感想のページ 作者「海外」

さゆり 上
Memoirs of a Geisha

アーサー・ゴールデン Arthur Golden
訳:小川高義
文春文庫
(2008.10/3読了)

「辛抱しいや、千代、ここで辛抱せなあかん。世の中いうのんは、それしかあらへんえ」

『さゆり 上』本文より

アーサー・ゴールデンの『Memoirs of a Geisha』。
邦題は『さゆり』。

映画版を見て、これはいつか読まなければと思っていたらいつの間にか4年が過ぎていた。
それにしても恐ろしいほどの本だな…。
なぜこのような本を逆に日本人がかかないのかと(以下略
そして昭和の京都を見事に再現した訳もさゆりの生きた空気というのをそのまま伝えてくれるかのような出来です。

鎧戸という海の町に生まれ、生活のために売られ芸者として生きることになった千代。
美と欲望の世界という特殊な環境の中で生きていくことになるのだが…。

半生を振り返っているという設定上、ほぼ一人称で進んでいく。
それがまた「実際にあったことなんだ」と思わせてくれる。
美と醜さの間。
成功しなければ、地に落ちていくような人生。
しかも両親が死に自分にはどこにも行くところがないという切羽詰った生活。
過酷ながらも必死に生きていこうとする様と、混沌とした祇園という世界が妙にマッチするよなぁ。

あと読んでいて思ったのが日本人でありながら、京都芸者のことをさっぱり分かっていなかった。
そりゃあこの本を映画化した『さゆり』は何度も見ましたし、映像特典で随分と勉強はしたつもりだったんだけど。
それでも映像では描けなかった詳細な心理描写がとてつもなく多いと感じた。
もうこれは一人称で描かれるからゆえだろうな。
映画版でも十分だと思っていたのだが、ここまでとは…

戦前の京都祇園の特殊さや、千代の孤独ながらも駆け上がるかのような人生。
上巻ではまだ子供時代と言っても過言ではないところまでしか描かれていない。
世界観についてはやはりこれだけ書かないとやっぱり伝わらないんだろうな。
もう上巻の時点でかなり満足です。

下巻では時代の本流に揉まれながらの話になるはず。
さてどれだけ「さゆり」の人生を見られるのか楽しみだ。

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さゆり 下
Memoirs of a Geisha

アーサー・ゴールデン Arthur Golden
訳:小川高義
文春文庫
(2008.10/6読了)

もう、かれこれ四十年になるのですね、いまから振り返りますと、ああして会長さんと二人だけのお座敷になった晩に、私の中でやかましかった嘆きの声がぴたりと止んだのでした。

『さゆり 下』本文より

『さゆり』読了。

書きたいことは上巻の感想でほぼ書いた。
下巻の感想もだいたい同じなのだが(笑

京都祇園について随分と調べ、また様々な人の協力により執筆されており、また海を越えたアメリカの方だからこその目線で芸子を日本人の目線とはまた違った目線で描いていると思う。
その自然体に描かれる一人の芸子の半生の語り方が実に新鮮だ。

さて下巻は、映画で削られた部分が多くでてくる。
映画では激動の人生が戦争を前後して描かれるが、ここではその大きく変化したあの時代の部分ですら静かに心の動きを淡々とつづられ、また映画で描かれなかった細やかな彩が加えられる。

これは映画では描けないよな…
心境の変化を追うには映像として地味になりがちだし、クライマックスがない静かなラストへの道のりは映像化むりだったんだろなー。

なので、映画好きで原作読んでない人は是非。
あまりに細かな伏線の数々にニヤリとできるかと思います。

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凍える森
Tannod

アンドレア・M・シュンケル Andrea Maria Schenkel
訳:平野卿子
集英社文庫
(2008.8/8読了)

戦争が終わってからずっとこの村で神父をしています。
あれからもう十年近い年月がたちました。
けれどもこんなことは、殺人などというおそろしいことは、わたしの知る限り一度もありません。

『凍える森』本文より

2007年のドイツミステリー大賞をとった『凍える森』。
実際にあった猟奇事件を基にしながら、被害者の周りの人物の証言で進むミステリ。

長閑な村で起きた凄惨な事件。
それぞれの人物の証言は被害者を色んな角度から映し出していく。

ひとつひとつの証言からでは何気ない証言だと思えても、いくつかの重なる部分を見ていくとだんだんとこの村の闇のようなものが見えてくる。
な…なんちゅー構成だ。

長閑で誰もが知り合いでという村にしては、どこか根深く暗いものを感じさせてくれる。

合間合間にはさまれる神への祈りとも懺悔とも許しを請うようにすら見えるものも、そういう意味では効果的だった。
あの祈りは最初はなんでこんなにわざわざページまで割いてまで必要な表現かと思えたが、あとで考えると実にゾッとする表現なような気がしてならない。

何気なく読んだけれども、楽しめた。
ページ数があまり多くないのでさらっと読めるところも良いです。

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最果ての銀河船団 上
A DEEPNESS IN THE SKY

ヴァーナー・ヴィンジ Vernor Vinge
表紙イラスト:鶴田謙二
訳:中原尚哉
創元SF文庫
(2006.12/8再読)

あと何年ここにとどまらなくてはならないのだろう。専門技術者の見積もりでは短くても三、四十年だ。
とにかく蜘蛛族がいつまでに産業経済を築きあげてくれるかに、すべてはかかっている。

