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猫泥棒と木曜日のキッチン

橋本紡
新潮文庫
(2008.12/18読了)

嘘を見透かされるかもしれないと思い、わたしは急に怖くなった。そして、大人がよくつくような嘘をついてしまったことを、恥ずかしく思った。『もう十七歳』なのか『まだ十七歳』なのかよくわからないけど、確かにわたしは大人になりかかっているらしい。

『猫泥棒と木曜日のキッチン』本文より

橋本紡の『猫泥棒と木曜日のキッチン』。
てっきり電撃文庫で文庫化かと思ってたら、新潮文庫から出てびっくりした。
文庫版解説は吉田伸子。

母が家出した。
でも大丈夫。
家事も選択も家のことは全部自分でしていたし、お金も自分の高校卒業くらいまではある。

そんな女の子が主人公のお話。

自分は捨てられたけれども、ひとりで弟を育てながらも生きていける。
彼女が出会う捨てられた猫たちもまた同じ。

まるで大人のように振舞う少女。
でも時折見せる年齢相応の反応がすごく愛おしく感じます。

普段は当たり前のように自分がしっかりしないといけないというスタンスなんだけれども、それって無意識的に振舞っているかのよう。
だから傍からしっかりしているけれども、もろく見えてしまう。
そんな彼女を見て傍にいてあげたいと思っている男の子もまたなんとも素敵な奴である。

少女と男の子と猫たちと。
いつか決壊しそうな場所で心を寄り添わせるようにして進んでいく物語に対して祈りたくもなってくる。
一歩間違えると心が折れそうな彼らだけに。
この子たちに幸せあれと願いたくなるような物語でした。

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半分の月がのぼる空 5
log long walking under the half-moon

橋本紡
イラスト:山本ケイジ
電撃文庫
(2005.9/21読了)

入院している少女「秋庭里香」に恋をした「戎崎裕一」。
しかし、里香はいつ死ぬか分からない病気を患っていて…。
医者の夏目に連れられて行った先の光景などに触れ、裕一は一つの決心をする。
ボーイ・ミーツ・ガール小説第5巻。
どうやらアニメ化も決まったらしい。

裕一と里香の仲がどんどん接近していく一方、確実に里香の最後は近づいてきていた。
明日か明後日か10年後か。
病状が悪化すれば即、命が危険にさらされる。
いつ死んでしまうか分からない状態。
いつか最後が訪れると分かっていても、それでも自分の気持ちに嘘はつかない。
それどころかどんな結果が待っていたとしても里香の存在を背負って行こうという決意をする。

人の存在っていうのはいつかは忘れ去られてしまうものだけど、誰かが一人だけでも覚えていればその人の存在は覚えている限りいつまでも生き続けるものなんじゃないかって読んでて思えた。

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半分の月がのぼる空 6
life goes on

橋本紡
イラスト:山本ケイジ
電撃文庫
(2006.2/17読了)

ついに里香が退院し、学校生活を送れるようになった。
なにもない、ただの日常。
その日常こそが二人の望んでいた幸せだった

半分の月がのぼる空最終巻。


一緒に学校に行って、授業を受けて、下校する。
時々ちょっとした事件があっても、なんとか解決して、新しい人間関係ができたりだとか。
そういうことすら非日常、訪れるかどうかわからない未来だった5巻までのエピローグ的な話が盛りだくさんです。

ハッピーエンドでよかった、で終わらないのがこの話でもあるのだけれど。
それでも終わりはどこかで訪れる。
その時、その後には何らかの決断をしなきゃいけない。
今すぐ、ではなくとも少しずつその時は近づいてくる。
その時が来るからこそ、その時までどう生きていくか、その後どうやって生きていくかが重要なんだろうねぇ。

どうやら半月の短編集が1冊出るようですよ。

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半分の月がのぼる空 7
another side of the moon - first quiarter

橋本紡
イラスト:山本ケイジ
電撃文庫
(2006.6/12読了)

前巻で終わりだと思ってたのに…orz
それでも何故か「7」巻なんだ(笑

短編集です。
ショートコミックなんかも入ってます。
つか中身よりも表紙にビビる。
制服かよっ。
退院後とか想像だにしなかったからなんか違和感が…

『雨』
学園祭の前編。
後編は8月発売の8巻に収録されるらしい。

なんてーか。
男ってバカだよな。
うん、分かる。
そんな時代もあったなぁ。
なにもかも懐かしい。

『気持ちの置き場所』
Σ 亜希子さんの話かっ

大人になることって何も子供の頃を忘れていく、感覚が変わっていくっていうのじゃなくて気づくことか…
だからこそかもしれないけど懐かしい友人に会っても「変わった」気がしないのはそういうことなんだろう。
この話の中でも亜希子さんは昔のまんまだし。
うーん。この短編集の中で一番この話が好きかも。

