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熊の場所

舞城王太郎
講談社ノベルス
(2007.5/10読了)

でもどんなに祈っても、そこに神の存在は感じられず、僕の祈りが届けられたとは思えない

舞城王太郎『熊の場所』本文より

舞城王太郎の短編集『熊の場所』。
マンガ版『ピコーン』を読んだら、読み直したくなって再読。

 

『熊の場所』
この短編集のどれにもいえることだけど、濃いよな。
最初の話からどんどんひねくれていって最後になってようやくテーマに戻ってくる、みたいな。

この熊の場所も父親の話があって、猫殺しのマー君の話があって、そしてようやく最後の"熊の場所と"いう話に戻っていく。
一見ものすごく現実から離れた話で「ふんふん」読みながら読み進めていたのに急にラストで「どうよ!?」と物語の中から外へ向けて急に話しかけられるような、または決定的証拠を見せ付けられた犯人みたいな気分。

もうYESかNOか、とにかく何かを発言しないといけないみたいな雰囲気。
心当たりありまくり。
そりゃ誰だって熊の場所は持ってるだろうよ。

そして立ち向かった記憶なんてのもないしさorz
いつかは向き合わなきゃいけないんだろうけど…。

 

『バット男』
そういや、これって舞台化されたんだっけかなぁ…

これまたどこにでもある話。
実際のバット男は存在しないかもしれない。
けれども社会的弱者はどこにだって存在している。
そりゃもう学校、職場。
人が集まればどこかには必ず発生してしまう。

なんで自分より弱いものへ弱いものへと暴力が連鎖していくのか。
人は人を愛せるのにさ。
そんなテーマのようなものを感じた。

 

『ピコーン』
可愛い表紙につられて買ったらこの短編はエロかった(笑
そんな人もいるんじゃないだろうか。

性的描写は、それを通じて一つの救いを生み出しているという点では稀有なものな気がする。

そんな前半。
そして後半にはよくあるようなテレビで放送される猟奇事件の批判だろうか。
確かにみんな誰しもがより不可解なものを求める。
裁判でも被告がなんかよくわからない意味不明なものを言ってメディアが熱狂。

なぁ、見ててバカバカしくね?ってーか人間としての本質がおまえら間違ってるよな

ってことをこの作品から暗に感じた。

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世界は密室で出来ている。
THE WORLD IS MADE OUT OF CLOSED ROOMS.

舞城王太郎
講談社文庫
(2007.3/17再読)

何たるアンチクライマックス。まあいいわ。おっしゃー!

舞城王太郎『世界は密室で出来ている。』本文より

舞城王太郎の「世界は密室でできている。」。
講談社ノベルスの20周年企画「密室本」の1冊。

文庫って安いよな…
舞城王太郎のは。

とりあえず2回目の再読。

近所のお姉さんが飛び降りて死んだ。
あっけなく。
そんなプロローグからはじまり、ミステリーらしい事件なんて起こらなくて
ただ、主人公と名探偵ルンババ12の冒険がはじまる。
15のとき、修学旅行で風変わりな姉妹と出会い、それから19歳に至るまでに彼らの前に現れる意味不明な密室殺人事件たち。

 

密室でありながら、密室なんかじゃない。
ミステリー好きはなにを持って密室に期待するんだろう。
名探偵の推理か、突拍子もない展開か。
そんなことをこの本を読んだら考えさせられる。

密室なんてただの事件。
確かに事件はあるし、解決もする。

けれどもこの本においてはそこが問題なんじゃないんだろう。

それはきっと(以下反転)

本を読んだ瞬間に現れる涼ちゃんの死と彼らが抜け出すべき涼ちゃんの死との葛藤から抜け出すこと
なんじゃないだろうか。

反転終了

これこそが彼らの密室で、それを彩る事件たちこそがミステリーでいうミスリードのような気すらする。
ミステリーのような装いでありながら、本格ミステリに反していて、けれども
これは密室そのものの本だと思う。

