感想のページ 作者「も」

朽ちる散る落ちる
Rot off and Drop away

森博嗣
講談社文庫
(2005.7/21読了)

Vシリーズ第9作目。
絶対に出入り不可能な研究所の地下密室で起こる殺人と、地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていた。
二つの密室で起きる事件の真相は!?

Vシリーズ全10作の9作目。
7冊目の「六人の超音波科学者」の後半とも言える本書。
舞台も同じなら登場人物にも引き続き出ている人がいる。
とりあえず六人の超音波科学者を読んでから読みましょう。
…とは言ってもここまでVシリーズを読んでる人なら読んでるような気がしますがw

今回の本の見どころは森川君のデートかと思いますw

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赤緑黒白
Red Green Black and White

森博嗣
講談社文庫
(2005.11/20読了)

赤井という男が「赤く」塗装されて殺された。
保呂草はとある女性から赤井が殺された事件に関しての依頼を持ってきた。
その依頼とは「犯人はすでに分かっている。ただ犯人であることを証明して欲しい」というものだった。

Vシリーズ第10弾にして最終章。

Vシリーズというのは実は壮大な伏線だったんだよっ、ということをまざまざと見せ付けられた気がする。
保呂草が語り部であり、エピローグを語ることが可能だったのは捩れ屋敷の利鈍という物語があるからこそできることだし、そこから考えるとこれらの物語が書かれたのは事件が起こったずっと未来ということに。

そして最後の最後でS&Mシリーズと交錯し『四季』へと至るわけか…。
シリーズ10作を読み続けることで壮大なトリックに陥ってしまっていたのか(笑

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四季 春
Green Spring

森博嗣
講談社文庫
(2006.11/18読了)

「生きなければならない、という思い込みが、人間の自由を奪っている根源です」
「でも、死んでしまったら、なにもない。自由もなにもないじゃないか」
「そう思う?」
「だって、それは常識だろう?」
「常識だと思う?」

『四季 春』本文より

四季シリーズついに文庫化スタート。

犀川先生と西之園さんのS&Mシリーズ、紅子さんのVシリーズ、二つを結ぶ共通点の一つでもある登場人物「真賀田四季」。

6歳で超一流のエンジニアにまで上りつめた天才の幼少期が描かれている「春」。

6歳といえども、おそらく彼女は人間の一生分以上の知識を所有し、そこから先は誰も到達しえない世界へと孤独に進んでいたのだろうな…

各シリーズの登場人物たちが少しずつ絡み合うこの「四季」。
S&Mシリーズ全10作とVシリーズ全10作を読破した人たちへの究極のプレゼントのような本だと思う。
誰もが知りたかった、そう思える内容でもあるのは間違いないし。

一体作者の森博嗣はいったいどこからこの「物語」を考えていたのだろう。
まったくものすごい作家だな、と思う(笑

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四季 夏
Red Summer

森博嗣
講談社文庫
(2006.11/20読了)

受精すれば、花は枯れる。
しかし、人は子孫を生んでも、まだ生きようとする。
何のために?
循環を望んでいるようで、阻害する。
永遠を望んでいるようで、悉く断ち切る。
一瞬の本能だけが、生命の循環を支えている。
脆弱だ。

『四季 夏』本文より

四季シリーズ第2弾。
四季、13歳。

天才であるがゆえに、感情を理解し得ない。
すべてはロジカルなものであり、それゆえに先の先まで見通せる。

しかし、この夏で四季は人に興味を持つ。
人に興味を持つことで、人を理解しようとし、人から何かを得ようとする。

天才を経て人に近づいていく、という様もこの巻の見所のひとつだけれども、
「すべてがFになる」の一つの真相、そしてS&MシリーズとVシリーズの間に張られた伏線がついに明かされる。
はじめて読んだときには驚愕した。
しかもものすごく(笑

ここまでが一番の盛り上がりを見せるところ。
そしてあとの残りの秋と冬でシリーズの一つの締めくくりへと向かっていく。

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四季 秋
White Autumn

森博嗣
講談社文庫
(2006.12/19読了)

涙を見てくれる人がいる。
疑問を受け止めてくれる人がいる。
それだけで、充分ではないか。
彼女は目を瞑って息を吸った。
静かに、
自分が泣くことを許すように、
沢山のことを許さなくてはいけない、と彼女は思った。

『四季 秋』本文より

四季、三作目。
秋。

犀川創平、西之園萌絵、紅子、保呂草、各務亜樹良。
これまでのシリーズの主人公たちが集い、天才、真賀田四季をめぐって彼らは出会う。

そしてその話は…乖離していた物語たちが「真賀田四季」という一つのキーワードを基に一つの枠の中に収束した、そんな話だった。
この物語の大きな構造はとても綺麗だと思った。