『最果ての銀河船団 上』本文より

ヒューゴー賞、キャンベル記念賞受賞作品。

それでも、買った理由は鶴田謙二の表紙なわけですが。

銀河を彷徨う二つの船団。
目指すは莫大な利益を生む星系。
そして、彼らは戦い双方共に大きなダメージを負い、航行できなくなる。
助けも呼べない、帰ることもできない。
蜘蛛型の生命体が冬眠から目覚め、文明を築き上げるのを待つしかない。

ヽ(´ー`)ノ
設定だけでハァハァものです。
こういうのをSFというんですっ、ってなくらいにSF。

タイトルの「DEEPNESS IN THE SKY」ってのもいいよなぁ。
「宇宙の底」。
まさにそこが舞台となる場所だけに。

さて後半600ページを読破するとしますか。

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最果ての銀河船団 下
A DEEPNESS IN THE SKY

ヴァーナー・ヴィンジ Vernor Vinge
表紙イラスト:鶴田謙二
訳:中原尚哉
創元SF文庫
(2006.12/25読了)

ひとつの星間帝国を-集中化技術をもった帝国を-ちっぽけな船団で倒そうというのか?それは…

『最果ての銀河船団 下』本文より

ヒューゴー賞、キャンベル賞受賞作品。

空間的に、規模的に、時間的に、
壮大な物語だった。

宇宙での大船団、総計何百年にもわたる物語。

いやぁ……
ものすごくスケールの大きい物語だよな…

異種族(というより出身の星すら違う)間の話を別々に描きながら、終着点に向かって一つの物語へと収束していく様が圧巻だった。

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合本版・火星シリーズ第1集 火星のプリンセス
A Princess of Mars

エドガー・ライス・バローズ Edgar Rice Burroughs
訳:厚木淳
創元SF文庫
(2007.2/28読了)

目をあけると、見慣れぬ不気味な風景が目に映った。自分が火星にきていることはわかっていた。気は確かなのか、あるいは寝惚けているのではないかといった疑問は、一度も沸かなかった

エドガー・ライス・バローズ『火星のプリンセス』本文より

バローズの火星シリーズ1作目~3作目。
火星のプリンセス (A Princess of Mars)
火星の女神イサス (The Gods of Mars)
火星の大元帥カーター (The Warlord of Mars)

1作目は1917年にアメリカで出版された本。

…いまから90年前か。

SFというジャンルができる前。
いや、これが黎明期だといってもいいのだろう。
ヴェルヌの「地底旅行」やウェルズの「宇宙戦争」と並びつつ、地球を離れ火星を舞台に冒険したものがこの「火星のプリンセス」である。

タイトルは知ってたけれどもまったく話は知らなかった。
ぶっちゃけタイトルを意識して覚えたのは火浦功の「火星のプリンセス リローデット」なわけなんですが。

気がついたら火星にいた。
そこには美女の王女さまがいて、彼女と恋に落ち、危機を救ったり、囚われた彼女を救うために追いかけたり。
そんな冒険譚。
当然火星には見たこともないような生物や人種が沢山出てくる。

どちらかというと冒険小説じゃね?
もしかしたらファンタジーといった方が現代では妥当なのかもしれない。
でも、読んでて思うのが「これが原点なんだよなぁ」ということだった。

SF的な考証やややこしい設定なんかは一切ない。
それらはすべて想像上の産物。
現実的に考えられるものばっかりなのですごくとっつきやすい。

考証だけじゃなく物語の構造もいまでいうスタンダード。
人物の友情、愛情、敵対。
どれをとってみてもすごく分かりやすい。
それに過激な描写もないので、誰にでも薦められるものだった。

 

ってかSFなかった時代にこれを考えたこの作者って一体と思わなくもない(笑

SFに興味のある人なら一度は読んでみるべきものかも。

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合本版・火星シリーズ第2集 火星の幻兵団
Thuvia, Maid of Mars

エドガー・ライス・バローズ Edgar Rice Burroughs
訳:厚木淳
創元SF文庫
(2007.2/28読了)

「頑是ないわたくしを膝にのせてあやしてくれたときより一日だって老けたようには見えませんよ。これはどういうわけなんです、火星大元帥ジョン・カーター、どう説明なさいますね?」
「説明できないことを、なぜ説明しようとするのかね?」

エドガー・ライス・バローズ『火星の幻兵団』本文より

1920年から1927年に発表された以下の3作を収録。
火星の幻兵団 (Thuvia, Maid of Mars)
火星のチェス人間 (The Chessmen of Mars)
火星の交換頭脳 (The Master Mind of Mars)

「火星のプリンセス」から最初の3作の主人公、火星の大元帥ジョン・カーターが主人公から外れ脇役へ。
そしてさらに火星の様々な文化を色んな人を通して描かれる。

まったくけったいなもんだ(笑
火星をはじめて舞台にすえた作品だからというのもあるのだろう。
色んな人種やその文化を丁寧に細かく描かれているのだが、いかんせん生まれたときにはすでにSFというものがあって、それらを読んできた身としては奇異なものに見えてしまう。

6作目の交換頭脳なんかは当時としては先進的すぎるテーマを扱ったんだろうなぁ。
頭脳を交換って…
SFを通り越して異端もいいところだったのかもしれない。

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ラプソディ-血脈の子- 上
RHAPSODY: CHILD OF BLOOD

エリザベス・ヘイドン Elizabeth Haydon
訳: 岩原明子
表紙イラスト:鶴田謙二
ハヤカワ文庫FT
(2006.7/3読了)

主人公ラプソディは歌声によって物事の性質を変える歌を紡ぐ歌い手であった。
ラプソディ三部作の1作目「ラプソディ」の上巻。

予言や不思議な歌、種族の問題などファンタジー要素がいっぱい。
設定を理解するだけでいっぱいいっぱいです。

ラプソディはなんか人間としてえらく強いよな...

