感想のページ 作者「や」

証し

矢口敦子
幻冬舎文庫
(2008.5/9読了)

朝倉木綿子はベッドの中で夢うつつ、まだ見ぬ子供との出会いに浸っていた。「お母さま」一目見るなり、子供は木綿子に抱きついてくる。そして、これまでの空白を埋めるように片時も離れない日々が続くのだ。

『証し』本文より

ここ最近「償い」で人気が出てきた矢口敦子の作品。

人生を謳歌し、やりたいことがなくなった女性。
彼女は昔、卵子を提供したことがあり、その子供と会うことが次の人生の目的となる。
だが、違法とは知って調べた結果、自分の卵子から生まれた男の子がある一家を惨殺し逮捕されるという事態になっていたことが知り、事件の真相を探っていく。
遺伝子上の母と産みの母の話。

『償い』は優しい話だった。
なんとなくそういったものを期待して読みはじめたんだけれども、今回はまったく違った感じ。

まさに「子供ってなんなんだ」という疑問を投げかけられた気分だ。

自分の子供がもしも犯罪者になったら。
そういった視点からの母親の心理をたくみに描きながら、もう一つの視点としての遺伝子を提供した母親を用意してくるあたりが新鮮だった。
さらに深く母親にとっての子供とは何か、というのをエグくえぐって行く。

気分は沈んでいくのだが、それでも読ませてくる。
そういうページをめくらせる力は『償い』に負けず劣らず。

でもやっぱり沈まされた… orz
テーマをある意味でひっくり返してくるとは。
本質的には変わらないのかもしれないけど。

親と子供。
まったく深いテーマだよな…

目次のページへ戻る

償い

矢口敦子
幻冬舎文庫
(2008.2/14読了)

私は取り返しのつかない過ちを犯したのだろうか。善を行ったつもりで、悪を行ったのだろうか

『償い』本文より

矢口敦子の『償い』。
子供の病気が危険な状態になり、その時に自分が忙しいことを理由に妻に任せていたら子供が死んでしまった。
その直後には妻が自殺。
そして自分の奇跡的な手術によって生き延びた患者は何年も経ってからその手術の影響で死亡してしまい、それをきっかけに医師としての立場を追いやられる。
そうやってホームレスになった主人公が、昔誘拐事件でさらわれ自分が助けた子供と再会する。

ミステリということで読んでみると「ん?」と思い始める。
これってミステリ?
自分の罪にさいなまれる元医者と少年の心の交流が緩やかに描かれ、それになんだか和む。

主人公の周りでホームレスや高齢者をターゲットにした事件が起こり、なんだか社会派っぽい小説だなぁと思ってさらに読み進めていく。
するとなんだか怒涛の展開へ。
ラストのラストまで緊張が続く。

こ……これは。
主人公のホームレス生活がしっかり描かれるのも、社会派っぽい事件が描かれるのもすべてが伏線じゃないか。

あとでこの本を振り返るとすべて一貫した構成であったことにびっくりした。
すべては主人公の心の救済のためのストーリーであるといっても過言じゃない。

素直に感動した。
ラスト一ページになんだか救われたというか心が洗われたというか…
帯文句に「温かい感動」というのが謳われていたのも納得。

目次のページへ戻る

天使のナイフ

薬丸岳
講談社文庫
(2008.11/29読了)

少年というだけで、被害者側は加害者のことを何も知ることができない。施設に入ってどんな生活を送ってきたのか、どんな反省の気持ちを持っているのかも知ることはできない。

『天使のナイフ』本文より

江戸川乱歩賞受賞作の『天使のナイフ』。

妻が少年たちに殺された。
しかし彼らは法によって裁かれる年齢を下回っていたために、罪に問われることはなかった。
妻が殺された日から彼らの痕跡を辿ろうとする主人公の桧山。
この加害者の少年達のひとりが殺され、桧山が疑われることとなる。

少年犯罪というテーマと真摯に向き合いながら書かれたであろうことがひしひしと伝わってくる。
ただそれだけでも十分に重厚な世界を生み出している。

だが、しかし。
そこからがこの小説の見せ所なのだ。

「国家が罰を与えないなら、自分の手で犯人を殺してやりたい」

こう主人公は小説内で述べるシーンがある。
心にあまりに大きな傷を負った被害者としての発言。
たしかにそう思うのは理解できる。
赦せと言われて加害者を赦せるものなのか。
そう簡単に赦せるような、そんなもんではないだろう。
近しい人を殺されてなお、加害者の更生を祈るようなことができる人なんてほとんどいないと思う。