なにはともあれ、この本はとてつもなく面白い。
ってか大好きだ(笑

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好き好き大好き超愛してる。

舞城王太郎
講談社
(2006.1/9読了)

愛は祈りだ。
僕と好きな人たち、そして僕以外のすべての人に幸せになって欲しい。

舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』本文より

作家の僕の彼女は病魔に侵され、身体の一部分、そして確実に死へと向かっていっていた。

ファウストVol.1に掲載された「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」も収録。
イラストギャラリー付。

芥川賞候補作

感想

メフィスト賞作家からついに芥川賞作家がついに出るか!?と本気で思ったことこともあった。
さて、作者は舞城王太郎。
賞の候補となったからと言って作風ががらりと変わるわけでもなく。

「九十九十九」ほどメタメタはしてないけどメタな小説です。
そして愛に満ち満ちた小説でもあります。

ラストの方にあるパスカルの引用「愛しすぎていないのなら~」になんとなく納得したような、よくわからんような。
間違ってもすれ違いまくろうとも、どれだけバカやろうともいっぱいいっぱい愛せばいいんだ。
愛なんてきっとそんなもんだ、そう思うことにしよう。

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みんな元気。
Cuckoos & The Invisible Devil

舞城王太郎
新潮社
(2006.1/15読了)

表題の「みんな元気。」を含む短編集。

収録
みんな元気。
Dead for Good
我が家のトトロ
矢を止める五羽の梔鳥
スクールアタック・シンドローム

いずれも「新潮」掲載(Dead for Goodのみ書き下ろし)

「スクールアタック・シンドローム」の印象が強烈すぎた。

高校の学校の生徒や教師600人を次々に殺していく小説を書き綴る息子と自称精神病で病んでいるから自堕落な生活をしている親の話。

子供が一体なにを考えているのかさっぱり分からない、という親がいっぱいいる。
そして世間を騒がすニュースは中学生だか高校生だかが犯罪を実行したとかいうニュースの影響もあってか余計に分からなくなる。
もはや「自分の子は大丈夫」なんて悠長なことは言えないのかもしれない。
今はそんな時代らしい。

けれどもそんな親たちだって子供だった時代があったわけで。
その子供時代になんかいも直面したんじゃないだろうか「親は分かってくれない」っていう事態に。

ただただ親も子もお互いに棘にでも触るような関係でいるんじゃないのかな、と思う。
とりあえず「話」をはじめるところからスタートしなきゃ、いつまでたっても分かり合うことなんてできない。
そりゃあ人間はテレパシーなんか通じないし、アイコンタクトでも意思の疎通がはかれるようになるには信頼関係だとか様々なことが成り立たないとできないものなんだし。

そんなことを考えされられる短編でした。

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山ん中の獅見朋成雄

舞城王太郎
講談社ノベルス
(2005.12/10読了)

西暁に住む中学生の獅見朋成雄には毛が生えていた。
鬣のような毛が背中に。
それがコンプレックスに思えてならない成雄には友人がいた。
友人のモヒ寛はじじいで世間から離れているような人物で相撲好きが高じて自分の家に土俵まで作ってしまう変人。
そんな二人が織り成す実に変で純真でどういえばいいのかよく分からない世界。

感想:
ただ、ただ単におもしろいなぁ舞城は。
そんでもってスゴイ。
最初のページから物語の世界へ引き込ませ、ラストはラストで一気に現実まで引き戻してくる。
この疾走感がなんとも心地いい。

やはりシミトモを語るにはカニバリズムについて書くべきなんだろうなぁ。
"盆"に乗せる"人盆"という形で人を使った料理で出てくる。
そしてその味を絶賛する。
けれどもあのなんとも独特な擬音を使っての料理の表現はほとんど出てこない。
数行だけで食べるところを説明してる。
それともう一点。
食べるために殺すということ。
成雄が鬣のような毛を剃ったあと、人が変わったように人を殺してしまう。
そして殺した人を盆として出してみんなで食べる。
美味を追及した先にある料理としての人料理か、倫理としていかなる理由があれ人を殺してはいけないのか。
こんな問題を残して成雄たちは元の世界へと帰っていった。