S&Mシリーズの最終回であり、Vシリーズのラストでもあると言えるんじゃないだろうか。
この「四季 秋」は。

残すところは「四季 冬」。
あとは「四季」の物語の終わりを見届けるのみ。

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四季 冬
Black Winter

森博嗣
講談社文庫
(2006.12/19読了)

「私たちは、どこへ行くと思います?」
「どこへ?」
「どこから来た?私は誰?どこへ行く?」
「貴女は、貴女から生まれ、貴女は貴女です。そして、どこへも行かない」

『四季 冬』本文より

四季、最終章。

すべての終わりであり到達点であり、始まりの物語。

「真賀田四季」とは一体なんだったのか。
人だったのか、人ですらなく人を超えた存在であったのか、それとも彼女は神だったのか。

真賀田四季とは一体何者だったのかを四季自身の目を通して問う物語だった。

そして物語は終わった。
けれども、読者は知ってしまった。
真賀田四季の存在、シリーズすべての別の視点を。
うーむ。
読み返せば新たな読み方ができてしまうんだろうなぁ。
そしてその量が多かろうとも再び読むことは楽しみですらある(笑

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φは壊れたね
PATH CONNECTED φ BROKE

森博嗣
講談社ノベルス
(2008.7/15再読)

「しかし、今回の《φは壊れたね》の意味を考察しているんでしょう? 無駄な議論をしていると思うなあ」
「いえいえ、そもそも議論の大半は無駄なのです」

『φは壊れたね』本文より

森博嗣のGシリーズ1冊目『φは壊れたね』を再読。

密室状態で見つかった死体。
その死体発見の現場は部屋に仕掛けられたカメラによって撮影されていた。
ビデオのタイトルは『φは壊れたね』。
いったい誰がなんのために。

S&Mシリーズの西之園萌絵や新メンバーたちによるミステリ。

S&Mから四季まで辿りつき、これを読んだときには「なんだこれ」と思った。
なんか淡々としすぎてないか?とかミステリとしての重厚さが足りないんじゃないか orz、と。

いやいや。
これまでのシリーズに比べて圧倒的に読みやすいし、くすっと笑える部分が増えたように思う。
特にこのシリーズから参加した登場人物たちの軽快な会話や、あまりに無駄な議論が非常に楽しいんだよなー。

今年は久々にGシリーズの新刊出るみたいだし、ちょこっと再読でもはじめてみようかと思います。

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τになるまで待って
PLEASE STAY UNTIL τ

森博嗣
カバーデザイン:坂野公一
講談社ノベルス
(2005.9/10読了)

Gシリーズ第3弾。

那古野市内にあって隔離されたようにひっそりと佇む『伽羅離館』。
伽羅離館の持ち主超能力者「神居静哉」。
異界へと通じる扉、雷が轟き、繋がらなくなる電話。
館は外界から隔離され、そして殺人が起きる。

うわぁ。
設定からしてめっちゃミステリィやん。
あらすじなんて本読み終わってから読んだけど。
この本がシリーズがシリーズとして確立されたターニングポイントそのものやなぁ。
「φ」「θ」「τ」とこれまで事件のキーワードがギリシャ文字の事件。
そしてこれらの事件の背後にあったもの。
「四季シリーズ」は序曲に過ぎなかったか……。

これまで犀川先生と西之園萌絵の「ふたりのその後」を読みたいがために読んでたような気がしなくもないけど、今回でこのシリーズを楽しめる要素が増えたので次以降がものすごく楽しみ。

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εに誓って
SWRARING ON SOLEMN ε

森博嗣
カバーデザイン:坂野公一
講談社ノベルス
(2006.5/11読了)

Gシリーズの第4弾。

山吹と加部谷の乗ったバスがジャックされた。
海月たちは外からなんとかしようとする。

…誘拐犯も中にいる人も外の人もものすごく冷静だな(汗
ぎゃあぎゃあ騒いでも仕方ないっちゃ仕方ないのだけど。

バスジャックと今回も関係のあるギリシャ文字「ε(イプシロン)」。
そして残されるギリシャ文字と四季の関係もそろそろなんか分かってほしいなぁ。

今回のεに誓ってのトリックも単純だけどおもしろい。
確かにあるべき声明がテレビの外でも一切書かれていないし、バスの中と外の情報がどうもかちっとリンクしないところとか。
海月君の聞き方があれだしなぁw

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λに歯がない
λ HAS NO TEETH

森博嗣
カバーデザイン:坂野公一
講談社ノベルス
(2006.9/8読了)

