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Killer X

クイーン兄弟
カッパノベルス
(2005.8/24読了)

クイーン兄弟こと「黒田研二」と「二階堂黎人」による合作第一弾。

キラーXシリーズ
1作目 Killer X
2作目 千年岳の殺人鬼
最終作 永遠の館の殺人

かつての師のもとでひっそりと開かれた同窓会。
しかし先生は事故により下半身不随により言葉を話せなくなっていた。
そんな体でも生活ができるように設計された家。
キーボードで打った言葉を発する機会の猫。
すべての作業が機械化された家。
そしてかつての親友たちと旧交を暖めている最中、
雪の中の山荘と化したこの家で殺人事件が発生する。

一方世間では「突き落とし魔」による凶行が次々と起こっていた。

二つの事件を結ぶ接点とは!?

これにてキラーXシリーズ読破。
1~3作すべてに言えることだけど、動機がなんとも……。
ストーリーや物語構成よりも、殺人に至る動機が忘れがたいくらいのインパクトがある。
犯人の心理がいたるところで描かれているのに違和感くらいにしか感じない。
けれども、その行動が一貫してる。
ラストまで読んでものすごく納得。

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永遠の館の殺人

二階堂黎人 & 黒田研二
カッパノベルス
(2005.7/21読了)

またもやスキー場で起こる惨劇。
遭難したカップルは不思議な違和感のする館へと辿りつく。

黒田研二が館パートを描き、
二階堂黎人がサイコキラーのパートを描く。
一見すると全く違った話に見えるのだが、実は……。

キラーXシリーズ第3弾にして最終巻。
殺人鬼の壮絶な最後が描かれる。

感想を書きたい……が、ネタバレと直結してしまう。
ので以下反転。
反転してもページ上部で見えてしまうので、見たくない人は見ないように気をつけてくださいw

さて、この話のテーマは死です。もし「死」という概念を理解せずに育ってしまったら。
近年テレビゲームなどの影響で「死んでも生き返ることは可能」と思っている小学生もいるそうです。
アンケートの結果なので、真面目にかかない人がそう書いたと思いたいものです。
もし、実際に思っていたとしたら。
常識と思っていることが覆ってしまうと、人は信じようとしないものです。
歴史的観点から言えば中世魔女狩りなどはその最たる例でしょう。
高校生大学生になっても死というものを受け入れられない人が出てきたとしたら。
……想像ができないような世界になるかもしれません。

ネタばれ終了。
二つのパートが重なりあう瞬間というのは言葉にしがたい感動があります。
ミステリで騙されるのは大好きです。

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廃用身

久坂部羊
幻冬舎文庫
(2005.12/1読了)

あらすじ

廃用身-回復する見込みのない手足のこと。
老人医療施設を経営する医師の漆原は老人たちの命を救うため一つの決断をする。
廃用身である手足を切断することで体への負担を減らそうということを試みる。
結果として老人たちは以前よりも生き生きとした生活が送れるようになった。
しかしマスコミがこの治療のことを伝え始めると、漆原の意図した医療とは別の観点から非難を受けることとなる。
そして浮かび上がってくる漆原像とは…。

感想

今から20年後には高齢者が日本の人口の3分の1をしめることとなる現代。
老人医療とは誰しも切っても切れない関係にある。
老人への介護、痴呆、医療保険制度……どれを見ても不安なものであると思う。

不安なものでも必要なことだからやらなくちゃいけない。
けれどもそれは本当に老人からの視点に立ったものだろうか。
老人たちが望んでいること、若い人たちが必要だと考える介護。
実はそれは随分と違うものなのかもしれない。
"自分たちのことを考えてやってくれている"そう考えると本当に言いたいことでも黙ってしまう。
そういうことって誰しもあるものだと思う。
それはどんなケースでも同じなハズ。
介護に本当に必要なことって実はもっともっと要介護者の人と話し合うってことなんじゃないだろうか?