 

買った動機は表紙の鶴田謙二の絵でした。
そして積むこと2年ほど。
さて全6冊読了できるんだろうか…。

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ラプソディ-血脈の子- 下
RHAPSODY: CHILD OF BLOOD

エリザベス・ヘイドン Elizabeth Haydon
訳: 岩原明子
表紙イラスト:鶴田謙二
ハヤカワ文庫FT
(2006.7/7読了)

ラプソディ三部作1作目下巻。

ラプソディと行動を共にするアクメドとグルンソルは地上を破壊しようとする火の精の奴隷であった。
しかし彼らは主を裏切り逃走中の身だった。

下巻に入って物語が一気に進んできた。
繰り返される予言に、歌い手の間で受け継がれてきた伝説が関わり、地上を滅ぼそうとする者の計画を覆すために奔走したり。

 

典型的なファンタジーを踏襲してるなぁ。
トールキンやC.S.ルイスといった古典から生まれた作家の一人と言われて納得。

1作目の「ラプソディ」で張られた伏線がいっぱいあるので、それらを回収するため2作目「プロフェシィ」に進みます。
(……やっぱり1作では全然終わらなかったか

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プロフェシイ-大地の子- 上
PROPHECY: CHILD OF EARTH

エリザベス・ヘイドン Elizabeth Haydon
訳: 岩原明子
表紙イラスト:鶴田謙二
ハヤカワ文庫FT
(2006.7/9読了)

ラプソディ三部作2作目上巻。

フドールの手を逃れるため地中世界へ行くと、ずっと未来の世界へ行き着いてしまったラプソディ一行。
そして新たな世界で新たな旅の道連れアシェが加わり…

冒頭からいきなり今まで出てきた予言のおさらい。
こんなにも予言って出てきてたのか…。
いくつかの予言に関しては第一部のラプソディの時点で読み解かれた気がするがどうもまだまだ裏がありそうな…。

謎の男のアシェは読者側から見ると明らかにラプソディのプロローグの男の子なわけで…
ということはこれはっ!!?
物語がどんどん進んできた予感。

そしてやはり上巻のラストはとんでもないところで終わっていた。
きっと下巻もものすごい終わり方をしているに違いない。

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プロフェシイ-大地の子- 下
PROPHECY: CHILD OF EARTH

エリザベス・ヘイドン Elizabeth Haydon
訳: 岩原明子
表紙イラスト:鶴田謙二
ハヤカワ文庫FT
(2006.7/12読了)

シリーズ4作目。
ようやく第二部突破。
残り2冊。

ついにラプソディとアシェの過去と現在が交錯。
そんなロマンスも魅力だけど、今までは影の敵だった悪霊フドールの動きも表立って活発化。
なんかすさまじい勢いで話が展開していったなぁ。

血脈の子~大地の子~大空の子という副題が物語の中の伝承とマッチングするかのように物語が進み、物語の重要な部分で次の物語の展開を予想させるやり方がすごく気持ちいい。

やはりこの物語はラプソディとアシェのための物語で、プロフェシイの下巻で再び離れた二人がどう巡り合うのかが気になるとこ。

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デスティニイ-大空の子- 上
DESTINY: CHILD OF THE SKY

エリザベス・ヘイドン Elizabeth Haydon
訳: 岩原明子
表紙イラスト:鶴田謙二
ハヤカワ文庫FT
(2006.7/14読了)

ラプソディ三部作第三部「デスティニイ」。

悪霊フドールの9人の子供たちを捜し、悪霊の血を分離しようとする。
全員を保護したとき、ラプソディは全員分の苦痛を自ら請け負おうとする…。

 

ついに第三部開幕。
悪霊フドールの霊性を持つ子供たちの保護と解放。
そして残るは本体のフドールのみ。
最終決戦に向けてどんどん加速してきたなぁ。

ラプソディが各地で会う気に入った子供たちを片っ端から孫にし愛を与えてきた母性が強調された巻でした。

さぁ残り1冊650p。

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デスティニイ-大空の子- 下
DESTINY: CHILD OF THE SKY

エリザベス・ヘイドン Elizabeth Haydon
訳: 岩原明子
表紙イラスト:鶴田謙二
ハヤカワ文庫FT
(2006.7/21読了)

ラプソディ三部作最終部。
これにて完結。

過去から未来へ受け継がれた予言や伝承が時間を越えて成就する。
そして物語も過去から未来へ、そして元いた時間に向かって完結していく。

人種の諍いから統合、
そして善による悪の打倒の物語。
すごくスタンダードな物語なのだけれども、時間という要素と伝説伝承予言と言った要素を加えるとここまで物語が壮大になるもんなんだなぁ。

 

未翻訳に三部作以降の話があるらしい。
翻訳されないのかなぁ。

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コンタクト 上
CONTACT

カール・セーガン Carl Sagan
訳:池央耿・高見浩
新潮文庫
(2009.1/9読了)

われわれは招待を受けたのですぞ、みなさん。史上未曾有の招待を。すなわち、それは宇宙の晩餐に出席せよとの招きかもしれん。地球はこれまで、ただの一度もそのような招きを受けたことはなかった。それを断るのは、礼を失する行為とは言えんですかな

