感想のページ 作者「わ」

掘割で笑う女
浪人左門あやかし指南

輪渡颯介
講談社ノベルス
(2008.1/20読了)

何か気配を感じたのだろうか。不意に女が振り向いた。其十郎と目が合った。そして彼は、女が歯をむき出して笑うのを見た。
すごい勢いで女は其十郎のいる小屋めがけて走ってきた。彼は恐怖で思わず後退りする。そして筵に足をとられて尻餅をついた。
女の白い顔が格子から覗いた。

『掘割で笑う女』本文より

第38回メフィスト賞受賞作『掘割で笑う女』。

描写が恐ろしく怖かった。
受賞作でこの出来かっ。

女の幽霊を見たらその人は死ぬ。
突然死、または何者かにより殺されたり。

そんな江戸時代を舞台にした怪談もの。
それでいてミステリ。

女の幽霊と見た人の死を繋ぐ線。
その明らかにする過程も見事だったけど、やはりこの人のホラーに対する描写がすごかった。
時代劇のホラーというよりも日本の映画で言うところのホラー的な感じ。
映像化するとものすごく映えるような気がする。

200ページちょいとメフィスト賞作品にしては短めだったのだけれども、ものすごく楽しめた。

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百物語
浪人左門あやかし指南

輪渡颯介
講談社ノベルス
(2008.11/16読了)

「もし百話を語り終える前に、鏡の中に何か見えたり、あるいは他の怪異が起こったりした場合でも、他の者には何も言わずそのまま何食わぬ顔で戻ってきてください」

『百物語』本文より

輪渡颯介による怖がりの甚十郎と怪談好きの平松左門のシリーズ第2弾『百物語』。
怪談×ミステリの融合というべき小説でした。

百物語が次々と語られていく。
動く絵画、天井裏の足跡、天井から現れる女etc

そうしてすべてが語られたとき…
えぇ。
もちろん百物語ですから「何か」が起きるわけです。

その不可思議な現象に浪人の左門が再び挑むわけですが。

怪談会の不気味さ、そして江戸時代を舞台にしているだけに気味の悪い話の数々がなんとも雰囲気が出ていてGOODです。
もういっそホラーで本を書いちゃえばいいのに、とすら思えてくる。

でもホラーだけじゃなく、しっかり謎解きパートがある。
なくていいと思うんだが…
でもないならないで、なんだかありきたりなホラーになっちゃうしなぁ。
描写が不気味でもホラーの定番っちゃあ定番だし。

謎解きに至るまでの実に変則的な構成をしているところも見所。
ホラーも楽しめて、かつしっかりミステリもしている小説でした。

前作も思ったけれども、シャープな構成でホラーとミステリーを融合させてしまっているところが、この作品の作者である輪渡颯介の持ち味だよなぁ。

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