Gシリーズ5冊目。

密室の中で4人の人物が銃殺された上、歯を抜かれていたのが発見される。
「密室」という単語を聞いて西之園萌絵は現場に駆けつける。

死体がおかしな状態で発見されたから、それについてひたすらあーだこーだと議論するのが面白い。
血なまぐさくもなく、ただ「こうである」という描写しか事件の細部の説明なかったし。

事件の最中に「死」という概念についてえらく語られている。
その中で死んだ人間をもう一度生かすというのが妙に強調されていて、かつ四季ならできるかもしれないと言ってたのが今後の伏線になってくるんかなぁ。

【ネタバレ(?)有り】

四季がやろうとしていることがメディアのデータの残し方だとしたらそもそも死の概念なんてひっくり返るよなぁ。
蓄積された記憶とそれを引き出す信号と思考するためのメモリが確保できれば個人は残せるんだろうか(脳のことはよくわからないけど

その例がウォーカロンシリーズとしての人としての一つの生き方になるのか?

Gシリーズってそういう方向に進みだしたんかなぁ

【終了】

次はまた4ヵ月後…かな

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ηなのに夢のよう
Dreamily in spite of η

森博嗣
カバーデザイン:坂野公一
講談社ノベルス
(2007.1/29読了)

今日大丈夫だから、明日も大丈夫だなんて、約束はとてもできないでしょう?

『ηなのに夢のよう』本文より

Gシリーズ第6弾「ηなのに夢のよう」。
読み方は「イータ」。

地上12メートルで首をつって死んでいた自殺者。
なぜそのような場所で自殺をしたのか。
そしてそこには再びギリシャ文字のつく遺留品があった。

 

もはや森ミステリィではないな…。
森博嗣独特の…しかもいままで以上に。

なんかすべてを統合していくような。
そんな印象を受けた。

当初からあった、真賀田四季の影。
それに紅子や保呂草さんも加わり…
妃真加島に関わったあらゆる人たちが集ってきた。

なんなんだろう。
どこへ向かおうというんだ。
このGシリーズという物語はっ。

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目薬αで殺菌します
Disinfectant α for the eyes

森博嗣
カバーデザイン:坂野公一
講談社ノベルス
(2008.9/16読了)

「それでも、きっと同じなんだよな。何一つ変わらないんだ。ただ、大声で笑って、そしてお終い」

『目薬αで殺菌します』本文より

森博嗣のGシリーズ7冊目『目薬αで殺菌します』。
1年と8ヶ月ぶりかぁ。
でもその間Xシリーズが3冊あったのであんまり久しぶり感はなかったかも(笑

劇物の入った目薬が発見され話題になる。
またしても「α」というギリシャ文字が入っていた。
これは一連の事件の一つなのか、それとも。
同時期に加部谷さんが発見した死体が握りしめていた同じ目薬「α」だった。

事態は目に見えないスピードでゆっくりと進行していく。
一連のギリシャ文字の謎。
その謎に真賀田四季がどう絡んでいるのか。

またおなじみの大学生たちにも変化が現れるという、意外とターニングポイントなんじゃないかと思える内容。

加部谷さんかわいいなぁ。
まさにこの思考は乙女だ(笑
この大学の3回という限られた時間を楽しんでくださいというアドバイスでもしたいくらいである。

しかしこの乙女さを出した加部谷さんと今回の目薬事件の絡ませ方は実に面白いものだった。

加部谷さんだけでなく西之園さんにしても犀川先生にしても少しずつ変化している。
もちろんGシリーズの主人公の海月くんも。
確かにゆっくりしたスピードだけどGシリーズ7冊だけでも色んなことが変わった。

読むまで気づかなかったわけではないけれども、しっかりこの巻でしっかりと認識させられたかもしれない。

どう今後変わっていくのだろう。
Xシリーズ終わったし、次は出るの早いんじゃなかろうかとウキウキしてモリログアカデミィを見に行ったら次のGシリーズは1年以上先だと orz

…気長に待ちます。

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イナイ×イナイ
Peekaboo

森博嗣
カバーデザイン:坂野公一
講談社ノベルス
(2007.5/11読了)

「うん、なんか、ちょっとロマンティックでしょう?」
「ロマンティック?
いや、どちらかというと、グロテスクだと思います。」
「ああ、そうか、そう感じるわけね」

『イナイ×イナイ』本文より

森博嗣の「Xシリーズ」第1弾『イナイ×イナイ』。
Gシリーズはどこ行った?と思わないでもないけれども、そのうち出るでしょう。

今までの講談社ノベルスで出してた本に共通してた理系っぽさはなくなってきた感じ。
むしろ文系さが出てきたと言えるかも。
でも世代の差というか個人と個人の見解の差異から来る会話がしっかりかみ合わないことをコメディのように見せるのは健在。
あとはポエティックな構成。
これもまだまだ活躍。

事件そのものは古典的でどこか懐かしいミステリ読んでるような感じの陰鬱さが立ち込めてるけど、登場人物たちが少し軽い感じなんで、随分と変わった雰囲気を纏って物語が進んでいく。

なんていうか…軽快?