『コンタクト 上』本文より

天文学者のカール・セーガンが描く『コンタクト』。
いまさらながらに読んでみた。

あまりの内容になんだかものすごいものを今読んでいるんじゃないかと愛おしさを感じながら、現在下巻を読んでる途中。
いやね。もう。濃い。
非常に濃い。

ETのように優しさ溢れる異星からのコンタクトではなく、政治や宗教、科学を巻き込んだコンタクトだ。
希望と不安。
それらが入り混じった他の星から地球へのコンタクト。
それはなにを意味するのか。

地球の常識が崩れるかもしれないという現実の中、科学と宗教の接触、国境はもとより文化や政治を越えたと国と国の接触などなど。
さまざまなコンタクトが世界中で起こっていく。

様々な価値観がぶつかりあい、ひとつの大きな流れをつくっていく過程は圧巻すぎる。

この宇宙からのコンタクトがどんな結末を見せてくれるのか。
非常に楽しみである。

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コンタクト 下
CONTACT

カール・セーガン Carl Sagan
訳:池央耿・高見浩
新潮文庫
(2009.1/14読了)

夢想家であることが、とかく褒められない感性のように言われるのが彼女には不思議でならない。夢見る心こそ、彼女にとっては生命の糧であり、喜びの源泉なのだ。誰に恥じることなく夢を求めて、今エリーはオズの魔法使いに会いに出掛けるところだった。

『コンタクト 上』本文より

『コンタクト』下巻を読み終わった……。
まごうことなき傑作だな…

人類の現状をSFという題材を用いて語り、そして人類が目指すべき境地とは一体どこにあるのかという疑問を投げかけてくる。
まさに人類はまだまだ宇宙という広大な世界の中ではちっぽけな存在であるとすら思えてくる。

国境、文化の違い、宗教の違い。
人と人の間には大きな壁がいくつもある。

その壁はいまどういう阻害を起こしているのか。
言わずとも知れている。
これはこの本が書かれた25年前となんら変わらないことだと思う。
世界の平和が実現したわけでもない。
いまはまだ人類が一体となって、目指すべき世界というものは作れそうにないのが現状だと思う。

そういったことをこの本からあらためて客観的に見させられた。
そして考えさせられた。

さらに遥かに広大な尺度でものを見たら、どう見えるかってことを。

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復讐はお好き?
SKINNY DIP

カール・ハイアセン CARl HIAASEN
訳:田村義進
文春文庫
(2008.2/28読了)

要するに、あんなクソッタレと結婚したのがいけなかったのだ。自分は結婚記念の船旅で海に投げ捨てられ、もうちょっとで溺れ死ぬか、鮫の餌食になろうとしている。

カール・ハイアセン『復讐はお好き?』本文より

2007年度の「このミステリーがすごい!」の海外部門で第2位をとった作品。

結婚記念の船旅で夫によってフロリダはマイアミの海に投げ捨てられ、マリファナの入った袋につかまり生還した妻の復讐劇。
復習って言うほどどろどろしていないし、どちらかというと「アノヤローめ、とっちめてやる!」って感じ。

これがまた夫のほうもすさまじいキャラクターで、もう実にどうしようもない。
浮気は当たり前だし、海に妻を投げ捨てたあとも女を家に引っ張り込むようなやつだしetc.

そんなどうしようもない夫が妻を海に投げ捨ててからというものいろんなものに追い詰められていく。
それが非常に痛快だった。

さらに夫の所業がすべてラストに返ってきて集約していくのだから、一体この本は一体どういう構造をしているのだ(笑

復讐劇を楽しい気分で読めた本でした。

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オペラ座の怪人
Le Fantome de l'Opera

ガストン・ルルー Gaston Leroux
訳:長島良三
角川文庫
(2008.9/10読了)

この物語の謙虚な脇役をつとめたみなさんから貴重なご助力をいただいたおかげで、いま私は、この純粋な愛と恐怖に満ちた物語を、刻一刻、読者とともにたどることができるのだ。

『オペラ座の怪人』本文より

1910年に発表された怪奇小説『オペラ座の怪人』。
原作発表後さまざまな解釈を加えられ、いくつもの物語が作られることとなる。

これが原点か…
2004年版ではじめて『オペラ座の怪人』に触れたのだが、こういう内容とはな…
ちょっと意外。
ガストン・ルルーといえばミステリの『黄色い部屋の秘密』が有名だけど、これに関しては幻想怪奇小説というような内容なんかな。

OのFは姿を見せない不気味な怪人。
もちろん純粋な愛を持ち、おおきな孤独を抱える者として描かれる。

紳士であり、奇術めいたファントムの行動に振り回されるシャニュイ子爵や支配人たちこそがこの物語の主役と言ってもいい存在かもしれない。
クリスティーヌ・ダーエにおいては謎の失踪を遂げたオペラ座の歌手として描かれてるしなぁ。

この原作だけだと、ファントムやクリスティーヌの出番は少ない。
というのもさまざまな人間から伝え聞いたものを再構成するというノンフィクション・ノベルのような形をとっている。
その効果があるからこそ読者もその事件へと巻き込まれていくような感覚を味わえるのだと思う。
ゆえにオペラ座で起きる数々の怪奇的・猟奇的な事件が恐ろしく思えてくる。
まったく真相がわからないまま次々に事件が起こるんだもんなぁ。
それでいて純愛の物語へとたどり着くからこそ名作となったんだろうと思う。

予想外のものが読めたので満足。
また、舞台や映画がいかにこの小説内では描かれなかったミッシングリンクを創造し、この原作と絡ませるかという演出についての「スゴさ」というのも感じ取れた気がする。

