。
それとも手記だと取るべきなのか。
主に4人の女性の物語。
まるで身を堕としていく様を眺めているかのような…。

憐れみ、蔑み、罵り、呪うかのように名前もない"わたし"が冷たい目で彼女たちの手記を見つめる。
その閉塞感があまりにネガティブで、他人を自分より低く低く考えることで生きることしかできない"わたし"にこそ憐れみを感じる。

あらゆる登場人物がゆがんで見えてしまうこと自体が、もしかしたら"わたし"のような考えを持っているからかもしれないけど。

だとしたらこれ以上ないほどにネガティブだな >自分
orz

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