だが、まさかこの当たり前に思うであろう言葉が、まさにこの小説の中のすべてが動き出すような歯車となろうとは。

この小説に隠された構造に気づかされた時ぞっとした。
「ああ、こういう謎だったわけか」だけじゃ終わらない(笑
謎が解かれても「一体ここからどうなるんだ!?」と余計に気になってページを捲るスピードが増した。

少年法における加害者と被害者というテーマもさることながら、楽しむ小説としての見せ方がとてつもなく面白い小説でした。

目次のページへ戻る

刑事ぶたぶた

矢崎存美
徳間デュアル文庫
(2006.9/18再読)

ぶたぶたデュアル文庫版3冊目。

夏の日のぶたぶたを読んだら急に読み返したくなったので4年ぶりに再読。

ぶたぶたとはピンクのかわいいブタのぬいぐるみである。
ただし、喋るし家庭もちゃんと持っている。

近作の山崎ぶたぶたさんは刑事。
そんなぶたぶたさんの部下になった人から見た奇妙な事件の数々。

囮捜査や誘拐事件、人質事件など。

なんというかぶたぶたっていうのは物事を和ませてくれるよなぁ。
あと一歩を踏み出させてくれるというか。
別にぶたぶたさんは何も解決してはくれないけど周りが気づいて自分から前に進みだすというのかなぁ。

ほんわかな気分になるにはやっぱりこのシリーズはよいですな。

目次のページへ戻る

夏の日のぶたぶた

矢崎存美
徳間デュアル文庫
(2006.9/7読了)

ぶたぶた書き下ろし中篇。
4年ぶりの徳間デュアル文庫。

ぶたぶた。
ピンクのぶたのかわいいぬいぐるみ。
けど喋るし普通の人と変わらない生活をしている。
ぶたぶたが喋るのを見てびっくりするのは各登場人物くらい。
他の人からは普通の人として見えているのかもしれない。

そんな山崎ぶたぶたさんと出会い、悩んでいることなんかをぶたぶたさんの助けをかりながら自分で解決していくのが「ぶたぶた」という話。

今回は少年と少女の話。
家庭内の不和で父親と母親が別居することになった少年。
そんな時幼馴染の女の子と叔母さんの家まで二人でいくことになる。
幼馴染とはいえ最近はあんまり話さなくなった子と二人きりでいくのがすごくはずかしい。
そこでぶたぶたさんに助けを頼むことに。

 

ほのぼのー。
この読後感の幸せーな気分はなんともいいなー。

自分の周りが変化することではじめて気づく気持ちってのはいっぱいあるしなぁ。
自分にとって何が一番大切だったのか。
そんなことを頭の片隅で考えつつこの二人を見守るように読んでた。

この後ふたりは遠距離になってしまうんだろうけど是非ともがんばってもらいたいものです。

目次のページへ戻る

クリスマスのぶたぶた

矢崎在美
イラスト:あいみあさ
徳間デュアル文庫
(2008.6/6読了)

「すごいね、ほんとにいたんだね、サンタクロース」
おじいさんじゃなくて、ちっちゃなぶたのぬいぐるみで、ソリじゃなくて車に乗ってても? あたしたちに何もプレゼントをくれなくても?それでもサンタクロースって思える?
そうだ。雪合戦なんてしているひまはない!
「どっち行ったの!?」

『クリスマスのぶたぶた』本文より

ぶたぶたシリーズ…何冊目だろ。
まぁとにかく『クリスマスのぶたぶた』文庫版。
文庫版は短編「12月27日」を追加。

装丁からしてもものすごく愛されてる作り方されてる本だよなぁ。
ページをめくることすら楽しい本。

いつものようにぬいるぐみのぶたぶたさんがみんなのところを訪れて、
なにか暖かいものを心に残してくれる話がいくつも入ってます。
なにより今回はサンタ役としてのぶたぶたさん。
想像しただけでかわいすぎるんですが(笑

いつも以上にほんわかできる内容。
文字数も少ないし、読みやすいし、イラストも随所に入っている。

だから子供に読ませるもよし、プレゼントにも適した本のように思えます。

これで徳間デュアル文庫版はすべて読了。
次は光文社文庫版を読むぞ。

目次のページへ戻る

時限絶命マンション

矢野龍王
講談社ノベルス
(2005.6/20読了)

部屋対抗悪魔人形たらい回しゲーム!
指定時間に人形を持っていたら首についている爆弾が爆発。
生き残りたければ人形を別の部屋の中に置かなければいけない。
最終的に生き残ることが出来るのは9戸中1戸のみ。
謎の主催者「管理人」が審判をつとめるサバイバルゲームの幕が開く!

