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無貌伝~双児の子ら~

望月守宮
表紙イラスト:伊藤真美
講談社ノベルス
(2009.4/20読了)

一人は病で死に、二人は自らの手で命を散らす。残りのものはみな、人間であれば殺される。そして死にゆくこの家から化け物が産まれるだろう

『無貌伝~双児の子ら~』本文より

第40回メフィスト賞受賞作品『無貌伝~双児の子ら~』。
遅くなりましたがようやく読了。
表紙イラストが伊藤真美さんだったのでびっくらこいた。
イラストを見たのはピルグリム・イェーガー以来かも。

一人で生きてきた少年と、誰からも存在を忘れられた探偵の話。

タイトルからはまるで第10回の受賞者の中島望のようなものかと思いきや、れっきとしたファンタジー要素を加えたミステリだった。

さてさてこのファンタジー要素である「ヒトデナシ」という憑き物。
この憑き物に憑かれるとなんらかの特殊能力を得られる。
ただこの憑き物が人間につくとは限らないというもの。

この摩訶不思議な設定、そして日本でありながらどこか退廃的に思える昭和が舞台というなんとも想像しづらいものなのだが不思議と本の世界に入り込みやすかったことに驚いた。

ミステリとしても「犯行予告」にはじまり、閉鎖的な旧家での陰惨な事件と緊張感漂う家族関係が描かれるというなんか懐かしさを感じるもの。

しかしどろどろしているかと思いきやそうでもない。
逆に愛に満ち満ちすぎじゃないかと思えるくらい。

実は爽やかミステリというところに着地したのに仰天した。

だが…
どうすんの?
これ明らかに序章だよな。
するとこの「無貌」との対決をまだ続けるわけか。

この1冊だけの設定だからこそ今回の話はしっかりと成り立っているように思えるんだが…
続編である2作目をどう料理してくるかでこの作者の真髄ってものが見えそうな気がします。

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星界の紋章Ⅰ 帝国の王女

森岡浩之
カバーイラスト:赤井孝美
ハヤカワ文庫JA
(2006.10/24再読)

「頼むよ、ぼくはラフィールとだけ呼びたいんだ」
「無理することはないんだぞ、閣下」
「無理なんかしてないよ。だから……」
「なんなら皇孫女殿下でも、わたしは気にかけないぞ」
「うわっ」「どうしたら許してくれるんだい、ラフィール!」

『星界の紋章Ⅰ帝国の王女』本文より

やっぱこのやりとり好きだなぁ。

星界シリーズ1作目。

ものすごいSF。
言語と世界を練りに練って作りあげられた独特の世界。
これはもうすごいとしか言いようがない。

物語は1巻~3巻はボーイミーツガールもの。
故郷が侵略されたことをきっかけに突如として、まったく知らない宇宙の文化を持った種族の貴族になってしまった主人公とその宇宙を支配している国の王位継承者の少女の冒険もの。

1巻は主に宇宙での文化の説明。
…ものすごい数のルビが振ってある用語に引かなければきっと楽しく続きを読めるハズ。

でもこのシリーズのいいところって世界観もさながらやっぱりジントとラフィールのやりとりだろうなぁ。
読んでてすごく心地いい。
なにがいいってラフィールのツンデレっぷりはたまらないものがある(笑
それに加えて世界観もしっかりしているし、スペースオペラとして必要な要素は揃っているので、文句は1%もない。

唯一の問題点として続きがなかなかでないことか。
…いつまでも待つけどさ。

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星界の紋章Ⅱ ささやかな戦い

森岡浩之
カバーイラスト:赤井孝美
ハヤカワ文庫JA
(2006.10/25再読)

「ほんとうに……、これを着なくてはいけないのか?」
「いけないんだ」「きみがクラスビュールの住人に変装するにはね」
「ジント、そなたは残酷な男だな!」
「ぼくが好きでやってるんじゃないってことは、わかってもらわないと」
「そうか」「じゃ、さっきから頬をぴくぴくさせているのは、なんのつもりだ」

『星界の紋章Ⅱ ささやかな戦い』本文より

緊張感と笑いが絶妙なバランスで成り立ってるよなぁこの会話。

星界の紋章2巻。

宇宙ではラフィールがジントをひっぱって来たが、2巻では立場が逆転。
地上に降り立つことがないアーヴであるラフィールにとっては常識のまったく通用しない世界。

この立場の逆転でラフィールがものすごく儚いというか、決して強いわけではない存在だと気づかされる。
そんな宇宙が故郷のラフィールと地上が故郷のジントの二人がお互い助け合うことで少しずつ距離が狭まっていく様がやっぱり2巻の見所だろうなぁ。

