感想のページ 作者「トマス・ハリス」

レッドドラゴン[決定版] 上下
RED DRAGON

トマス・ハリス Thomas Harris
訳:小倉多加志
ハヤカワ文庫NV
(2007.10/11読了)

君がわたしを捕まえたわけは、わたしたちが瓜二つだからさ

『レッドドラゴン 上』本文より

「ハンニバル・レクター」シリーズの1作目。
1981年に出版。
もう25年以上前か…

[決定版]にはトマス・ハリスによる序文を収録。
あらためて読んでみるとものすごい小説だ…
いま読んで見ても目新しいし、登場人物についてここまで深く掘り下げながら描かれた小説ってのもなかなかないだろうと思える。

ネタバレありの感想は続きにて。


「人食い」ハンニバル。
人を食ったというところ以外は至って正常であり、知的で紳士な人物。

「噛みつき魔」。
ハンニバル・レクターを崇拝し、自らの理念において殺人を行う人物。

グレアム刑事。
プロファイリングによって噛みつき魔を追い、そして手がかりをつかむためにハンニバルを頼る。

この3人をメインに物語は進む。
グレアムは噛みつき魔の思考をトレースし、噛みつき魔に迫ろうとする。
噛みつき魔はハンニバルを崇拝し、彼に近づこうとする。
ハンニバルはハンニバルの思考をトレースしたグレアムによって捕まえられた。
そしてハンニバルとグレアムは非常に近い思考を持っている。

誰が狂っていて、誰が正常なのか。
ハンニバルは狂人と言われているが、だがしかし何の病名もつけられないようなほぼ正常といえる人物。
ただ人を殺して喰うというところ以外は。

そんなハンニバルに近づく噛みつき魔とグレアム刑事。

彼らの思考がどんどんハンニバルに近づいていくことで、彼らは「何になった」のか。

物語の中で主人公たちの思考をトレース、プロファイリングしていくこと彼らの思考を深く知っていき、そして読んでいてだんだんと恐ろしくなってくる。

真実に近づいていくミステリのはずが、真実に近づくにつれ人間の深遠を覗き込んでしまっているような感覚に陥ってしまうんだよな…

もう…なんともスゴイとしか言いようのない本だと思う。

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羊たちの沈黙
THE SILENCE OF THE LAMBS

トマス・ハリス Thomas Harris
訳:高見浩
新潮文庫
(2006.10/3再読)

彼は明確に見抜く―彼が私を見抜いているのは確かだ

『羊たちの沈黙』本文より

レクター博士のシリーズ第2弾。

なにげなく再読してみたら、レクター博士とクラリスのやりとりってある意味エロティックだよなぁ。
相手を好きというわけではない、それでも総てを見抜いてしまう。
そんなところにエロさみたいなのをなんか感じる。

相手の考えが分かってしまうのには思考能力が相手より勝っている必要がある。
じゃあこのハンニバル・レクターという人物は一体何者なんだ!
そんな常人には理解できない人物、そしてクラリス捜査官が追う常人には理解できない事件。

そんな世界、そんな人物たちのやりとりを読み進められるのは読書家として大変楽しいものです。

トマス・ハリスがもっと多作家だったらなぁ、と思う。

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ハンニバル 上
HANNIBAL

トマス・ハリス Thomas Harris
訳:高見浩
新潮文庫
(2008.7/28読了)

一人の人間のなかで、ある資質が別の資質を抹消し去ることは決してあり得んのです。それは両立するのですよ、良い資質と恐るべき資質とは。

『ハンニバル 上』本文より

トマス・ハリスの『ハンニバル』の上巻を読了。
かなり長い間にわたって積読したが、そろそろ読むときだろうとひっぱりだしてきた。

前作の主人公クラリス・スターリング捜査官が窮地に陥る。
そのとき、かのハンニバル・レクター博士から一通の手紙が届いたことからすべては再び動き出す。

文章の言い回しが相変わらず恐ろしく耽美だ…。
それに加えてキャラクターたちの思考の深さの描写がすさまじい。
ハンニバルと関わることによって対面せざるを得なくなった自分の中の闇。
自らの中の相反するような感情の中で思考の行き着く先を探し求めるかのような…

そうした描写を取り込みながら「ハンニバル・レクター」という人物を掘り下げていく内容とはな。
映画版では映像ゆえにハンニバルは明らかに主役なのだけれども、原作であるこの小説ではあくまで脇役。
脇役どころかほとんど出てこない、実際には。
それでもキャラクターたちの証言や過去の話によってレクター博士の輪郭が強烈な印象を残してくれる。

上巻でようやくレクター博士が表舞台に出てこざるを得ないような状況はできあがった。
さて、下巻でどんな内容が待ち受けていることやら。

映画と比べてもおそろしく心理描写が多いのでまったく知らない場面が多々ありそうなので期待です。

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ハンニバル 下
HANNIBAL

トマス・ハリス Thomas Harris
訳:高見浩
新潮文庫
(2008.8/1読了)