『君は猫缶を食えるかい?』
徹夜あとはなんでもできる。
できてしまう。
なんかすごいハイテンションになれたりする。
そんなナチュラルハイと裕一の家族についての過去をくっつけてしまったなんかヘンな短編。

猫缶は食えるよw

『金色の思い出』
本ってのは何かと思い出が詰まってるものだと思う。
いつ読んでたか。
誰から借りて読んだか、どういう時にもらったか、とか。
別に本に限らず色んなものに言えることだろうけど。
今回は「本」という形をとっていたわけで。

秋庭里香はすさまじいツンデレだと思わせる一編(笑

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半分の月がのぼる空 8
another side of the moon - last quiarter

橋本紡
イラスト:山本ケイジ
電撃文庫
(2006.8/10読了)

「半分の月がのぼる空」の短編集第2弾。
そして今度こそ最終巻。

ついにラスト。
メディアミックスもコミック化、アニメ化を経て次はドラマ化するらしい。

『雨』
これこそ最終話。
7巻に載っている前半部分の続きです。
学園祭、秋庭里香は演劇で主役の代役として出ることに。

ハッピーエンドーー。
ああもうっ。
お幸せに。
最後までこの二人はいつもどおり。
でもそれが実現できてるってのがいいよな。
途中の巻まではこんな幸せな展開は望めないかもしれないって思ってたし。

なんていうか高校生っていいよな。

『蜻蛉』
太平洋戦争とすさまじく大盛りの定食を食うじいさんと、裕一の夢についての話。

夢ってなんだろか。
そんなことを思うこともこの主人公たちと同時期にあったような気がする。
別に明確に持ってなくてもいい。
なんとなくでも見つけられた瞬間にそこに向かって走ればいいものかもしれない。

しかし、裕一は適当だなぁ(笑

『私立若葉病院猥画騒動顛末』
伝説的エロ本を多大に所有している多田さんのコレクションを守ろうとする患者側とそんなものはなんとしても処分しようとする病院側の戦争。

バカだなぁ。
とてつもなくバカ。
だが、それがなんともおもしろい

『君の夏、過ぎ去って』
裕一と出会う前の里香の話。

もし、半月がハッピーエンドな話ではなかったら。
多分この短編はとてつもなくやりきれない話だったように思う。

描かれていない半月の将来において、きっと裕一は里香の夢を叶えたんだろうなぁ。

 

5巻くらいで投げ出さなくてよかった。
ラストまでつきあって本当によかったなぁと思える。

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流れ星が消えないうちに
Before shooting stars fade out

橋本紡
新潮文庫
(2008.9/14読了)

加持君は死んでしまったけれど、否応なしに、いろんなものをわたしたちの中に遺していったのだ……。

『流れ星が消えないうちに』本文より

橋本紡の『流れ星が消えないうちに』。
文庫版解説は重松清。

恋人の加持君が異国の地で死に、悲しみの中にいる奈緒子。
その奈緒子に手を差し伸べる加持君の親友である巧。

残されたふたりの切ない恋愛をつづった作品。

悲しみの中でふたりはなにと向き合うのか。
単純に死を乗り越え、そして恋愛はうまくいきハッピーエンド。
ことはそんな単純なものではないし、そういうありきたりなものは描かれなかった。

いやいや、恋愛どうこうよりも「生きること」について描かれた小説であると思う。

加持君という死んだ彼氏を挟んだ三角関係も実に魅力的に描かれる。
過去の幸せな日々と現在を対比しながら物語は進んでいく。
ふたりにとって絶対に忘れられない存在である加持君。
だからこそ、関係は空転していくわけだけど…

また、現実の中で家出してきた奈緒子の父親、その父親をおいかけてきた妹。
巧の先輩が進む無謀な道。
彼らの周りの人の行動や考え方からもいろいろと考えさせられるものがあった。

加持君という今は亡き存在が重要なキーとなる本筋の外側で、また別の形の喪失や空虚さを描きだし、本筋にかすりながら進んでいく外側の物語。

どれだけ緻密に伏線を物語を構成してるんだ…
この外側があってこそのこの小説だよなぁ。

決してすべてがスッキリ終わるわけではない。
けれども。
「何か」を感じずにはいられない小説だよなぁ。

読後の余韻に浸りまくりました。

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曙光の誓い

花田一三六
イラスト:金田螢路
Cノベルス
(2008.11/24読了)

―ショータロを見ろ。
どんどん変わっていくぞ。
内なる叫びにも従えず、目を伏せてしまう。繰り返される問いに耳を塞ぎたくなる衝動だけは、なんとか堪える。
―あたしは、どうする?