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破裂 上

久坂部羊
幻冬舎文庫
(2007.9/14読了)

医師は一人前になるまでに、必然的に何人かの患者を殺します。
はじめて出会った席で、江崎峻は無表情にそう言った。

久坂部羊『破裂 上』本文より

久坂部羊の第2作目『破裂』。

前作『廃用身』でも医学会の裏側のようなものを垣間見せてくれたが今作もそんな感じ。
そういえばノンフィクションの新書でもそんな本をこの作者は出してたな…

今回の『破裂』では「痛恨の症例」という医師のミスを取り上げている。
ミスによって患者を殺してしまうケース、植物状態に追いやってしまうケース。
しかし、医師側からするとそんなミスは当たり前であり、誰もが通る道であるという。

また大学病院というもののあり方や教授職の権力の持ち方。
文科省や厚生省と病院との関わり方の問題点など、いくつものおかしな症例が挙げられる。

でも、これでまだ上巻なんだよな。
主人公が記者なので色んな人から匿名の報告を受けるんだが、当然よく思わない人もたくさんいる。
そういった人たちとの人騒動がたぶん下巻で描かれるんだろうけど、それが結構楽しみ。

大阪府内のいくつもの実際に存在する病院を思わせる名前が出ているのはある種こわいよなぁ。
これは物語の中だから「明らかにおかしい」ということは分かるんだけど、もし自分に起きた出来事だったら、マズイ状況か否かを判断できるのか。

もしかしたら医師を全面的に信頼するということこそがおかしなことなのかもしれない。
そんなことを読んでて思った。

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破裂 下

久坂部羊
幻冬舎文庫
(2007.9/15読了)

「政府の方々にお願いします。少しでも早く、一刻も早くお迎えを待っている老人たちの気持を分かってください。
安楽死は老人がお国に望む最後のお願いです。福祉と言うなら、どうぞ安楽死の法律をお願いします。心から手を合わせます。心からお頼み申し上げます……」
この老人の集団自殺は、各界に大きな衝撃を与えた。

久坂部羊『破裂 下』本文より

上巻の「痛恨の症例」という医師のミスは一人前の医師になるための犠牲である、という内容に引き続き下巻でも現実的に起こりえるかもしれない、というようなことが描かれていた。

何年も後の高齢化が進んだ日本。
寝たきりで苦しみを抱えながら生き続けてしまうかもしれない現実。
果たして生かすための福祉は福祉と呼べるのか。

もし、上で引用したような事件が起こったらマスコミはどう反応し、国民はどう声をあげるのか。
今のところはまだ上のような事件は起こっていない。
けれどももし起こってしまったら…

今後確実に訪れる高齢化社会に対して国がどう動くかではなく個人としてどう動けるのか動くべきなのかを考える時代なのかもしれないな。

そういった老人医療の問題もそうだけれども、物語の核となっていく医療の現場の声、そして医療の世界の中でのし上がっていく人たちの野望の演出もぐいぐい読ませてくる要素の一つ。

正義感あふれる真っ白な人なんて誰ひとり存在しない。
ネタをすっぱ抜こうとする記者もそうだし、告発した医師も当然思惑がある。
そういった人たちの駆け引きも読んでて面白かった。

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無痛

久坂部羊
幻冬舎文庫
(2008.10/24読了)

「命が大切に思えるのは、錯覚だ。医者のようにまわりに死があふれている仕事をしていれば、命が実はそれほど大切でないことがわかる。自分の命が大切でないとわかったとき、どうやって他人の命を大事にできる。時間がたてばすべてが終わる。自己欺瞞はやめろ。努力するふりはやめろ」

『無痛』本文より

久坂部羊の3作目『無痛』。
文庫版解説は中条省平。

1作目『廃用身』も2作目『破裂』にしても現代社会が持つ医療の問題を取り上げていた。

今回は「無痛」。
痛みを感じ無いこと。

ある人は心の痛みを考えられず自分勝手な行為をして人を追い詰めていく。
ある人は身体の痛みを感じないため、他人の痛みを理解しない。

彼らが犯罪をおかしたときに、法律は刑法39条によって守られてしまう。
それが実際心神喪失状態であったとしても、医者が演技を見抜けなかった場合や犯人が情報を調べる方法を知っていた場合でも。
逆に本当に39条によって守られなければいけない人々が適用されないこともある。

そんな39条をめぐる話の一家五人を殺した殺人事件を発端にはじまり、精神障害や犯罪心理の話へと絡んでいく。
また外見だけで症状を判断できる二人の医者の話でもある。
特にそっちが実に興味深く読めてくる。

医療は他人を救えはしない。
治る病気は治る。
治らないものは遅らせることしかできない。
そこに希望などという言葉は無意味であるというような境地に達した二人の医者。