「片手に希望、もう一方の手に糞、どっちが先に重くなるか」クラリスは言った。孤児院におけるこの格言を、クラリスのように美しい女が言い放ったのだから、さぞや不快に聞こえたに違いない。が、レクター博士の顔は楽しげで、わが意を得たような表情すら浮かべていた。

『ハンニバル 下』本文より

トマス・ハリスの『ハンニバル』下巻。

様々な人を通してハンニバル・レクター博士像が描かれた上巻。
そして下巻ではハンニバル・レクター博士という人物のフィルタで通して個人が描かれる。

メイスン・ヴァージャー、クラリス・スターリング、バーニー、ポール・クレンドラーetc.
登場人物たちがレクター博士と関わることで、自分自身の中の迷宮に捕らわれていく様は圧巻。

実にゾッとする描写が多かった。
決して動的なものではなく、じわじわと迫ってくるような迫力の心理描写だった。
もちろんそのゾッとさせられる描写の影響はハンニバル・レクター博士というのは当然。
しかしこの物語においてレクター博士が主役というわけでもない。
登場人物によって語られ、また登場人物に多大な影響を及ぼしている存在であるというだけなのになんだこの圧倒的な存在感は。

それにしても彼らがレクター博士と関わることがなければ、自身の奥底にある原体験に気づくことなく平凡に幸せに生きていけただろうに。

映画とはまったくと言っていいほど違う内容に満足。
これはそのまま映画化しても面白くないよな…
映画には映画の魅せ方、小説には小説の読ませ方があるという典型例だと思う。

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ハンニバル・ライジング 上
HANNIBAL RISING

トマス・ハリス Thomas Harris
訳:高見浩
新潮文庫
(2007.4/2読了)

「きみは、あらゆることを記憶したいかね?」
「うん」
「あらゆることを記憶すると、苦痛が伴うかもしれないよ」
「それでも記憶したいな、何もかも」

『ハンニバル・ライジング 上』本文より

トマス・ハリスの新刊「ハンニバル・ライジング」。
前作「ハンニバル」より7年。
ついに新刊というのを目にした。

長かった。
っていうより待ってなかったからそういうのではないけど(笑

なかなかでないことくらい分かってたしなぁ。
「羊たちの沈黙」から「ハンニバル」よりは短いスパンなのがなにより。

舞台は1941年リトアニア。
ハンニバル・レクター12歳の時から物語ははじまる。

これはあれだな。
下巻を読んでから感想等を書こう。

レクター博士の片鱗が色々見え隠れするのがもうーーーーーーー。

確か映画「シカゴ」だったか。
DVDの特典映像でロブ・マーシャルかリチャード・ギアだったと思うがこんな言葉を言っている。

「悪人が嫌いなやつはいない」

読んでてこの言葉がしっくりきた。
確かに。
あの「ハンニバル・レクター」になる過程を、それを楽しみに読んでいる。
たとえそれがレクター少年にとって過酷な運命を辿っているのを知っていながら。

次に読めるのは何年後か。
噛み締めて下巻を読みます。

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ハンニバル・ライジング 下
HANNIBAL RISING

トマス・ハリス Thomas Harris
訳:高見浩
新潮文庫
(2007.4/2読了)

「人を愛せるどんなものが、あなたのなかに残っているの?」

『ハンニバル・ライジング 下』本文より

トマス・ハリスの「ハンニバル・ライジング」下巻。

医学の道を選び、そしてあのレクター博士になる過程…と思っていたが、どうもそうではないらしい。

あのハンニバル・レクターはもとから存在していた。
だからこの物語は「ハンニバル・レクターの人生の一部を切り取ったもの」なんじゃないだろうか。

すべてのピースがぴたっ、と当てはまるようなものではないし、けれども彼の奥深さは余計に魅力的に見えるようになった。

これまでと違ってサスペンス的なものから復讐劇にジャンルが変化した。
でもなぜか同じ系譜のものとして読めてしまう。

日本文化を愛し、和歌を理解し自らも詠むレクター。
そんな多感で繊細な人がなぜ復讐を行おうとするのか。
自らの閉ざされた痛ましい記憶を無理に呼び起こそうとする様はものすごく痛々しく思えた。

そこまでするのは何故…
レクター少年の紫夫人に対する愛と徐々に蘇る過去の鮮烈な記憶と獣のような衝動が同時にこの人物の中に同等に存在しているのがなんとも恐ろしい…。

 

トマス・ハリスはなぜここまで日本の文化を理解しているのだろう。
読んでて自分の無知をかなり知らされた気がする。
感覚的には分かる。
けれどもその元となる書物などのことには実際に触れたことがない。
読まなきゃなぁ。
読んでみて、またこの「ライジング」を読むと余計に混乱しそうだ。

それほどにまでレクター少年とはまるでカオスのようだった。

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