感想のページ 作者「た」
M8 エムエイト
高嶋哲夫集英社文庫
(2008.12/17読了)
「人は歴史と経験に学べということかな」
『M8 エムエイト』本文より
「そうでなければ亡くなった方に申し訳ない」
堂島は少し声を小さくした。
高嶋哲夫の『M8』。
もちろんMはマグニチュードの意味。
もし、東京にM8レベルの直下型地震が起こったら。
様々な研究などに基づいて描かれたシュミレーション小説。
阪神大震災からもう10年以上の月日が流れた。
教訓は果たして生かされるのだろうか。
そしてわれわれはあの時なにが起こり、いまいつ来るか分からない地震に対して何か心構えというものができているのだろうか。
それをまさに思い出させてくれた。
10年以上ももう経ってしまったのか…
あの時まさに身近で起きた震災。
それだけに色んな話も直接聞いたし、色んなことを考えさせられた。
しかしやはりだんだんとそのいつ来るかも分からない地震に対する危機感というものは薄れていっているような気がしてならないんだよな…
本文中でもそういった記述はあるんだけど。
じゃあ一体なにができるのか。
今こそもう一度考えてみるべきときなんだろな。
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カーリー
~黄金の尖塔の国とあひると小公女~
高殿円イラスト:椋本夏夜
ファミ通文庫
(2006.12/31読了)
事実わたしはそのとき、この新しい世界では、どんなことでもできる気がしていたのだった。
高殿円『カーリー~黄金の尖塔の国とあひると小公女~』本文より
-そのときまでは。
高殿円による「カーリー」第1巻。
まさかファミ通文庫というレーベルでこんな内容のものを見ることになるとは。
舞台はインド。
主人公はロンドンからやってきた14歳の女の子。
時は1939年。
第二次世界大戦がはじまった年。
当時のインドはイギリスの植民地。
外と隔絶されたインドにおけるイギリス文化。
インドから見ても、イギリスから見てもそれは異質なもの。
そんな場所でお嬢様として育てられることになった主人公の初恋。
裏ではドイツやロシアと組むというシナリオを進める人物が暗躍したり、
MIが動き出したり……。
もうなんていうかなんなんだこれは!
ライトノベル!?
いやいや、
それでも、
おもしろいからそれでいいんですw
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カーリー
~二十一発の祝砲とプリンセスの休日~
高殿円イラスト:椋本夏夜
ファミ通文庫
(2007.1/2読了)
ヒンドゥとイスラムに英国が多少混ざっても、きっと、それでもたしかに美しいものはできるんだ。そう思わないか?……
高殿円『カーリー ~二十一発の祝砲とプリンセスの休日~』本文より
カーリー2巻。
今度は学校にインドのお姫様が登場。
彼女は非常になんともお姫様らしいわがままっぷりで周りを困らせていく…。
ラストで唖然。
ラスト前くらいまでは"なんで前はすごい伏線とか張ってたのに、今度は恋愛がメインなんだ…。
メインなのはまだいい。
逆にそればっかりってのは…。"
とか思ってた。
誰がなにを思って、お姫様のために動いたか。
彼の最初にもらした「多少混ざってもきっと美しいものができる」という呟き。
前巻であかされてた主人公シャルロットの特殊な立場。
今回の話の流れ。
すべてがラストで繋がった。
インドにおいての異質なイギリス。
そして1939年という第二次世界大戦がはじまった年。
またこのころから世界規模でいろんな戦略が練られていく。
今回のMI6のメンバーの出自に関連したこともこの10年ちょいあとくらいに実現してくるし…
あかん……すっごいおもしろいわ…。
3巻は4年後。
1944年というところにとっても期待!
