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ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!

深水黎一郎
講談社ノベルス
(2007.1/4読了)

私の考案したアイディアを正しく使えば、本当に《読者が犯人》というミステリーが成立するのです。

『ウルチモ・トルッコ』本文より

第36回メフィスト賞受賞作『ウルチモ・トルッコ』。

まさに「読者が犯人」の小説。

小説家の元にくる一通の手紙。
そこには「《読書が犯人》のトリックを教える。その代わりに一億円を要求する」という内容のことが書かれていた。

 

読み終わった。
この本については一言以外言うことはない。

 

確かにこのトリックが成立するならばオレが犯人だ…

 

表紙の反射する素材の部分に犯人である読者の顔が写るといった効果も素敵な装丁。

 

ちょっと以下で考察(ネタバレあり


新聞の読者、またはその新聞の連載がまとまったこの本の読者こそが犯人。

どうなのだろうか。
すでに死んでいるはずの人間を殺したといえるのか。

読まれることにこそ心理的な苦痛を覚える被害者にとって、未来に読まれると考えられること、そして実際に文章を読まれることも苦痛といえるのではないか。
未来からの苦痛。

それも考えられるなら十分読者が犯人で凶器であるって考えてもいいんじゃないかなぁ。

超能力というものが実際にないと言い切れない世界を本の中で描いたことによって、この被害者のような特異な体質もないとはいい切れないものだとしてるからこれはフェアなんじゃないかなぁ。

まぁなにはどうあれ楽しく読めたのでとっても満足。

こういうものに挑戦するのがメフィスト賞だよなぁ。

35回36回と面白いものが続いたんで次も期待。

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エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ
Un meurtre de l'Ecole de Paris

深水黎一郎
講談社ノベルス
(2008.2/21読了)

つまり栄光に満ち、天寿を全うした芸術家の作品は、大抵の場合死後その評価を下げるが、不幸のうちに夭折した芸術家の作品は、むしろ逆に死後その評価を高める傾向にあるということである。まるで実人生における不幸こそが、芸術を完成させるという共同幻想に、人類全体が取り憑かれているかのように――。

『エコール・ド・パリ殺人事件』本文より

深水黎一郎の第2作目『エコール・ド・パリ殺人事件』。
ウルチモ・トルッコに出てきた登場人物も出てきてます。

「エコール・ド・パリ」。
一言では言い表せないが、まぁ第一次世界大戦あたりにパリで活躍した芸術家。
その大半が不幸な芸術家である、というくらいに考えた方がいいんだろうな…。

そこらへんの絵画事情は読んで興味は沸いたけどまだ分からないことだらけ。
一つの絵画を知るための指針のようなものはこの本からもらったような気もする。

さて、ミステリとしてのこの本について。

前作と同じように読者への挑戦状付。
やっぱり前作同様しっかりミステリをしていたと思う。

密室殺人事件、それは自殺かそれとも他殺なのか。

ミステリの中でも使い古されてるけれども、未だに誰もが興味を惹かれる内容からはじまり、「エコール・ド・パリ」というこの本のテーマと関わりが出てくる。

その密室殺人の方法についても驚けた。
この本に挿入される被害者の「エコール・ド・パリ」に関しての本の中の内容も専門的ながらも興味が惹かれることもさることながら、事件とのかかわりがなんとももう素晴らしい。

確実に事件とかかわりがあるんだろうなと思って読んでいたけれどもまさか…

前作『ウルチモ・トルッコ』のラストにも唸らされたけれども、今回の内容も素敵でした。

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トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ
Questo p il bacio di Tosca

深水黎一郎
講談社ノベルス
(2008.9/10読了)

「おい! 何でお前がここにいるんだ?」
海埜は戸惑いながら言った。
「何でって、これだけのメンバーが揃った公演、僕が見に来ていなかったら逆におかしいでしょう?」

『トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ』本文より

究極のヒマ人で芸術を愛してやまない瞬一郎と海埜刑事が活躍するシリーズ。

今回はプッチーニ作曲の『トスカ』が事件の舞台。
まさに「事件の舞台」だ(笑

歌劇『トスカ』の上演中に殺人事件が発生。
なにものかによってナイフが小道具から本物にすり替えられ、ナイフを刺される役の男性俳優が殺される。

誰がどうやって。

『トスカ』という歌劇を読み解き、様々な仮説を飛び交わし、そして最後には事件をしっかりと収束させていく。

伏線が伏線を呼び込み、複雑化するものの、本1冊に描かれた要素を使い果たして解決するのは圧巻。

ってかまたかよ!
前作もそんな感じだったが、今回も見事としかいいようがない。

あんな伏線が活きてくるなんて思わなかったし、誰もそんなのわかんねーよ、という部分もよく考えたら序盤でそういや記述があったよなと思ったり。

舞台芸術や『トスカ』という作品の薀蓄も興味深く読めるのだけれども、ミステリとしても十分楽しく読めた。
トスカ自体を知らなかったのだけれども、まったく知らなくても問題なかった。
それどころかこれを読むとものすごく興味沸くんですけど(笑