『曙光の誓い』本文より

花田一三六の『曙光の誓い』。
この著者の本は思えば『黎明の双星』以来かも。

12歳の少年は親と引き離され、遊牧民の民とともにいた。
そこで出会う笑わない少女。
そして彼らに伝わる伝説を追う。

『黎明の双星』の印象が強かったので、ここまでの王道の少年の成長モノのファンタジーを読むことになるとは。
てっきりまた暗い内容のものかと。

少年と少女の出会いもあり、伝説の宝探しや、遊牧民の仲間達の絆あり。

舞台がモンゴルを思わせる壮大に広がる草原だけになんだか随分とのびのびした世界観に感じた。
ってかこれ巻末の参考文献を考えてもモンゴルだよな(笑
そしてなによりも、少年から大人へと成長するかのようなカッコよさがなんともよかった。
少年と対比するかのように一歩を踏み出せない笑顔を忘れた少女の葛藤もたまらんです。

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赤い夢の迷宮

勇嶺薫
講談社ノベルス
(2007.7/9読了)

わしも歳を取り、残り時間が少なくなってきている。となると、一番やりたいことをやらないとな……。

『赤い夢の迷宮』本文より

はやみねかおるの、いや、勇嶺薫(はやみねかおる)の『赤い夢の迷宮』。

はやみねかおるは児童ミステリ向け名義。
勇嶺薫は大人向けの名義。

ついに大人に向けた"勇嶺薫"のミステリが読めた。

仲良し7人組。
いつも一緒に遊んでいた。
彼ら7人には40代の共通の友人"OG"がいた。
彼は子供たちに遊びの楽しさを教えた。
けれども子供には教えてはいけない危険なことや知識欲や好奇心を満たすものを教えたために親たちからはOGには会ってはいけないと禁止された。

楽しかった子供時代から25年。
彼らはOGによって開かれた同窓会に参加することに。

 

おもしろかった。

序盤の子供たちの現在と昔とを比べられて、こうやって人って少しずつ変わっていくよなぁと思いながら読み進めてた。

小学生だった主人公たちも30代。
もう子供と呼べる年齢じゃない。
昔ながらの面影を残しつつも、それでも世間から見て誰もが言う「幸せな家庭」を演出してたり、なにかというと「昔は~」と懐古したり。

実際彼らの言っていることも行動も分からなくはないんだけど、こう文章で見るとなんかイヤなもんだ(笑

それでも昔の仲間が集まったら昔の空気を感じて楽しかったり、少しの違和感が過ぎた年月を思い出させてくれたり。

という序盤の展開だけで引き込まれてあんな事件だもんなぁ。

「終幕」以降の展開にいい脱力感を感じられた。
???とこれはどういうことだと思いながら読み進めて「ENDING」で納得。
途中までこんなふうに終わるんかなーという期待を見事に裏切られた。

序盤から張られた伏線といい、ミスリードといいうまいこと騙された(笑

このまま勇嶺薫の名義でも次々と出してもらいたいなと思える作品でした。

以下ネタバレありの感想


OGに見事に騙された。
序盤からしっかりと土地を買って、準備をしてるし。

それになによりも彼の信念、一種の残虐性ですらも楽しめるという欲求があの歳になっても子供のように楽しんでいるという点がよかった。
普通そうは思わないって。

……でもよく考えると子供の時には「大人になったら~」と考えたもの。
かといって今の自分は大人だろうかと考えると、子供とそんなに変わらないんじゃないのと思える。
子供の頃からずっと好きなものなんていくらでもあるし。
そう考えると老人になっても個人は変わらないものなのかもしれない。

その一種の変わらなさを誰もが貫き通しているということがそこかしこに描かれていた。
殺人鬼にしてもウガッコにしても。
だから余計にOGの変わらないことも気づきにくくなってたのかもなぁ。

「終幕」での一転してすべては悪い夢という展開からさらに真実が一転した「ENDING」の展開が特にこの本では好き。

「虹北恭助」などもそこそこに楽しんでたんだけども、勇嶺薫への期待がかなり高まった1作だった。

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虹北恭介の新・新冒険

はやみねかおる
講談社ノベルス
(2005.12/22読了)

児童向けミステリ作家のはやみねかおるによる虹北恭介シリーズ第3弾。

『春色幻想』
響子と恭介の間では同級生のガキ大将的存在であるの鉄也の印象はあまりに違っていた。
なぜ鉄也は響子の目からはそう見えてしまっていたのか。

いたよなぁこういう奴。
恐がられたりしてもなんにも気にせず、けれどもよくよく見てみるとすごくいい奴だったり。

『殺鯉事件』
映画を撮るために鯉は殺されてしまったのか。
この殺鯉は演出か、それとも……。

タイトルの元ネタは殺竜事件かぁぁ。
これを読んでいるあたりから「実は虹北シリーズの主役って若旦那たち映画仲間ではなかろうか」とか思ってしまった。

『聖降誕祭』
ウサギのサンタさんを病院で見せたのは一体誰だったのか。
そしてウサギのサンタとは一体何なのか!?