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奇術師
the PRESTIGE

クリストファー・プリースト Christopher Priest
訳:古沢嘉道
ハヤカワ文庫FT
(2007.7/7読了)

すでに、偽りを書くことなく、わたしは惑わしを開始している。惑わしこそ、わが人生だ。嘘はまさに最初の言葉のなかにさえ、含まれている。このあとにつづくすべてに織りこまれ、明白なところはいっさいない。

クリストファー・プリースト『奇術師』本文より

クリストファー・プリーストの『奇術師』。
1996年の世界幻想文学大賞受賞作。
そしてクリストファー・ノーラン監督の映画「プレステージ」原作。

映画「プレステージ」があまりにインパクトのある映画だったので、気になって原作に手を出してみた。

映画とは少々違う内容。
時系列がバラバラに描かれたりはしていないし、事件自体もまた違う結末を迎えている。

小説の方は20世紀初頭の奇術師アルフレッド・ボーデンによって書かれた半生を記された本に出会ったジャーナリストが読み進めるという内容。

幼い頃の出来事から奇術の楽しさを知り、成長する過程。
舞台に立つようになり、生涯のライバルと出会い、「瞬間移動」を巡って熾烈な争いをくりひろげる。

本の中の本の内容は一人称でずっと描かれており、内面に深く踏み入れている。
けれども、もっとも序盤から「奇術師の書いた本であり、嘘を含んでいる」と書かれている。

しょっぱなから騙されていることを前提に読まされる。
リアルな現実と幻想文学的な内容が交じり合い、現実か虚構か一体どっちなんだと惑わされながら読み進めて、そしてラストで驚愕させられた。

幻想文学的な内容。
または古典的なSF要素である「瞬間移動」。
それをここまで昇華させた作者って…

瞬間移動という要素を用いるときにもニコラ・テスラなんていう有名な人物を登場させているし。
有名な発明家であり、演出家でもあった人物と奇術師との巡りあい。
実在の人物というリアルと、発明という"魔法"の虚構の混じり方もこの『奇術師』という本の全体に含まれる現実と虚構をより強固にさせてるよなぁ。

映画もそうだけれども、原作もやはり内容をうっかり書けない内容。

しかし、クリストファー・ノーランはよくもこれを映画化しようと思ったもんだな…
ラストのカタルシスを描くためにすべてを再構成したかのような気がする。

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四人の署名
The Sign of Four

コナン・ドイル Sir Arthur Conan Doyle
訳:安部知二
表紙イラスト:鶴田謙二
創元推理文庫
(2009.4/3再読)

とんでもない。ぼくはあて推量なんかしたことはない。そいつはおそるべき悪習だ――論理的能力を破壊する。君にふしぎと見えるのは、ぼくの考えの筋道を理解せず、遠大な推理の基礎となり得る小さな事実を見おとすから、そう見えるだけの話だ。

『四人の署名』本文より

15年ぶりくらいに再読。
創元推理文庫の出版50周年の1年間限定のカバーに釣られて買ってしまった。
病的なホームズに医師ワトスン、そして今回のキーマンであるモースタン嬢の並んでいるところが素敵すぎます。
いい仕事してるなぁ鶴田謙二。

当時は小学生の頃だったが、今読むとだいぶ印象が違っていた。

いわずと知れたシャーロック・ホームズの1篇。
ホームズがコカインを打ち、ワトスンに対して自らが探偵であることの信条を述べるところからはじまる。

病的ともいえるホームズの真実探求に対する姿勢。
もはや探偵という職業を選ばなければ彼は社会の中で堕落していったであろうことは目に見えているほどに。

その真実探求を崇高な行いであり論理がすべてと言わんばかりのホームズがひどく危うい人間のように見えてくる。
特に事件がすべて終わった後のエピローグを読むと、ね…

そういったダークヒーローともいえるホームズが出会う今回の殺人事件と莫大な財産を巡る宝探し。

怪奇すぎる謎と冒険、そしてアクションにロマンス。

この完璧すぎる娯楽は一体なんなのだ…
また様々なエピソードの中に19世紀の様々な事件が語られていることからも、登場人物たちにリアリティすら与えてるし。
隙がないとはこのことか。

圧倒的な力を持つ小説と呼ばれている理由をあらためて実感した気がする。

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ダ・ヴィンチ・コードの謎を解く
The Unauthorized Guide to the Facts Behind the Fiction

サイモン・コックス Simon Cox
訳:東元寛司
PSP文庫
(2006.5/26読了)

ダ・ヴィンチ・コードの解説書、というか用語説明集。

テンプル騎士団、オプス・デイ。
読み飛ばしがちだけれどもよくよく考えてみれば一体どんなものなのかが分からない言葉はいっぱいある。
そもそもダ・ヴィンチ・コードを盛り上げたのがこれらの誰もが知っていて、けれどもそれそのものに関してはよく知らない単語たち。
それらを掘り下げて新しい聖杯伝説が生まれた。

じゃあさらに自分たちで調べてみようと思うもののなにから手をつけていいのか分からない、っていう人にオススメ。
この本の中にもダン・ブラウンが参考にした本の紹介もしているので、さらなる聖杯探求のお供にいいかもしれない。

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惑星カレスの魔女
THE WITCHES OF KARRES

ジョイムズ・H・シュミッツ James H.Schmitz
訳:鎌田三平
創元SF文庫
(2006.3/1読了)

商業宇宙船のパウサート船長は揉め事に首を突っ込んで異星人の女の子3人を買い取るはめになってしまう。
しかし彼らはカレスから来た魔女だった。

かくして船長は数々の目も疑うような出来事に遭遇することに。

ぶっちゃけ買った理由は「なんで宮崎駿が表紙書いてんねんっ」ということだった。
それからまさか二年もこの本を放置することになるとは思わなかった...