ちょうど先日「オペラ座の怪人」を見てきたところなので、舞台に関するいろんな舞台裏での苦労、オペラの演出のルールなどの話も出てきていて、非常にためになった。
舞台に対する見方も随分変わったかもしれない。

読んだタイミングといい、内容といい、非常に満足です。

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6ステイン
Traces of 6 Stains

福井晴敏
講談社文庫
(2008.7/25読了)

だからさ……。つまんないところで足踏みして、自分ばっかり痛めつけるような、そんな哀しい真似すんなよ。過去がどうだろうと、この先なにがあろうと……。

『6ステイン』収録『920を待ちながら』本文より

文庫版の解説は『バッテリー』などのあさのあつこ。

地味だ。
だけど地味に心の奥に響いてくる作品たちだった…。

誰もが特殊な人生を歩んでいる。
それは『亡国のイージス』や『ローレライ』に近いような特殊な環境。

けれども彼らは本質的に人間で、常になにかと戦っている。
その戦いの葛藤が誰にでも共感できるかのような描き方をされている。
だからその戦い、そしてなにかを模索し続ける様がひどくカッコよく思えて心に響いてくる。

ただカッコイイというんじゃない。
そんなヒーローみたいな感じじゃなくて、むしろ諦めずに戦い続けた人たちの記録のような感じだ。

そうやって諦めずに日々を生きている、生きようとしている人にはもうたまんないような本じゃないだろうかと思う。

【収録話】
・「いまできる最善のこと」
・「畳算」
・「サクラ」
・「媽媽」
・「断ち切る」
・「920を待ちながら」

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テアトル東向島アカデミー賞
THEATRE HIGASHI-MUKOUJIMA ACADEMY AWARDS

福井晴敏
イラスト:美川べるの
集英社文庫
小説すばる連載
(2007.4/1読了)

本書は、いわゆる映画評論の本ではない。映画エッセイでもない。映画に事寄せたる男の日記である。

『テアトル東向島アカデミー賞』本文より

福井晴敏の「テアトル東向島アカデミー賞」。

帯に惹かれて購入

その内容:
「あんたのカレシだって本当はこういう映画を観たがっているンだから」

さらに裏の本の説明:
「著者の脳内で毎年行われる妄想映画祭。受賞作は血をかきたてる爆発アクション、スペクタクルが中心で、使用された火薬量とアドレナリン分泌量が評価の重要基準となる。」

(゚∀゚)

イイ!
ってかなんだコレはっ!(笑

目次を見る。

なんだこのラインナップは(゚∀゚)
初っ端に「ダイハード」「エイリアン2」。
かと思いきや「機動警察パトレイバー2」に「チームアメリカ」!。
「バットマンリターンズ」に「ニキータ」。

「ニキータ」って(笑
「レオン」でも「アサシン」でもなくてあえて「ニキータ」かよwww

分かる。
それを選ぶのはよく分かる。

確かに「レオン」は説明過多だし、「アサシン」はリュック・ベッソンさってのが足りない気がしなくもない。

そんな「あー、なるほど」と思えるものばっかりでもなく、「耳をすませば」や「ダンス・ウィズ・ウルブズ」まで。

男の子が好きそうな爆薬とか孤高とか生き様とか、そんなんばっかかと思ってたらそうでもない模様。

誰だよ、こんなの書いたの!?

と表紙に戻ったら「福井晴敏」だった。

福井晴敏といえば「亡国のイージス」や「ローレライ」で有名な作家である。
けれどもこの作家で好きなのは「川の深さは」なのだが、この作品自体を知ってる人がほぼいないのが現状。
残念。
故、野沢尚氏の「破線のマリス」と乱歩賞を競った名作なんだけどなぁ。

まぁ、ラインナップの面白さで衝動買い。

読む。

前書きの「ご婦人方には、世の男性が本当に好きな映画はこういう作品群なのだよとお教えしたい」という一文で爆笑。
確かにそうだ。
間違ってるとはあえて言わない。
そりゃ女性から「なにか面白い映画ない?」と聞かれたらこの本に挙げられているような映画はなかなか薦めにくい映画ばっかりが書かれている。
薦めてもなにか受けそうな部分を見つけてその部分をプッシュするなぁ。