はて取り残された読者たちはどう考えたんだろう。
別に人を殺す食べるなどの禁忌だけじゃなく色んな風にとれるんじゃないかな。
科学の追及としてのクローン人間はどうなのか、とか薬の研究のための人間を使っての実験だとかetcetc

世の中って難しいもんだね。

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鴨川ホルモー

万城目学
角川文庫
(2009.4/1読了)

今となって俺は断言できる。もしも「ホルモー」にて相対することになった敵味方二十人が、敗者に容赦なく訪れる、あのおそろしい瞬間を、以前に一度でも目にしていたのなら、決して「ホルモー」の世界になど足を踏み入れなかっただろう、と。だが、巧妙に張り巡らされた罠(そうだ、あれは罠だった!)に引き寄せられ、我々は結局あの連中と"契約"を済ませてしまったのだった。

『鴨川ホルモー』本文より

別に読む気なんてさっぱりなかった。
ちょうど読む本がなかったので手に取っただけだった。
目次ページで出町柳のデルタを見て思わず懐かしくなったというだけの理由で読んだのだった。
これこそが罠だった(笑

ボイルドエッグ出身だし、最近多発しているげんなりする邦画のひとつとして大々的に宣伝している時点で嫌ーな予感がしていたからだ。
またしてもボイルドエッグかよ。
ボイルドのネガティブハッピーも本格推理委員会も確かに面白いんだけど、ここの青春小説というからには今回もモテない作者の願望が入り混じったかのようなものなんだろとか思ってしまっていた。

いやいや、しかしなんだこれ。
作者は頭がおかしいんじゃないかと思えてくる世界観に設定の数々。
もう一体どこまで行くんだと思わせてくれる「ホルモー」という式神を戦わせる競技。
京大青竜会の面々のというより、主人公の体験するなんともモテない感じが青臭くて非常に面白い片思い。

しかし、それがただの式神ものでもないし恋愛を含めた青春物でもない。

ぶっとんだ式神バトルに、至極まっとうにどたばたとした大学生ならではのラブコメをやってのける青春ものだった。
非常にバカバカしい。
もうアホちゃうかと思えるほどである。

でもそれがものすごく面白い。
このテンションは次から次へとすんごい勢いでページをめくらせてくれた。

ただただ楽しい本でした。

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カウンセラー

松岡圭祐
小学館文庫
(2006.3/1読了)

一家四人惨殺される。
犯人は13歳の少年A。
唯一生き残った教師の由佳里は激しい憤りにおそわれる。
そんな彼女を受け持つことになったカウンセラーの嵯峨。
嵯峨は彼女の心の闇に気づくが...

嵯峨俊也が主人公の催眠シリーズ第3弾。

嵯峨がヘタレじゃないっっ!?(笑
千里眼シリーズを読んでると、なんとなく…ねぇ。

やっぱり松岡圭祐の小説だなぁ。
現代社会の闇をしっかりと小説に反映させてくる。
少年法、銃犯罪、偽札...
そしてそれらに巻き込まれる被害者たちと加害者。
さらには現代人の親と子の縮図まで。

実にエンターテイメントを凝縮したようなシリーズだった。

催眠シリーズで一番読みやすい本かも。

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千里眼 マジシャンの少女

松岡圭祐
小学館文庫
(2006.4/29読了)

千里眼シリーズ7作目。
千里眼の岬美由紀、催眠の嵯峨俊也、マジシャンの里見沙希が登場。

舞台は政府の水面下で進められてきた政府公認になる予定のカジノでの占拠事件。
冒頭から主人公の岬美由紀が大変な目に遭った、と思ったら次の場面では普通に出てきてるし、どうなってるのかと思ったらそう来たか。