未来の世界において超能力を使う魔女が出てきたり、必死の逃亡劇を繰り広げたり、すさまじく巨大な存在に立ち向かったり。
終始ドタバタしてるんだけど、それを平気で読ませてくる。
ありがちな展開なんだけど、なにか新しいような。
ありがちな名作を現代版にリメイクしたような感じかな。

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ゴッホは欺く
False Impression

ジェフリー・アーチャー Jeffrey Archer
訳:永井淳
新潮文庫
(2007.3/5読了)

また一機、サウス・タワーにぶつかったぞ

ジェフリー・アーチャー『ゴッホは欺く』本文より

ジェフリー・アーチャーの「ゴッホは欺く」。

タイトルに「ゴッホ」がつくだけに絵画を巡るなんかなんだろーなー、とか思っていたら、急に911のあの現場が出てきて驚いた。

911の事件の前後からゴッホの自画像を巡った争いが起こっていくわけだけれども。
なんかすごいテンポがよかった。

当然その自画像を巡る殺人事件や自画像を巻き上げようとする銀行、守ろうとして必死に策を練っていくもの。
そして最後には……こうきたか、と納得。

でもなんかあんまり印象に残らなかったかも。

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ナイン・ストーリーズ
NINE STORIES

J.D.サリンジャー Jerome David Salinger
訳:野崎孝
新潮文庫
(2007.7/20読了)

「感情的であるということをどうして人はそんなに大事なことだと思うのかなあ」と、テディは言った

J.D.サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』収録『テディ』本文より

上の引用した『テディ』の内容がかなり好き。
大人と子供、はては人間とはなんぞやという議論が特に。

サリンジャーの1953年刊行の『ナイン・ストーリーズ』。
佐藤友哉ほ本全般や森博嗣の「スカイ・クロラ」に影響されて読んでみた。
これまで『ライ麦畑で捕まえて』などは読んだことがなくこの本が初サリンジャー。

収録短編:
バナナフィッシュにうってつけの日 A Perfect Day for Bananafish
コネティカットのひょこひょこおじさん Uncle Wiggly in Connecticut
対エスキモー戦争の前夜 Just Before the War with the Eskimos
笑い男 The Laughing Man
小舟のほとりで Down at the Dinghy
エズミに捧ぐ― 愛と汚辱のうちに For Esme - with Love and Squalor
愛らしき口もと目は緑 Pretty Mouth and Green My Eyes
ド・ドーミエ=スミスの青の時代 De Daumier-Smith's Blue Period
テディ Teddy

全体的に('A`)
軽やかに社会に反抗しているというか、反人間的というか。
どこか退廃的で哲学的な感じの短編が多いな…軽いんだけど。

短編の中で主人公たちの生き様や生き方をまざまざと見せ付けられる。
各短編ごとにここまで濃いとは…
それが名作といわれる所以か。

ブラックたっぷり、ユーモアも皮肉もいっぱいだけどどこか儚い感じの短編集だった。
もしくは哲学書と言っても過言じゃない本(笑

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フラニーとゾーイー
Franny and Zooey

J.D.サリンジャー Jerome David Salinger
訳:野崎孝
新潮文庫
(2008.12/9読了)

まったくもって殺してやりたかったな。ひでえ晩だったよ。二時間というもの、びっしりその場に坐りどおしで、ぼくがいかに人並み外れた下種野郎であるか、ぼくの家族がいかに精神異常者、精神錯乱的天才一家であることか、そいつを聞かされたんだからな。

『フラニーとゾーイー』本文より

サリンジャーの『フラニーとゾーイー』。

収録話:
・「フラニー(Franny)」
・「ゾーイー(Zooey)」

収録されている短編および中編はどちらも「グラースサーガ」のひとつ。
グラース家の7人の狂える人々の個々の話とでも言ったらいいんだろうか。

見た目には別に問題がない。
精神に異常をきたしているわけでもない。

ただただ他人とズレている様を見させられる(笑

本編でも一見すると普通の会話なんだが、途中でふと気づく。
全然会話が噛み合ってないというか、絶妙にズレている。

まるで他人と他人は決して理解し得ないとでも言わんばかりだ。
それに加えて、こういった会話はどこにでも起こりえるかのように思えて親近感さえ沸いてくるのが不思議である(笑

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ダ・ヴィンチ・コード(上)
the DA VINTI CODE

ダン・ブラウン Dan Brouwn
訳:越前敏弥
角川文庫
(2006.5/4読了)

流行にのって読んでみました。
というより親に押し付けられて読まされたというべきか。
映画を見るまでは読むつもりなかったのに orz

キリスト教の観念をしっかりと知っていないと楽しみづらいのかな、とか思っていましたが、そうでもないようです。(今のところは)

意味ありげな死体。
何者かの意図によって事件に巻き込まれ、少しずつ偶然を装われた意図=真相へと近づいていく。

 

アナグラムの連発が清涼院流水っぽいなぁ(笑

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ダ・ヴィンチ・コード(中)
the DA VINTI CODE

ダン・ブラウン Dan Brouwn
訳:越前敏弥
角川文庫
(2006.5/8読了)

中巻なのでラストスパートに向かってるけれど、まだまだ途中でございます。

次々に明かされる暗号、そして聖杯伝説の真実。
ダ・ヴィンチが絵画に残した暗号だけならいざしらず、さまざまな文献に記された葬り去られた真実をあれだけ出しておきながらまだ下巻に続くとはな。