この本で選ばれている映画基準ってのは以下のようなものである。

例えばスターウォーズの面白さを教えてくれ、と言われたとしよう。
そしたら

神話のように一度死に、そして再びよみがえるような過程やそれを導く存在があったりとか、いろんな物語の典型要素をうまいこと組み合わせてるあたりが見事だよね。

なんていうふうに答える。
そういっておけば「ふーん」と納得されるわけだ。
それに好きな映画だからいくらでも語れる。

けれども

ライトセイバーで斬りあいながら本音をさらけだすところに激しく燃え、とか宇宙での戦闘がもうカッコよくて仕方ないヽ(´ー`)ノ

そんな本音の一つはご婦人方にはとてもじゃないが言えない。
つか言わない。
引かれること間違いなし。
なにコイツの精神年齢おかしいんじゃね。
そう言われること間違いナシである。

しかし、そんな人に言いにくいが大好きだという熱い想いを福井晴敏は延々と文庫1冊分語ってくれた。

ものすんごいおもしろかった。
この人のおもしろいと思う基準も一貫してたし、納得できる部分もそれなりにあった。
さすがは小説家で映画の制作者の一人である。
確かに爆薬なども判断基準になっていた。
燃える展開や人物、それもそうだった。
それだけではなく、その映画に対する制作者たちの愛情までも感じ取ったりしながらも評価していた。

いやいや、それはさすがに違うだろーという相違点も多々あったのは映画好きゆえにだろう。

 

果たしてこの本が女性に受け入れられるのかは分からないが、映画が好きだーという方は読んでみたら面白い読み物かもしれない。

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上海哀儚 -BLOOD THE LAST VAMPIRE-

藤咲淳一
角川ホラー文庫
(2006.6/17読了)

映画『BLOOD THE LAST VAMPIRE』のスピンオフ小説。
作者は『BLOOD+』の監督。

1989年の事件。
そして1931年の上海で起こった事件が交錯していく。

1931年中国といえば第二次世界大戦中下。
抗日が叫ばれていた時代。

『BLOOD』といえばベトナム戦争をはじめ日本に留まらず世界各地を舞台にすることで伝えるべきものを伝えている物語だと思う。
どの時代にもなんらかの事件があれば、それに巻き込まれる人がいる。
そしてその人たちのことは後世へと伝えなければ、また同じ過ちを人は犯してしまうかもしれない。

今回の中国上海を舞台にした話もそんな感じに受け取りました。

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隻手の声 -鬼籍通覧-

椹野道流
講談社ノベルス
(2008.6/26再読)

「結局、すげえ頑張ってる自分を見せることが、あの人なりの子育てだったんだろうなって、思えるようになった。料理するより、一緒に遊ぶより、自分の生き様を見せることで、俺に何かを教えてきたんじゃねえかなって。あ、何かクサイな」

『隻手の声』本文より

鬼籍通覧4冊目『隻手の声』を再読。

親と子の関係を法医学の立場から見つめる話。

インターネットのMMORPGで毎日何時間も遊ぶ子とゲーム内で知り合った伊月。
彼女と仲良くなるにつれて、彼女の家の複雑な事情が次第に明らかになっていく。

インターネット社会における問題点。
逆にインターネットの中でだからこそできる利点。

ネット社会の光と影をインターネットのゲーム初体験の伊月の目を通して語られる。
それが新鮮に見えて、それでいてあらためて考えさせられる。

それに加えて現代社会の中で起こるいくつもの親と子の事件。
この本が出てから何年も経っているけれども、いまだにいくつもの事件が起こっている。

親と子ってどう接すればいいのか。
子供にとっての家庭ってなんなのか。

それがこの本の中で語られていくわけだけれども、なにかもやもやしていることを登場人物たちがスパッと言ってくれた。
そんな気がした。

本筋の中の一つに家庭というのがあった。
家庭の事情なんて物事は複雑かもしれない。
人間には声がある。
片方だけの声だとどうにもならないかもしれないけど、お互いに向かい合えば声はお互いに届く。
そんな風に単純なことなのかもなーとちょっと思わされた。

と書いてみて思った。
これもこれで「隻手の声」の意味っぽいな(笑

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禅定の弓 -鬼籍通覧-

椹野道流
講談社ノベルス
(2006.1/30読了)

いつものようにO医科大学法医学教室に運び込まれる死体。
今回は老人の焼死体。
しかし、老人の死体は殺されてから火に巻き込まれたようだった。
そして現場の近くに落ちていたピンバッジの謎とは!?