そんな感じ。

そして…
やっぱり西之園萌絵は出てくるのか(笑

むしろ待ってましたっっ。

Gシリーズを一旦とめて、Xシリーズが開始されたのって、GとXがどこかで絡むようなものになってりするんかなぁ。

なにより森博嗣って「どうしてもこういうのを書きたい!」と言って書くようなタイプの作家じゃないと思えるし、読者や出版社のニーズやシリーズとしての複線ならそういう展開もあるんかもな、と微かに期待しながら読むことにしよ。

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キラレ×キラレ
Cutthroat

森博嗣
カバーデザイン:坂野公一
講談社ノベルス
(2007.9/9読了)

「なんか普通に見えるのに、普通の人として生活しているのに、その奥に異常な精神が潜んでいる、それがときどき、なんかの拍子で現れてくる、そんなのが怖い」
「ホラーですよね」
「ホラーよ、うん。結局、普通の人間が一番怖いのよ。」

『キラレ×キラレ』本文より

森博嗣の『Xシリーズ』2冊目『キラレ×キラレ』。

講談社のメルマガによると次もXシリーズ、そのあとにまたGシリーズに戻るらしい。
Xシリーズはあと3冊くらい、Gシリーズはあと6冊くらいらしい。

『キラレ×キラレ』の話に戻ろう。
事件は切り裂き魔。

満員電車の中でいつの間にかカッターナイフのようなもので切りつけられるという事件が何件か起きる。
被害者は30前後の女性ばかり。

誰がなんのために?
故意に被害者を選んだのか無差別に切りつけているのか。

帯を見たときは「なんて地味な」と思った。
読んでみたら意外と面白かった。

空転する推理やいつものウェットにとんだジョークや日本語がうまく通じない会話というのは読んでて楽しい。
なんだろうな。
たとえ無駄な部分であったとしても議論によって物事の本質が見えてくるさまというのはまるで読んでるこちら側も議論に参加しているような気分になる。

例えば、今回の「何の変哲もない普通に生活している人が、女性を切りつけることに興奮を覚えるようになった心理状態」の議論なんかはゾクっとした。

それは誰もがなる可能性があり、なにがきっかけでそうなってしまうのかは断言できない。
今まで無害だった人やものが急に原因になることがある。
近年流行している花粉症などは昔から花粉は存在していたのに、なぜ近年になってアレルギー症状となったように、無害から有害になるものもある。

では時代の変化によってあらゆるものは変化する可能性があるということか…

 

…おもしろい部分も多々あったんだけど、まだXシリーズの登場人物が覚えられない orz

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タカイ×タカイ
Crucifixion

森博嗣
カバーデザイン:坂野公一
講談社ノベルス
(2008.1/15読了)

「そうそう、人間の子供って、たかいたかいってすると、面白がるでしょう? 怖がりませんよね。犬なんか、あんなことしたら、びっくりしますよ。人間って、どうして怖いのが好きなんでしょう? ジェットコースタとかもそうだし」
「これは大丈夫っていう理解力? 信頼?」
「危険を知らないだけなんじゃないかな。鈍感だってことじゃないですか?」
「そうかもね。鈍感だからこそ、ここまで、地球を支配できたのかもしれない」

『タカイ×タカイ』本文より

Xシリーズ3冊目『タカイ×タカイ』。

高さ15メートルのポールの上でマジシャンが死んでいたことから事件ははじまる。

今までのXシリーズのようにシンプルに、かつ人間の本質に迫るような内容だった。

真鍋くんのズレているようで、本質的なことを突いていて読んでて「はっ」とさせられるような論理が素敵だ。
なぜ殺してそしてトリックを用いようとするのか、なぜ意味のないことを人はするのか、など。

シンプルでとても魅力的な謎の解明も、そこにいたる楽しい知的で日常的な会話も読んでいて楽しい。
Gシリーズがはじまった時などは物足りなさを感じたけれども、ここ最近のGとXシリーズはそういう会話ですらものすごく楽しく感じてきた(笑