第30回メフィスト賞受賞者による、受賞後第一作。
前作の「極限推理コロシアム」は関西でのみドラマが放映され一部の人に反響をよんだ。
そして今作も前作に引き続きサバイバルゲームもの。

前回と違って今回は推理するというところがあまりなく、ゲーム感覚で読めます。
ただし、命を懸けたゲームですが。
いかにして生き延びるか、このことに重点を置いているので非常に読みやすいです。

目次のページへ戻る

箱の中の天国と地獄
Heaven & Hell in the Box

矢野龍王
講談社ノベルス
(2006.10/10読了)

多くの命が虫けらのように扱われていった

『箱の中の天国と地獄』本文より

矢野龍王三作目。
今回もサバイバルもの。

25階建ての建物から脱出しなければ皆死ぬ。
上の階へ行くには二つの箱のうち一つを開けなければならない。
しかし、箱を開けるとトラップが発動し死ぬことも多々ある。

さて、今月の講談社ノベルスで一番期待していたわけですが。
極限推理コロシアムは正直おもしろくなかった。
しかし、時限絶命マンションは楽しめた。
じゃあ三作目は……

読了後に思ったこと。
「!!!!!!!!!!なんですとっ」

サバイバルものとして、そしてゲームを操っていたものの正体を知ったときの驚愕。
すげぇよ。

ミステリーを期待するならやめておいたほうがいいだろうけれども、サバイバルものとして楽しむならこれはイイ!

【激しくネタバレ有り。この本ってつまり以下のようなことだよな…】

犯人ってさトランクの中だよな…。
だからこそトランクがものすごく重たかったり、とかカメラをしかけずにもっとも近くから見れたりしたんだよな…

【終了】

いや…
おもしろかったデス。
場合によっては地雷も覚悟だったのだけれどもまさかここまでスゴイものとは…

目次のページへ戻る

左90度に黒の三角

矢野龍王
講談社ノベルス
(2007.11/8読了)

自分が勝ち残りたければ、他の八人を蹴落とさなくてはならない。殺人者になれ、と言われているも同然だ。苦しみながらみんなが息絶えていく光景を思い浮かべて、吐き気がしてきた。

『左90度に黒の三角』本文より

矢野龍王の4作目『左90度に黒の三角』。

極限推理コロシアムから、時限絶命マンション、箱の中の天国と地獄とどんどん面白いものになっていっていたので、わくわくしながら最新刊を買いに行った。

今回は安楽椅子探偵モノ。
探偵役は中学のときの同級生10人。
二人ずつペアになり、制限時間は24時間。
犯人が当てられなければ罰として死亡。
前の人が死亡すれば、次の人が犯人当ての推理ゲームに参加。
前の人が残した文字や画像などを参考にしながら、犯人を当てにいく。

そんな内容。

 

主人公たちの番が来るまで「まだかなー」と思いつつ読む('A`)
それでも、どこかに伏線があるんだろうと思いながら読み進め、主人公たちの番が来てヽ(´ー`)ノ

今までのどこからしらおかしいなと思っていた点に対して「なるほど」。

で、結局「左90度に黒の三角」ってなんなのよという最大の謎に対しての解答。

( ゚Д゚)………

工エエェェ(´д`)ェェエエ工

それはない。
それはないわーヽ(`Д´)ノ

いや、それはそれで楽しめたといえば楽しめたけどさっ。
確かに、それだとあの矛盾は解消されるけどっっ。

もしかしたらこんな反応ができたこと自体が楽しめていることに他ならないのかもしれない。

以前の3作をなんだかんだ言いつつ楽しめた人には楽しめるかと思う。
そうでないなら素直に止めておいたほうが(笑

ちょっと以下で少しネタバレを含んだ感想を。

冒頭というかソデに書かれているヒントの珊瑚と龍王の会話
「池袋ぉ?どう」って意味は

【以下反転】

「驚くべき」→「odorokubeki」→ひっくり返して「ikebukorodo」→いけぶころどう?
それとなく池袋っぽい感じには聞こえるか(笑

【反転ここまで】

もしこれがヒントになっているというのなら、

【以下反転】

あの人はすべて逆再生でものを見ていた。
だから食事のシーンでものを吐き出しているように見えたりしたわけか。
そういえば誰と誰がどんな会話をしていたかというのも聞き取れないわけだから証言もできなかった、と