鬼籍通覧最新刊です
ということはここ1年半の間はひたすら文庫化だったのかよっ(笑

感想

いつものようにミステリというよりは法医学を通してみる社会的な問題。
今回もご多分に漏れずある現代社会の問題を突いて来ています。

受験を控えた子供たちっていったい何をして遊んでいるんでしょうか。
受験に合格することを目指して邁進する。
テレビもラジオもためになるものしか聞かないという状態になった場合はいったい何に対して楽しみを見出せばいいんだろう。
勉強が楽しかったらそれでもいいけれども、受験後も続けられるのかどうか。
続けられるのであれば一種の天職へと近づいたとも言えるのだろうけど。

それよりも楽しんでいるのは本当は親の方なのかもしれない。
子供の成長をすぐ近くで目に見える形で見ることができるし、一緒に「夢」を追うという幻想すら抱くことができる。
それに趣味といっても過言ではないもののようにも見えてしまうし。

子供と親が一緒の時間を楽しく、分かり合い、時に喧嘩もするけれどもお互い許しあい認め合い、そんな昔から続いてきた親子の関係というのはこういった受験という子供にとってつらいだろうとしか見えないイベントでしか分かち合えないんだろうか

今回も重い内容ながら考えさせてくれるものでした...

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亡羊の嘆 -鬼籍通覧-

椹野道流
講談社ノベルス
(2008.6/13読了)

どんな人間にでも、多かれ少なかれ裏表はあるもんだし。公共の場でどんなに『いい人、普通の人』でも、自宅の扉を閉めた瞬間からの姿がどんな風かは、誰にも分からないわ。

『亡羊の嘆』本文より

鬼籍通覧シリーズ6冊目『亡羊の嘆』。
うわー、もう随分久しぶりなんじゃないだろうか。
舞台が地元ということもあり好きなシリーズです。
そしてサイン会が非常に楽しみでございます。

さて6冊目。
懐かしい面々と再会したような感覚と同時に、いつどこで起きてもおかしくない舞台設定が目を引く内容でした。

料理研究家が惨殺されたことを発端に、引きこもりの『完全自殺マニュアル』を利用した自殺事件、ネット社会が現実に及ぼす暗い影。

いままさに現実社会で起きている、または起きてもおかしくないと思える。
そういったことに対して法医学教室的な意見、また事件の外側から事件の真相を知った上でこの現実をどう感じたかという意見に対してはおおむね同意。

むしろよく言ってくれたとすら思えた。

読んでいて思ったのが、やっぱりこのシリーズの事件が進む本編と幕間の「飯食う人々」で語られる素直な人間としての感覚の緩急のつけかたが好きだ。
ホントいわゆる探偵や警察ものではなく法医学という特殊な環境にいながらも、かなり一般に近い客観的視点で事件を語ってくれるというスタイルはどこか「ハッ」とさせられるところがあると思えます。

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レジンキャストミルク 1

藤原祐
イラスト:椋本夏夜
電撃文庫
(2006.6/23読了)

『ルナティック・ムーン』の作者の新シリーズ第1弾。

何らかの『欠落』を代償に力を得、『欠落』の向こう側から侵食してくる者たちとの戦いの記録。

というあらすじ。
…だと思う。

学園生活の中で繰り広げられる異形な力の戦いは一体なんであるのか。
『欠落』とは何か。
普通と個性を見分ける差、のような気がするなぁ。この世界では。
個性=欠落を持つということは自分自身に気づくこと。
自己のアイデンティティの確立により自分って一体何なんだ、と投げかける。

そういえば中学とか高校の頃ってよく考えたなぁ。
自分だけは周りの"普通"とは違うものでありたい、というような。
ライトノベルの主読者がこういった話を求めているのかも。

日常シーンのなんと楽しいことか。
若いっていいよな orz

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レジンキャストミルク 2

藤原祐
イラスト:椋本夏夜
電撃文庫
(2006.6/23読了)

レジンキャストミルク第2巻。
英語で書くと「Resin cast milk」。
"虚軸(キャスト)"という能力を現出させる、というような意味かな。

"学校"という閉じた世界の中での異能力者たちの戦い。
戦いで消え去った者に関する記憶は"世界"からなかったことに修正されてしまう。
そしてその"敵"は外から、もしくは中に存在している。

うーむ
なんとも完璧な"閉じた世界"だなぁ。

この巻以降の展開は、いかに硝子がプログラムに近い存在から感情というものを獲得するか。

…「I, Robot」っぽくなってしまうのだろうか(笑

日常のほのぼのシーンはもはや文句なし。
「プリンパフェアイスクリーム」のプリン部分を食べたあとのやりとりとか好き
なんだありゃ(笑

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レジンキャストミルク 3

藤原祐
イラスト:椋本夏夜
電撃文庫
(2006.6/24読了)