なぜ高さ15メートルのポールの上で殺されていたのかという謎も、あまりに単純だけれども納得できてそれでいて気づけないところがなんか日常的。

魅力的な謎っていうのはあんがい近いところにあるところから作り出されるもんなのかもな、と読んでいて思った。

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迷宮百年の睡魔
LABYRINTH IN ARM OF MORPHEUS

森博嗣
新潮文庫
(2005.6/7読了)

時は22世紀。
ジャーナリストのサエバミチルと相棒のロイディは
イル・サン・ジャックという島を訪れる。
その島は外界との接触を避け続けていたはずなのだが、
ミチルに対しての取材の許可が下りた。
以前出会った『女王』と瓜二つの島の『女王』メグツシュカ。
そして、島で起こる殺人事件。
曼陀羅の中で横たわる死体から何故頭部だけが持ち去られたのか。

ウォーカロン3部作の2作目の文庫版。
舞台は孤島イル・サン・ジャック。
周りは海。
そして島を取り囲むかのような城壁と岩の絶壁。
交通手段は陸と島を結ぶ堤防ただ一つ。
島の都市は平和で豊かだが、しかしどこか排他的で…。

ミステリ的な謎ももちろん魅力的なのだが、
それ以上にイル・サン・ジャックという都市の謎、
サエバミチルという人間自体の謎の方に興味が向いてしまった。
ミステリの本は喋りすぎるとネタを割りかねないので、ほどほどに。

感想を一言で:
ミステリというよりも考えさせられる哲学、そして綺麗な詩のような物語だった。

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フラッタ・リンツ・ライフ
Flutter into Life

森博嗣
イラスト:鶴田謙二
Cノベルス(中央公論新社)
(2007.5/26読了)

知っているんだ。
命がここにあることを。
僕の命も、
君の命も、
すべてがここにある。
ここにあった。
堕ちていった奴らの命さえも、
ここにある。
ずっと……。

『フラッタ・リンツ・ライフ』本文より

スカイ・クロラのシリーズ4作目ノベルス版。
ようやく出た(笑

半年くらい伸びてたんかなぁ。
鶴田謙二のイラストが遅れたかららしいけど。
いやいや、「鶴謙ファンの気持ちは鶴謙ファンでなけりゃ、わかるもんかよ、ねぇあんた!」という素晴らしいキャッチフレーズが公式ファンサイトの少年科學倶楽部にあるけど、森博嗣のファンにも味あわせたわけだな(笑

そしてアベ商やforgetの続きはいつなんだろう(笑

しかし、その甲斐あってか表紙イラストと中のイラストは素晴らしかった。
人間であること、人間でないこと、女性であること、生きていること、死んでいること。
そんな主人公が持つ疑問が見事に表されていたと思う。

そしてその疑問こそが4巻でも深く問われる。

深いよな…

次で最終巻。

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クレイドゥ・ザ・スカイ
Cradle the Sky

森博嗣
イラスト:鶴田謙二
Cノベルス(中央公論新社)
(2007.11/23読了)

今までの人生がすべて幻だったとしても、僕は全然驚かない。それくらい希薄なのだ。僕はまだ病院のベッドで眠っているのかもしれない。今も夢を見ているのかもしれないじゃないか。
あまりにも長い夢を見すぎた。
煙を吐く。
ああ……、どうしよう。
もう、いい加減に、こんな不完全な連鎖は断ち切るべきなんじゃないか?

『クレイドゥ・ザ・スカイ』本文より

『スカイ・クロラ』からはじまる5部作の最終巻。

"Cradle the Sky"。
空こそが安らぎの場所であるゆりかごのよう、っていうような意味だろうか。
地上で色んなしがらみに縛られて生きていることこそが不自然。
空を飛行機で飛び、相手の戦闘機とダンスを踊り、死ぬときは空の中で。

空で生きていることの方が自然。
だから空で生きようとしているだけのキルドレたち。

でも、彼らを戦争の道具に使い、政治の手ごまに使う人達がいる。
言ってしまえば戦争の道具になっている主人公たち。

でも人間らしさから離れている空に憬れる彼らの方が人間らしいんだよな…
平和のためという口実で戦争の道具にしてしまっている人類の方が人間らしくないように思えてくる。

もはや「人間らしくない」とも言える様なあまりに純粋すぎるキルドレの子供たちの思考には憬れるんだけれども、もう戻れないよな、と思ってしまう(笑

鶴田謙二がイラストを書いているということで買いはじめたノベルス版だけれども、この最終巻のイラストはこのシリーズの核をついているような気がする。
すんごくよかった!