あえてこの年かよっっ
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13階段
高野和明講談社文庫
(2007.5/28読了)
この縄を、奴の首にかけなければならない。そう考えた途端、南郷の顔から血の気が引いた。刑場全体を覆う教誨師の読経が、南郷の動揺に追い討ちをかけた。死者を弔うための読経は、心の安息をもたらさなかった。弔う相手が生きている今、それは人間の猟奇を呼び覚ますような呪術的な効果しか上げていなかった。
高野和明『13階段』本文より
第47回江戸川乱歩賞受賞作『13階段』。
人を殺し前科を負った青年三上と、刑務官をやめ冤罪を負ってしまった人を助けようとする南郷の二人が挑むある一人の死刑囚の冤罪を晴らすために調査を開始する。
死刑制度が日本には存在している。
でも死刑を実行している人は別にいる。
被害者の家族が殺すわけでもなんでもない。
それだけじゃない。
ありとあらゆる方向から日本の法制度の中での「死」についてのバックグラウンドをこれでもかというくらいに語ってくれている。
加害者、被害者、刑務官、前科者に対する世間の目etc
そんなすさまじい背景を見せ付けてくれながらも、さらに冤罪で死刑を宣告されている人の容疑を晴らすというストーリーである。
刻一刻と迫る死刑の時間。
しかもそれはいつ訪れるか分からないもの。
そんな緊張感の中で生きる死刑囚。
重く考えさせる死刑制度の背景に、驚くほどの結末。
……これはすげぇわ…
乱歩賞を満場一致でとったのも分かる気がする。
話が終わった後のすごい量の参考文献を読んで納得。
ここまで物語の中で死刑についてのあやふやさ、おかしさをこの本を読んで説得させられるわけだ。
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斎なる神のしもべ
秋津島 一
鷹野祐希イラスト:水上カオリ
GA文庫
(2007.10/22読了)
一昨日からこっち、平凡な日々こそが非日常になり、常識の埒外にある世界が佐唯の日常になってしまった。
鷹野祐希『斎なる神のしもべ』本文より
「秋津島」シリーズ1作目。
平凡に日々を過ごしていた女子高生。
だが、ある事件をきっかけに彼女の日常は崩れてしまう。
自分が他の人とは違う神を宿すことのできる人間であるという。
。
1巻を読んでみて途中までは「よくあるラノベだなー」と思っていたらある種普通ではない主人公の描き方をしていたので驚いた(笑
処女性を守り、初潮を迎えていない=まだ「人の子」にはなっておらず未だ「神の子」である。
ゆえに神を迎え入れ、神の力を行使することができる。
そんな設定や、武侠モノで美少女が活躍ってのだけならよくある話である。
けれども気になるところが結構あったり。
なぜ主人公の佐唯が古事記を読み始めたのか。
つまりは、これから古事記が関わってくるのだろうか。
もしや古事記の伝説が現代に復活したりとか…
あとは神の力を手に入れた佐唯はその力をどう使っていくのかってところが特に気になるところ。
現時点ではいわゆる正義のためなどのまっとうな理由以外に行使しそうで…
もしかしたらどろっどろな展開を迎えかねないしなぁ。
まだまだプロローグ。
2巻以降が本編に入りそうな感じなので楽しみだ。
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惑いし宿命の乙女
秋津島 二
鷹野祐希イラスト:水上カオリ
GA文庫
(2007.10/23読了)
だからもう一度、ちゃんと考えて欲しい。大神の……大物主命の斎になる意味を、考えて欲しい
鷹野祐希『惑いし宿命の乙女』本文より
斎として覚醒してからの佐唯に次々に試練が舞い込む。
彼女が宿した神とのやりとりや、他の神の力を手に入れたものの強襲。
そして他の斎の資格を持つ者たちとの邂逅。
おもしろく…なってきたのかな。
神と人間の話も絡んできたし、生と死の狭間である黄泉比良坂なんて単語も出だした。
1巻の最初で佐唯の彼氏を殺したことがおおきく絡んできそうな予感…。
前巻を読んで古事記がおおきく絡んできそうだと思ったが古事記というよりは古事記に出てくる神々の方がメインっぽいなぁ。
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神ながら人ながら
秋津島 三
鷹野祐希イラスト:水上カオリ
GA文庫
(2007.10/24読了)
神と人は同じではないでしょう……? 何のために斎を置いているのか、あなたは本当に知らないのですか……?
鷹野祐希『神ながら人ながら』本文より
「秋津島」シリーズ最終巻。
人と神の違い、そして斎の役目とはなんだったのか。
すべてが解き明かされた(?)最終巻。
以下ネタバレあり。
やっぱり彼氏の廣沢君を復活させたのは黄泉比良坂という存在を出した影響だったか。
そこからこの物語のクライマックスになだれ込んだ訳だけれども。
さながら天岩屋戸伝説を思わせるような内容なのに、まるでパンドラの匣を開け放つような展開にはちょっとびっくりした。
なるほど、こう来るか、と。
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NHKにようこそ!