しかしひとりは病人に対して真摯に付き合おうとする。
もうひとりは救えない命は切り捨て確実に救える人を救う。

どちらの言い分もしっかりとした意見であると思えるし、また根拠となる現代をとりまく医療の現状がことこまかに語られていく。
この本を読むと命は平等で誰しも大切にするべきものだ、なんていう綺麗ごとを考えなしには言っていられなくなるかもしれない。

現代社会の医療の最前線と現状、そして現代ならではの人の歪みを知ってなお、その言葉を簡単に口にすることができるかと試されるかのような読後感を味わった。

まさにミステリ部分にしても、現代社会にたいしての痛みへの接し方、また大きなテーマである精神障害者との付き合い方。
どのテーマをとってみても「痛み」との向き合い方を描いているような、そんな感じがする。

痛み、かぁ。
知らなければ分からないもの。
果たしてこの小説で描かれたことを知って、考えて、その後どう自分の中で消化していくかだよなぁ……

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脱オタクファッションガイド

原案:久世
作画:晴瀬ひろき
制作:トレンド・プロ
オーム社
(2007.5/8読了)

頼む! 俺におしゃれについて教えてくれ!!

『脱オタクファッションガイド』本文より

「脱オタクファッションガイド」。
タイトルそのままの本である。
しかし、まさかこういう本がオーム社から出るとは思わなかった(笑
技術書ってイメージあるからなぁ。

目次:
Chapter1 こんなファッションが「オタク」に見せる!
Chapter2 「トップス」はこう選べ! 
Chapter3 「ボトムス」はこう選べ!
Chapter4 髪型を変える!髪形で変わる!
Chapter5 小物にも気を抜くな!
Chapter6 コーディネイトの極意
Chapter7 服を買った後も気を抜くな!

 

この本はどうすればオシャレに見えるのか、という本ではない。
どうすれば「普通」に見えるか、というものである。

人から見た印象。
このアイテム、この組み合わせ、この色だけはやめとけっ、そんなことが多々。

他人から見たらなにがどう見えているのか。
なにがオタクっぽくて、なにがオシャレなのか。

自分の服装を見直してみたり、オシャレをしてみたいとは思うものの何から手をつけていいか分からないという人にはちょうどいい本なんじゃないかと思う。
例えば作者の薦めるブランドであったり、いろんな組み合わせ、美容院の予約の仕方に至るまで、結構あたりまえのことまでイラスト付で書いてくれている。
こんなことから解説が必要なんかよっ、と思えることも書いてあるから結構丁寧。

どちらかというと男性向け。

 

マンガと解説が半分ずつ。
前者は「もえたん」のように少しずつオシャレを覚えながら変わっていくストーリーなんだけど、ラストの展開…あれはないだろ(笑
作風は結構好きだけど。

(´-`).。oO(この作者さんの薦めるものってちょっと高いもの多くないだろうか。

 

Web版「脱オタクファッションガイド」
http://www.oxiare.net/fashion/

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猫丸先輩の推測

倉知淳
イラスト:唐沢なをき
講談社ノベルス
(2008.6/5読了)

とにかく世の中の森羅万象を面白いか面白くないかだけの判断でくっきりに分割して、己の興味のある対象にのみ突き進むその生き方は、おバカなのか賢いのか、傍目にはちょっと区別がつかない。

『猫丸先輩の推測』本文より

猫丸先輩のシリーズ4冊目。
講談社ノベルスではこれが1冊目のハズ。

倉知淳の本を読むのはかなり久しぶり。
3~4年前に『星降り山荘の殺人』を読んで以来だろうか。
猫丸先輩を読むのははじめて。
女性のミステリ読者に人気と言うのは聞いたことがあるけど、さてどういう意味なのだろうかとも思いつつ読んでみた。

30過ぎだけれども童顔。
ひょうひょうとしていて掴みどころがなく、職にもつかずふらふらと色んなところでバイトしたりしている。

そんな猫丸先輩に絡まれた友人や遭遇しちゃった人たちの話。

収録されている短編はすべて日常の謎なんだけれども、猫丸先輩の類稀なる妄想力によって解決したりしなかったり。
なんせタイトルどおり「推測」だし(笑
そんな感じなので軽い気持ちで読み進められた。