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星界の紋章Ⅲ 異郷への帰還

森岡浩之
カバーイラスト:赤井孝美
ハヤカワ文庫JA
(2006.10/26再読)

「それにしても、きみはほんとに変わらないな。三年前のまんまだ」
「三年やそこらで変わってたまるか。そなたはちょっと老けたな」
「大人びたっていってくれ」

『星界の紋章Ⅲ 異郷への帰還』本文より

星界の紋章の最終巻。

そしてこのあとは「星界の戦旗」に続く。
しかし、あの時読者はこの後、新作がなかなか読めない状態に陥るとは思っていなかった(笑

宇宙での冒険。
地上での冒険。
その二つを経て、再び宇宙へ行く手段というのがなんとも神話的だ。

エピローグも主人公ふたりに関わった人たちのその後も見れるあたりが憎らしい演出。
まったく最後まで楽しませてくれる。

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星界の戦旗Ⅰ 絆のかたち

森岡浩之
カバーイラスト:赤井孝美
ハヤカワ文庫JA
(2007.3/7再読)

「そなた前に、自分が死んだあとだれが思い出して悲しむだろうとかなんとかいってたな」
「うん?ああ」
「わたしが悲しむ」
「それでは不足か?」

『星界の戦旗Ⅰ 絆のかたち』本文より

星界の紋章の続編、もしくは本編の「星界の戦旗」1巻。

この本が発売したのって10年以上前なのか…
驚愕した。
もうそんなに経ったのか!?
この頃はとんとん拍子に出るものだとばかり思っていた。
……実際読み始めたのって星界の戦旗Ⅱの頃からだったけど。

遠未来。
人類は宇宙に進出し、はては宇宙の生活に遺伝子を特化した種族であるアーヴが強大な帝国を建国した。
そんなときに地上世界出身の少年ジントとアーヴによる人類帝国の王女殿下であるラフィールが出会い、宇宙で地上で冒険をしたのが「星界の紋章」。
そしてその3年後に勃発する戦争に星界軍として参加するのがこの1巻。

やっぱり3年前の冒険を経験しているのとでは違うよなぁ。
ラフィールが王女殿下である、というのが常識である人たちと、その素顔まで知っているジントではだいぶ違うよな。
ってかあのどことなく漂うラフィールのツンデレっぷりがやっぱりいいんですっ。
またそのやりとりがどことなく変化球で遠まわしで、けれどもやっぱり直接的な言葉を使って繰り広げられる会話が楽しくて仕方ない。

星界の断章の2巻がそろそろ発売されるようなので、一気に星界の戦旗シリーズを再読するとします。

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星界の戦旗Ⅱ 守るべきもの

森岡浩之
カバーイラスト:赤井孝美
ハヤカワ文庫JA
(2007.3/9再読)

「わたしはどんな顔をしてあの者を出迎えればいいのであろ」
「そいつは、艦長がだれを迎えるつもりかによりますなぁ」

『星界の戦旗Ⅱ 守るべきもの』本文より

星界の戦旗2巻。

幻炎作戦後、人類統合体が統治していた星系ロブナスⅡを統治することになったラフィール。
しかし、そこは受刑者を収容する星だった。
そして到着した時にはすでに暴動が起こる直前だった。

この2巻だよなぁ。
アニメといい小説といい、最高にいい終わり方をしてると思う。

二人の前に訪れる試練とその乗り越え方。
そして乗り越えたときに気づくお互いの気持ち。

シリーズ5冊目。
ボーイミーツガールの一つの終着点ってこういうもののことをいうんだろう(笑

もうなんともうらやましい。

その展開もそうだけれども、この巻あたりから皇女殿下という血を引き継いでいる"ラフィール"という人物の将来の片鱗みたいなものが見えてくるのも必見。

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星界の戦旗Ⅲ 家族の食卓

森岡浩之
カバーイラスト:赤井孝美
ハヤカワ文庫JA
(2007.3/12再読)

「胸を張れ、ジント」
「ここがそなたの戦場であろ」
「ぼくの……戦場?」
「ちがうのか?ちがうのなら、わたしは帰るぞ」
「いや」
「ちがわない。」

『星界の戦旗Ⅲ 家族の食卓』本文より

星界の戦旗3巻。

ついに物語はジントの故郷へ。
星界の紋章の最初に出てきたジントの故郷。
故郷を裏切った父。
その行為によってアーヴという種族と関わることになったきっかけ。
その過去と向き合うことになったジントとアーヴによる人類帝国の王女ラフィール。