滝本竜彦表紙イラスト:安倍吉俊
角川文庫
(2005.7/4読了)
あらすじ
主人公「俺」はあるとき気付いてしまった。
大学を中退して4年間引きこもりをしてるのも
無職なのも彼女がいないのも巨大な悪の組織NHK(日本引きこもり協会)が
俺の邪魔をしているからだ。
だからと言ってなにもできないのでとりあえず世間に呪詛を吐きつつ仕方なく生きていこう。
死のうかな死のうかな、日々常々思うものの死ぬのは痛かったりするので死ねない。
5時間起きて15時間寝るというサイクルを繰り返し、毎日をなにもせずに過ごしてしまう。
そんな俺に目を付けた新興宗教少女「岬ちゃん」。
彼女は引きこもり脱出サポートをするために俺の前に現れた。
一体どうなる俺!?
逆送したエロスとひ弱なバイオレンスと逃げのドラッグが入り乱れる
なんかよく分からん引きこもり小説の集大成。
作者は滝本竜彦。
リアル引き篭もり。
NHKの10代しゃべり場でもリアル引きこもりの社会人として出演。
同じくNHKのアニメ夜話でも2次元に傾倒した引き篭もり作家として出演。
第5回角川学園小説大賞特別賞受賞者。
最近は文芸関係の雑誌にも寄稿。
ファウストで連載したECCOの単行本化はまだですか?
それと僕のエアもそろそろ単行本にして出して欲しいものです。
最近彼女ができたらしく、「仲間だったのにっ」と思っている同志たちから侮蔑の言葉を散々投げかけられている(笑
あぁもうダメだダメだ。
NHKが面白かったなんて口が裂けても言えん。
こんな引きこもりの様子をありありと描き、
この世はすべて俺の敵、どうせオマエらみんな俺のこと蔑んでるんだろ、
と自己主張してるようなものを楽しめてしまうとは orz
引きこもりに興味のある方、引きこもりの人にもオススメの一冊です(ホントかよっ
ネガティブ・ハッピーもECCOも楽しめて読めたから
これもきっとおもしろいだろうとは思ったけど……。
やっぱり楽しめてしまったよNHK……
あはは
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超人計画
滝本竜彦表紙イラスト:安倍吉俊
角川文庫
(2006.6/26読了)
引きこもり作家「滝本竜彦」の「最新作」が文庫落ち。
……最新作?
確かに。
「僕のエア」とか「ECCO」とかは一体いずこへ...(苦笑
引きこもりが如何にして超人(一般人)となるか奮闘する話。
もしかしたら実話。
おそらく実話。
引きこもりを脱出し「人間彼女」を得るという内容。
その協力者はNHKにようこそ!の「岬ちゃん」のような人間では存在ではなく「脳内彼女」。
もはや人間ですらない(笑
自分がどんなにネガティブな状況に陥ろうとも優しい言葉を投げかけてくれる至高の存在である。
序盤を読んでドン引きするか、嬉々として読むかのどちらかのような気がする。
後半に行くにしたがってもはや「人間彼女」を得るという目的が失われ空想の中に行こう行こうとしていたように見えたのは気のせいだろうか...
さすが滝本先生。
引きこもりの鑑!
この作家の書く小説が好きだ、とはとてもじゃないが人前では言えない。
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ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ
NEGATIVE HAPPY CHAIN SAW EDGE
滝本竜彦表紙イラスト:安倍吉俊
角川文庫
(2007.9/21再読)
現実逃避という言葉がある。
滝本竜彦『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』本文より
どうしても立ち向かわなきゃいけない現実の厄介ごとから目を背け、何か他の、もっとラクで楽しいものごとに逃げ込んでしまう―それが現実逃避だ。
オレたち若者は、往々にしてその罠にはまりがちである。
滝本竜彦のデビュー作にして最も彼の奥底が見え隠れしそうな作品(笑
文庫版の解説は西尾維新。
『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』。
タイトルからしておもしろい。
ネガティブでハッピー。
チェーンソーのエッヂ部分。
エッジは縁(へり)とか端っことか、とにかく交わらない部分を指したり、刃の鋭さや身を切る感覚とか。
あれ?