あと、猫丸先輩の人柄というか自由すぎる生き方を見てるとなんか和むなぁ。

収録話:
・夜届く
・桜の森の七分咲きの下
・失踪当時の肉球は
・たわしと真夏とスパイ
・カラスの動物園
・クリスマスの猫丸

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猫丸先輩の空論

倉知淳
イラスト:唐沢なをき
講談社ノベルス
(2008.6/25読了)

本当に、猫丸先輩だけは変わらない。
知り合った学生時代とちっとも変わらずに、興味を持った事柄にだけに仔猫みたいな好奇心で首を突っ込み、ただ「面白いこと」のみを探求してやまない、きっぱりとした生き方を貫いている。

『猫丸先輩の空論』本文より

猫丸先輩の自由な生き方と日常の謎たちに癒されるわ…(*´Д`)

講談社ノベルスでの『猫丸先輩』2冊目。

すべて短編。
すべて日常のささいな真相の難解な謎たちが描かれる。
そのところどころで出てくる唐沢なをき画伯のイラストがまた癒し系なもので(*´Д`)

「子ねこを救え」でのなぜ子ねこのうち1匹だけが差別されて育てられていたか、という謎。
「魚か肉か食い物」で誰にも負けない胃袋を持つ子が、超大盛りのステーキを前に敵前逃亡してしまったかという謎が好み。

後者はずっともしかして逃げた子は実はナイフが使えないのではないのかとか思ったりもしたもんだけど、そうきたか。
明らかな伏線が張られてたのに存在すら忘れてた orz
おかげで驚けたんだけど(笑

あとこのシリーズの男性陣のなんともリアルで滑稽な感じもする描かれ方って結構好きかもしれない。
しゃーないんですよ。
日々妄想と現実の狭間で生きてるようなもんなんです orz
だからほんの少しの下心くらい仕方ないんです(笑
そういう下心が話が面白くなる原点にもなってりするんだけど、意外とこの心理って間違った描き方されてないよなぁ(笑

読んでて親近感沸きまくりだ。

収録話:
・水のそとの何か
・とむらい自動車
・子ねこを救え
・な、なつのこ
・魚か肉か食い物
・夜の猫丸

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ぺらぺらーず漫遊記
ソード・ワールド短編集

グループSNE
表紙イラスト:かわく
富士見ファンタジア文庫
(2006.2/21読了)

ソード・ワールド短編集23冊目。
(12年前の『戦乙女の槍』を含まない場合は22冊目)

今回は『新ソードワールドRPGリプレイ集NEXT』のぺらぺらーずONLYの短編集。

1990年から続いているソードワールドの小説シリーズも既に16年目。
……16年て(笑
長いな。

TRPGというアナログゲームが流行ったり、廃れたりを繰り返し、前作「ヘッポコーズ」で人気を再び集めてきたのに伴ってはじまった「ぺらぺらーずシリーズ」。
TPRGと言ったらあれです。
台本があるわけではない演劇、ついでに色んなパラメータ付。
主に使うものはサイコロと鉛筆と紙と運くらい。
簡単に説明しすぎなのかどうかはともかくとして今回の本です。

ぺらぺらーずはぺらぺらだった。
すさまじく強いキャラクターがいるわけでもなし、ただただ個性がえらく強いものが集まってできたパーティーのような。
だからといってまとまりがないわけではなく、いわゆる「普通のパーティー組んだ冒険者」っていうのはこういう人たちを言うんじゃないだろうか、と思った。

ロードスやリウイや最近のへっぽこみたいな英雄譚でなく、ごくふつうの冒険者たち"ぺらぺらーず"の普通の活躍を長編で読んでみたいもの。

……あと最近のソード・ワールドなんか萌え系イラストに特化しすぎてやしないですか?(苦笑

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笑殺魔
ハーフリース保育園推理日誌

黒田研二
講談社ノベルス
(2005.11/27読了)

私の笑顔は呪われているんです

『笑殺魔』本文より

過去に起きた事件から立ち直れず笑顔を封印してしまった保母さん。
そんな彼女の身に降りかかる園児誘拐事件。

幼児教育出版社に勤める次郎丸諒が主人公の<ハーフリース保育園>推理日誌の第1弾。

感想
子供って素直に物事を伝えてきたり、と思いきや大人顔負けの気遣いをしてきたり。
見てて飽きないし、数々の驚きをもたらしてくれます(えらく小さないとこなんかを距離をおいて眺めたことくらいしか記憶にないですが。
そんな子供が主役と言っても過言じゃない小説でした。