ひとつの決着がつく巻…だな。
ジントとジントの家族が再び再開する。
しかし、それは交渉の場。

家族の中で、そして故郷との決着。
そしてこれからジントが進むであろう未来に対して。
さらにいうならべジントとラフィールの未来に。

色んな意味で紋章からの伏線が一気に回収され、そして新しい戦局の序章であると言える重要な巻だろうと思う。

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星界の戦旗Ⅳ 軋む時空

森岡浩之
カバーイラスト:赤井孝美
ハヤカワ文庫JA
(2007.3/12再読)

「これが最後の戦争だ。いろいろあるさ」
「まだ最後じゃありません」
「おれの考えが正しければ、人類最後の戦争になる」
「本気でそう思われるんですか?」

『星界の戦旗Ⅳ 軋む時空』本文より

星界の戦旗4巻。

皇帝ラマージュがついに物語の表舞台まで出てこざるを得なくなり、戦争は加速する。
そして様々な人が口走る「人類最後の戦争」がいよいよはじまる。
ジントやラフィールといったこれまでの主役たちだけでなく、ラフィールの弟ドゥヒールをはじめ今まで脇役だった者達も次々に物語へと加わっていく。

いままでのはなんだったのか。
前回が同窓会風味な物語だったのも伏線…か。
帝国が少しずつ変わりつつあったのは、今後起こる事態に対して。
いよいよ本編というものが語られてきたなぁ。
しかもものすごく大きな局面。
これまでのこの物語の説明に費やした紋章や戦旗1~2巻は戦争の序章であり、これからが本当の戦いだな。

続きがそろそろ出ることを願いつつ。

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星界の断章Ⅰ

森岡浩之
カバーイラスト:赤井孝美
ハヤカワ文庫JA
(2005.7/13読了)

1999年から2003年までに断続的に発表された星界シリーズの短編+書き下ろしのある短編集。

星界の紋章や星界の戦旗といったシリーズを語るときにかかせないのが世界観。
宇宙に進出した人類の進化した生活や人種、SFの設定から使われている言語まで。
世界観に凝りすぎた、いや、それこそが醍醐味であろうと思う。

その世界観の中の短編。
いままで語ることの出来なかった話、シリーズの主人公たちがまったくでてこなかった話。
そんな話が12本入っております。
はるか昔にあたる「現代」のエンターテインメントが星界シリーズの世界でも生き残ってたり、
今まで遥か遠い未来の出来事として見ていた世界が
急に現代じみて見えてしまったのは気のせいでしょうか……。

正直星界シリーズの正史には組み込んで欲しくないようなものがあったなぁ。
もちろんおもしろいものもあったけど。

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星界の断章Ⅱ

森岡浩之
カバーイラスト:赤井孝美
ハヤカワ文庫JA
(2007.3/15読了)

「サムソンさんがぼくの称号に動じなかったことです」
「そういってもらえると、おれも嬉しいよ
うまくやれているかどうか、自信がなかったからな」
「身分制社会はいろいろと面倒ですからね」
「同感だ」

『星界の断章Ⅱ』本文より

年半ぶりの星界シリーズの新刊。
短編集2冊目。
だが、しかし。
これでもしかして短編はすべて出てしまったんじゃないだろうか(汗
とりあえず5年分の短編が収録されてます。

前巻の「星界の断章Ⅰ」に比べて読者により身近なキャラクターの短編が多かったように思います。
ジントとサムソンがはじめて出会った時のエピソードだったり、エクリュアの幼少時代だったり、ジントのデルクトゥー時代だったり。

そういう意味ではⅠよりは十分に楽しめたかと。

 

さて、本編が2年半ほど出てないわけですがいつ出るんだろう。
待ってる間に短編集が2冊出てしまったしなぁ。
ラジオドラマの『星界の戦旗Ⅳ』もやってしまったみたいだし。
『星界の戦旗Ⅲ』のOVAも出てしまったし…。

例年通りだったら前の巻が出た4年半後の2008年半ば、か orz

(参考
星界の紋章Ⅲから星界の戦旗Ⅰ→半年
星界の戦旗Ⅰから星界の戦旗Ⅱ→1年半
星界の戦旗Ⅱから星界の戦旗Ⅲ→2年半
星界の戦旗Ⅲから星界の戦旗Ⅳ→3年半
星界の戦旗Ⅳから星界の戦旗Ⅴ→?