どれでも結構内容に当てはまるな。
本の中身はなんのことはない、なんか分からないけど美少女が不死身のチェーンソー男と戦ってその傍で一緒に戦ったり見守る男の話。
というのがメインだけれども背景がものすんごい。
誰もがみんな現実をあきらめているかのような。
学校には行くし、やることもある。
けれども、別に学校に行ってなにかするわけではなし、やらなきゃいけないこともない。
なんとなく音楽をやってみたり、なんとなく万引きしてみたり。
毎日が適当で適度に楽しい。
けれどもなんにもないのである。
やりたいこととか充実した毎日とか、満たされる日々とか希望に満ちた未来とか。
主人公にしても友人の渡辺も下宿の管理人のおねえさんも。
そんな不毛な日々をひたすら文章で読みながら世の儚さを共感する。
共感しちゃ本当はダメなんだけれども。
そしてラストのネガティブだけれどもハッピーな展開。
そんな彼らでも最後は本気でものごとに打ち込んだり、自分の建前をかなぐり捨てて本音を出すことでハッピーに向けて突き進んだり。
なんか目から水でも出てきそうな明るいハッピーエンドなんだけど、絶対こいつら長続きしないだろうなと思えるのはまた別のお話(笑
そんなあんまりよろしくない未来を予感をさせる内容を当時の滝本竜彦は素で明るいと思って描いた未来とか、自分の妄想のようなものと思われるものを書いてくるからスゴイのだ。
そしてそんな内容だからこそ滝本竜彦の書く文章や物語が大好きだヽ(゚∀゚)ノ
「僕のエア」や「ECCO」の単行本はまだですか?(笑
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自転車少年記 あの風の中へ
竹内真新潮文庫
(2008.12/24読了)
自転車で風になりながら、僕らは自力で走る喜びと身体感覚の広がりを味わっているのである。
『自転車少年記 あの風の中へ』本文より
大矢博子の解説を読んで思わず買ってしまった。
大矢さんってミステリ系ってイメージがあったんだけど、こういうのもOKなのか。
ってか自転車について詳しいじゃないですか(笑
なぜ車でもバイクでもなく自転車なのか。
え?いや、別にそんな大層な理由もないんだけど、やっぱり達成感だろうか。
物語の主人公たちも冒頭から東京へ上京するのに自転車で向かい、失恋で300kmも離れている日本海まで行ったりする。
別にお金がないからっていうわけでもない。
ただ、そこまで行った。
行けた、っていうのが大事なんだと思う。
だってそうでしょ。
はじめて自転車に乗れたとき、
はじめて市内を越えたとき、
はじめて県外へ出たとき、
うわ、なんて遠くまで来てしまったんだ、って感動してしまう。
そういうのがあるから、やめられない。
まだまだ心ははじめて自転車に乗れたときとなんら変わりはありませんよ、と(笑
遠くへ来た。
それだけじゃなく、恋愛や友情を織り交ぜ、自転車でも電車に積んだり、チームで走ったり、自転車もロードバイクからMTBにランドナーに小径車。
彼らの人生にはそのときそのときの重要な自転車が登場してくる。
そういった人との出会いだけじゃなくて、その自転車でしかできない出会いってのもたくさん描かれてる。
人との出会いと自転車との出会い。
そんないつまでも自転車少年達の人生のひとつひとつのエピソードが描かれる。
やがて、少年は大人になり、家庭を持ち、親になる。
そのとき、自分の生きてきたものってのをどう見せられるのか。
子供になにがしてやれるのか。
悩み選びながら生きることと、それ以上のなによりの楽しさが詰まった本でした。
さーて、と。
明日ちょうどロングライドに出かけるからその準備でもしますか。
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風の大陸 最終章
祈り
竹河聖イラスト:いのまたむつみ
富士見ファンタジア文庫
(2006.4/23読了)
富士見ファンタジア文庫創刊から18年ついに完結。
最初中学生のときに読み始めたとしたらすでに30歳を過ぎてるわけか...
「スレイヤーズSP」や「オーフェン無謀編」を立ち読みしてたら巻末あたりによく分からないけどえらく長く続いている小説がある、それが風の大陸との出会いだった。
アステ・カイデ編がえらく長かったりして集めるのをやめようとか、これはあと10年くらい続きそうだから読むのをやめようとも思ったりしたけど、結局最後まで付き合っちゃったなぁ。
内容に関してはただただ感動。
もはやここまで読み続けている人は同じような感想を抱くと思う。
あの長すぎるように思えたアステ・カイデ編もローダビア編を完結させるためのしっかりとした伏線だったように今は思える。
読み続けて正解だった。
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狂い咲く薔薇を君に
牧場智久の雑役
竹本健治カッパノベルス
(2006.11/27読了)
このシリーズの通しタイトル『牧場智久の雑役』でいいんですか?