実際に石原都知事が提唱したカジノ構想をにおわせつつ、それをエンターテイメントと結び付けてくるのはやっぱり松岡テイストだなぁ。

そういえばいつの間にやら千里眼の岬美由紀のイメージキャラクターが釈由美子になっててびっくり。
「背徳のシンデレラ」以降の表紙は全部釈さんになるんだろうか。

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千里眼の死角

松岡圭祐
小学館文庫
(2007.2/14読了)

わたしはどんな人でも救いたい

『千里眼の死角』本文より

千里眼旧12部作8作目「千里眼の死角」。

こんなターニングポイントの本を読み飛ばして「ヘーメラー」「トランスオブ」「ニュアージュ」を読んでしまってたのか。
不覚(笑

物語冒頭から謎の人体発火現象が世界各地で多発。
そしてその事件に嵯峨が巻き込まれ。
事態を収拾するために岬美由紀が、そしてメフィストコンサルティングに裏切られたダビデが奔走する。

なんだこの千里眼シリーズと豪華メンバーな顔ぶれはっ。
事件の不可思議性といい。
主役級のメンバーはみんな活躍する場面が容易されてるし。
とにかく豪華。

誰もを救おうとする岬美由紀とその根本的な解決方法である世界から一切の暴力を恐怖政治によってなくそうとするメフィストコンサルティング。
根っこは同じ考え。
その両者の対決。

ついに屈する岬美由紀、その立ち直る過程とか。
なんだろう。
この「千里眼の死角」が最終回と言われても納得する展開だった。
ましてエンディングも壮観。

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ヘーメラーの千里眼 上下巻

松岡圭祐
小学館文庫
(2006.5/31読了)

千里眼シリーズ9作目

航空自衛隊の演習中に誤って一人の少年を"蒸発"させてしまう事故が発生。
事故を起こしたパイロットを精神鑑定にかけることになり、岬美由紀が指名される。

『ヘーメラー』は今までよりも群像劇の要素がえらく濃い。
恋愛や友情、信念、家族愛、自衛隊という規律の中での現場と役人。
それに加えてミステリ要素にアクションからドッグファイトまで。
お腹いっぱいに満足できる内容でした。

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千里眼 トランス・オブ・ウォー 上下巻

松岡圭祐
小学館文庫
(2006.6/6読了)

千里眼シリーズ10作目。

舞台はイラク。
アメリカ合衆国が攻撃をしかける直前に武装勢力によって拉致された岬美由紀は戦争を回避する手段を模索する。

今回の相手は「戦闘によって理性を失った人たち」。
人類史において回避されることがなかった戦争という問題に対してどう立ち向かうのか、というか宗教的な問題も含めて解決が可能なのかどうか。
少なくとも「Trance of War」という精神的な異常事態に対してさまざまなアプローチがされてるなぁ。
戦争において平気で人が殺せたり、理性を抑えるために脳が働きかけて見えてはいけないものを見えないようにしたり...

しょっぱなからのアクションシーン、そして自衛官時代になぜ救難ヘリの隊員になろうとしたのかなど見所も多かった気がする。

約一年積んでたこの本までようやくたどり着いたー。
長かったw

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千里眼とニュアージュ 上下巻

松岡圭祐
小学館文庫
(2006.8/22読了)

千里眼シリーズ11作目。

元自衛隊パイロットで臨床心理士の岬美由紀が活躍するシリーズ。
今作から文庫書き下ろし。
そして今回は「蒼い瞳とニュアージュ」の主人公一ノ瀬恵梨香とのコラボレーション。

序盤から日本に「ニートが住む県」が出てきたり、その県の人たちが同じような悪夢にうなされて5時に起きるという謎の現象が勃発。
そしてその謎を解いていくととんでもないことが発覚する、という内容。

今回一ノ瀬恵梨香が出てきたのは前作の「トランス・オブ・ウォー」の回想シーンがあったからこそなんだろうなぁ。
でも、それより楽しかったのがやはり「ダビデ」が一時的にとはいえ美由紀と手を組むというところだろう。
いままでの敵役という印象がっっ(笑
まさかあそこまでの楽しいやつだったとは。