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スカイ・イクリプス
Sky Eclipse

森博嗣
イラスト:鶴田謙二
Cノベルス(中央公論新社)
(2008.12/1読了)

そう、飛び回って、遊びたい。
走り続けたい。
この広い、美しい、自由な場所で。
尊厳と孤独を賭けて。

『スカイ・イクリプス』本文より

『スカイ・クロラ』からはじまる物語。
この短編集で終結。

思えば鶴田謙二のイラストがあったからこそ、ノベルス版に手を出したんだよなぁ。
単行本の美しい装丁も好きだったんだけど、あえてノベルス版を買い続けたのはまさにそこだった。

美しく純粋に空を駆ける者たちの物語。
その透明感を見事なイラストで表現していたと思う。

こうノベルス版の本を並べてみると非常にいいんだよなー。
鶴田謙二最高だ!

本編の話はもうわざわざ語らなくてもいいだろう(笑
この短編集まで辿りついたような人は、登場人物たちになんらかの愛着を持っているだろうし、なにより彼らの物語をもっと読みたかったからこそ読んでるんだろうしね。

この短編集まで読み終えて、森博嗣の著作の中でもかなり好きな部類だなってことを再度実感した。

読めてよかった!

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虚空の逆マトリクス
INVERSE OF VOID MATRIX

森博嗣
講談社文庫
(2006.7/16読了)

森博嗣の短編集。
S&Mシリーズの短編「いつ入れ替わった?」も収録
文庫版解説は漫画家のゆうきまさみ。

「トロイの木馬 Trojan Horse Program」
近未来的な話だけど実は現実に近いのかもしれないなぁ。
本を途中で読むことも可能だったはずだが、なぜか読み通してしまった。
この行動は果たして自分の意思と言えるのかどうか(笑

「赤いドレスのメアリィ Mary is Dressed in Red」
赤いドレスを着た女性に関する噂話。
……どれが真実だったのだろう。
それとも真実なんてものはなかったのだろうか…

「不良探偵 Defective in Detective」
なぜ探偵は殺人現場に戻らなくてはなかったのか。
確かに真犯人は小説家だ。
それを言い当てた探偵も探偵だ。
このあとどうなったんだろう。
警察から見たら探偵の行動がおかしすぎるしなぁ。
それはそれ、小説家が考えるべきなんだろう(笑

「話好きのタクシードライバ That's Enough Talking of Taxi Driver」
なぜタクシードライバは話好きなのか。
こちらが頼んでもないのに、なぜにそうまでして喋り続けるのか、というお話。
タクシードライバは客と話をするためでなく場合によっては自分が喋りたいから喋る、っていうオチ!?

「ゲームの国 The Country of Game」
回文好きの同好会のメンバーたちが出会った事件の記録。
……もしかしてミステリィとして記録した小説風のドキュメンタリーなので小説ではないということ?
あくまで記録とか?

「探偵の孤影 Sound of a Detective」
幽霊、って一体なんなんだろ、という話。
オチがっオチがっ。
こんな話大好きだなぁ。
なんていうかシックスセンスとおんなじなわけやね

「いつ入れ替わった? An Exchange of Tears for Smiles」
S&Mシリーズを読んだ人にはニヤニヤしっぱなしなこと請け合い(笑

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レタス・フライ
LETTUCE FRY

森博嗣
講談社ノベルス
(2006.1/19読了)

メフィストやin pocketに掲載された短編やショートショート9本。
西之園萌絵や海月君が活躍する『刀之津診療所の怪』も収録。

『証明可能な煙突掃除人』のオチ好きだなぁ。

刀之津診療所ですが、なんか西之園萌絵が主役の話を読むのが随分久しぶりなような...
『怪』というより日常にあるただの誤解を真面目に討論してみたらこんな真実だったのか、という話。
普段見慣れないものなら見間違えても仕方ないよなぁ。
そりゃ人のいないところでしかできないよな。
なんとも森博嗣っぽいトリックというかなんというか。

あと『刀のつPQR』というもう一つの謎も大好き。
なるほど。
これをちょっと聞いただけで分かってしまう犀川先生ってw

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工学部・水柿助教授の逡巡
The Hesitation of Dr.Mizukaki

森博嗣
カバー・口絵イラスト:山田章博
表紙イラスト:大竹茂夫「アルバトロス」
幻冬舎文庫
星星峡連載
(2007.10/26読了)

このまえも、水柿君は学生に、ぼそっとこう言ってしまった。
「マジっていうのは、あれは、真面目の省略形だよね」
「え、マジですか?」

『工学部・水柿助教授の逡巡』本文より

森博嗣の水柿君シリーズ第2弾。
単行本から約3年。
ついに文庫落ち。
文庫版の解説はよしもとばなな。

工学部の助教授である水柿君がついに本を書き、作家デビューしたあたりのエピソードが収録されている。

本を出し始めても別にそんなに世界が変わるわけではなかった。
奥さんと普段の会話をして思ったこととか、学生と喋って気づいたこととか、いかに模型が作りたいかということをつらつらと書かれている小説。