竹本健治『狂い咲く薔薇を君に』袖より引用
多分、牧場智久と類子ちゃんのシリーズでいいはず(笑
出てるけど、毎回解決編にちょこっとでて解決しちゃうだけなんだけどなぁ。
なんかこのシリーズを読んだのは随分久しぶり。
引き立て役としての海人くんもいい感じだし。
これでもか、これでもかっというほど推理を展開して、いいところをすべて持ってかれてしまうのが…
なんて可哀想な奴…
牧場智久が脇役(?)として登場ということで、いつものような考えて考えて…としているうちに重い雰囲気が漂ってこない軽く読めるミステリでした。
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せつないいきもの
牧場智久の雑役
竹本健治カッパノベルス
(2008.12/1読了)
私にはいちおう彼がいる。そしてその彼というのが、囲碁棋士で、史上最年少の十八歳にして本因坊位に就き、これまたかなりの美形でもある故に、囲碁を知らない世の女性達にもちょっとしたアイドル並みに人気のある牧場智久なのだ。
『せつないいきもの』本文より
牧場智久のシリーズ。
久々だなーと思って読んでいたら途中でびっくりした。
イラストがしっかり入ってるしっ。
表紙からは予想外のことだった(笑
スーパーダッシュ文庫の「紅」の山本ヤマトとはなぁ。
なんて思ったけど、よく考えたら前作も山本ヤマトがイラストだったじゃないか。
てっきり忘れてた。
『牧場智久の雑役』シリーズなので、智久くんはほとんど出てこない。
解決編にはしっかり登場するけど(笑
もはや「武藤類子」という名前をタイトルに冠したほうがしっくりくるんじゃないだろか(笑
前作『狂い咲く薔薇を君に』と同じように軽く読めるミステリ…かと思いきや、いやいや、そういうわけでもないらしい。
短編集なんだけれども、けっこう重たい話も入ってる。
特に表題でもあり、表紙にも一場面が出ている『せつないいきもの』のズンとくる重さはけっこう心にくる。
牧場智久が出てこないことで類子ちゃんの日常がクローズアップされてるところもいいところ。
前作では海人くんがはっちゃけてたけど、今回は控えめだし(笑
日常のシーンを楽しみながら、ミステリもしっかり楽しむにはいい1冊です。
収録話:
・ 「青い鳥、小鳥」
・ 「せつないいきもの」
・ 「蜜を、さもなくば死を」
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狂い壁 狂い窓
竹本健治講談社ノベルス
(2008.11/25読了)
……やはりこの樹影荘のせいだと、私はずっと信じています。この建物は瘴気めいたものに包まれているような気がしてなりません。ああ。こんなことを私が言うのは、既にその空気に毒されてしまっているからなのでしょうか。……
『狂い壁 狂い窓』本文より
綾辻・有栖川復刊セレクションの1冊である竹本健治の『狂い壁 狂い窓』。
83年に発表された牧場智久のシリーズの1冊。
ってことは牧場シリーズで25年以上続いていたシリーズなのか!?