心温まるストーリーですなぁ。
はやみねかおるはほんわかしながら読めるので結構好き。

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僕と先輩のマジカル・ライフ
The magical life of mine and a senior

はやみねかおる
イラスト:ゴツボ・リュウジ
角川文庫
(2008.11/23読了)

毎日を後悔することなく、一生懸命生きているぼくだが、もし時間を巻き戻せるのなら、もう一度、このシーンからやり直したいと思う。
そう、ぼくは今川寮に近づくべきじゃなかったんだ……。そうしたら、あの人に合うこともなく、ぼくの学生生活もまったく違ったものになったことだろう。

『僕と先輩のマジカル・ライフ』本文より

はやみねかおるの『僕と先輩のマジカル・ライフ』。
誕生日に読むべきはどの本かなぁと思っていたら、ふと目がついたのでこの本にしてみた。

怪しげな寮の住人達の中でももっともおかしな「先輩」に「あやかし研究会」に入れられた主人公。
身近に起きる怪異を研究するのだが、別に集まるわけでもなにをするわけでもない。
実に「謎」な研究会。

真面目が服を着て歩いているような「僕」と幼馴染、そして先輩たちのおかしな行動がなんともおかしく、でもどこかリアルを感じざるを得ない(笑
いるんだよなぁ。
大学って変な人いるもんなぁ。
そういう奴らとバカやる大学生活って面白いもんです。

そんな大学生活の楽しさってのを思い出させてくれた。

さて、本編の「怪異」を解いていくミステリなのだが、これもまた面白い。
日常の謎というジャンルではあろうかと思うんだけども、それと怪異・幽霊と結びつけながらも思わず唸らせてくれるような解答を出してくる。
さらには読後感までしっかり与えてくれるときたもんだ。
なぜ特定の場所で交通事故が起きるのか、という地縛霊の話は地味にキた。

前々からはやみねかおるの語り口って面白いよなぁ、とは感じていたけれどもやっぱり面白い。
個人的に短編も大好きなんだけど、そろそろはやみねかおるによるガッチガチの本格ミステリが読んでみたいもんです。
そしてこの「僕と先輩」の話は非常に楽しかったので是非続刊が読みたいです!

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平成トム・ソーヤー

原田宗典
集英社文庫
(2008.10/31読了)

「私すごく好きなの。子供の頃からずっと、こういう男の子に憧れてたの。トム・ソーヤーみたいな子に手を引かれて、どこか遠くに行っちゃいたいって、ずうっと思ってたの。ヘン?」

『平成トム・ソーヤー』本文より

原田宗典の『平成トム・ソーヤー』。
ヤングガンガンで連載され全7巻で完結した『戦線スパイクヒルズ』の原作。

ノムラの手にはスリの才能があった。
彼と同級生のスウガク、女子高生キクチの三人は大学入試の問題用紙を盗むため、ヤクザから盗む計略をたてていく。

親から課せられる将来への期待。
なにも変わらない平穏な学校生活。
将来に別にやりたいことがあるわけでもない。

そんな3人が集まって、なにかをやりとげようと絆を深めていく。
その中には色んな葛藤もあるし、なんせ主人公の特技はスリ。
もちろん健全に社会を生きているわけではない。

例えばクスリやSEX、盗聴にetc
一歩どこかに踏み出してまるで違う異世界を冒険をしているかのよう。
でもそこは今までと違った世界。

その現実社会からの開放感を一緒に共有できる仲間。
どちらかというとダークサイドな場所での冒険なんだけれども、彼らの計略のあとに待っているラストにはハッとさせられた。

この本が書かれた92年ごろにはもちろん携帯なんてない。
もちろんネットもない。
窮屈な日常に気づいてしまうと、とたんに周りとの疎外感が出てくる。
でも助けは呼べない。
世間ではいい大学に行っていい会社に行ってというのが叫ばれていた。
まぁバブルのあとだからなおさらだろう。
だから親も必死になる。

そんな窮屈な世界からの脱却。
そこで見た新たな光景やあらためて気づく大切なものとの出会い。

そういった目に見えない「大切なこと」を探す旅路のような本でした。

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