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ダ・ヴィンチ・コード(下)
the DA VINTI CODE

ダン・ブラウン Dan Brouwn
訳:越前敏弥
角川文庫
(2006.5/11読了)

ようやく読み終わったぁぁぁ。

まるまる1冊解決編のような感じ。
ソフィーの祖父の残したとてつもない聖杯伝説の暗号の話もこれで終わりか…。

人間という生物の遺した根源的なお話という感じだなぁ。

映画?見にいくよ
そりゃもうこの本を読み終わったらいくしかないでしょw

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クリスマス・カロル
A CHRISTMAS CAROL

C.ディケンズ Charles Dickens
訳:村岡花子
新潮文庫
(2008.12/24読了)

おれの思う通りになるんだったら、クリスマスおめでとうなんて寝言を並べるのろまどもは、そいつらの家出こしらえてるプディングの中へ一緒にぶち込んで、心臓にひいらぎの枝をぶっとおして、地面の中へ埋めちまいたいよ。ぜひともそうしてやりたいよ

『クリスマス・カロル』本文より

冒頭の会話からこんなクリスマス氏んじまえみたいなノリからはじまるんだから、もうびっくりである(笑

頑固な老人が相棒の幽霊に誘われ、3人の幽霊とともに知人の家を訪ねる話。

暖かい家庭。
暖かい食事。
しあわせな時間。

人の暖かさを見、やがて自分が孤独であることに気づいていく。
そして老人はその「暖かさ」に触れようとしていく。

そうだよな。
クリスマス、いや別にクリスマスでなくたってかまわない。
自分と自分の周りの人を、周りの人がいなけりゃ自分ひとりだっていいじゃない。
ただ、いまここにいることを祝ってあげるのもいいんじゃないか。

でもそれを、ひとりで実行し続けてると周りの人に残念な人っぽく見られている感もあるが気にしない(笑

いや、ほらそれは日本ではクリスマスがまるで恋人の日みたいな風潮があるからなんだろうけど。
この本みたいにみんな、それも近隣の人みんなで仕事も早く切り上げて祝うっていうようなクリスマスになるともっと幸せな日になると思うんだけどなー。

と、まるで独り言のようなことを言ってみる。

読むと心があったまる本です。
15年ぶりくらいに再読したけれども、やはりいい話です。

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チャイルド44 上下
CHILD 44

トム・ロブ・スミス Tom Rob Smith
訳:田口俊樹
新潮文庫
(2009.2/19読了)

殺人の動機は金でもセックスでもない。およそ説明不能なものとしかほかに言いようがない。言えるのはただ、この犯人はどんな子供でも殺すということだ。どんな町でも犯行を繰り返すということだ。それをいつまでもやめないだろう。

『チャイルド44』本文より

本当にこれが処女作だというのか…
2009年版「このミス」海外編1位の作品。
納得した…

スターリン政権下のソビエト。
共産主義の中で起こる子供を狙った殺人事件。

いや、殺人事件ではない。
あくまで事故。
なぜならソ連の中では「事件」は起こるはずもない楽園とされていたからである。
もちろん国に敵対心を持つ者は密告され刑務所へ流れ作業のように送られていく。
そんな誰も信用できない世界が舞台。

世界観に唖然とし、ミステリもサスペンスにも唸った。
人物描写も恐ろしく人間味溢れるというか…
極限状態なんだよな。
だからこそ登場人物の発言の真意がわかりかねる。
ゆえにそんな人物描写や世界観ですらミステリになりうる。

世界観もひどく閉鎖的で、そしてかなり冷徹で絶望的な描写が淡々と描かれていく。
また、そんな誰もが人の心に立ち入ることができない世界からの脱却の試み方も面白い。
ってかこれこそが醍醐味。
なにも陰鬱で暗澹たる内容だけが魅力じゃない。
そういう面からもエンターテイメントとしてすごい魅力的。

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アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
Do Androids Dream of Electric Sheep?

フィリップ・K・ディック Philip Kindred Dick
翻訳:浅倉久志
ハヤカワ文庫SF
(2006.6/8読了)

映画『ブレードランナー』の原作小説。

テーマは人間とはなんなのか?
記憶や感情を物と同じようにやりとりできる世界。
アンドロイドは人間と同じように記憶を埋め込まれ、外見もほぼ一緒。
ペットの動物たちもまたしかり。
ならば自分がアンドロイドかもしれない。
そう思いつつ、アンドロイドを駆除していくバウンティハンター(賞金稼ぎ)の主人公。

自分とは一体何か。
他人から見た自分は一体どんな存在なのか。
生物ではない意識を持った「モノ」に囲まれている世界は果たしてリアルな存在であるのか。
自分以外の感情を持つことができる自分ははたして生物であるのか。
そもそも記憶とは自分の中での幻想や他人に作られたものではないのか。

なんとも哲学的な内容ですな...
読んでて自分というアイデンティティとはなんなのかを考えさせられます。

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モンク、消防署に行く -名探偵モンク-
Mr.Monk Goes to the Firehouse

リー・ゴールドバーグ Lee Goldberg
訳:高橋知子
ソフトバンク文庫
(2008.1/9読了)

「ええと、たとえば、わたしたちはモンクさんみたいに毎日歯ブラシを使うたびに煮沸消毒はしないわ」
モンクは目をむいて言った。「それはぜったいによくない」

『モンク、消防署に行く』本文より

名探偵モンクの小説版1巻。
ドラマのノベライズではなく、オリジナルの展開。
作者はミステリ作家でもあり、ドラマ版の脚本もしているリー・ゴールドバーグ。
1話45分じゃとてもとても収まりきらないような長編。
これくらい長い話もドラマで見てみたいもんだ。