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星界マスターガイドブック

早川書房編集部 編
カバーイラスト:赤井孝美
本文カット:にょろた
ハヤカワ文庫JA
(2007.10/15読了)

星界の紋章・星界の戦旗1~4のガイドブック『星界マスターガイドブック』。

収録内容:
・星界の戦旗Ⅱ、星界の戦旗Ⅲのアニメ版のフィルムダイジェスト
・星界シリーズの世界観の解説(この本のメイン、対談形式)
・アーヴ語の使い方の解説
・人物辞典
・歴史年表
・用語辞典

星界シリーズ初心者にはさっぱり分からない内容だろうし、シリーズのファンには今更な感じがしてしまうような気もする。
この本が出た2005年はシリーズがはじまって10年ほど。
「なかなか新刊出ないから設定忘れた orz」という時にはこれを読み返したらシリーズの内容や設定などをカバーできそうな感じはする。

表紙と本文のカットはかわいくて好きです。

で、肝心の作者森岡浩之氏にははやいとこ星界の戦旗Ⅴをぉぉぉ。
4巻のあとがきで次は早く出そうだと言ってたけど…
まだ本編の新刊から約3年。
まだまだ待てます。
けどそろそろ(笑

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四畳半神話大系

森見登美彦
角川文庫
(2008.3/31読了)

大学三年生の春までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石の数々をことごとくはずし、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえであるか。

『四畳半神話大系』本文より

『夜は短し歩けよ乙女』でヒットしてきた感のある森見登美彦の『四畳半神話大系』。
単行本時に買おうと思ったんだが、何が楽しくて引きこもりに近いような話を単行本でわざわざ読むのかと考えた結果、結局文庫化まで待ってしまった。

ネガティブ9割、いい話1割の短編4本。
決してネガティブばっかりでなく「いい話」でもあるところがニクイところ。
逆に「いらねーよ」とも思えてしまったりもするのだけれど(笑

人生なにを選んでも似たような結果になるということをこの本は言っているのだろうか。

大学生活をエンジョイしようと映画サークルに入ろうとソフトボールサークルに入ろうと、そこには悪友がいて、結果として恋愛も勉学にもなにに対しても意義を見出せず鬱屈して過ごすという…

あぁ恐ろしい。
なんと恐ろしいことか。

しかし、彼らは非常に鬱屈した青春を送りながらもばかばかしく過ごしている。
それって大学生のときしか味わえねーぞ、とか過ぎ去った日を思ってみたり。
それ自体が楽しいんじゃないか(笑

そもそも恋愛とか勉学とかに対して謳歌できるような人ばっかりが大学生ではないはずである。
逆にイメージとしての恋愛を謳歌できたような人物がどれだけいたと思えるのだろうか。
答えはNO!
そんな人の方が明らかに少ないのは明白な事実である (と思いたい

まぁそんな機会がさっぱりない orzと過ごすのもまた一興かと思う
そんな機会なんてあるときはあるし、ないときはさっぱりないもんだ (と思わなければやってられないというのもまた多くの人が思っていることであると思いたい

つらつらと書いてみたけれども、大学生活なんてどんな形にせよ大抵は一度しか訪れない時なのだし、結果として思ってみれば面白い日々だったと思えればいいものだと思える。
たぶんこのあたりはこの本の持つメッセージと似たような感じだと思うけど(笑

(´-`).。oO( この本の中でのばかばかしさ。小津や師匠は読んでいてリアリティのある人物なのだが、どうしても明石さんだけが読んでいてもどうも主人公の妄想の産物であるかのように思えてしまった。なぜそう思えたのかと聞かれてもなんとなくとしか言えないんだけれども…

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黙過の代償

森山赳志
講談社ノベルス
(2005.12/9読了)

あらすじ
テコンドーを通して韓国のことを学んだ大学生の秋月昌平が出会った瀕死の男から鍵を渡される。
その鍵を韓国の大統領に渡して欲しいという遺言を叶えようとするが…

日韓の間にある大きな溝をテーマに持ってきた第33回メフィスト賞受賞作品。

社会派の小説です。
現実にある事実を突きつけられたような気がします。
普段自分が接することがないからなのかもしれない日韓問題。
今もなお存在するお互いの国の中での差別問題、純血か否かの問題。
人間誰もが平等というのはあくまで理想論なのかもしれない。
それぞれの民族や国には歴史があって、それを学んで生きるということは自らを構築するアイデンティティとなっているとも言えるかも。
でも、逆に今の日本はどうだろう。
ラストシーンにもあったけど、日本人というのは何に関しても無関心すぎじゃないだろうか。
結果に至る過程を考えることのできる人っていうのが極端に少なくなってるように思えてしまう。
ニュース番組でもなんでも結果は伝えるけどなぜそうなってしまったのかということは曖昧にしか報じないし……。

物語は終わっても、なにか心に色んなものを残していった小説でした。

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