ヘーメラー以降どんどん話が長くなってきてるな…
次の「背徳のシンデレラ」に至っては1200pか
……がんばって読むか(笑

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千里眼 背徳のシンデレラ(上)

松岡圭祐
小学館文庫
(2007.2/17読了)

わたしは友里が生きた道をそのまま辿っているだけなのか。

『千里眼 背徳のシンデレラ(上)』本文より

千里眼旧12部作最終作「背徳のシンデレラ」。
ついに友里佐和子の後継者である鬼芭阿諛子との対決が描かれる。

冒頭から世界の半分が沈没し、呆然とする人々がいるシーンからはじまり、耐震偽装事件へ。
それには裏に陰謀が隠されていた。
陰謀を辿ることで友里佐和子の過去と美由紀が対峙する。

1作目からの謎とついに美由紀が対峙する。
600ページの半分は友里佐和子に関することと言ってもいいくらい。
当然メフィストに関することも出てきているし、若き日のダビデもベロガニアも登場してた。
読んでて、ラストがどんどん近づいていくのが感覚として分かるよなぁ。

残り下巻だけ、か。

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千里眼 背徳のシンデレラ(下)

松岡圭祐
小学館文庫
(2007.2/21読了)

正と邪の決着は、人類がみずからつけねばならんのだよ、美由紀。

『千里眼 背徳のシンデレラ(下)』本文より

千里眼シリーズ旧12部作最終作。

千里眼「友里佐和子」との対決からはじまり、世界を裏から牽引する組織メフィスト・コンサルティングとの戦いを描いてきたシリーズもついに最後。
ついに友里佐和子の後継者との対決。

世界の様々な場所へ出向き、色んな人の心を救い、時に誰かを守るために戦い…

荒唐無稽な話ながらもどこか現実とリンクしているようなストーリーたち。
そんな現実にあってもおかしくない事件の中でで活躍する岬美由紀たちの物語を読み進めていくのは非常に楽しかった。

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千里眼 The Start

松岡圭祐
角川文庫
(2008.9/24読了)

人の感情が見えるようになって、わたしにはわかる。人の本質はそんなに闇にばかり閉ざされてはいない。誰もが信頼を求めてる。信じられる前に、まず信じようと努力してる。

『千里眼 The Start』本文より

旧千里眼シリーズの最終巻『背徳のシンデレラ』を読んでから1年半。
ついに手を出してしまったよ orz
また長々とお付き合いすることになるんだろうなー。
楽しみではあるんだけど(笑
きっかけはたぶん最終巻の時の感想をくれた方の影響です(笑

『千里眼』新シリーズ始動。

「The Start」というだけでに岬美由紀のカウンセラーとしての最初の一歩が描かれる。
前シリーズまでは一体なんだったんだよ、と最初は思いながら読んだけど、今までと違った新しさを感じた。

前シリーズは世界を舞台に壮大に描かれる内容だったが、今度の千里眼はより身近に感じるというか…
あとがきなどによるとより実際の臨床心理学に基づいた内容にも変更されているらしい。
実際読んでいて今まで岬美由紀が人の表情から読み取るシーンでも今までの方法が覆っているのにびっくりしたもんです(笑

また、今作は岬美由紀の人物紹介が主だったけれども、新たな敵や伏線も散りばめられていたように思う。

千里眼にはじめて触れたり、この物語へと再び足を踏み入れるには最適の1冊。
さぁて、
1年半ちょっとの間シリーズから離れている間にたくさん出たようなので、ちょっとずつだけど読み進めていこうと思う。
(いや、ホント出るペース早すぎだろw

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千里眼 ファントム・クォーター

松岡圭祐
角川文庫
(2008.9/26読了)

ここで敗北などしない。美由紀はその思いを胸にきざみこんだ。この国には、人の数と同じだけの人生と、未来と、希望がある。断じて失わせはしない。

『千里眼 ファントム・クォーター』本文より

新生『千里眼』2冊目。

ファントム・クォーターという幻の町へ拉致された美由紀。
彼女はなんのために連れてこられたのか、そして背後でうごめく完全なステルス機能を持つトマホークミサイルの計画。
見えない敵に対して岬美由紀が立ち向かう。