作者の黒田研二さんのサイトでもしょっちゅう姪御さんの話が日記に出てきたりするけれども、いくつか実体験がこの中に入ってる気がする(笑

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ふたり探偵―寝台特急「カシオペア」の二重密室
阿弥陀ヶ滝の雪密室-ふたり探偵-

黒田研二
カッパノベルス
(2005.6/26読了)

既刊
ふたり探偵 寝台特急「カシオペア」の二重密室
阿弥陀ヶ滝の雪密室-ふたり探偵-

あらすじ
連続殺人鬼の「J]を追う刑事のキョウジ。
しかしJの襲撃によってキョウジは意識不明に陥ってしまう。
キョウジの意識は婚約者でありルポライターの友梨の中に入ってしまう。
一つの体に二つの意識をもってJの影を追う。

設定とふたりの会話がなんともこそばゆいところが好き。
黒田研二は恋愛描写がイマイチという意見を見かけることがあるが、
個人的な感覚から言うとツボ。
めっちゃ好き。

黒田研二さんの講演会でシリーズものは評判が良くないというふうに言っていたと記憶しているんですが、
これに関しては続きが読みたいです。
「J」に関する壮大な伏線も阿弥陀ヶ滝で張られたことですし。
ついでに嘘つきパズルのキャラクターを使った続編も読んでみたいです。

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カンニング少女

黒田研二
イラスト:西島大介
文春文庫
(2009.3/14読了)

「椿井。あんた、まさか」
「ああ。俺たちの力で、天童の馳田受験を成功させてやろうぜ。どんな手段を使ってでもな」
杜夫は口の端を曲げ、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

『カンニング少女』本文より

黒田研二が…黒田研二が青春小説だとぅ!?
しかも表紙が西島大介。
めっさキュートです。
ページをめくったときの目次なども仰々しいタイトルなのに、すごく繊細でかわいらしいデザインになってる。
さらには解説が大矢博子と来たもんだ。
黒田研二を知る人物にとって、解説が大矢博子というだけでニヤニヤできます(笑
えぇもちろん「なまもの日記」の読者でしたとも。

とある理由のため、絶対ムリだという学校へカンニングで入る計画を立てる4人組。
彼らの友情と、あくなきカンニングへの執着。
それに少しの恋心。
うわぁ、もうこれなんて王道の青春モノだよっ。
カンニング方法も目からうろこの方法がざっくざく。

その昔に「ザッツカンニング」という映画があったんだけども、あれを超えるカンニングは出ないだろうなぁと思ってたら、いやいやすごいものを見せられたかも(笑

対抗するは絶対にカンニングを許さない教師や試験官たち。
主人公たちと対比するかのような冷徹さがたまらない。

彼らの頭脳と頭脳が激しく火花を散らすような展開がものすごく面白い。

もちろん出身がミステリの黒田研二ということもあって、学生たちと試験官の戦いが佳境に差し掛かるほどに真相にどんどん近づいていくというのも思わず唸った。
こう展開するか、と。

内容はもちろんのこと、デザイン面でもスゴク好きな本です。

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霧の迷宮から君を救い出すために

黒田研二
ジョイノベルス
(2007.1/7読了)

動いているものが、全部霧に変わってしまうんです。僕には動くものが見えていない……

『霧の迷宮から君を救い出すために』本文より

何者かに襲われ、動くものを認識できなくなった主人公。
襲われた場所では密室の中で女性が殺されていた。

黒田研二も西澤保彦みたいな特殊状況下でのミステリを書くようになったなぁ。
幻影のベルセポネといいふたり探偵といい。

動くものがうまいこと認識できない状況は絶妙。
文章で読んで思い浮かべて気持ち悪くなれる(笑
そういや、似たような症状が実際に起こりえるんだっけかなぁ。

ミステリ自体の内容は最後の最後まで楽しませてもらいました。

くろけんのいろんな作品に出てくる女性ってやっぱり好きだなぁ。
現実にはそりゃあないだろっ、と言いたくなるような。
でも小説なら全然OKという。
今回も特にあの方が(笑
思わず唸った。

 

宇宙旅行に行ってきました、とかの体験記も本にならないかなぁ、と思ったり。

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結婚なんてしたくない

黒田研二
幻冬舎
(2005.1/15読了)