まるで森博嗣自身の話のようだけれども、別に森博嗣自身に重ねて書かれたというわけではなく、でも実は本当にあったエピソードもあるのかもしれない(笑
しかし、やはり森博嗣と重ねて読んでしまうのが読者というもの(笑

そりゃ日記のシリーズやblogを読んでたら…。

小説として読むとなんだか、ごちゃごちゃと結果として「何がいいたいんだ」ということになりかねないようなものなので、
これはエッセイとして軽ーく読むのが一番楽しめる本だと思う。

編集者の唐本さんとのやりとりが妙に現実感漂ってた気がする。
唐木さん自身もこんな人なのかなーと思ったりとかしながら読めちゃったし。。
こうやって無意識的に唐木さんのイメージがついていくものなんだろう(笑い

さて、そうなると森博嗣の奥さんのささきすばるの印象はすでにこのシリーズで定着しているといえるだろう。
かといって定着させてしまったところで本人に会うことがあるわけでもなし(笑

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ZOKU
Zionist Organization of Karma Underground

森博嗣
光文社文庫
(2006.10/17読了)

役に立ちたくない。見返りがほしくない。なにかを得たいとも思わない。なにかそういった、どうしようもなく融通の利かないものはないかね?

『ZOKU』本文より

犯罪には及ばない。
けれども迷惑である悪戯をすることを目的とする"ZOKU"と彼らを阻止する"TAI"の攻防を描いた小説。

もーっ。
もーーーっ。
しょーーーーーもないなぁ(褒め言葉

迷惑だが迷惑と気づかれないのもダメ、かといって犯罪に及ぶのはもっとダメ。
さぁどうやって悪戯をしてみようか。
いい年した大人たちがそんなことを一生懸命無駄に考えようとするのが素敵すぎ。

こんなことをいつまでも頭の片隅ででも考えられる大人でいたいと思う(笑

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アイソパラメトリック
ISOPARAMETRIC

森博嗣
講談社文庫
(2006.3/16読了)

森博嗣による写真とショートショートのコラボレーション全25本。

多分現在では相当なプレミアがついている「アイソパラメトリック」の文庫化。
たった1ページのストーリィが25編。
ものすごく濃縮された森博嗣が楽しめます。

「穴」「学識経験者」「浮力」「大学教授」なんかが好き。
なんか色んな本質を突いてるよなぁ。

森博嗣の撮影した写真って「そこに存在していたモノ」だよなぁ。
決して生きた写真や躍動感あふれると言ったモノではなく。
だけど、今そこにあるモノから読み取れるものを撮るってのが面白いと思う。


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堕ちていく僕たち
Falling Ropewalkers

森博嗣
集英社文庫
小説すばる連載
(2007.4/24再読)

もちろん、男に戻りたいなんて、一度も思わない。やっぱり、女性の精神って、そういうふうにできているんだね。著しく安定したポテンシャルなんだ。

『堕ちていく僕たち』本文より

森博嗣の『堕ちていく僕たち』。
久々に再読。

5つの短編からなる本。
そのどれもが女性を語っていて、けれども別にセクシャルな内容を語るわけでもなく。
なんか不思議な感じ。
それはこの本の文体が一人称ですべて語られているのか。
小説でありながらやけに詩的な感じがするからなのか。

少なくとも、不思議なラーメンを食べたことで男から女に性別が変わってしまったのに、そんなに動揺することなく受け入れる人たちは不思議だ。

性別が変わろうと少なくともこの人たちは自分という存在を尊重してるよなぁ。

えぇもう森博嗣の本の中でもとびっきり不思議な本だと思う。

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カクレカラクリ
An Automaton in Long Sleep

森博嗣
メディアファクトリー
(2006.8/25読了)

120周年のコカ・コーラとのコラボ小説。
9月にドラマ化。

隠れ絡繰り(カクレカラクリ)。
120年前に作られ、今年に動くと言われている有名カラクリ師が作ったカラクリ。
村の中にあることは分かっているが、それはどこにあるのか、どのようなものなのかがまったく不明。
そのカラクリ師は一体なにを遺したのか。