1冊目で身近に思える内容になった、と書いたら2冊目からいつもどおりじゃないか(笑

見えざる敵との戦い。
確かに盛り上がるし、少しずつ見えてくる真の敵の存在があるところも、今後どうなるかが気になるところ。

また美由紀を頼りやってくる一人の少女の話が同時に平行しているのも面白いところ。
彼女の話に関しては臨床心理士としてのリアリティを与えてくれている。
前シリーズまでの超然とした強さと慈愛を持ちながら自らに悩む存在から、
まさに人を守るという側面も大きく意味づけされてきたと思う。

彼女は今後もシリーズに出てくるんかなぁ。

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千里眼の水晶体

松岡圭祐
角川文庫
(2008.11/17読了)

「そのまさかです」美由紀は航空幕僚長を見つめていった。「空自への一時復帰をお願いします」

『千里眼の水晶体』本文より

新・千里眼シリーズ3作目『千里眼の水晶体』。

やっぱり美由紀がF15に乗るときって盛り上がるよな。

3作目は山火事から起きる大規模テロを描いている。

大規模も大規模な事件のハズなのだが、文庫で300ページに収まっているのは驚異的。
旧シリーズならここまでなら上下巻で700ページくらいになってもおかしくないくらいなのに(笑

また大きな事件にも関わらず、スペクタクルな展開になりすぎずに読者にとっても身近に読めるのも興味深いところ。
冒頭から潔癖症という読者にとっても身近なことが本編にどんどんと関わってるしなぁ。

そのほかにもあれやこれやと、かなりタイムリーなネタを投入しているのは相変わらずです。

面白いんだけど、新シリーズを読んでいると随分と話がコンパクトにまとまりすぎているんじゃないかと感じてしまう。
シリーズ3作目だけにまだ、美由紀の自己紹介っぽいところもあるし、やっぱり盛り上がってくるのはもうちょいあとなんだろうなぁ。

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千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮

松岡圭祐
角川文庫
(2008.11/23読了)

痛みなど感じなくてもいい。由愛香は、取り乱しているだけだ。彼女を助けられるのなら、わたしが傷ついたかどうかなど関係ない。

『千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮』本文より

新・千里眼シリーズ第4弾『ミッドタウンタワーの迷宮』。

自衛隊の基地際で起こった核爆弾投下事件を発端に次々に起こる事件。
盗まれたヘリコプター。
突然裕福になった男。
すべては六本木に聳え立つ「東京ミッドタウン」へと、そして大きな陰謀へと繋がっていく。

言ってしまえばただの「観光スポット」。
しかし、それにあれやこれやのいろんな要素を詰め込んだのが新千里眼4作目。

アクション全開!
そして手に汗握る展開も怒涛のように進んでいく。

博愛主義者の岬美由紀がついに打ちのめされ、絶体絶命の危機が訪れる。

人はどこまで人を信じられるのかというテーマで岬美由紀という人物についてさらに掘り下げ、さらには今まで以上のアクション満載の内容だった。

まるでアクションを前面に押し出したハリウッド映画みたいだ。
これ映像化したら絶対おもしろいだろうなぁ。

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千里眼の教室

松岡圭祐
角川文庫
(2008.12/8読了)

よってわが旧生徒会役員は、氏神高校国行政庁となり、生徒自身による民主的な自治をもって、この高校を国家として独立運営することに決定した

『千里眼の教室』本文より

新・千里眼シリーズ5作目『千里眼の教室』。

氏神高校の生徒会がいじめ問題・世界史履修問題などを隠した教職員や教育委員会に反旗を翻し、日本から独立。
自治をはじめる。

彼らの国ではまるでいまの日本を写し取ったかのようだった。
格差社会、公共ギャンブルの現状etc
しかし、そういった暗い側面だけでなく、彼らが彼らだけの力で底辺の学力から全国区でトップクラスまでの実力へ押し上げる様は読んでいてスカッとした。