レジンキャストミルク3巻目。
4巻に続くという形に続くという形なので3番目の話の上巻。

1~2巻に続いて3巻目もエピローグからスタート。
いきなりかなーり衝撃的な内容。
しかしエピローグ直前の話は4巻に収録されているので一体なにが起こったんだっ。

ほのぼのパートでは進路相談。
自分が一体なにがやりたいのか。
大学に進学するって一体なんなのか、就職するってどういうことなのか。
…高校の頃はほいほい周りが大学に行くのが当たり前という雰囲気だったから就職というのは考えられなかったなぁ。

しかし…養ってください、て。
確かにマスターとそれに準じる機械(?)ではあるんだろうけどw

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レジンキャストミルク 4

藤原祐
イラスト:椋本夏夜
電撃文庫
(2006.6/25読了)

レジンキャストミルク4巻。
3巻の続き。
ってか3巻読まないとさっぱりわけがわからない。
3巻のあらすじを簡単に説明したコミックがついてるけど、それで分かればある意味神かも(笑

3~4巻にかけて描かれていたのはいわゆる「親と子」のことのような気がする。
子供は親の影響を受けて育つ。
けれども親にとっては無意識的に与えている影響は沢山あるわけで。
そして親が子に対して愛情をうまいこと与えられなかった場合の悲劇がこの3~4巻の話だよなぁ。

君子しかり別保しかり。

エターナル・アイドルの真の目的はどこにあるのだろうか。
ラストにおおきな伏線が残ったなぁ。

 

RCMの5巻は秋ごろ予定らしいです。

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レジンキャストミルク 5

藤原祐
イラスト:椋本夏夜
電撃文庫
(2006.10/23読了)

私たちはね……変わりつつあるんじゃない。終わりつつあるんだよ

『レジンキャストミルク 5』本文より

レジンキャストミルクの5巻目。

絵師が同じ人のスニーカー文庫「ADD」と内容が微妙に似てきている気がするのは気のせいか。

帯の「マスター……”好き”って何なのでしょう?」というところから予想はしてたけどっっ
予想通りというかなんというか。
感情が芽生えていく様がGOOOOD!
でも最終的なきっかけのシーンにはげんなり…
ちょっとあーゆーのは苦手だ

大きく物語の流れが変わったことだし、さて次はどうなることやら。

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レジンキャストミルク 6

藤原祐
イラスト:椋本夏夜
電撃文庫
(2007.3/15読了)

「お前さ、まさか自分を取り巻く周りのものだけが世界だとでも思ってるのか?」
「たかだか歩いて数キロの距離が世界だって? そんな訳はないよ」
「そもそもお前、世界の中心にいないし、世界の中心でもないだろ」
「お前の世界なんて崩れようが壊れようが世界には影響を及ぼさないよ?」

『レジンキャストミルク 6』本文より

レジンキャストミルク6巻。
壊れつつある世界についにやってくる晶の父親。
彼は晶を「失敗作」であると告げる。

ようやく本編で聞きたい言葉を聞けた気がする。
なぜ、学校という狭い舞台が「世界の全て」かのような描かれ方をしていたのか、
そもそも現実と虚構はどっちだ?
現実と思えるところがどうしても虚構のように思えてた。

もしかしたらものすごく逆説的な書き方をしてるのかもしれないな、このシリーズは…

 

あーあ
ついにあの主役二人が認めちゃったよ orz
なんだこのある意味「死亡フラグ」とか「完結フラグ」のような気がしてならない(笑

はじめての夜のシーンが笑えるのはきっとレジミルだからに違いないw

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レジンキャストミルク 7

藤原祐
イラスト:椋本夏夜
電撃文庫
(2007.7/13読了)

箱庭の出来損ないが、歪で醜い樹脂象り(レジンキャスト)の僕らが……現実の本物を駆逐してやるよ!