コカ・コーラとのコラボレーションです。
それだからかソフトカバーで1000円。
えらく安いです。

正確に120年を測るといわれているカラクリ。
一体どのような技術をもってそんなものが作れたのか。
そして120年がカウントされた時、なにが起こるのか。

別に殺人事件が起こるわけでもない。
ものすごい結末が待っているわけでもない。
でも、人が"自分"のしたことを遺すってのはすごいことだよな…
それが長い年月の間経ているとしたらなおさら。
遺されているものから現在ではさらに進歩している。
けど振り返ったとき"それ"が後ろに確かに存在している。
まさに歴史だな、と感じた。

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少し変わった子あります
Eccentric persons are in stock

森博嗣
文藝春秋
(2006.11/26読了)

とぎれとぎれに思い出す記憶のように、転々と人から人へと、意識は渡り歩いているのではないか。その人その人になりすまし、次々に新しい町を訪ねるように。

『少し変わった子あります』本文より

連作短編…か。
短編には変わらないけど、なんだろこのジャンル。
とにかく変わった小説だった。

ただ、主人公の大学の先生と様々な女の子がただ食事を一緒にするだけ。
それぞれがそれぞれの個性を持っていて、その場かぎりの会話を楽しむ。
プライベートなことを聞くわけでもなし、その人に触れるわけでもない。
一期一会。
もう会うこともない人とただ文字のとおりに「会話をするだけ」。

ただの会話、されど会話。
森博嗣が書くと会話はここまでおもしろくなるのか。

そして最後には別々の話と思っていたのにしっかりと話が完結するところがまたいいよなぁ。
あ、なるほど、と。

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探偵伯爵と僕
His name is Earl

森博嗣
カバー・口絵イラスト:山田章博
講談社ノベルス
(2007.11/10読了)

僕が初めて伯爵を見たのは、小学校の隣にある公園だった。まだ夏休みまえのことだ。真っ黒な服装の大人の人がブランコに乗っていた。

『探偵伯爵と僕』本文より

ミステリーランドの1冊の『探偵伯爵と僕』が新書落ち。
ミステリーランドは文庫などにはならないと当初は聞いていたので喜ばしい限り(笑

ミステリーランド版と比べて山田章博による挿絵が多くなっているようです。

アールと名乗る探偵伯爵と僕=新太が出会って、僕の友人の失踪事件の謎を解いていく。

他人から見たらひどく怪しい人物である探偵伯爵。
自らを伯爵と名乗り、しかもアールという名前だという。
昼間から町をぶらつき(まぁ探偵なんで)、ゆえに新太のお母さんからは評判が悪い(そりゃそうだわな。

そんな伯爵と友達になり、関わっていくうちに次第にいろんなことに気づいていく。

終始子供の視線から見ている物語だけに、社会への疑問がどんどん沸いたり、すごく些細なことでも気になっと書かれていたり。
そういう風に描かれているので、童心に還って読めたような気がする。
大人でもまだまだ疑問は沢山持てるもんだ。

そしてなにより探偵伯爵の謎めいた雰囲気が大好きだ。
決して物事の疑問をさっと答えてくれない(笑
逆に疑問をさらに掘り下げて考えさせるように投げかけられたりもするし。

 

ラストの2ページには正直ゾッとした。
その2ページの影響でもう1回読んで見る必要があるかもなー、とすら思えた。

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どきどきフェノメノン
A phenomenon among students

森博嗣
角川書店
野生時代連載
(2005.6/16読了)

大学院生の窪井佳那は研究一筋。
けれども常にどきどきを求めている少し妄想癖のある女性。
そんな彼女にさまざまなどきどきが降りかかる。

森博嗣初の恋愛小説、という謳い文句。
角川書店「野生時代」連載作品。

人が生きていくのにはどきどきが必要だ、というのがこの主人公の持論。
つまりは次のようなことだ。

辛いとか苦しいとかそんなことがあっても、少しだけでもいいことがあれば、それだけでそんなことは帳消しできてしまう。
悩んだり反省したりすることは重要なことだけど、そんなことが続くような毎日だったら願い下げ。
自分にとっていいことだったり、どきどきだったりは、自分でそういったことが訪れるように仕組んでみたり、または楽しいことがありそうなところへ飛び込まないと、きっと見つからない。
そんなことを考えながら生きてみたらもっと面白い人生になるかもしれない。
人生なんて長いゲームのようなものなんだから。

改めて言おう。
これは森博嗣の恋愛小説だ。
森博嗣で恋愛かぁ、と思ってネタのつもりで買ってみたら、おもしろかった。
この本に書かれてる「どきどき」は誰にでも経験があることだし(多分)、
読んでみたら共感できることって沢山あると思う。
森博嗣のミステリを期待している人も買っても損は…ないと思う。
一応ミステリの部分もあるし。

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