……というようなことをそんなに感じることもなく。
終始「ないわ…」となぜか小説の内容に少々ひきながら読んでいました。

社会派でもあるし、近年ドラゴン桜などのような特殊な勉強方法での学力アップという比較的記憶に新しいものをどんどん取り入れている様はわかるんだけどなぁ。

でもどうしてそう思うのか。
やはり若者だけの閉鎖社会の描き方がヌルく感じてしまったからだろうか。

アニメだと『無限のリヴァイアス』、
マンガだと『チャイルド・プラネット』、
ドラマだと『ぼくらの勇気 未満都市』、
映画だと『ぼくらの七日間戦争』。

などなど、実にいろんな若者だけの閉鎖社会を描いたものがあった。
どれもかなりヘビーな内容だった。
意見のぶつかりや、暴力、性的なことも含めて重くズシリとくる様な絶望的な描かれ方がされていた。

確かに千里眼シリーズではそういった重苦しいものは似合わないけれども…
どうにもご都合主義すぎって思えたのも事実。
たとえ彼らが理性的にすべて物事を考えられる状況であったとしても、さすがにこれはないだろう…

今作はきっと合わなかっただけ。
前作はたしかに面白かったし。
とりあえずなんとか「美由紀の正体」までは読んでみようと思います。

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マジシャン

松岡圭祐
小学館文庫
(2006.4/21読了)

「目の前で金が倍になる」。
それを実演してみせるという奇妙な詐欺事件が多発。
それを追う警視庁捜査二課の舛城の前にマジシャンを目指す少女が現れる。
その少女が語る金を倍にする方法とは!?

マジシャンシリーズ第1章。

金を倍にする詐欺事件、そして後ろでうごめいているハッカーによる驚異的なウィルスがばらまかれている事件。
やはりそれだけでは終わらなかった。
次から次へと起こる事件が一つの真相へと至る過程は見事だよなぁ。

事件もそうだけど一人の少女がマジシャンの卵からマジシャンへと転身していく話としても読めるというのも松岡エンターテイメントなんだろうな。

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イリュージョン:マジシャン第Ⅱ幕

松岡圭祐
小学館文庫
(2008.5/26読了)

マジックにだまされたのは相手じゃなかった。演じてたわたしたち自身だった。

『イリュージョン:マジシャン第Ⅱ幕』本文より

松岡圭祐の『イリュージョン:マジシャン第Ⅱ幕』。
里見沙希の「マジシャン」シリーズ2冊目。
『千里眼 マジシャンの少女』を含めれば3冊目。

……あれ?
読んでも読んでも里見沙希がほとんど出てこない orz
重要なキーパーソンではあるんだけれども。
これはもしかしたら「マジシャン」シリーズはこの「イリュージョン」の主役と里見沙希のシリーズだったりするのかも。

前作『マジシャン』はミステリ風味だったが、今作では犯罪劇。
両親の不仲から家を飛び出した15歳の少年の唯一の趣味はマジック。
彼は万引きを見破る万引きGメンにあこがれ、結果天職を得る。
だが、万引きGメンとして成功していく一方で自らもマジックを使った万引きに手を染めていく。

成功と堕落。
その両方を描きながらも未成年である少年の心の葛藤の描き方にハラハラした。
大人であろうとするも、少年に他ならない彼の行動にはどこか説得力があった。

またラストで前作『マジシャン』里見沙希自身との繋がりが示されたことも素晴らしかった。
単独の作品で名はなく、あえて「マジシャン」というシリーズにしたのはこのためだったのか、と思えた。
こんなの書かれたら3作目が気になるじゃないか(笑

さて3部作の2作目がこの『イリュージョン』だったわけだけれども、どうやらもう1作『フィナーレ』なるものが作中によると構想されているようなのだけれども…
2作目のラストがあまりに衝撃的だったので3作目に期待。
彼らのいく先が見てみたいです。