まさかドラマ関連本で面白い本に出会うことがあるとは。
本屋でそういえば買ってなかったな、くらいの気持ちで買ってみたらこれがまた面白い。

ナタリーの視点で見ていて、かつ文字で語る小説なのでモンクさんの奇行が余計目に付く(笑
また、ドラマ同様ストットルマイヤー警部とディッシャー警部補の漫才も健在。
各所に仕込まれるネタもくすっと笑ったところ数知れず。

もちろんコメディとしてだけじゃなく、ミステリとしてもGOOD!
いつものようにオチも驚愕のラストもしっかりあります。

まさに本家脚本家による小説版。
ぜひとも2巻以降も発売してほしいもの。

ちょうど現在「名探偵モンク4」が終わって半年。
モンク5はまだかーと待っているところだったので、いつもより長い時間モンクさんに触れられたのがなにより楽しかったかも(笑

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モンクと警官ストライキ -名探偵モンク-
Mr.Monk and the Blue Flu

リー・ゴールドバーグ Lee Goldberg
訳:高橋知子
ソフトバンク文庫
(2008.3/26読了)

「どの事件も進展がないので、今のうちに刑事部屋を掃除して壁の絵をまっすぐに掛けなおして、デスクや備品を一直線に並べてデスクの上を整頓して、紙バサミをサイズ別に分けて鉛筆を均一にしましょう」
「鉛筆を均一にする?」とワイアットが言った。
「鉛筆を同じ長さになるよう削って、芯もぴんぴんにとがらせましょうってこと」とわたしは言った。
モンクは我が意を得たりとばかりに、わたしに笑みを向けた。

『モンク、消防署に行く』本文より

『名探偵モンク』2冊目。
2冊目が出たっ!?
もしやこれは3月目以降も翻訳が進んでいると見ていいのだろうか。

なんと喜ばしいことか。
願わくばこの流れに乗ってDVDの発売も…

2巻では警官のストライキにより、モンクさんが緊急に復職する。
でも部下はストライキのためにいないわけだから、モンクさんのように分けありで休職している人が集まる。
3人の部下と彼らのアシスタントと共にいくつもの事件を捜査していく。

爆笑。
なんだよこの結束感(笑
モンクさんとその部下たちの友情と、世話が大変な人たちの補佐に当たっている人たちの間で芽生えた友情。
モンクさんが3人増えて、ナタリーが3人増えたような感じだ(笑

それだけでも十分楽しいことこの上ないんだけども、事件の方も前巻と同様に二転三転するようなれっきとしたミステリ。
前作でも思ったけれどもテレビでは放送できないような長大な尺。
長くモンクさんの世界に浸れてとっても満足です。

あとはやっぱり描写がものすごくイイ!
ナタリー視点でずっと物語りは語られているんだけども、映像でしか表現できそうにないモンクさんの挙動の一つ一つがなぜか思い描けるようなタッチの文。
これがモンクの脚本家自身による小説版の再現度の高さってやつか。

今回の市長の前で演説するモンクさんの描写なんかがいちばん好きだった。

ミステリだけじゃなく、正直今回ほろっと来てしまったのもお見事。
モンクとナタリーやストットルマイヤー警部との友情に泣けた(;´д⊂
まさかこんないい話になるとは…

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鏡の国のアリス
Through the Looking-Glass

ルイス・キャロル Lewis Carroll
訳:矢川澄子
絵:金子國義
新潮文庫
(2009.2/4読了)

「ものすごく大きなチェスだわ、世界中をつかって試合やってるんだ――まあ、これが世界だとすればね。わあ、なんておもしろい。あたしも仲間入りできたらねえ。ただの歩だっていいわ。入れてもらえさえすれば――そりゃもちろん、女王になりたいのは山々だけど」

『鏡の国のアリス』本文より

「不思議の国のアリス」と比べればマイナーといわざるを得ない。
けれどもチェス盤での戦いや動きを再現しながら、物語を構成していくという内容。
そして「鏡の国」の中というだけあって、対照となるような存在や表裏が見え隠れするような登場人物の言動などを考えると相当に緻密に計算された物語であろうことが伺える。

そんな「鏡の国のアリス」。

1回読んだだけでは頭の中に「?」が浮かんで消えなかった。
2回目読んで少しだけ理解できた気がする。

物語の中に出てくる詩の意味や、物語の最後にでてくる問いかけ。
また現実世界と鏡の世界との整合。
こういった謎は非常に多い。

物語自体もアリスが白のポーンからクイーンに昇格(プロポーション)するまでの間の話は語られている。
しかし、その間の赤のクイーンの動きと話は伏せられているように見える。
本当にクイーンの話はなかったのだろうか。

いやいや、赤のキングの話題が出たことや最後の問いかけからもクイーンや王にも話はしっかり存在していて…
というよりも鏡の国での話が王の話だとすると、それこそ現実世界と絡められて考えるわけで…

すべてを一つの筋道を立てて語ることはできそうなんだけど、伏線のあまりに多さにどれがどう対応しているのかわからない(笑

うーん。まだ何回か読まないといけないのかもなぁ。

「鏡の国のアリス」がルイス・キャロルの物語というよりも、本名チャールズ・ラトウィッジ・ドジスンという数学者が作った話と云われる所以っていうのも納得。

知的好奇心がくすぐられる話でした。

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