『レジンキャストミルク 7』本文より

次でいよいよ最終巻。

自分が本物/偽者であるという葛藤=自分は一体何者なのか。
そもそも今いる場所はどこで自分はここにいるべきでないんじゃないのか、またはいてもいいのか。

あらためて考えてみるとこのレジンキャストミルクの一つのテーマはやけに重いし現実的だよなぁ。
でも、ライトノベルというジャンルだからこそ一番共感しやすい年代の人が多く読んでいるんじゃなかろーか。

本編はいくら重かろうとも、椋本夏夜によるショートコミックは萌え満載で万歳
⊂⌒~⊃。Д。)⊃
殊子のやり口おそるべし(笑
本人の恥ずかしい写真がなければ作ればいいじゃないということか。

さりげなくおいしいところをすべて持っていった硝子はさらにやり手だな。

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レジンキャストミルク 8

藤原祐
イラスト:椋本夏夜
電撃文庫
(2007.10/28読了)

「マスター」硝子が僕の手を握った。
「行きましょう」
「ああ」心残りはある。
でも、だからこそ―残り物を拾いに、帰ってこよう。
僕らは、歩き始めた。

『レジンキャストミルク 8』本文より

もはやラストバトル前の会話に長々としたものはいらない。
それどころか、行間が読めまくりの濃すぎる会話だな…

「レジンキャストミルク」最終巻。
自分自身の存在を賭けたラストバトルのはじまり。
そして終わり。

自己証明ほど難しい定義づけはないが、果たして自分が存在しない世界とはどのようなものか。
大事な人が消えても自分以外は何も変わらない世界とは。

最後まで読み終わって見ると、この「レジンキャストミルク」はそんな「存在」をテーマにした物語だったと思う。
自分がこの世界に適合しているか否か、正しく人であるのか。
そんなことも全てひっくるめて、自分は自分であり他の何者でもない。

そういうことをこの物語は言ってるんじゃないかなーと思えた。

残り1冊このシリーズで出るらしいけど、この最終巻の後の世界もちょこっと見てみたいなと思う。
あのラストのあとに晶はどう生きているのかってのは気になる(笑

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れじみる。

藤原祐
イラスト:椋本夏夜
電撃文庫
電撃hp連載
(2007.2/8読了)

「私の見たウェブサイトではぽよよんのぱややんな人がこの白スクールを着ていたのに……」
「だからそもそもお前が見たサイトが甚だしく間違ってる……」

『れじみる。』本文より

レジンキャストミルクの短編集「れじみる。」。

ネコミミでウサミミで浴衣で白スクで遊園地の短編集だった。
(どんな感想だソレ!

各キャラクターに焦点を当てた短編と椋本夏夜によるコミックがところどころに挿入されるという、なんか豪華仕様な本だった。

しかも細部まで本のつくりが凝ってるし(笑

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天帝のはしたなき果実
The Keisoukan Murder Case

古野まほろ
講談社ノベルス
(2007.1/17読了)

本当だったんだ。言葉のちからが消えたときこの世を統べるもの、それは音楽のちからだって。本当だったんだ。僕は背筋の震えとともに、右眼から涙がおちるのを感じた。

『天帝のはしたなき果実』

第35回メフィスト賞受賞作品。

あぁ。
すごいものが読めた。

まるで知の結晶のような本だった。

ルビがたくさん振ってあった。
英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語。
その時々の微妙なニュアンスでどの言語が一番相応であるのかを選んでのことなのかもしれない。
もはや言語の壁なんてこの本の中には存在しなかった。

文学、数学、歴史、科学、地学、神話。
この本にはありとあらゆる知識が平然と話されていた。
読んでてすごい甘美だ。
決して専門的すぎるというわけではない。
当たり前のことをすべて理解しているという異常な登場人物ばかり。
分からないこともそりゃ沢山あった。
それでも全然、苦ではなかった。
読むのがえらく楽しかった。
最後の参考文献を読んで納得した。
この作者すげぇよ。

そして肝心の探偵小説としても当然なりたっていたと思う。

これらのありとあらゆるものを語り尽くすことが出来たのもきっと世界観なのだろう。
現在ではない。
微妙に歪んでいる日本。
その歪みこそが、この世界を成立させている。
そんな気がする。

35回目のメフィスト賞にて、なんかすごいのが出てきた。
そう思えてならない…

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天帝のつかわせる御矢
The SuperExpress Asia Murder Case

古野まほろ
表紙イラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2007.6/16読了)

気持ちよく乾いた空気に絶好の眺望。『東洋のウンターデンリンデン』。東満州(満州帝国)を象徴する壮観かつ前衛的な帝都新京。美しい眺めだ。
街じゅうから立ちのぼる邪悪な黒煙と、一夜にして廃墟になった煉瓦造りの街角さえなければ、
神よ擁護を垂れたまえ、あまりに磔の多ければ―とパウル・バルシェを口ずさみたくなるようなそんな午後だった。

『天帝のつかわせる御矢』本文より

第35回メフィスト賞「天帝のはしたなき果実」の続編「天帝のつかわせる御矢」。

前作に続いてまほろ君が主人公。

作品は偽史を扱っている。
ありえなかった世界での殺人事件。
この世界、つまりこの小説の中の登場人物はえてして天才的。
さも当たり前のように日本語、英語、仏蘭西語を使いこなし、古今東西の地理歴史に文化まで知っている。
ゆえに文体は様々な言語が飛び交い、日本語で書かれているのにも関わらず不思議な旋律を生み出しているようにすら思える。