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そして彼女は神になる
ヒーローはジャージに着替えて悪を討つ

松原真琴
イラスト:小畑健
JUMP j-BOOKS
(2007.10/29読了)

私の名前は園原八重。高校二年生の十七歳だ。今私は、体に幽霊を憑依させ、英語の予習をしてもらっている。

松原真琴『そして彼女は神になる』本文より

「そして彼女は~」シリーズの2冊目。
一度は松原真琴の本を読んで見たかったので手に取った。
そう、きっかけは乙一や定金伸治、そして松原真琴による『とるこ日記』を読んでから読みたくなったと言っても過言ではない(笑

海外旅行に行っているのになぜか引きこもり気質が抜けないこの松原真琴なる人物はどんな人物なんだろうと思っていた。

面白い本を書くじゃないですかヽ(゚∀゚)ノ

もう何も考えなくても普通の会話だけでも楽しめるシロモノ。
すごい破天荒なキャラクターたちが織りなすシリアスあり笑いありのゆる~い学園生活。

もちろん学園コメディ、そしてなぜか幽霊も出てくる。
その人達が主人公の八重ちゃんにとり憑くわけだけども、彼女と幽霊たちの会話も読んでて飽きない。

楽しい小説だった。
…1巻読んでなくても全然違和感すらないし(笑

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えんじ色心中

真梨幸子
講談社
(2005.11/20読了)

西池袋事件。
15年前、中学受験を控えたAはX中学合格までのドキュメンタリー番組に出演。
しかし中学合格後Aは豹変した。
家庭内暴力、架空の殺人日記と残虐性が増していき親の手に負えなくなっていき、このままではすべてが崩壊してしまうと思った親がAを絞殺した。

中学生とフリーのライター。二人の視点から西池袋事件の真実を抉っていく。

感想

うわ…
(いい意味で)この本に騙された orz
こういう真実で構成だったわけですか!?
普通に読んでたら最後で一気にミステリのような本に変化。

世の中の閉塞感とかが大人の視点、子供の視点どっちからもよく描かれてる。
読んでる最中軽く世を儚むことができたかも(笑。

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孤虫症

真梨幸子
講談社
(2005.6/11読了)

あらすじ
姉が失踪した。
右手首と書置きを残して。
書置きには「虫が湧いた。特に右手がひどいので切り落とす。
この家には虫がいる。だから逃げる」という内容だった。
姉の交友関係を調べていくと、姉は夫の外に3人の男と関係があったらしい。
出版社からかかってくる電話。
どうやら姉は小説を書いていたようだった。
主人公の名前は私と同じ。
内容は3人の男性との関係を綴ったものだった。

第31回メフィスト賞受賞作。
ケータイで配信された試験的な小説でもある。
ジャンルはバイオ・サイコ・ホラー(と帯に書かれている)。

端的な感想。
気持ち悪い。
気持ち悪いのにも関わらず、どんどん物語の中へ引き込まれていく。
そして驚愕のラスト。
人に自身を持って薦めれます。
そしてこの小説もメフィスト賞じゃないと世に出なかったかもしれません。

この小説の随所に様々な気持ち悪いと思わせるモノが散りばめられている。
人から人へと感染していく寄生虫。
家のどこかにいる虫が蠢く音がずっと聞こえ続けるという表現。
閉塞ともいえる環境で毎日を過ごすマンションの主婦たちの関係。
姉が書いた淫らな生活を描いたノンフィクションとも思える小説。

けれどもこれらの要素があってこそ驚愕のラストが楽しめるんだよなぁ。

孤虫症というタイトルが決定する前の仮のタイトル「風土病」。
これも頭の隅っこにでも覚えておけばより楽しめるかも。

この小説に出てくる寄生虫は現実に存在する。
けれどもこの小説を読んだ後だととてもじゃないけど調べようとは思えない。
実物を見るのが怖い。
この小説を読んだ後に、寄生虫について調べてから再読までした人がいたら感想を聞いてみたいものです。

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