産婦人科の病院であったところを改装した洋館。
そこは朽ち果て、鬱蒼とした木が傍らに生えていた。
どこか病み、狂ったかのような不気味な住人達。
いくつもの陰鬱とした怪事件が起こっていく。
怖ぇぇぇ。
ミステリとホラーの融合。
そしてあまりに不気味すぎる舞台設定と、狂っている、もしくは狂っていく登場人物たち。
「呪われている」という言葉がこれほど適切な「館」もそうそうないだろう。
まさにタイトルどおりの「狂い壁 狂い窓」なんだよな…
まったく、これはいつの時代に書かれたものなんだよ。
昭和の初期か、それともさらに前か。
そんなまるで乱歩や横溝正史の中でも暗い部類の小説のような世界観。
文体からも舞台からもそんな空気を感じてしまう。
それでも83年。
この時代のものにしてはある意味時代錯誤も甚だしい小説だよなぁ。
けれども、それでも今読んでも非常に怖ろしいと感じられるのはかなりスゴイことだと思う。
実に気持ちの悪い幻想性を持った小説だった。
これはスゴイわ…
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腐蝕
竹本健治角川ホラー文庫
(2006.9/5読了)
「匣の中の失楽」などで有名なミステリ作家でもある竹本健治。
でもこの腐蝕はSFです。
SFであり、ホラーです。
自分の周りの人が一人また一人と消えていき。
そして街も崩壊していく。
とにかく"それ"から逃げなければいけない。
悪夢だな。
逃げても逃げても追ってくる悪夢のよう。
逃げ切れたと思っても、それはただの通過点。
本当の悪夢はこれから本格的になっていくかのような感じが…。
逃げながら自分の記憶を疑い、他人の存在を疑い、自分の存在ですら疑ってしまう。
そんな悪夢のような話だった。
ミステリも書くしSF。
はてはコミックまで。
なんでも書きたいことがあればチャレンジする作家だよなぁ。
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そして、警官は奔る
日明恩講談社
(2005.11/8読了)
刑事課所属の武本は不法滞在者である外国人の子どもが売買されている事件を追うことになった。
不法滞在、児童ポルノ法、日本国籍取得問題、棄児問題…
日本における法律というボーダーラインの狭間で起こる物語。
武本&潮崎の警官シリーズ第2弾。
日明恩ってどんな作家?と聞かれたら今もどこかで起こっている問題を問い掛ける作家って答えると思う。
日明恩の本を読んでいる時に、新聞の記事やニュースで取り上げられていた事件を思い出したりする。
小説を読んでいるのでそこにあるのはフィクションのはずなんだけど、いつの間にか実際にあった出来事を小説化したものを読んでいるような錯覚に陥ったりしてしまう。
今のところ全てそういう作風だよなぁ、今までの4作。
例年どおりなら来年は「警官」シリーズの方がでるんかな。
さてキャリアになった潮崎はどうやってどんなふうに警察という組織を変えていくのかが気になるところ。
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鎮火報
Fire's Out
日明恩講談社
(2005.8/24読了)
消防士の父を火災現場で亡くした大山雄大。
消防士になりたての彼は火災現場の最前線で日本の制度や日本の国家性がもたらす様々な問題に直面する。
鎮火報シリーズ1作目。
2作目の埋れ火は最近出た模様。
消防士と市民の関係。
消防と警察。
不法滞在者問題と入国管理局。
物語の中で描かれる対立する立場の人同士の本音のぶつけ合いは背筋にゾクゾクきた。
そしてそれがえらくカッコいい。
特にラストの雄大の慟哭が。
現場から人を救助する消防士や救急隊員。
しかしそれを救助される側から見たらどうなんだろう。
助けてくれるのが当然だと思ってはないだろうか。
だが救助する側は命がけの時もあり、その仕事は仕事だからという理由だけではやっていけないものなのかもしれない。
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埋み火
Fire's Out
日明恩講談社
(2005.8/24読了)
鎮火報シリーズ第2弾。
9月には1作目「鎮火報」の講談社ノベルス版が出るらしい。
消防士の大山雄大は鎮火後の現場の状態から不審な点に疑問を抱く。
調べていくにつれ失火から放火自殺ではないのかという疑いを持つようになり……。
父親が殉職した消防士で、人助けが原因で死んだ父親に対していい印象をまったく抱いていない
けれども自身も消防士選んだ主人公。
別に頭がいいわけでも体力バカでも、ものすごく機転がきくわけでもない。
消防士という職業を選んだただの22歳。
けれどもその彼が言う『あまりにもまっすぐすぎる言葉』がえらくカッコいい。
物語も現代の親と子、死と遺産と子供の問題に読者も考えさせられる。
現代特有の社会問題だよコレは。
誰にとっての世界も自分を中心に回ってるけど、自分の周りにいる人たちがいてはじめて成立する世界。
そう考えると親とか周りにいてくれる人って大切な存在だなってあらためて思えた。
次作が出るんだったら女っ気をちょっとでもいいので出してほしいなぁ(ボソッ
男くさくてもカッコいいからいいんですけどね(笑
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ツール・ド・フランスを見に行きたい!