そんな人物たちが「あじあ号」、1930年代に実在した満州国の超特急。
舞台の最初は新京、今で言う長春からハバロフスク~札幌と中国ロシア日本を結んでいる豪華列車の中での殺人事件。
引用した中の「ウンターデンリンデン」はベルリンのこと。

おもしろかった。
キャラが描けていない、あまりに有り得ない。
そんなところをこの小説はずっと通り越している。
もはやこの小説は一つの「世界」だろう。
1作目の「天帝のはしたなき果実」の時もそう思ったけど、さらに磨きがかかってる。
今度はなんせ豪華な超特急。
乗っている人も風格ある人ばかり。
そんな彼らとも対等に渡り合う主人公のまほろ君たち。
その会話がまたくらくらする(笑

知識と知識がぶつかりあって、なんかすごく高尚なのだ。
別次元。
それを帯で推薦文を書いた竹本健治は「異形」と称しているけどまさにそんな感じ。

まったく……
そんな内容を生み出せるこの古野まほろは一体なにものなんだ。

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天帝の愛でたまう孤島
The Tenaitou Island Murder Case

古野まほろ
カバーデザイン:坂野公一
カバーイラスト:ウスダヒロ
講談社ノベルス
(2007.10/10読了)

荷を捨てて踏み出す新しい世界。
そらの祝祭に愛でられた海と雨林。
地の果てに結実した青いいのちと緑のゆめが集うここは。
ここは天帝の愛でたまう孤島。
ここは天愛島だった。

『天帝の愛でたまう孤島』本文より

古野まほろによる天帝三部作3作目『天帝の愛でたまう孤島』。
推薦文は大森望と魔夜峰央。
前巻に引き続き表紙イラストはウスダヒロ。
もう天帝シリーズはウスダヒロというイメージが固まったかも(笑
あやしげな仮面の表紙がたまらない。

Σ( ̄□ ̄;) 天帝シリーズって三部作だったの!?

今度は孤島。
十角館の殺人、孤島パズル、そして誰もいなくなったetc
孤島モノといわれれば上のような名作たちが思い浮かぶわけで。
まぁ当然この本の中でもミステリマニアたちが語るわけですが(笑

孤島モノに跋扈する怪人。
そして起こる惨劇は連続殺人。
伝承歌に秘められた謎とはなんぞや。

そんなお約束を散りばめたような話。
しかし、もう使い古されたようなジャンルだとしても、やっぱりしっかりと孤島モノであり、怪人モノだった。
しっかりツボをついてきやがる⊂⌒~⊃。Д。)⊃
天愛島の設定とかたまんねーよw

殺人事件が起ころうとも、彼らは神を語り、映画から神話から哲学から台詞を引用し、とても高等な会話を繰り広げまくる(笑
日本語でフランス語で、時々ドイツ語で。

そう。
この「まほろ語」がいいんだよなぁ(*´Д`)
なんか中毒性がある。
清涼院流水のライムや舞城王太郎の文体にずぶずぶとはまっていくのに似ているかも(笑

三部作しかと楽しませていただきました。
まほろと詩織の会話なんかは特に(笑

……それにしても古野まほろ(作家)の筆はやすぎね?
今回も600Pあるんですけどっ。
前巻も600Pで4ヶ月しかまだ出てから経ってないし…

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天帝のみぎわなる鳳翔
The Aircraft Carrier SURUGA Murder Case

古野まほろ
講談社ノベルス
(2009.2/7読了)

ただ、人間として。
三千の人間を屠った者がいるというのなら。その責めを負うべき者がいるというのなら。
アタシには興味がある。

『天帝のみぎわなる鳳翔』本文より

まほたんの天帝シリーズまさかの4作目。
三部作じゃなかったのかよ!?(笑

いやいや、でも嬉しい限り。
あのメンバーが再びあの怪しくも様々な知識と言語が飛び交う世界を見せてくれるのだから。

今度の舞台は海軍が誇る空母「駿河」の中。
大きな密室の中で起こる殺人事件。
しかし最初の多くの謎を孕んだ殺人事件もきっかけにすぎず、惨劇は惨劇を生み。
果ては3000人の犠牲者が出る大事件へと発展していく。

なんで今までこんな舞台と小説がなかったのだろう。
大量すぎる殺人事件はミステリとしてそぐわないのか?
いやいや、この小説を読む限りそんなことはない。
正統派ミステリでありながら、スケールの大きさも保っている。

トリックから動機に至るまでの解決編の緊迫した内容に加えて、シリーズがさらに大きく飛躍する瞬間ってのを目にできた。
そんな気さえしてくる。

ああ。こいつはまだまだ「完結編」に向けて走り出したばかりなのかもしれない。

今までの3作と比べてみても緊迫感といい、世界観のさらなる深みが描かれたことといい、一体このシリーズはどこに向かうというのだろうか。
むしろ今までの3作はまだまだ序章だったんじゃなかろうか(笑
そんな期待を抱けた4作目でした。
めっさ期待してます!