【反転ここまで】

そういうことになるんかなぁ。
なんかちょっと納得できない。

目次のページへ戻る

BLOODLINK
雪花 <上>

山下卓
イラスト:HACCAN
ファミ通文庫
(2008.3/2読了)

「俺たちは愛する人間と一緒に生き残る道を探している。そうだろ?」

『BLOODLINK 雪花 <上>』本文より

3年半ぶりの『BLOODLINK』本編。
最終話上巻。

もしかしたら最後の話は読めないのかもしれないと思っていた矢先ついに出た。
まさか本当に読めるときが来るとは。
しかも下巻は4月発売でほぼ決定。
さらにその後に小学館のスーパークエスト文庫で出ていた『果南の地』がリメイクが出るらしいときた。

まさかまさかの嬉しいニュースだ(笑

本編のほうも着実にラストに向かっているのが手に取るように分かる。
ってかラストが近いよっっ!?

感染したカンナは果たしてどうなるのか。
八神さんの思惑は果たされるのか。
そして何よりついに目の前の決して幸せには至ることはないという現実に立ち向かったカズシは最後に一体なにを目撃するのか。

震えながら下巻を待ちます(笑

目次のページへ戻る

BLOODLINK
雪花 <下>

山下卓
イラスト:HACCAN
ファミ通文庫
(2008.5/10読了)

銃口の先に見える顔はそれでも懐かしく、暖かかった。引き金にかかった右手のひとさし指はみぞれ混じりの雨に濡れてかじかんでいた。僕らを隔てた距離は五メートルもなかった。でも、その距離はもはやなにをしても埋めようもないくらい遠かった。

『BLOODLINK 雪花 <下>』本文より

『BLOODLINK』最終巻。
最終巻というよりも第一部完結編といった方が正しいかな。

ついに一つの大きな謎が解かれてカズシとカンナの物語に一区切りがついた。
小さな物語が終わり、ここからたぶん大きな物語が開始されるんだろう。

ようやくこの物語がはじまった当初からのもやもやというか「ん?」と思わされる疑問に対しての答えがあったことが最大の収穫かなと思う。

完結ということはせず、次に期待をせざるを得ないラストだったので期待。
実に壮大なプロローグだったな…

目次のページへ戻る

嫌われ松子の一生 上

山田宗樹
幻冬舎文庫
(2007.6/24読了)

「俺、松子伯母さんのこと、何も知らないんです。もし生前の松子伯母さんの消息を知っている人がいれば、会って話を聞きたいと思って……」
「聞いてどうするの?」
「……少しは松子伯母さんのことを、わかってあげられるかも知れない、かなって」

山田宗樹『嫌われ松子の一生 上』本文より

2006年に中谷美紀主演で映画化された『嫌われ松子の一生』。

「嫌われ松子」と呼ばれた主人公の笙の伯母さん。
彼女はすでになくなっており、彼女の遺品整理に向かう笙。
そして彼は松子の痕跡を辿っていく。
ある時は中学校の教師、ある時はソープ嬢、ある時は殺人犯。
そんな彼女の素顔を少しずつ知っていく。

 

結構映画って原作に忠実に再現してたんだなぁ。

松子は果たして幸せだったのか。
ひたすらに運がない。
男を見る目がないし、刹那的。
今しか生きてないような気がする。

でも落ち込まない。
ひたすらに幸せを求めようとしている。
その結果が傍から見ると明らかに失敗だとしても。

そんなポジティブさは見てて羨ましいほど(笑
小説で描かれる彼女の繊細な心理状態を映画では歌と曲でうまいこと表現したなぁと思う。

現代と過去をいききしながら、あまりに波乱な人生を紐解いていく構造もおもしろいと思った。

目次のページへ戻る

嫌われ松子の一生 下

山田宗樹
幻冬舎文庫
(2007.6/26読了)

確実に言えることは、俺も松子伯母と同じように、時間が経てば老いていくし、いつかは必ず死ぬということだけ。時間は限られている。その限られた時間と、どう向き合っていくか

山田宗樹『嫌われ松子の一生 下』本文より

「嫌われ松子の一生」下巻。

映画のほうがいいなぁ、とか途中まで思っていたがやっぱり小説のほうが好きだ。

小説のほうでは当然文章だから、松子の心情も甥の笙の思っていることもこれでもかというくらいに語られる。

映画とは違うラスト。
松子の一生を追った笙が最後になにを思ったか。
その笙が思ったことがそのまま読者に投げかけられたラストに色々考えさせられた。

また松子の一生を追うことで笙が自らの生き方に対して様々な発見をするのもよかった。
死は等しく訪れる。
じゃあ今の自分はどうなんだ。
松子伯母さんには等しい死が与えられたのか。
いま生きている人はみな等しい生なのか。
死が訪れること自体は等しいが、なにもかもが等しいわけじゃない。
それを「知る」ことこそが笙の得たものなんじゃないだろうか。