たなかそのこ枻文庫
(2009.4/19読了)
「ツールのどこが面白いの?」
『ツール・ド・フランスを見に行きたい!』本文より
なんて質問されることがある。すると、いつも私は返答に詰まってしまう。
面白いから面白い。それだけだ。
そのただ面白い、というのがにじみ出てくるような紀行文。
フランス1周を3週間かけて周る地球上でもっとも過酷な自転車レースでお祭りでもある「ツール・ド・フランス」。
その面白さがこれを読めばよく分かる。
圧倒的なまでの自然。
文化や歴史を感じる街並み。
そして選手達によって生み出されるドラマ。
臨場感のある写真や著者によるフランス1周の旅への想いがつまりまくってました。
旅好きなら行きたくなること必至(笑
もともと自転車も好きだし、旅も好きだし、そろそろ海外も行きたいなぁと思っている矢先、しかもフランス語を勉強しはじめたときに読んだもんだからもうね(笑
いつかきっとフランスへ行ってやろ。
できればツールも見にいきたいもんです。
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邪馬台洞の研究
私立伝奇学園高等学校民俗学研究会
田中啓文講談社ノベルス
(2007.6/29読了)
「ぴったしカンカン!ちょっと待って。おかわりしてくるから」
田中啓文『邪馬台洞の研究』本文より引用
「だいじょうぶですか?そんなに食べて。明日はわんこそば大会なんでしょう?」
私立伝奇学園高等学校民俗学研究会の2巻『邪馬台洞の研究』。
神話の時代にあった出来事のような事件を解決していくシリーズ。
結局1巻と3巻読んでから、最後に読むのが2巻。
……まぁどの順番に読んでもあんまり問題ないシリーズではあるけれども(汗
しかし…
ある種の天才だな。
この作者の田中啓文は。
この本の8割はダジャレと食べ物でできている(笑
もはやそういっても過言ではない気がする。
それで物語がなりたってしまうのだから恐ろしい。
謎の解決すら(以下略
さらに面白いのはこの本が面白いことが面白い。
まったくなんで楽しめてしまうのか読んでて謎。
ダジャレが好きな人には楽しめる本かと思う。
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天岩屋戸の研究
私立伝奇学園高等学校民俗学研究会
田中啓文講談社ノベルス
(2006.11/29読了)
じょ、じょ、じょ、冗談よしもとしんきげき!
田中啓文『天岩屋戸の研究』本文より引用
伝奇学園シリーズ最終巻。
蛭子に雷獣に天岩屋戸の3本立て。
冗談とコメディがひたすら続く中、3割くらいものすごく真面目ーな話と真相が描かれるところがこのシリーズの面白いところだろうな、と思う。
同じ講談社ノベルスで言ったらQEDシリーズが近いんかな。
あっちにはこのシリーズほどのコメディなんてないけど(笑
蛭子の話がえらく楽しかった。
猟奇的で神話的でエログロ、けどオチまでがコメディなところが特に。
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ラインの虜囚
The prisoner of the Rhine
田中芳樹イラスト:鶴田謙二
ミステリーランド
(2009.2/17読了)
「わたしは爵位も領地も財産もいりません。わたしの故郷はカナダなんですから。わたしはただ、父の名誉を守りたいだけです。おわかりいただけますか?」
『ラインの虜囚』本文より引用
「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」田中芳樹による『ラインの虜囚』。
鶴田謙二イラストっていうのと田中芳樹によるフランスとドイツを舞台にした話というだけで興味を持って読んでみたのだが…
おもしろい!
ナポレオンの死後9年後にナポレオンがセントヘレナ島で死亡したというのはあくまで虚偽であり実は生きているのではないかという話。
その真偽を確かめるための少女と3人のオッサンによる冒険がはじまる。
登場人物もいろんな聞いたことのあるような人ばっかり(笑
少女コリンヌ、作家アレクに剣士のモントラシェに海賊ラフィット。
その昔、子どものときにいろんな冒険小説を読んだことがある人にはニヤニヤとできること間違いなし。
逆にこれをきっかけに中世ヨーロッパ世界に浸るもよし、多くの文学作品に興味をもつもよし。
言うなれば読書体験をさらに広げてくれる本。
そして冒険と世界史に残る謎に挑んだいい作品であると思う。
昔に読んだ本の登場人物たちと久々に再会したかのような読書体験ができた。