5人の男の結婚にまつわるお話。

一人は女遊びが大好きで結婚によって縛られたくない男(35)。
一人は二次元しか愛せない男(29)。
一人は同性愛者の男(33)。
一人は身の回りの世話はすべて親がやってくれるという男(42)。
一人はどうしても結婚という行為に踏み切れない男(27)。

結婚とは縁もゆかりもないと思っていた男たちにさまざまな形で結婚というものを携えた女性が現れ、急に結婚という現実に直面する。
結婚という一つの節目を通して彼らは必死で自分自身と対峙することに。

ミステリ作家の黒田研二が挑む初のエンターテインメント小説。

感想

おもしろいっ。
序盤から中盤にかけてのそれぞれの独立した話が少しずつ絡みあい、ラストにかけて一つの地点に向かって話が集約していく様にはドキドキした。

黒田研二の本はこれまでミステリばっかりだったけど、こういう形の小説もおもしろい。
むしろこっちの方面に転向しても全然問題ナシだと思う。

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幻影のペルセポネ

黒田研二
文藝春秋
(2005.7/29読了)

兄のように慕っていた天才プログラマーが謎の死を遂げた。
死の謎を解く鍵はネットゲーム<ヴァーチャル・プラネット>の惑星ペルセポネにある。
ログインした主人公がゲームの中で最初に見たものはあるキャラクターが死んでいる場面だった。

舞台はネットゲーム。
主人公の行動もどちらかというとゲーム内でのキャラクターとしての描写が多い。
まぁ、それはラストの伏線へつなげる為の描写だし、
なにより現実の事件とゲーム内の事件の関連性だとか
誰がどの時にどっちの世界でどんな行動を何のためにとったのかが
ラストで次々と解き明かされていく様は見ていて壮観。
ゲーム内での匿名性がしっかりと生かされてるのも流石。
この入れ子構造的な話を読みたいがためにクロケンさんの本を読み続けといっても過言ではない。
あとは個人的にそれぞれのキャラクタの描写が好きだったりします。

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ナナフシの恋
Mimetic Girl

黒田研二
表紙イラスト:イナアキコ
講談社ノベルス
(2007.12/11読了)

だが、このメールを麻帆が打ったはずはない。
彼女は二十五日前――終業式が終わった直後に新校舎の三階から飛び降り自殺を図り、今もまだ意識が戻らぬ状態が続いているのだから。

『ナナフシの恋』本文より

黒田研二の久々の小説の新作。

絶対にメールを送れるはずのない人から呼び出された6人の学生。
呼び出してきた本人は自殺未遂で現在は病院で昏睡状態。
いったい誰がなんのためにそんなメールを送ったのか。

ひとつの教室を舞台に繰り広げる、誰がこのメンバーを呼び出し、なぜ彼女は自殺をしたのかという謎に迫る物語。

ミステリ…というよりも群像劇だろうか。

あまりに印象が薄すぎて、友人と呼ばれる人以外は顔も思い出せない自殺した「彼女」。
自殺現場の不思議な光景からはじまり、彼女の謎が深まっていき、そこからとんとんと謎が繋がり解き明かされていく展開は楽しめた。

けれども、やっぱりこれは「高校生6人+1人」の心のやりとりが非常に印象に残った。
がちがちのミステリじゃなくてもこういうライトなミステリで、ジュブナイル要素も多々含まれるものを読むことになるとは。
黒田研二の小説=本格に近いミステリというイメージがあったもんだから、ちょっと肩透かしくらったけども十分おもしろいじゃないか。

でもそろそろ黒田研二の本格なミステリも読みたいです(笑

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闇匣

黒田研二
講談社ノベルス
(2008.7/5再読)

混乱する頭で、懸命に記憶を探る。どうして、俺は縛られている? ここはどこだ? 俺の目はどうなってしまった?

『闇匣』本文より

メフィスト小作家による密室本の1冊『闇匣』を再読。

気が付くと闇の中。
縛られ動けず何も見えない。
そしてはじまる旧友からの尋問。

特殊な空間内で行われるミステリ。

黒田研二の本には特殊な状況下におけるミステリも多いが、これもその一つと数えてもいいだろう。
ってかこの特殊状況下だからこそ活きるトリックなのがすごくよかった。

特殊状況と数人の登場人物の行動だけで驚ける結末に持っていく手法は楽しいの一言に尽きます。

読み終わってから前書き読むと「あぁなるほど」と思えるのも面白いとこ(笑

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