 

松子の弟が自分の子供に「笙」と名前をつけたことに気づいたのが、やっぱり家族なんだなと思った。
たとえ縁を切った姉であっても。
「松子」の「松」は「しょう」=「笙」というのが…

 

いい本に出逢えた。

目次のページへ戻る

あそこの席

山田悠介
幻冬舎文庫
(2008.5/21読了)

「言葉どおりさ。三年B組のある席に座った生徒が呪われてしまうんだ」

『あそこの席』本文より

山田悠介の(たぶん)ホラーの『あそこの席』。
文庫版の解説は長澤まさみ。

転校生を襲った恐怖。
それは呪われていると言われている席に座ったことからはじまった。

…………
……

確かにページをめくらせてくれる本ではあると思う。
さくさく読める。
そこは非常によかったと思います。
あと、学校内での生徒同士にしか分からない空気というのは感じられたと思う。
それゆえの疎外感みたいなものとかね(笑

これはホラーなのか。

だとしたらホラーとしての追い詰め方、感覚的にぞっとさせる要素が甘いような気がする。
追い詰められている描写がなんだかなー。
主人公が怖いと感じていることを主張しているのは分かるんだけれども、それ以上のものは感じられなかった orz

真相も個人的に肩透かしをくらったような感じなんでちょっと残念。

目次のページへ戻る

Fコース

山田悠介
幻冬舎文庫
(2009.3/6読了)

発表以来、若者に大きな衝撃を与え、全国のアミューズメントパークに導入されてから早くも半年が経とうとしていた。病院を舞台にした『Aコース』から始まり、次々と新ゲームが誕生。

『Fコース』本文より

山田悠介の『Aコース』の姉妹編『Fコース』。

Aコースも半端ない出来だったが、これもそうとうな…
いや、もう…ため息しかでないわ…

フィクションに対してリアルの価値観を持ち出して言うのもなんだけど、「これはないわ」。

けれども山田悠介の本の残念感も楽しめているので、これはこれでよし。
だからこそ、たまに面白いというものに会えたときには歓喜できるってなもんです(笑
(いや、それもどうかと思うけど。

目次のページへ戻る

親指さがし

山田悠介
幻冬舎文庫
(2006.7/27読了)

「リアル鬼ごっこ」の作者がはなつホラー小説。
夏に映画化するらしい。

読む本がなかった。
なので本屋に行って仕方なく買ってしまった。
「リアル鬼ごっこ」や「Aコース」を読んで設定はともかくラストがいやだ、
と読後に思ったのでネタとしてなら読んでもいいかなと思って買ってみた。

 

面白かった orz
不覚だ orz

都市伝説。
不可解な出来事。
過去に起こった惨殺事件と「親指さがし」という奇妙な遊びの関係。
そして都市伝説が現実に「親指さがし」で遊んでしまった人たちに襲い掛かってくる。

ホラーの定番をついてきてるな…
一気に読み進められるとは思わなかった。
これの映画化ならすごいよい映像になるのかもしれない。

目次のページへ戻る

パズル

山田悠介
角川文庫
(2008.5/18読了)

「もちろん、ゲームをやるやらないは自由だ。今すぐに家に帰ってもいい。だが四十八時間経ってもパズルを完成させられなかった場合、この教師の頭をぶち抜く。タイムリミット前に不審な動きをしても、即ゲームオーバーだ」

『パズル』本文より

ときどき読みたくなる山田悠介の本。
今回もある意味でどきどきしながら読んでみた。
面白かったら儲けもん、げんなりな内容でもそれはそれできっと本を楽しんでるってことになるハズ。