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探偵小説のためのエチュード「水剋火」

古野まほろ
カバーイラスト:ゴツボ×リュウジ
講談社ノベルス
(2008.5/23読了)

「皆まで言うなと介錯をっ!!」
手刀が首に入る感覚。
「はっ」
「傷は浅いわよべべんべん!」

『探偵小説のためのエチュード「水剋火」』本文より

天帝シリーズの古野まほろの新作シリーズ。
今度は陰陽師探偵モノ。

舞台設定は天帝シリーズと同じもの。
探偵役の陰陽師である小諸るいかと主人公である四国の実予にやってきた水里あかねも女の子。

女の子同士ゆえの姦しい会話とボケとツッコミ。
古野まほろ特有のと擬音と濃い内容が織り成す会話が非常に楽しい。

つか「急々如律令」ということばを「はよせえ」と説明した本ははじめて見た(笑

陰陽道の話もかなり濃いというか実にマニアックな薀蓄満載。
会話のノリが非常によすぎる。

だからかミステリ部分よりもそのあたりをちょっと読んでて楽しみすぎたかも(笑

まぁシリーズ1作目ということもあり、登場人物の紹介も兼ねているだろうからこれくらいがちょうどいいのかもしれないけど。

1作目が「水剋火」ということは「木火土金水」の5つをタイトルに並べるんかな。
だとしたらまだまだ当分は楽しめそうなシリーズだ。

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探偵小説のためのヴァリエイション「土剋水」

古野まほろ
カバーイラスト:ゴツボ×リュウジ
講談社ノベルス
(2008.9/23読了)

「その探偵的帰納法とやら、とくと拝聴つかまつりましょう。論理の松明燃え尽きて、驕慢なその脳髄が私に膝を屈する。その哀れさを憫笑するために」

『探偵小説のためのヴァリエイション「土剋水」』本文より

古野まほろの探偵シリーズ2作目『探偵小説のためのヴァリエイション「土剋水」』。

主人公のあかねんが逮捕される。
容疑は殺人。
競技かるたの試合会場で起こった陰惨な事件。

そして再び陰陽師のコモが謎に挑む。

まだまだ古野節は衰えることを知らなかったようだ。
独特の語感と言い回し。
そして多くの言葉を従え、論理を紡ぎ、探偵小説となる。

これほどまでに探偵小説としてのルールをエンターテイメントとして提示した小説があるだろうか。

読者への挑戦状なんてどころじゃない。
形式美をいかに美しく魅せるのかに特化させたような謎解きでした。

そして次作は「天帝シリーズ」ですとぉぉ。
まさか4作目が出るとは。
さらにその後にしっかりと「探偵シリーズ」も待機中!

まじでかっ。

…古野まほろ作品には英語やフランス語が飛び交うけど、「天帝」のタイトルは英題で「探偵」はフランスなんだな。
なんかここらへんに違いあるんだろか。
世界観は同じようだけど。

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IX(ノウェム)

古橋秀之
イラスト:松竜
電撃文庫
(2008.3/9読了)

街道を飛ぶように走りながら、鬼の腕が、九郎の体が、渦輪槍の回転部が、それぞれに強力な電気を放った。その周囲に白い霧のような雲気が生じ、背後にうねり流れた。まるで、長大な体を持つ一匹の龍が、身をくねらせながら駆けていくようだ。

『IX(ノウェム)』本文より

ブラックロッドの古橋秀之による『X(ノウェム)』。
武侠もの。

なんというスピード感と激突感。
力と力、技術と技術がぶつかりあう様がすんごい迫力だった。

ようやくこの文体からイメージが想像できるようになってきたところで終わってしまったのが残念。

もともと中国武侠映画(HEROとかPromise)や香港格闘映画(酔拳とかOnce Upon a time in Chinaなど)が好きだったためこの手のものは結構問題なく入り込めるんだけども、そういう映像を見たことがない人はこの本をどう見るんだろう。
というか想像可能な世界なんだろうか、とはちょっと思った。

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