超秀才の学校にテロリストが乗り込んでくる。
生徒と先生の2人を人質に秀才クラスに対してゲームを仕掛けてくる。
失敗すれば人質は殺害。

ゲームは学校内に隠された2000ピースのパズルを完成させること。
人を見下し、蹴落としてきたクラスメイトたちがはじめて一緒に共同作業することになった。

パズルを組み上げることがゲームって。
しかもルールからして orz
さらにみんなが同じクラスでありながら、互いのことをまったく知らないという設定って orz

無茶しやがって(笑
なんて強引な設定。
なんて強引な緊張感の出し方。

普段本を読まない人にはある意味読みやすいものかもしれない。

本に慣れすぎた読書家の人には「これはないな orz」という反応になりそうな気がする。
最初の設定だけで最後が十分に予想可能なよーな…

示したいテーマはよくわかるんだけどなぁ…

目次のページへ戻る

@ベイビーメール

山田悠介
角川ホラー文庫
(2007.6/24読了)

そうだそうだよ。あのメールが原因なんだ。あのメールが届いた瞬間、お腹の中に子供が宿る。そして死ぬんだ

『@ベイビーメール』本文より

山田悠介の『@ベイビーメール』。
たぶんホラー。

時々、ものすごくいいんじゃないかと思えるものを出す山田悠介。
好きなものは少ないが、なぜか時々読みたくなる(笑

ホラーによくある女性による怨み。
その怨みがどのように拡散していくか。
ホラーの真髄のひとつはそこにあると思う。

確かに、不特定に見せかけた特定の人物に呪いは伝わる。
しかしなぁ。
なんかあと一歩足りないんだよなぁ。

「怖い?」と聞かれると「怖いと感じる前にそれはないわって展開…」とたぶん答えると思う。

母親の怨みと乳児という恐怖。
そんな怖いと感じられる要素はしっかりとあるはずなんだけど…。

どうもこの本とは合わなかったような気がする orz
親指さがしは面白かったんだけどなぁ。
Aコースもある意味とんでもさが面白かったんだけどなぁ。
これは……

目次のページへ戻る

やっぱりヒーローになりたい!
サーラの冒険 6

山本弘
イラスト:幻超二
富士見ファンタジア文庫
(2006.7/25読了)

君は君みたいなものになるのだ

山本弘『やっぱりヒーローになりたい!』本文より

「サーラの冒険」最終巻。
1巻から15年。
ついに完結!

最愛の人デルが魔獣となってしまってから半年後。
そして二人は再会する。
しかし、サーラは街を滅ぼす原因と予言されたデルを殺すというシーフギルドからの密命によって動いていた。

 

完結ーーー。
ついに完結。
様々な困難や試練を乗り越え、確かにサーラは英雄となれたよなぁ。

英雄とはなんなのか。
サーラの冒険という物語においてなんども問いかけられていた。
誰しもが持っている資質をいかにして伸ばし自分のものとするか、か。
それこそデルの父親の『君は君みたいなものになるのだ』という言葉に集約されていくよなぁ。
実にいい言葉だと思う。

一時期は未完のまま終わっていく名作になるんじゃないかと思ったこともあったが、本当に読めるとは思わなかった。
待ち続けてよかった…

目次のページへ戻る

闇の子供たち

梁石日
幻冬舎文庫
(2008.8/3読了)

考えてみれば年端もいかない八歳や十歳の子供を性の道具にしていること自体、非人間的なことであって、エイズを発症して用済みにされた子供をゴミ処分場に捨てる行為をあまりにも非人間的過ぎてありえないことと見過ごしてきたのは甘かったのである。

『闇の子供たち』本文より

2008年に坂本準治監督により映画化される梁石日の『闇の子供たち』。

東南アジアにおける幼児の売春。
そして生きたまま臓器を取り出され先進国に輸出されている問題をとりあげた小説。

恐ろしく激しい筆致で描かれた世界だな…。

年端もいかない少年少女が商売の道具にされ消費される様。
エイズの発症によりゴミのように捨てられている現状。
死が日常的にある底辺の生活。

もちろんそんな現状が世界にあることはわかっている。
誰かを助けることができても全員を助けることはできない。
じゃあ何か出来ることはないのか。
ひと一人の力ではどうすることもできない。

まずは知ること。
そして自分のできることをすること。

小児売春に対しての興味を持たない、持つ人を肯定しない。
そうした行動からでも、一人ひとりの行動が結びつくと子供を商売の道具にしている大人たちに対して打撃を与え、子供を守るということには繋がっていくんじゃないかとは思うわけです。

この小説がどうやら2008年に映画化されるようなんだが、どう映像化するんだ…
子供の性の商売というものを真正面から書いた小説だけに、説得力のある映像にしようとしたらあまりボカして描けないと思うのだけれど。

 

あと子供の売春など性表現に関して臆することなく書かれた小説ですので、性表現が苦手な人はしんどいと思われます。

目次のページへ戻る

inserted by FC2 system